「えっ、ここに住むって、えっ、えっ」
衝撃の事実を伝えられた私はパニックに陥っていた。ここに住むって、完全にその、ど、同棲じゃん。
「同棲ではないかなー」
姉ちゃんに心を読まれた。なんで分かるんだ。
驚きのあまり口が塞がらない私に、なーちゃんが説明をしてくれた。
「元々は本当に家を借りて一人暮らしするつもりだったんだけどね、いざ空き家を探してみるとなかなか見つからなくって。それならひーちゃんのとこに住めばいいんじゃないかなってことで、二週間前にかず姉に電話したの!」
なるほど、そういうわけだったのか。つまり、二週間前にはなーちゃんがここに住むことは確定していたというわけだ。
それなら、もうちょっと早く教えてくれても良かったのではないか。知ってたらなーちゃんをお迎えする準備とかもできたのに。
「いやー、ひかげのことだから、なーちゃんが来るって伝えたら学校休んででも帰ってきそうでさー」
だから何故心を読める。いやまあ、実際帰ってくるんだけども。あまり私のなーちゃん愛を舐めないでほしい。たとえ私が海外にいたとしても、日本からなーちゃんコールがあれば即帰国だ。
そんなこんなで皆で盛り上がっていると、もう時刻は昼を過ぎており、姉ちゃんが昼ごはんを作ってくれた。
「「「「いただきまーす」」」」
……ふふ。まさかなーちゃんと食卓を囲む日が来るなんて。いや、別にウチで一緒にご飯を食べたこと自体は何回もあるんだけど、今回は新たな家族として食卓を囲んでいる。そのせいか、ご飯がいつもの百割増しで美味しい。
そのうち、なーちゃんがご飯を作ってくれたりするのだろうか。朝起きたらエプロン姿のなーちゃんがいて、私に味噌汁を作ってくれて、一緒にいただきますをして、「なんだか新婚さんみたいだね」って………
「ひか姉また顔赤くなってるん」
ま、また。
「え、あ、いやー、ち、ちょっと味噌汁が熱すぎて……」
「ひーちゃん本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫だから!大丈夫だから!おでこ近づけなくていいから!」
「そう?」といった風に席に座り直すなーちゃん。パーソナルスペース存在しないのかな、この子……。
そういえば昔からなーちゃんはこうだったな。仲の良い友達なんかにはすぐ抱きついたりするもんだから、このみも駄菓子屋も色々と大変そうだった。私も大変だったけど。
昼食を食べ終えた私たちは、引き続き部屋でおしゃべりをしていた。姉ちゃんが先生になっただとか、駄菓子屋が金髪になっただとか、身長が高い転校生が来ただとか、なーちゃんがいない間にあったエピソードをたくさん披露してやったぜ。
「なーちゃんは今日からウチに住むん?」
「うん!そうだよー。荷物来るのはもう少し後だけどね」
れんげがなーちゃんの膝に座りながら質問する。完全に懐いているな、れんげのやつ……。……私もそこ座りたい。
れんげの喋り方や表情を見る分には完全に心を開いている感じがするし、なーちゃんのことを「ねえねえ」って呼び始めるのも時間の問題な気がしてきた。凪咲だから………なー姉?うん、いいんじゃないだろうか、なー姉。
「なー姉、向こうではテニスやってたんなー」
もう呼んでるし。というかなーちゃんテニスやってたんだ。意外。なーちゃんは身長低めの私よりもさらに少し身長が低いので、あまりテニス向きの体型には見えない。
「あー!こう見えても県でベスト8まで行ったんだよー?」
私の思考を読んだのか、なーちゃんがジトーっとした目でこちらを見てくる。ご、ごめんって。
それにしても県ベスト8はすごい。その上都会なんだから人口もそれなりに多いだろうし、相当な実力が必要だろう。こんな可愛らしいなーちゃんにこんな才能が眠っていたとは。でも確かに言われてみれば、昔よりも全体的にちょっと焼けてる気がしなくもない。
「ほら見て!この辺とか結構筋肉ついてるでしょ?」
「おお……。めちゃくちゃ良い触り心地……」
「えへへー」
す、すべっすべだ! 筋肉とか以前に、肌がめちゃくちゃすべすべだ。何これ、癖になりそう。驚きのすべすべさに、私もれんげも夢中で彼女の腕をさすり続けている。
「これは……なかなかに危険な代物なん……」
「れんげ、これ私らだけの秘密な」
「分かったん……」
「あんたら何やってんの……」
妹二人が揃って二の腕をさすり続けるという異様な光景を目の当たりにした姉ちゃんが声を漏らした。
「いやこれ、すっごいすべすべなんだって」
「ねえねえも触ってみるん」
「ちょ、ちょっとそろそろ恥ずかしいかも……」
顔を上げると、顔を真っ赤にしたなーちゃんが小刻みに震えていた。他人に触れるのは得意なのに、触られるのは苦手なのか。可愛いかよ〜。
「ピンポーン」
……本日三度目のチャイム。どんだけ人が来るんだ、この家は。
