……うーむ、こうも客足がまばらだと、店のやる気も失せてしまう。
高校を卒業して周りが様々な進路を歩む中、私は祖母の駄菓子屋を継ぐことに決めた。
この選択に対して全く後悔はないし、町の人たちと交流することができて結構楽しい。あと、やっぱり楽だ。
ただ、やっぱり収入がな……。流石に駄菓子屋だけじゃ生活していけないから、レンタル業だったり通販代行だったりを扱っているが、そちらの方面も特に繁盛しているわけではない。
今年で私も二十歳なんだし、そろそろ何か手立てを考えておかないとな……。もし近場にコンビニなんて出来たら、その時は完全に終わりだ。
まあ、そんなこと考えられるくらいにはやることがない。朝からこの様子じゃ、今日もあんまり客は来なそうだし、早めに店仕舞いして夕飯の材料でも買いに行くかな。
そんなことを考えていると、遠くの方から話し声が聞こえてきた。なんだか聞き覚えのある声がするが……ひかげか?
しばらくすると話し声がはっきりと聞こえるようになってきた。やっぱりひかげの声だな。あいつ、帰ってきてたのか。
……もう一人、声が聞こえる。全く聞き覚えがない声………いや、そうじゃない。むしろ大分聞き覚えがある声だ。でも夏海とも違うし、れんげもこんな声ではない。
……すごく聞き覚えがあるんだけどな……思い出せない。
「うーん、駄菓子屋いると良いんだけどなー」
「スマホしまいなよ、ひーちゃん。絶対怒られるよー」
あいつ、何しようとしてんだ。……というかひーちゃん……? ひかげのこと、こんな呼び方するやつなんて……まさかな。
「お、いたいた。うぃーす駄菓子屋ー」
「いらっしゃい。駄菓子買わないんなら帰……れ……」
予想通りひかげが店にやってきた。予想外だったのは、ひかげの隣にいる女の子だ。やっぱり夏海でもれんげでもない。綺麗な銀髪をサイドテールにした可憐な女の子。ひかげより少しだけ低い身長に、ダメ押しのひーちゃん呼び。
……まさかとは思っていたが、ここまで来ると認めざるを得ない。
「お前……凪咲か……?」
「正解ー! 楓ちゃん、久しぶりー!」
あまりの衝撃に、私はひかげが手に持っているスマホの存在も忘れて、呆けた顔を晒してしまった。
パシャッ
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「ごめん!! 消すから!! 消すから暴力やめて!!」
「私の目の前で消せ。小細工するなよ」
「はいはい…………ほら、これで良い?」
「貸せ。………二度とすんなよ」
そう言ってスマホを渡す楓ちゃん。だからしまっとけって言ったのに。
「あー、で、なんだ……。凪咲……久しぶり」
「うん! 久しぶり、楓ちゃん」
久しぶりに会った楓ちゃんは、金髪になっていたり身長が伸びていたり色々な変化はあったけれど、でもやっぱり楓ちゃん! って感じだった。
ひーちゃんから、楓ちゃんが駄菓子屋を継いだっていう話を聞いた時は、ちょっと感動しちゃったな〜。
「あー、まあどうせ客来ないし、奥の居間の方で話すか」
そう言って楓ちゃんは居間の方へと向かっていった。それに続いて私も居間へと向かう……前に、少し駄菓子屋の店内を探索してみる。
えーと、10円ガムにキャベツ太郎、うまい棒、ポテトフライ……。
……私が引っ越す前とラインナップほとんど変わってないな……。駄菓子のラインナップ増やせってのも難しいかもしれないけど。
「なーなー、駄菓子屋のやつ絶対照れてたぜ」
「そんなこと言ってたらまた怒られちゃうよー?」
一通り店内を探索し終えた私たちは、居間の方へと向かった。
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「しっかし……流石に驚いたな……」
まさかまた凪咲に会えるとは思っていなかった。……いや、いつかは会えるかもとは思っていたが、会うにしても大人になった凪咲が挨拶だけしに来ました……とか、そういった形でしか会えないと思っていた。
だからこそ、今この時に凪咲と再会出来ただけで嬉しかった。
都会に移り住んだことで荒んだ姿になってたらどうしようという不安もあったが、どうやら杞憂だったようだ。凪咲はあの時から良い意味で何も変わっていない。……むしろ、成長して色々魅力が増したような気がする。何のとは言わないが。
