GATE 自衛隊 青春の地にて、斯く戦えり   作:海藻サラダの佃煮

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遅くなってすみません


第三偵察隊

「──しっかし、よくやるよ......」

 

 伊丹耀司(いたみようじ)二等陸尉(33歳)は自他共に認めるオタクである。

 演習の予定と同人誌発売会の日が被っていれば当然のように休暇を申請するし、それに抗議した上官には「俺はね、趣味のために仕事してるんですよ。だから仕事と趣味、どっちを選ぶ? と尋ねられたら後者を優先しますよ」とまで言い切った。そんな彼の人生のモットーは『喰う寝る遊ぶ、その合間にちょっと人生』、である。

 よくもこんなもので自衛官になれたものだと思われるが、それは伊丹本人にもよく分かっていない。そもそも自衛官を志した動機自体、しゃかりきに会社訪問をしたくないという釈然としないものであった。

 

 そんなだらしない態度なもんだから案の定上官に目を付けられ、入隊早々有無を言わさずに過酷な訓練で定評のある幹部レンジャー訓練に放り込まれてしまった。

 勿論すぐに伊丹は音を上げたが、年末休暇を人質に取られたため仕方なく続行。案の定成績は最下位だったが、幸か不幸か一つ上の順位だった隊員が負傷で辞退。それによる順位繰り上げにより合格ラインに達したため、伊丹は晴れてレンジャー隊員となったのだ。なってしまったのだ。

 

 しかしこんなのでも一応は立派な幹部自衛官。たまたま例の銀座事件時にその場に居合わせた伊丹は、指揮系統が麻痺しており混乱していた警察官らに話を付け、皇居への避難誘導を指示。皇宮警察と一悶着あったものの、それも皇居にお住まいの『お偉方』のお言葉一つで解決。結果的に数千人の命を救う結果となった。

 その功績が認めらた結果、伊丹は防衛大臣から直々に表彰され、同時に三等陸尉から二等陸尉へと昇格。『二重橋の英雄』として一時、時の人となったのだ。

 

───で、そこから少しばかり時が経ち、伊丹は特地に派遣されることとなった。カイザーPMCによる大規模攻撃から三日目の翌朝である。

 太陽に照らされた砂漠の地面は、夥しい数のかつて戦車や装甲車だったらしきモノの残骸によって埋め尽くされており、中には人の形に見えなくもない残骸もあちらこちらに転がっていた。

 

「銀座で二万、ここ(特地)で三万、合計で五万。地方のちょっとした都市一個分の数の戦力がここ数日でまるまる失われたってことか......。*1カイザーだかどこかは知らないけど、かなりの馬鹿じゃねぇの? 」

 

 特地入りしてから、真っ先に伊丹は思った。

 下手すれば一個軍団規模はあろう戦力を数日で失って、敵さんは一体どうするつもりなのだろう、と。

 

 そもそも例のオートマタと呼ばれる人型ロボットがどれだけの数いるのか、彼らは工場から無限に製造され続けるのか、それすらも分からない。自衛隊は未だ『門』の周辺を確保しただけであり、まだ何の調査も開始できていないからだ。

 だが一般常識的に考えてみても、これほどの人員と装備を失ったのならば、相手の軍事組織は大きな損失を被ったのは確実だろう。伊丹ですらそう考えたのだから、当然他の自衛隊幹部らもそのように考えていた。

 

───ならば、相手が戦力を立て直す前に早急に調査を開始しなければ。

 幸いにも陸自のOH-1型偵察ヘリが持ち帰って来た航空写真から、門近辺の大まかな地図を作成することができた。滑走路が完成すれば空自のRQ-4B無人偵察機や、海自のP-1哨戒機などの固定翼機による偵察も可能になるだろう。

 しかし空の眼だけではそこに存在する生物や宗教に文化、そして政治形態を知ることはできない。

 

 

 ではどうやってそれらを確認するのか? 

 もちろん、直接”現場”に赴くのである。

 

 

「それがいいかも知れませんねぇ」

 

「それがいいかもじゃない!! 君が直接行くんだ」

 

「......へ? 」

 

 

*  *

 

 

「クックックッ......」

 

───地下空間、もしくはシェルター。監獄すら彷彿とさせる薄気味悪い空間に、男の笑い声だけが響く。

 

「やけに機嫌がいいな、黒服」

 

 木彫りの頭を二つ持った人型の人体らしきモノが、ギシギシと木材特有の音を発しながら、笑みを浮かべる男へと尋ねる。

 すると、”黒服”と呼ばれた男は上機嫌に言葉を綴る。

 

「”研究者”としてこれほど面白い状況はありませんよ。下手をすればあの『(ゲート)』には暁のホルス以上の価値が有るかも知れません」

 

「それは随分と入れ込んでいるようだな」

 

「当然ですとも。試しにカイザーへ蜜を垂らして”検証”させてみましたが...... どうやら、彼らは我々ゲマトリアの予想を上回っているかもしれません」

 

「ではホルスの件は投げ出すのか? 」

 

「まさか」

 

 問いに、黒服は有り得ないと言わんばかりに首を振って答えた。

 

「我々は”研究者”であり、”探求者”でもありますが、それと同時に”静観者”でもあるのです。ここはまだ動くべきではありません」

 

「それでも最低限のパイプは必要だと思うが 」

 

「ご心配なさらず。いずれ嫌でも関わることになりますよ」

 

 自信満々に答える黒服に、木製の双頭男は分からん奴だと呟くと、音も無しに暗闇へと消えていった。まるで元からそこには何も無かったかのように。

 

「──クックックッ......。次の一手を我々ゲマトリアは楽しみにしていますよ、『古代人』の皆さん......」

 