「私が出るよー」
そう言って姉ちゃんが玄関の方へ向かっていった。宅急便とかじゃない限り、夏海かこのみかのどちらかだろう。
しばらくすると玄関の方から声がした。……多分、このみだ。
それからほどなくして、やはりこのみが私たちの前に現れた。
「お邪魔しまーす」
「うぃーす、久しぶりー」
「ひかげちゃんもう帰ってきてたんだ。久しぶりー」
「このみ姉久しぶりなーん」
「れんげちゃんは昨日会ったでしょー」
「このみちゃーん!久しぶり!」
「はーい、久しぶ………り……………」
このみ、フリーズ。
「…………な、なーちゃん……?」
「うんっ!みんなに会いたくて帰ってきひゃあっ!?」
言い終わる前に、このみがなーちゃんに抱きついた。
「こ、このみちゃん!? 喜んでくれるのは嬉しいけど、一旦離れて〜……」
「やだ」
「ええっ!?」
このみのやつ暴走してんな……。普段のこのみならこんなこと絶対しない。
なーちゃんもどうしたらいいか分からず、あたふたしている。
「えっとー……ひとまずただいま、このみちゃん」
「……うん、おかえり」
「びっくりさせちゃってごめんね。」
「うん、大丈夫。私もいきなり抱きついてごめんね」
「あはは、じゃあ一旦少し離「それは無理かなー」
「えー……」
私たちそっちのけでいちゃいちゃしないでほしい。
-------------------------------------------
ひかげちゃんちに行ったらなーちゃんがいたから確保しちゃった。
「おーいこのみー、凪咲独り占めすんなよー」
「そうなーん!」
「えー、ひかげちゃんたちはこれから一緒に暮らすんだし、これくらい良いでしょー?」
七年ぶりに再会したなーちゃんは、昔の面影を残しつつ可愛さにさらに磨きがかかっていて、それでいて体つきもしっかりと成長していた。……これ、蛍ちゃんといい勝負するんじゃないかな。
「ね、ねえこのみちゃん、もうそろそろ離してうひゃあっっ!?」
「!? お、おいこのみ!今何した!」
「えー、何もしてないよー? ね、なーちゃん?」
「………うん」
「絶対なんかしてるだろ!!こっち寄越せー!」
ふふふ、実際何もしてないもんねー。ちょこーっと腕を触らせてもらっただけ。見るからにすべすべで触り心地が良さそうだから、ついつい撫でちゃった。
でも、なんというか想像以上にすべすべで触り心地が良くて、なんだかこう……
「癖になりそう」
「ま、また」
私の膝の上に座っているなーちゃんが顔を赤くしてプルプル小刻みに震えている。可愛い。
「というかなーちゃん、ちょっと日焼けした?」
「あ、うん。中学からテニス部に入ったんだ。こっちでも続けるつもりだよ」
「へー、なーちゃんがテニス部かー。ちょっと意外かもー」
テニス部か。確かにそれはそれで似合っているかもしれない。テニスキャップとラケットを身につけてスポーツするなーちゃんを想像したら、それだけで画になりそうだ。
「……ねえ、凪咲」
ふと何かに気づいたかのように、ひかげちゃんが声を出した。
「どうしたの?」
「あーいや、さっきも高校でもテニス続けるって言ってたけど、そういえばなーちゃんってどこの高校通うのかなーって……」
あ、ひかげちゃんナイス! 私もそれ気になってた!
「あ、えーっとそれなんだけどね、来週からこのみちゃんと一緒の高校に通うことになったよ!」
「「えっ」」
同時に声が出た。
「このみと……同じ高校……?」
「う、うん……」
ひかげちゃんが声を漏らす。心なしか体も少し震えている。
「ウチの高校ではなく……?」
「うん……」
「…………」
「…………」
「…………えっ、ずるくね?」
「え?」
「いやずるいよ、ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるーい!!!」
「ええー!?」
あー、ひかげちゃんおかしくなっちゃった。
「今からでも私の高校に編入先変更してよ!!!」
「さ、さすがにそれは無理があるよ! すごい離れてるし、そもそも無理だし……」
「じゃ、じゃあなんでこのみの高校なの!? この辺、他にも高校いっぱいあるじゃん!!!」
「いやないよ!! というよりこの辺の人はみんなあそこの高校でしょ……? ひーちゃんがイレギュラーなだけで」
「田舎を捨てた罰だねー」
「うああああああああああ!!!」
泣き叫ぶひかげちゃんを横目に考える。そっか、これからはなーちゃんと一緒に登校できるんだ。今までバスの車内では小説を読むくらいしかすることがなかったけど、これからはなーちゃんとお話をしたり一緒に遊んだりと、色々と楽しくなりそう。
「なーちゃん、これからもよろしくねー」
「うん、よろしくね!このみちゃん!」
今年はすごく楽しくなりそうだ。
ひかげ「じゃあ私が転校するーー!!!!!!!」