GATE 自衛隊 青春の地にて、斯く戦えり   作:海藻サラダの佃煮

2 / 3
機械仕掛けの軍勢

───砂漠の夜はよく冷える。地球の砂漠地帯の常識は、ここアビドス砂漠においても同様であった。砂漠の砂には水蒸気による熱が蓄えられないため、日が沈むとすぐに日中の猛暑が嘘のように冷え込んでしまうのだ。

 日中との激しい温度差に、かれこれ半日以上現場待機を命令されていたPMCのオートマタ達は仲間と愚痴や弱音を吐いたり身を震わせたりと、お世辞にも士気が高い状態とは言えなっかった。

 しかし、そんな寂しい時間ももうすぐ終わりを告げる。間もなく機械化された先駆部隊による『(ゲート)』への攻撃が開始しようとしているのだ。

 

「それにしても、なんで俺らデカグラマトン大隊までこの作戦に投入されたんですか? しかもこんな大部隊を......。”外の世界の軍隊”ってのはそんなに強いもんなんです? 」

 

 先駆部隊のさらに先頭を行く、魔改造されたクルセイダー巡航戦車(なんと砲が二門!!)の搭乗員が、そうポツリと呟いた。

 自分ら機甲部隊はプレジデントから直々に指名された対デカグラマトン大隊の虎の子であり、深夜にこうやって練度も装備もお粗末な一般兵共と共に寒い夜の砂漠を行軍するのは本来の任務ではないはずだ。

         

「なんでも射撃の練度が良いらしいな。だが情報によると、奴らは戦車みたいな重装備を所持していないか、持ってこれていない。だから俺ら虎の子の対デカグラマトン戦車大隊が真正面から粉砕するんだ」

 

「なるほど。確かにいくら射撃の腕が良かろうと、戦車の装甲の前では無意味ですからね。だったらなんでこんな真夜中にコソコソと奇襲を? これほどの戦力が有るならば真っ昼間だろうが正面突破できそうなものですが......」

 

「さぁな。お偉さんの考えることはいつも分からん。まぁ、大方目立ちたくないとか負傷者を減らしたいとかそんなところだろ。──と、そろそろ作戦区域圏内だ。ライトを消せ」

 

 暗闇を照らしていた車輌群のライトが一斉に消えると、辺りは再び漆黒の闇に呑まれた。黒を基調とした迷彩も相まって、外からは暗視装置でも装着しない限り発見は困難だろう。

 

NVD(暗視装置)オン──おぉ...! 流石はミレニアムのコピー品だ。バッチリ見えるぞ」

 

「これもまた特許奪ってカイザー名義で売るんすかね.......」

 

 操縦手、砲手、車長がそれぞれの暗視装置を起動する。視界一面がグリーンに包まれると、先程まで見えづらかった道や僚車達がはっきりと確認できるようになる。

 

 闇夜の中を、戦車の水冷エンジンと車輌のガソリンエンジン音だけが響く。その後ろを随伴歩兵が車輌を盾にするようにして前進する。その数は先駆部隊だけでも数千人、後続の本陣も含めれば数万は優に超える。

 

 三個師団規模の戦力が、敵意が、じりじりと門へと向かって進んでいく。

 道中に自衛隊によって建てられた立ち入り禁止の看板は、無慈悲にも戦車に薙ぎ倒された。1km/hもスピードを落とさずにだ。

 

 

*  * 

 

 

「やっこさんが看板を越えた。合図をあげろ」

 

「はっ」

 

 双眼鏡を手に持った40代後半の自衛官がそう告げると、側近の若手自衛官が55式信号拳銃の銃口を天に向け、発砲。それを合図として、各所から次々と照明弾が打ち上げられた。

 

 僅か10秒足らずで闇は消え去り、そこにあるのは日中のように照らされた砂漠の地面と、素っ裸になったカイザーPMCの軍勢であった。

 無数の照明弾と、それに加わったサーチライトによる照射に晒されたことで奇襲攻撃の失敗を悟ったのか、機械仕掛けの大群は戦車と装甲車を全面に押し立て、突撃を開始した。その数は最早数えようがない。ソヴィエト赤軍をも彷彿とさせる鉄の大津波は、もうすぐそこにまで迫ろうとしていたのだ。

 その光景を確認した監視員が、無線に向かって怒鳴りつけた。

 

「こちらニッフィー3、ニッフィー3、敵を視認! 地面が三分に敵が七分、地面が三分に敵が七分だ!! 」

 

