GATE 自衛隊 青春の地にて、斯く戦えり   作:海藻サラダの佃煮

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銀座事件

―二〇XX年 夏

 

 その日の日本も、暑かった。解決する様子を見せない地球温暖化、進む日本列島のヒートアイランド化により東京都では連日猛暑日を記録している。

 だがそんなサウナのような灼熱に包まれようと、休日ともなれば都心は買い物やウィンドウショッピングを楽しむ人々により溢れかえっていた。

 

 

───午前十一時五十分

 

 

 間もなく時計の長針と短針が九十度で重なり合おうとした頃、東京都中心区銀座にて、突如として謎のギリシャ風建築の門が現れた。

 

 後に『(ゲート)』という率直な名称が与えられることとなったそれから溢れ出して来たのは、一昔前のSF映画に登場するような斑模様の迷彩を施したロボット。そして手には自動小銃の姿があった。

 

 

 門が出現してから一分足らず。その物体群はたまたまその場に居合わせただけの人々へと、無差別に襲いかかった。鞄やスマートフォン、挙句の果てには乗用車までもがロボット達によって強奪されていく。

 ロボットに抵抗の意を示した者には、もれなくその手に持たれた自動小銃の銃口が向けられ、足や腕に鉛玉が届けられる。わずか数分にして日本の中心地は、老若男女、国籍、人種すら問われない、一方的な強奪と暴行の地獄と化したのだ。

 

 やがて銀座から人は消えた。生きた者は逃げ、捕らえられた者はロボット兵達によって拘束され、息絶えた者はそのままであった。

 

 そして軍帽を被り、やけに高そうな毛皮のコートに身を包んだ、見るからに位の高そうなロボットが門の奥から堂々と現れると、声高らかに”日本語で”この地の征服と領地を宣言した。

 

───それは、聞く者の居ない宣戦布告であった。

 

 

『銀座事件』

 

 

 異世界と我ら世界との初接触(ファーストコンタクト)は、後にこのように記されることとなった。

 

 

*   *

 

 

時の首相、北条重則(ほくじょうしげのり)は国会で次のような答弁を行った。

 

「当然のことであるが、その土地は地図には載っていない。

 どんな自然環境があり、どんな生物が生息するのか。そして、どのような人々が暮らしているのか。その文化レベルは? 科学技術のレベルは? 宗教は? 統治機構の政体すらも不明である。

 

 今回の事件では、多くの犯人を”逮捕”した。この場合、逮捕という言葉を用いるのももどかしく感じる。これと言うのも、日本国憲法や法令が、このような事態を想定していないからである。そして我が国が、有事における捕虜の取り扱いについての法令を定めていないからでもある。現在の我が国の法令に従えば、彼らは刑法を犯した犯罪者でしかないのだ。

 

───ならば、強弁と呼ばれるのも承知の上で、門の向こうの特別地域を日本国内と考えることにする。

 『(ゲート)』の向こう側には、我が国のこれまでに未確認であった土地があり、住民が住んでいると考えるのである。向こう側に統治機構が存在するとしても、これと交渉し国境を確定し、国交を結ばなければ独立した国家とは認められない。現段階では、彼らは無辜の市民と外国人観光客の財産を、命を奪った武装勢力でありテロリストなのだ。

 

 彼らと平和的な交渉を求める意見があることも重々承知している。だが、それを行うには相手を交渉の席に座らせなければならない。だがどうやって? 現時点の我々は門の向こう側との関係を持っていないのに。

 我々は門の向こう側に存在する勢力を、交渉のテーブルに着かせなければならない。たとえ力ずくで、頭を押さえつけてもだ。そして、交渉を優位に進めるには、相手を知る必要がある。

 

 逮捕した犯人達は、何故か我々と同じように日本語を話す。それが彼らがロボットのような容姿を持つからなのか、門の向こうの公用語が日本語と酷似しているからなのかは不明だが、ともかく、多少なりとも情報を得られることができた。だが、それだけを頼りにするわけにもいかない。誰かがその眼と耳で真実を確かめるために、門の向こう側へと赴かねればならないだろう。

 

 だが、無抵抗の民間人に無差別攻撃を仕掛けるような、野蛮な土地へと赴くのである。さらに厄介なことに、彼らは各々が重火器で武装し、最新鋭とまでは言わないが、戦車や装甲車等と言った近代的な装備も保有している。それに加え、彼らはスマートフォンや自動車、挙句の果てには東京の摩天楼を目視しても、まるで驚かなかった。これらの反応を鑑みるに、門の向こう側の文明水準は最低でも二十世紀後半、下手をすれば今現在の我が国と同水準か、それすらも上回っている可能性がある。

 近代的な武装勢力と相対する恐れが有るのならば、当然だがこちらが非武装というわけにもいかない。未開の地で誰を味方とし、誰を敵とするか、その判断も現場にある程度委ねなければならない。

 

 何も、危ない場所へわざわざ足を踏み入れる必要はない。いっそのこと、門が二度と開かれることのないように破壊してしまえばよいという意見が、野党の一部から出ていることも認識している。が、ただ門を閉ざしてこれで安全だと言い切れるのだろうか?

