ひかげは心の中、もしくは2人きりの時しかなーちゃん呼びはしません。それ以外は基本凪咲呼びです。
わんわんと暴れるひーちゃんを、このみちゃんが羽交い締めにすることで、なんとか沈静化することに成功した。このみ姉ありがとう。
「うー、今からでも転校手続きしようかな……」
「何言ってんのひかげちゃん。春風ちゃん悲しむよー?」
「分かってるよ……」
春風ちゃん……今年来た転校生の子は蛍ちゃんって名前らしいし、多分高校の友達のことかな?
「凪咲が私の高校に来たら最高なんだけどなー。毎日なーちゃんに会えるし」
「それは無理だよー。ひーちゃんとこの高校、すごく頭良いんだもん」
一穂さんに聞いたところ、ひーちゃんの通っている高校は実は結構有名な進学校なのだそう。振り返ってみれば、確かにひーちゃんって昔からすっごい頭が良くて、特に算数に関しては上級生の楓ちゃんたちも驚くほどの異常な計算スピードを誇っていた。ひーちゃんといい、れんげちゃんといい、宮内家には何か天才の血筋的なものが流れているのだろうか。羨ましい。きっと学校の課題なんかも貯めたりせず、定期的に進めているんだろう。
ふと下を見ると、れんげちゃんが再度私の膝に座っていたので、なんとなく撫でてあげると気持ちよさそうに目を細めた。可愛いな〜。
「なー姉はどの部屋使うかもう決めたん?」
「あー、そういえばまだ決めてないなー」
「じゃあウチの部屋にするん!」
「あっ、おいれんげ」
ひーちゃんが何か言おうとしていたが、れんげちゃんの喜ぶ声にかき消されてよく聞き取れなかった。なるほど、れんげちゃんの部屋か。昔お泊まりしてた時は毎回ひーちゃんの部屋を使っていたけど、身体も大きくなった今では部屋も狭く感じちゃうだろうし、確かに別々の部屋にした方が良いのかもしれない。………お互いあんまり身長伸びてないけど……。そう思っていると、ひーちゃんが不満そうな顔をして口を開いた。
「ちょっと待てよれんげ。そっちに凪咲行ったら、れんげの部屋メチャクチャ狭くなるだろ」
「ひか姉の部屋もJK二人が使うには何分不便かと思いますん」
「JKってまたどこでそんな言葉……。こっちは華奢なJK二人だからまだいいけど、そっちは姉ちゃんもいるんだし、一部屋を三人で使うのはさすがに無理があるって」
「む……確かにそれもそうなん」
「だろー?じゃあー、凪咲は私の部屋に決定ってことで!」
いつの間にかひーちゃんの部屋に住むことに。
「え〜?ひかげちゃん、そんなこと言いつつ本当はなーちゃんと一緒の布団使いたいだけなんじゃないのー?」
「そうだけど?」
「そ、そうなんだ……」
「なんで急に素直なん……」
もー、ひーちゃんったら私のこと大好きじゃーん。私も大好きだけど。
「じゃー今から私の部屋ちょっと掃除してくる。凪咲が来るんだし、普段の百倍綺麗にしとかないと」
「あ、私もついて行って良い?」
「あー……まあいいけど、今の部屋見せるのちょい恥ずかしいかも……」
ふふふ、ひーちゃん照れてる。可愛いな〜もう。こんなこと言ってるけど、ひーちゃん割と綺麗好きな面あるし、そこまで散らかってはいないと思うな。
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ということで私たちは二階にあるひーちゃんの部屋へと向かった。久しぶりのひーちゃんの部屋、ちょっとドキドキするなぁ。このみちゃんたちは居間に残って宿題をするらしい。二人とも偉い!
階段を登っていくと、ひーちゃんの部屋のドアが見えてきた。ちょっとだけ色褪せた感じがしなくもないけど、ほとんど昔と同じ状態を保っている。そしてそのドアの真横に位置する柱には、何やら無数のカッターの切り傷が刻み込まれていた。
「うわー!懐かしい!昔はここでみんなの身長測ってたんだよね!」
「そうだなー。最近はあんまり測ってないけど」
柱の記録を見てみた。えーっと、H24.10.10.宮内ひかげ……ひーちゃんが四歳の頃の記録だ。うわー、ちっちゃいなあ。ちょうど1mくらいなんじゃないかな、これ。他にも……H27.9.28.加賀山楓……
「楓ちゃんって今いくつだっけ?」
「あー、多分二十歳」
「なるほど、えっとじゃあ……」
……小五の楓ちゃんに身長負けたんだけど………。
「あー……まあ駄菓子屋は昔から相当身長高かったし、そんな落ち込むことないって!」
「そ、そうだね……」
現にこの柱につけられた傷跡の中では、高校生時代の楓ちゃんの記録がトップだ。私もこれくらい身長欲しいなぁ。……っていうか夏海ちゃんめちゃくちゃ身長伸びてる!!!もう私の身長なんかとっくに超えちゃってるじゃん……。
「……久々に身長測ろうかな」
「おっ。いいねいいね。私が測ってあげるよ」
「ありがとう、ひーちゃん」
そう言いながら私はピタッと自分の背中を柱にくっつけた。ひーちゃんは棚に置いてあったティッシュ箱とカッターを使って、慎重に私の身長を測ってくれた。
「……っよし、これでOK!」
「ありがとうね、ひーちゃん! ひーちゃんも測る?」
「いや、私はいいよ。夏海よりちっちゃい記録つけたくないし」
「あはは……ひーちゃんもこれから伸びるよ」
そんなことを話しながら、私たちは再度ひーちゃんの部屋の方へと向かった。