 独りとなった空間で、またも笑い声だけが響いた。

 

 

 

*  *

 

 

「空が蒼いねぇ。流石異世界」

 

 その後、特地入りしてから早々上官の檜垣(ひがき)三等陸佐に呼び出された伊丹は、六個編成された深部情報偵察隊の第三の指揮をいきなり任されることとなった。

 なぜ員数外の幹部としておまけみたいな扱いの自分にそんな重役が任されるのかと、伊丹は後頭部をポリポリと掻いたが、まぁ戦闘任務よりは気楽そうだという理由で承認。晴れて第三偵察隊の隊長となったのである。なっちゃった。

 

「こんな青空、北海道に行けば毎日のように見れますよ。この暑さは勘弁願いたいものですが」

 

 助手席で空が蒼いと呟いた伊丹に、ハンドルを握る倉田(くらた)三等陸曹が応える。北海道の名寄駐屯地所属の彼からしてみれば、広大な自然は最早慣れっこだろう。

 しかし雪国北海道育ちの倉田は、故郷の気候とは真反対であるのアビドス砂漠にかなり参っている様子であった。これでも摂氏32度程度と、東京よりは涼しいのだが。

 

「俺はてっきりドラゴンが飛んでたり、魔法と剣の王道ファンタジーのような世界を想像してたんですがねぇ。周りは砂だらけだし、ケモミミの美少女はいないしで、少しガックリっす」

 

 まだまだ若手の倉田は、伊丹が上下関係に鷹揚かつ趣味(性癖)が共通していると知るや否や、気軽に話しかけてくるようになった。確かに自分が想像していた異世界とは違うなぁ、と伊丹も脳内で同意する。

 

 他愛のない会話をしながら青空と砂の大海を、デザートカラーの砂漠仕様に塗装された軍用車両が列を成して進む。

 車列の先頭を25式偵察戦闘車(RCV)が進み、その背後に軽装甲機動車(LAV)二両と物資運搬用の73式大型トラックが続く。そしてそれら軽装甲車輌をサンドするように、最後尾には87式偵察警戒車が後方警戒に当たる。

 伊丹たちが乗車しているのは軽装甲機動車の二両目。ちょうど車列の中心である。

 偵察戦闘車二両、軽装甲機動車二両、輸送トラック一台、総員23名。これが第三偵察隊の戦力であった。

 

「おい倉田、ここから先500メートル前方に丘がある。そこを越えたらビル群らしきものが見えるはずだから、確認のために一旦車を停めろ。ついでに野営と飯にするぞ」

 

 地図と方位磁石を手に後部座席から声を掛けてきたのは、部隊内最高齢の桑原(くわばら)陸曹長である。二等陸士からの叩き上げの彼は、今年でとうとう五十代に差し掛かる。教育隊の助教経験も長いベテランであり、部隊内では『おやっさん』の名で親しまれている。

 

「伊丹二尉、進路そのままで大丈夫でしょうか」

 

「俺はおやっさんに任せるよ。仮に迷子になっても無線は通じるし、ヘリが定期的に巡回飛行してるからへーきへーき」

 

 まだ特地では衛星を打ち上げられていない。そのため地図や方位磁石と言ったアナログな手段に頼らざるを得なくなる。そして、こういうことは歳の長いベテランの方が向いているとして、伊丹は経路案内などの隊の運営を全面的に桑原に押し付けていたのだ。

 

「んじゃ、休憩するかね」

 

 目的地に到着した一行は、隊長の伊丹の令で野営の準備にと取り掛かった。その間に伊丹は手頃のガードレールに寄り掛かると、遠くに薄っすらと確認できるビル群へと視線を向けた。

 

「例の街ってあれでしょ? 普通にガラス張りの高層ビルばっかで異世界感皆無だけど......」

 

「ですが全体が砂まみれで、中には倒壊しかけの建物も見受けられます。電気もついていないですし、恐らくはゴーストタウン化しているかと」

 

 呟いた伊丹に、双眼鏡を覗きながら桑原が言う。目先のビル群には確かに生気が無く、遠目から見てもそれが廃墟と化した建造物群だと分かる程であった。

 

「例のカイザーロボに砂まみれのゴーストタウン......。もしかしてこの世界ってもうシンギュラリティに侵されてたりする? 」

 

「まさか、そんなSF小説みたいなことが───」

 

「伊丹二尉、桑原陸曹長、お話中失礼致します! 」

 

 二人の会話が不穏な流れへと移ったところで、息を切らした自衛官が向こう側から飛び出して来た。かなり慌てている様子だ。

 

「どうした? 」

 

「はっ。向かい側にてテントの設営と昼食の準備をしていたところ、突如として現地民が接近。こちら側の責任者と話がしたいと申し出ています」

 

「えっ、マジ? 」

 

 突如としての現地民のご登場に、伊丹のみならずベテランの桑原も驚いた顔をしている。しかしすぐに自分たちの任務内容を思い出すと、伊丹は即答した。

 

「まぁ任務の性質上、会わないって選択肢は無さそうだなぁ。しゃーない、行くかぁ。案内頼むよ」

 

「直ちに」

 

 伊丹はガードレールから身を離し、丘の向かいへと小走りで向かう。桑原は何やら無線に話ながら、慌ただしく軽装甲機動車の方へと踵を返して行った。

 

 かくして、ようやく巡り会えた現地民とのファーストコンタクトを、バツイチのアラサーオタク自衛官が担うことになったのだ。なっちゃったのだ。

*1
ただし大半は捕虜である




PCで執筆しているので、スマホだと少し改行部分等、違和感あるかもしれません。(縦読みにしたら若干改善するかも)
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