 これから日本国民は、銀座と同じような門が今度はどこに現れるかという不安を抱えて生活しなければならなくなる。今度、あの門が現れるのは貴方がたの家の前、家族の前かもしれない。さらには被害者やご遺族への補償をどうするのかという問題もある。

 

 もし、門の向こう側に統治機構があってそこに責任者がいると言うのであらば、我が国の政府としては、今回の事件について誠意ある謝罪と補償、そして責任者の引き渡しを断固として求めなければならない。

 仮に、相手方がこれに応じないならば、首謀者を我らの手で捕らえ、裁きにかける。資産等があればこれを無理やりにでも差し押さえて、被害者と遺族への補償に充てる。これは被害者や遺族の感情から見ても当然のことである。

 

 従って、我が日本国政府は、門の向こう側に必要な規模の自衛隊を派遣することに決定した。その目的は調査であり、かつ銀座事件の首謀者逮捕のための捜査であり、補償獲得のための強制執行である」

 

 

 この答弁の後、門の向こう側の特別地域──通称『特地』──への自衛隊の派遣を認める、『特別地域自衛隊派遣特別法案』が一部野党が反対する中、衆参両議院で可決された。

 

 これらの一連の流れに対し、同盟国であるアメリカ合衆国は「門の調査に関する協力は惜しまない」とのコメントを発表した。これに対し日本国政府は、「今現在のところは不要だが、必要とならば要請する」との旨を返答した。

 一方、中国、ロシア、そしてEUはそれぞれ詳細こそ違えど、「門は国際的な管理下に置くべきであり、日本一国が門の利益を独占することは許されない」といった内容の声明(半ば抗議)を発表している。

 

 

*   *

 

 

「───あえて言わせていただきますが、とんだ大失態でしたね。今回の壊滅的な損害に対して、いかなる対処を講じられるおつもりか、ぜひ責任者であるPMC理事よりお言葉を伺いたい」

 

 やや照明の明かりが足りないように見える薄暗い室内にて、スーツを着たオートマタ──『特地』における人間型ロボット達の名称──が、目の前に偉そうに胡座をかきながら椅子に座っている、平均的なオートマタよりも二周りは大きいであろう大型のオートマタへと、歯に衣着せぬ言葉を突きつけた。

 

「今回の攻撃により、アビドス方面軍の常駐部隊の半数に迫る人員が未帰還と伺っておりますが、この責任はどう取られるおつもりで? このままではこちら側(本社)にも影響が出てきますが」

 

 未だ言葉を発しない相手に向かって、スーツ姿のオートマタはさらに言葉を突きつける。機械的な音声ながらも、その言葉の節節には怒気が見え隠れしていた。

 

「言い訳の一つや二つも言えないのですか ? もう一度問います。カイザーPMC理事。今回の未曾有の大損害に対して何か対処法は講じられておられるのですか ? 」

 

 早口で捲し立てられたPMC理事と呼ばれるオートマタは、心底面倒くさそうな態度で、ぶっきらぼうに一言だけ呟いた。

 

「───知らん」

 

「......は? 」

 

 その呟きの内容に、スーツのオートマタは呆気に取られる。

 そんな姿を見たPMC理事は呆れたように首を小さく横に振ると、今度はこちらの番だと言わんばかりに言葉を続けた。

 

「そもそも、だ。今回の”アビドスの門”の攻略の命令を出したのは、お前たち本社の人間だろう? 門の向こうの人間を拉致して来いだの、物奪ってこいだのなんだのは知らないが」

 

「......確かに命令を出したのはプレジデントであり、我々本社の人間です。しかし───」

 

「まだ俺の話は終わってないぞ、スーツ野郎」

 

 話に割って入ってきたスーツのオートマタにPMC理事が睨みを効かせると、その威圧感に圧倒された当該者は言葉を詰まらせ、たちまち黙りこんでしまった。

 

 再び話の主導権を握ったPMC理事は話を再開する。

 

「本社からPMC側へと送られてきた事前情報には、『門の向こう側の文明水準はキヴォトスのそれよりも遥かに遅れており、そこに暮らす生物は銃弾一発で死ぬ。故に制圧は安易』と、そのように記されていたと記憶している。

