異世界人は璃月の空を飛びたい   作:熊々楠

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異世界人は璃月の空を飛びたい③

 

 初依頼として請け負った採集のため山に来ていた。依頼内容は清心を五つ。慶宗さんの護衛をしていて戦闘にはだいぶ慣れてきたとはいえ、冒険者協会のやり方を掴むためにもモンスター退治より比較的安全な採集を。また、清心は高所にしか咲かない花であり、必然的に登山をすることになる。趣味と実益を兼ねた最もいい依頼だと思ったのだ。

 清心の採集自体、それほど難易度の高いものではなかった。道中では大まかにどの地域によくみられるか、という情報収集をしたあと、変わりに鉄塊があったら分けてくれないかと頼まれたり。はたまた同じく採集系依頼に挑む冒険者が足止めをくらっているかと思えば、強いモンスターの縄張りに入る必要があり、その場限りで臨時のパーティーに参加したり。その代わりに美味しいレシピを教えてもらったりと、冒険者というものは案外横のつながりが大きいみたいで。

 登山やキャンプでも近くの人と声を掛け合ったりしてたなあ、と違う世界、違う立場でも普遍的なことはあるものなんだな。

 そうやって心をほっこりさせつつ、必要分の清心を採ってから。ぐうぐうなり始めたお腹もほっこりさせるため、おれは山の頂上をキャンプ地と決めて火を熾していた。富士山の上でおにぎりを、ならぬ、一人鍋を楽しむためだ。

 濃紺の夜空ににじむ天の川続く満天の星空の下、ランタンと火、そして月明かりを頼りに準備を進めていく。

 

 鶏豆花。ここに来るまでのとある村で獣肉を渡したお礼にともらったレシピからできている

「まずは水を沸かして……それから出汁調味料。それからキンギョソウに鶏肉、ハムを入れてしばらく煮込む……うん、もらったキャベツも入れちゃお」

 普段のソロキャンプでは人手がないこともあって荷物はある程度厳選する必要がある。登山はさらにシビアで、荷物の重量はそのまま自分の身体の負担になるから、特に食料は楽しむよりも栄養補給という意味合いが大きい。まあ、ご飯はやっぱり楽しみだから、美味しい羊とかチョコレートなんかが登山の音もとして人気だったりするんだけど。

 けれど、こっちの世界で目が覚めてからおれの力が飛躍的に向上したことや、収納性に優れた道具袋を手に入れたこともあり随分と料理を楽しむ余裕ができた。山の上で一人鍋。なんて贅沢なのだろ。ぱかり、鍋の蓋を開ければ湯気といい匂いに包まれた。肉にもキャベツもよく火が通っていて、これだけでも十分美味しそうだけれどぐっとこらえて最後に鳥の卵を入れる。

 数分待って火の通りを確認して、肉が硬くなりすぎないうちに味を調えて……火を止めて、完成。

「できたできた。……あちちっ」

 鍋を火からおろして、火傷しないように周りを厚手の布で包みながら鶏豆花を掬う。

「ふー、ふー…….」

 息を吹きかけて冷ましずずっと吸れば、口の中に広がる野菜の甘味と肉のうまみ。夜風に冷えた身体の中をスープが通り、熱く胃に届いたのがわかるほどだ。身体のうちから力がみなぎってくる心地にほっと息をついた。

 ランタンとたき火を少し落として、スープを啜りながら夜景をじっとみつめる。知っている星座がひとつもない空には大きな月が浮かんでいて、山肌を青白く照らしている。まるで極薄く柔らかな布で山を抱擁しているみたいだ。耳をすませばパチパチと木の爆ぜる音、虫の鳴き声、獣やモンスターの鳴き声。知っているものと知らなかったものが交差している。

 風景を楽しんでいるうちに程よい温度になった鶏豆花。匙でぐるりとかき混ぜてから、具材を一気に頬張った。

「……うまっ」

 良く知っているものの最たる例。美味しいご飯に舌鼓を打ち、その日はぐっすり眠った。

 

 *

 

「天候よし、風よし……これが、飛行日和ってことかな?」

 荷物を全て片付けたおれは改めて景色を見下ろした。いよいよ本格的な初フライトだ。……とは言っても、ここに来るまでうずうずが抑えきれなくて(あとはショートカットも兼ねて)多少のフライトはしているんだけれど。

 崖側に立ち、髪を遊ばせる風に目を細める。飛び立つ瞬間にはやはり吹き上がるような興奮が胸を焦がしていく。急かされるままに踏み切って一翼を聞いた。

 高所で遮るものがないと風をダイレクトに感じる。鯉麗の言っていたり、翼は多く風を含んでブレなくゆったりと空を滑空していく。右に左に曲がろうとするとそれなりに大回りになるし遠心力に持っていかれそうになるけれど、その感覚すら面白くて仕方がない。

 練習用コースを飛んだ時よりもずっと高い位置から見下ろす。あの時は月の人々が米よりも小さく見えたけれど、ここではイノシシやモンスターたちがごまつぶよりも小さく見える。

 すべてがミニチュアで、地図で見た中のほんの一部がこんなに広く見えるのに、その一方でも家屋も生き物も、全部がひとつの箱庭の中に納まっている。大きいのに小さい、狭いのに広い。そしておれもまた、その中の一つなのだ。

 また味わったことのない震えが肩を揺らした。この感情をどう表現すればいいのかわからない。けれど、愉快なことに違いはなかった。

 気持ちのうえではこのまま明月までひとっとび……といきたいところだけれど、流石にエンジンを積んでいない風の翼では長距離飛行をするにも限界がある。

 途中、休憩がてら東屋になっている場所を見つけて、かと思えば盗賊が隠れていた。多勢に無勢は自信がない。まったくうれしくないサプライズにひいこらいいながらもなんとか逃げ出すためにまた地面を蹴った。彼らはどうやら空を舞うことはないらしい。

 しばらく飛んで、そろそろ体力が限界に近付いてきたので今度は先客がいないことを祈りつつ木に降りる。できる限り警戒つつ伺うと、そこには人影もモンスターの影もなく。ただ、リスという先客がいるのみだった。

「…….ふう」

 ほっと一息ついて、彼らを驚かせないように離れた場所に腰を下ろした。すぐそこを川が流れているらしく水流の音が絶えず聞こえている。肩を回したり筋を伸ばしたり、あるいは水筒を取り出したり。すぐそこになっていた果物をもいでかじったりしてみる。時折川の水を飲みに来るや、トンビがピーヒョロロと鳴きながら空を舞うのが見えた。

 ゆったりとした時間のはずなのにすべてを感じようとするにも忙しくて。少しだけの休憩だったはずなのに、気が付けば火が傾きかけてい

「のんびりしすぎてしまったかな。……うん、この光景が新鮮なうちは、まだまだ璃月からは離れられそうもないな」

 体力はもう回復している。手足の感覚も正常だ。この旅は長いものになりそうだ。そんな予感を胸に抱きながら、おれはまた地面を踏み切った。

 

 

 

 

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■鳳 颯希

19歳、181cm、山登りやキャンプが好き。のほほんとしてる、とぼけた顔をしていると言われがち。

武器:長柄武器(棍)

物理アタッカー(?)

テイワットに来てから身体能力が著しく向上しており、スタミナゲージは一周分くらいある。

 

■慶宗(ケイソウ)

見た目は三十代後半ほど。妻子がいる。

璃月港に本拠地を構える商人。

 

■鯉麗(リーレイ)

見た目は二十代半ばほど。風の翼オタク。

夢主は全く気付いていないが実は神の目持ち。

 

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