部屋に入る直前、なんとなく先ほどの柱を振り返ってみた。無数の切り傷の中には、先ほど残した「R6.5.3.佐藤凪咲」の文字が一際存在感を放っている。
そしてその十五cmほど下には、色褪せながらも確かに刻まれた「H29.5.3.佐藤凪咲」の文字。
この瞬間、私は本当に故郷に帰ってきたんだと改めて実感した。
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七年ぶりのひーちゃんの部屋に、私は少し興奮しつつ部屋の中をキョロキョロと見渡した。
さすがに昔と同じ景色というわけにはいかず、私の記憶にある光景とは様変わりしていたものの、勉強机、壁掛け時計、本棚など、昔から宮内家にいる家具たちを発見して少し嬉しくなった。
「よーしそんじゃパパッと部屋掃除して二人で遊ぼうぜ!」
「はーい!」
改めて部屋一面を見渡してみた感じ、やはり部屋はほとんど散らかっていなかった。なんなら世間一般的には綺麗な部類に入ると思う。
「まずは掃除機掛けからだな。なーちゃん、向こうに置いてある掃除機取ってくれる?」
「はーい」
部屋の隅に立てかけられていた掃除機を持ってくると、なーちゃんは慣れた手つきで掃除を始めた。見ているだけなのも申し訳ないから私も掃除を手伝おうとしたけど、「大丈夫!なーちゃんは私の掃除の腕前を目に焼き付けておいて!」と言われた。向こうで清掃員のバイトでもしているのかな。
言われた通り掃除の腕前を目に焼き付けていると、元々綺麗だった部屋が企業のモデルルームかと思うくらいさらに綺麗になり始めた。あの手つきは一般女子高生が身につけるレベルではない。もしかして本当にバイトを……?
「ふー、掃除完了!」
「す、すごいね、ひーちゃん。こんなに綺麗な部屋見たことないよ……」
「いや〜、ちょっと張り切りすぎちゃったかな〜」
そう言いながらひーちゃんは照れくさそうに頭を掻く。これはもっと誇ってもいいと思うんだけどな……。
部屋の掃除が終わった私たちは、先ほどのひーちゃんの宣言通り二人で遊び始めた。一緒にテレビゲームをしたり、動画を見たり、連絡先を交換したり、色々なことをしているうちに…………睡魔に襲われた。
よく考えてみれば、朝五時に起床してから六時間もの間、飛行機、電車、バスに揺られてここまで来たのだから、体が疲れているのも無理はない。
ウトウトしながらも意識を保とうとする私に、ひーちゃんは、
「無理しなくていいよ、なーちゃん。しばらくしたら起こしてあげるから」
そう声をかけてくれた。眠気も限界に近かった私は、
「ごめん……ありがとう、ひーちゃん……」
そう言って意識を手放した。
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……………………ん。………えーっと……なんだっけ……。
…………あ、そうだ。今日からひーちゃんの家に引っ越して、今はひーちゃんの部屋で寝てるんだった……。ひーちゃんは起こしてくれるって言ってたけど、もしかしたらひーちゃんも寝てるかもしれないし、そろそろ起きなきゃ…………。
そう思ってパッと瞼を開くと……
ひーちゃんの顔が目と鼻の先にまで近づいていた。
「「うわあっ!?!?」」
どうやら驚いたのは私だけではないようで、ひーちゃんも同じく私と同じように身体を仰け反らせていた。
「ど、どうしたの、ひーちゃん。すごく顔近づけてたけど」
「あー、いやえっとこれはそのー…………………」
「…!……ひーちゃんまさか……!」
「いや!決してそういうことじゃなくてその……!」
「私が熱出してないか心配してくれたの!?」
「………へ……?」
全くひーちゃんったら優しいなぁ。私が疲れてるからっておでこをくっつけて体温を測ってくれるなんて。
そう考えているとなーちゃんはどこか安心した様子で口を開いた。
「……あー!そうそう!やっぱりなーちゃん朝からハードスケジュールだっただろうし、体調が心配でさー!」
「えへへ、ありがとうね、ひーちゃん」
そうお礼を言って私はベッドから起き上がった。うぅ〜、結構寝ちゃった気がするな〜。そう思って壁の方に目をやると、時計の針は八時を指していた。
うわ、もう夕飯の時間じゃん。そう思った矢先に、
「ひか姉ー、なー姉、ご飯できたのーん」
と、れんげちゃんが私たちのことを呼びに来てくれた。れんげちゃん偉いなぁ本当に。
「うん、今行くねー!」
そう言って私はひーちゃんとれんげちゃんと一緒に一階のダイニングの方へと向かった。
「れんげちゃんはちゃんとお手伝いしてて偉いねー!」
「ふふん。小学一年生として家内の手助けをするのは当然の務めですん」
「最近の小学一年生、意識高すぎるだろ……」
「ひか姉はもっと家のこと手伝うべきなん。それとひか姉……」
「ん、何?」
「嘘はよくないん」
……嘘?今の会話に嘘が入る余地はなかったと思うけど……。気になってひーちゃんの方を見てみると、ひーちゃんの顔は青ざめて表情も引き攣っていた。
もしかして本当に嘘をついたのだろうか。しかし、先ほどの会話の内容を思い出してみても嘘らしきところは見当たらない。
……まあ気にしても仕方のないことだし、ひとまず夕飯を食べてから考えよう!
「ずっと見てたん」