 

 しかしいざ蓋を開けてみればどうだ? 確かに民間人は銃口を向けられた瞬間にパニックになったし、足を一発撃ってやればその場で藻掻き苦し始めた。......だが合致していたのはそこまでだ。他はどうだ? 周りを見渡せば人々は当たり前のように携帯端末を持ち歩き、道路は先進的なデザインの乗用車で埋め尽くされていた。そして辺り一面を見渡せば、そこにはミレニアムやD.U.すら霞んで見えるほどの巨大なビル群......。これのどこが『キヴォトスよりも遥かに遅れた文明』なのだね? 」

  

「......」

 

「どうした? 言い訳の一つや二つも言えないのか? 」

 

 先程PMC側に対して放った言葉を、そっくりそのまま返されたスーツのオートマタは脳内整理に追われていた。

 

───そもそも何故プレジデントはせっかく開門した門の向こう側の勢力との外交交渉を初めから放棄し、いきなりPMCに侵略命令をだしたのか? 

 

───キヴォトスでも随一の戦力を持つカイザーPMCが何故ここまでの大損害を被ったのか? 

 

───アビドスの門を奪取した敵が何故反攻作戦に転じてこないのか?

 

 いくつもの思案を繰り返した結果、一重役に過ぎない自分が今この場できることを彼は実行した。

 

「───今回の件に付きましては、PMCへと伝えた情報と、実際の内容に大きな誤差があったが故、我々本社側の人間にも少なからず非がございます。この度は大変申し訳ありませんでした。カイザーコーポレーション本社を代表し、謝罪させていただきます」

 

 先程までの威勢がまるで嘘かのように、弱々しい態度でスーツのオートマタが深々と頭を下げた。機械的なまでに完璧な、見事な九十度であった。無論、あくまでこの謝罪は本心からのものではなく事務的なものなのだが。

 

 そんな惨めな姿に対し、PMC理事はカイザーの名が聞いて呆れると、哀れんだ目線を向けた。

 しかしこれは逆にチャンスでもあった。ここで今回の失敗を全て本社のミスとして擦り付け、その罪払いとして大部隊を自分の指揮下に引き抜かせるよう要請し、それら大戦力を持ってして我が物顔で門を占領している軍隊を蹴散らす。それさえ成功すればPMCの株も上がり、ひいては最近下がり気味であった自分の名誉挽回にも繋がるはずだ。

 

 報告によると、門の向こう側の軍隊はこちら側と同じく一人一丁自動小銃を装備しており、練度がかなり高いらしいが、その代わり装甲車両が少なく、またそれらの武装も大半が機関銃のみと攻撃力が低く、戦車に至っては一両も目撃していないとのこと。ならば戦車などの重装甲の装備を数多く保有する”例の部隊”さえ投入できれば、敵の自慢の射撃の腕も虚しく、一方的に蹂躙できるはずだ。いや、必ずできる。

 

「謝罪はもういい。その代わり、”例の部隊”の指揮権を一時的に俺へ渡すよう、プレジデントに打診しろ」

 

「”例の部隊”......? 」

 

「アビドスで仕事してるくせに、そんなことも言わないと分からないのか? 『対デカグラマトン大隊』のことに決まっているだろうが」

 

「なっ......!? し、しかしあの部隊はプレジデントの───」

 

「もしこの大失態がプレジデントに知られたら、先に首を落とされるのは一大事業のPMCを束ねる俺か、ただの使い捨ての人材か、果たしてどっちだろうな? 」

 

「......分かりました。デカグラマトン大隊の指揮権を一時的にPMCへ渡すよう、私の方から打診してみます。ですが、あまり期待なさらないように......」

 

 そう言って電話を掛ける動作をしながら、そそくさと部屋を後にするスーツのオートマタの後ろ姿をPMC理事は勝ち誇った笑みで見送った。

 

「どうせあのプレジデントのことだ。許可は降りる。今のうちに作戦立案の準備でもしとくかな。──まぁ、ヘイロー無しの軍隊なんぞ、戦車で真正面から轢き殺すだけだがな」

 

 薄暗い室内に、機械的ながらもどことなく小物感漂う男の笑い声が響いた。




 PMCオートマタ達って普通に民間人撃ったりするんですかね......?最終章では指示があったとはいえ、普通に先生に向かって発砲してるし(アロナガードで全弾防がれましたけどね)

 とりあえず本作のオートマタは、『上からの指示があれば殺人もやむなく行う』程度の設定で行こうと思います。現実の兵士とおおよそ同じですね。
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