 哨所からの知らせを受けた、陸上自衛隊特地方面派遣部隊・第五戦闘団第502中隊の隊員たちは交通壕を風のように走り抜ける。

 

「くそ! やけに大人しいと思ったら夜襲か! 」

 

「DVDまだ途中なのに......」

 

「言ってる場合か! 急げ急げ急げ!! 」

 

 隊員たちは各々に指定された銃掩体へと滑り込むと、担当範囲へと銃口を向けた。

 

 特科連隊による砲撃の効果も虚しく、猛火をくぐり抜けた数千の鉄兵との距離は直線1kmを切っていた。

 

 

*  *

 

 

 余談だが、自衛隊の幕僚達は今回の特地方面派遣部隊の編成にはかなり苦労したようだ。

 何せ、相手は全くもって未知のSF映画じみたロボットの軍勢なのである。しかもそれらは銃弾に対してかなりの耐性がある模様で、銀座事件鎮圧のために出動した陸自のデータによると、個体差はあれど平均して5.56mm普通弾の場合は8発、人間相手であれば掠るだけで致命傷の12.7×99mm NATO弾でさえ平均3発程度は耐えることが確認されている。

 残念ながら今の自衛隊はシンギュラリティにおける対処法を持ち合わせていない。アメリカならもしかするとだが、仮に一から百を教えてもらったところで今の自衛隊では恐らく再現不可だろう。

 

 そこで彼らは最後の手段として小説や映画、ゲームにアイデアを求めることにした。

 秋葉原からはSFモノの作品が棚ごと消え、映画館では斑模様の服を着た自衛官が席を埋めた。

 銀座事件においてクルセイダー巡航戦車らしきものの目撃情報が寄せられると、”敵重装甲目標対処に関する参考資料”と称して某美少女戦車道アニメが真面目に考察されたり、”惑星”の愛称で親しまれる某戦車ゲームにてクルセイダー巡航戦車にひたすら乗りまくる狂人が現れた。......一応本人たちは真面目のつもりらしい。

 

 ちなみに幹部自衛官達も市ヶ谷に高名なアニメ監督やSF小説家、果てにはハリウッドの人間(なお本人達は急な連絡にも関わらず、ノリノリで来日してきた)までもを呼び寄せ、参考意見(とサイン)を貰ったりとやることはちゃんとやっていた。

 

 そして遂に幕僚達は決断を下した。それは特地に派遣させる部隊には一尉から三尉の幹部と三等陸曹以上を集中させるという、独特な編成であった。

 その理由としては、機械等に精通した技師や、そういったものに無性に詳しい若手から中年の自衛官が多いこと、そして北条首相の答弁にある『未開の地で誰を味方として、誰を敵とするか』という重要な判断力を現場の人間に求める必要があるからと説明されているが、それだけが目的ではないことは誰の目にも明らかであった。

 

 特地方面派遣部隊にはもう一つ、大きな特徴がある。それは投入された装備類だ。

 当初特地へと派遣する装備はいつ撤退してもいいようにと、放棄を前提とした旧式兵器が主となる予定であった。

 しかし、相手が中世ヨーロッパ並の技術力ならともかく、今回の相手は一人一人が銃を装備する極めて現代的な軍隊であり、少なくともスマートフォンを指差して、”伝説の魔導書”と驚くようなタイプではない。下手な旧式装備では、隊員が被害を被る可能性が指摘された。

 また、メーカーからは『そろそろ陸自車輌の実戦データが欲しい。”実戦経験ナシ”が必ずしも名誉とは限らないだろう』、野党からは『高い税金を払って導入した兵器をここぞという場面で投入しないのならば、それは税金の無駄である』とのコメントが発せられ、世論もそれに同情する動きを見せたため、『特地の具体的な技術水準が確定するまでの間に限る』という条件の下、最新鋭兵器の一部導入が決定されるという運びになった。

 

 この動きは陸自だけでなく、特地における制空任務と航空支援を担当された空自にも広がり、製造元のアメリカ企業や同型の機体を運用する各国が同じくデータを欲しがったため、最終的に空幕が折れ、陸自と同条件で虎の子F-35A/Bを始めとするF-15J/DJ、F-2A/B等の戦闘機、その他早期警戒管制機や輸送機の特地投入が決定された。

 最終的には陸の主力はナナヨンからヒトマルへ、空の主力はファントムからイーグルと言った具合に、その大半は自衛隊が誇る最新鋭の装備で固められることとなった。

 

 無論、これだけの戦力を持っていくにあたって、いくつか制限も付き纏ってくることとなる。その最たる例が『特地自衛隊技術流出防止法』である。

 この法案はその名の通り、特地における自衛隊の保有する兵器の軍事技術流出を防止するためのものであり、この法案によって指名された該当兵器をやむを得ない理由で放棄する場合、技術や機密情報漏洩を防ぐために、該当兵器の徹底的な爆破解体処分を命じるものである。

 この法案の対象となるのは、主に21世紀に突入してから採用又は大幅な改善が行われた兵器類であり、10式戦車や共通戦術戦闘車ファミリーなどがこれに該当する。

 また、21世紀以前に採用、生産された兵器であっても、『現代戦に十分対応しうる』、『相手に技術が渡ったら面倒』などの理由により対象となった兵器も存在する。99式自走りゅう弾砲や90式戦車などがそれに当てはまる。

 

 このように様々な制約があったが、それでも最新鋭の装備を扱えることもあってか、大半の科の隊員は喜んだ。しかし、一つだけ今回の装備に不満を覚えた部隊がいた。

 それは、自衛隊の中でも最多人数を抱え、特地に送られた総員でも過半数を占める普通科の隊員達であった。

 彼ら彼女らは、自分の命綱である自動小銃の威力に不安を覚えていたのだ。先程にも少し触れたように、一般的なオートマタを行動不能に持ち込むためには、20式や89式が使用する5.56mm普通弾の場合、平均にして8発程度は必要になってくる。それに対し、5.56mmと12.7mmの中間的大きさの7.62mm弾の場合、5発もあれば沈められるとの報告が74式車載機関銃の銃手から寄せられていた。

 平均8発から5発ともなれば、当然掃討性も上がるし何よりも隊員の生存率向上に直結する。そこで陸自の幹部らは血眼になって全国の武器保管庫や、海自、空自にまで頭を下げ、自衛隊史上唯一の7.62mm弾採用の自動小銃である64式を掻き集めてきた。

 

 しかし、一世代前の89式ならいざ知らず、20式の大規模配備が始まり最早老兵と化した64式は大半が廃棄かスクラップにされており、少なくとも陸自の在庫のみでまとまった数を調達するのはかなり難しい話であった。

 それでもなんとかして全国から約10万丁の調達に成功したが、その内の殆どが老朽化が酷かったり、木製のストックが腐り落ちていたりと、とても実戦には耐えうる性能はないとして投入が禁止された。一応大多数の個体は弾こそ出たが、それだけではやはり駄目なのである。

 

 こんな惨状ではあったが、それでもなんとか良質な状態で保管されていたり、修理するなどして64式を前線復帰させようと努力はなされた。その結果、約2万丁が『実戦適正あり』と認められ、特地に送られることとなった。

 しかし3個師団相応の人数に、2万という数はやや足りず、また補給面などの問題も合わさり充足率は辛うじて半分を超えるかといったところだった。結果、各隊にて旧式の64式を取り合うという珍妙な現象が起こったのだが、それはまた別のお話。

 

 ちなみに64式と並行して、同じく7.62mm弾を使用する62式機関銃の回収も進められ、こちらは約5000挺ほどが投入可とされたが、それを聞いた陸曹や幹部たちは血相を変えて「俺たちを殺す気か」と反対したので、あえなく白紙となった。仮に特地へ持ち込んだとして、愛称(?)が『ロクに言う事聞かん銃』、『キング・オブ・バカ銃』な時点でどうなるかは想像に容易いだろう。

 

───ともあれ、このような事態が発生するほどに5.56mm弾の威力不足は問題視されており、陸自は早急に20式もしくは89式の7.62mm弾対応化の研究を推し進めたり、海外から7.62mm弾規格採用の小銃の輸入を検討したりと、僅か数cmしか変わらない弾丸のために苦労することになる。

 その間は5.56mm弾の弾頭にタングステン等の重い金属を埋め込み、飛距離や遠距離での命中精度を犠牲にしてでも威力を補おうとの動きが出始めたが、それは弾薬コストの大幅向上や精密な加工技術の要求、重量増加のデメリット等が否定的に見られ、あまり雲行きはよろしくない模様だ。

 

 

*  *

 

閑話休題

 

*  *

 

 

 小銃掩体へと伏せの体制で飛び込んだ隊員は、己の射撃の成績が認められ名誉にも授けられた64式の安全装置の切り替え軸を、”安全装置”の『ア』から”連射”の『レ』へと回す。

 耳元のヘッドセットからは、指揮官の声が飛んできた。

 

「まだ撃つなぁ、戦車が先だ」

 

 銀座事件を除けば、自衛隊史上始めての本格的な実戦戦闘。場の緊張は最高潮に達していた。

 

「目標11時の方向、距離950!! 目標敵戦車、弾種徹甲、小隊集中精密射ーって!! 」

 

 先に砲火を吹いたのは、陸上自衛隊特地方面派遣部隊・第一特地戦車大隊の10式戦車であった。

 44口径122mm10式戦車砲から放たれた10式APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)は、百発百中の精度を誇るFCS(火器管制装置)によって、瞬きすら許さない速度で先頭を行くカイザーPMCの戦車に直撃。しかし弾頭はその勢いを弱めることなく、まさかのエンジンルームまで突き抜けると、勢いそのままに後続の二台目にも突き刺さり意図しないワンショットツーキルを叩き出した。

 

 それでもカイザーPMCの戦車群は数の暴力で前進を続ける。

 とうとう門までの距離が800mを切ると、次は別部隊の90式戦車が砲撃を開始した。10式ほどの攻撃能力は持ち合わせていないが、それでも見た目相応の防御性能しか持っていない相手戦車を討ち取るのは容易いことであった。

 僅か8分程の一方的な砲撃の末、あれだけの数がいたカイザーPMCの戦車はほぼ全てが壊滅。とうとう虎の子の対デカグラマトン戦車大隊が、その砲火を発することは一度として、そして永遠として訪れることはなかった。

 

 しかし戦車を掃討したからと言って浮かれている場合ではない。未だ数万の歩兵部隊は健在であり、奥からは増援らしき車輌群のヘッドライトが何百も迫ってきていた。

 同時に陸自の照明弾の第一波が消える。流石に数門のサーチライトでは対処幅に限界があり、たちまち夜の砂漠を照らすのは、月明かりと装甲車両の残骸から溢れ出る炎だけとなった。

 この隙を逃すまいと、オートマタ達は何やら大声を発しながら我武者羅でヤケクソじみた突撃を開始した。

 

「撃てぇ!! 」

 

 しかしその無謀な試みはすぐに頓挫することとなった。小銃掩体と先頭軍団の距離が500mを切った瞬間、暗闇の中にて一人、また一人とオートマタたちが倒れていったのだ。

 その原因は勿論自衛隊による攻撃である。暗視装置、レーザーポインター、サプレッサー......夜戦に有利な装備をこれでもかと装着した陸自の小銃部隊は、精々型落ちの暗視ゴーグルしか装備していないオートマタ達を一方的に叩きのめすことに成功していた。

 

 これは堪らんと、突撃を中断し退却に移った一部の部隊には、巧妙なカモフラージュによって直前まで息を潜めていた74式が火を吹いた。

 わざわざモスボール保管されていたのを復活させて持ってきたのに、直前で90式と10式の投入が決定されてしまったために、主力編成から外された結果、半ば特地戦車大隊のマスコットキャラクターと化していたが、それでも鋼鉄の外膜に身を纏った強力な兵器には違いない。

 対戦車兵装を持たない歩兵相手には、例え2.5世代主力戦車だろうと十分な脅威には変わりなく、使用期限間近の旧式の105mm用砲弾をありったけぶっ放した。口の悪い幹部自衛官はこのことを『在庫一掃セール』と称したとか。

 

 だがこれでも74式が重点配備されていた第二区画はマシな方であった。なにせ反対側の第四区画では、対地運用に転用された87式高射自走機関砲や、倉庫で埃を被っていた各種高射機関砲群が堅牢な陣地を形成し、蜂の巣なんて表現が生ぬるく感じるほどの弾幕を浴びせていたのだから。

 

 流石にこれだけの攻撃に晒されてもなお攻略を続けるほどカイザーPMCの首脳群も馬鹿ではなかったらしく、退却が絶望的となった前線部隊を置いて、後続部隊は退却を開始した。

 すかさず16式機動戦闘車、24式装輪装甲戦闘車、25式偵察戦闘車を筆頭とする各種装輪戦闘車輌が追撃を行おうとしたものの、退却する敵を攻撃することは”自衛”の範疇を超えるとされ中止された。

 

 

 かくして特地における初の大規模武力衝突は、自衛隊の圧勝に終わったのだ。

 




作中の描写を見る限り、巡航ミサイルの直撃程度ならば何とか耐えられそうなキヴォトス人の皆様ですが、このままだと自衛隊が撤退するかアメリカえもんに泣きつく羽目になりそうなのでモブのオートマタやスケバンたちに関しては原作よりも耐久性を幾分か下げて描写しようと思います。ご了承下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。