「そういえば楓ちゃん、いつ金髪に染めたの?」
「あー、中3くらいの頃だったかな」
凪咲が引っ越したのが私が中2の頃で、その翌月くらいに染めに行ったのを覚えている。特にこれといった理由はなく、本当になんとなくで染めに行ったな、確か。
今思えば中3で金髪って、なかなか思い切ったことしてんな、私……。
「へー。今まで黒い髪の楓ちゃんしか見たことなかったから、ちょっとびっくりしちゃった」
「……やっぱりちょっと変か?」
「ううん。カッコいいし楓ちゃんらしくて、とっても似合ってる!」
「……」
……全くコイツは。数年前と比べて、笑顔の破壊力が格段に増している。あんな屈託のない笑顔を見せられたら、誰だってイチコロだろう。これで意識してないというのだから、一層タチが悪い。
一体向こうでは何人の子供達が凪咲の毒牙にかかってしまったのか。
ふと凪咲の隣を見ると、何やら不満そうな顔をしたひかげが。
「ねぇー凪咲ー、私はー?」
「ひーちゃんも似合ってるよ〜」
なに、人前でイチャつこうとしてんだコイツ。心なしか体も凪咲の方に擦り寄せている。
……まあ、そうは言ってもほぼ10年振りに再会出来たんだし、舞い上がってしまうのも仕方がないか。
「それで……凪咲はいつ頃家に帰るんだ?」
「え?……えっと、昼ごはん食べに、12時とかかな?」
ひ、昼ごはん!? 飛行機で来るような距離を、昼飯のために!?
「あー、いやそうじゃなくて、……実家?…に帰るのはいつなんだーって……」
「え、えっと……近くて半年後……とか?」
は、半年後!? まずい、全く会話が成り立っていない。恐らくどこかですれ違いが起きているはずだ。
私と凪咲が困惑している様子を側から見ていたひかげが、突然何かに気づいたかのような表情を浮かべた。程なくして凪咲も同じような表情を浮かべる。
「あー、そっか……。完全に伝えるの忘れてたわ……」
「な、何がだよ……」
「なーちゃんのこれって、帰省とかじゃなくて普通に引っ越してきてるから……」
……え、てことはつまり……
「そう! またこの町の住民に戻りましたー! みんなとも毎日会えるよ!」
「……マジか」
さっきぶりの衝撃に、私は本日二度目の呆けた顔を晒してしまった。
パシャッ
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「痛い! 痛い! ごめんなさい!!!」
が、学習しないなぁ、ひーちゃんは……。こういう所も昔と全然変わってない。
なーちゃんをシメてる楓ちゃんは、気のせいだろうか、さっきよりも楽しそうだった。
「あ、どうせなら私んちで昼飯食べてくか? いちいち戻るのも面倒だろ」
「いいの!?」
「おう。適当なやつ作ってくるから待っとけ」
「だ、駄菓子屋って料理出来たんだ……」
「お前の分作らなくていいか?」
そう言いながら楓ちゃんはキッチンの方へと向かっていった。楓ちゃんの手料理、楽しみだなぁ。
「な、なぁ……流石に私の分も作ってくれるよな……」
「大丈夫だと思うけど……」
楓ちゃんもそこまで鬼じゃないだろう。ちょこっと怖いとこあるけど、本当は優しいの知ってるしね。
さて、楓ちゃんが料理を作ってくれるまで何をして時間を潰そうか。特にこれといってやることもないし、二人で適当にゴロゴロしておこうかな。
「なーちゃんってさ、高校でもテニス続けるの?」
「うん、そのつもり」
「ふーん。じゃあ私の高校と当たる可能性もあるわけだ」
「ふふっ。もしそうなったら、ひーちゃんはどっちを応援してくれる?」
「いや、なーちゃんだけど」
そ、即答……。そんな「当たり前でしょ……?」みたいな顔されても……。応援してくれるのは嬉しいけど、少しは自分の高校も応援しようよ、ひーちゃん。
そんな他愛もない話を続けていると、
「すみませーん……」
店先の方から声が聞こえてきた。
「あ、お客さんじゃね? 駄菓子屋呼ばないと」
そう言ってひーちゃんは楓ちゃんの元へ向かっていった。お客さんをほったらかしにするわけにもいかないので、私もお客さんの対応をすることにする。
駆け足で店先の方へ向かうと、入り口には身長の高い綺麗な女性が立っていた。見た感じ大学生くらいだろうか。でもこの辺に大学なんてないし、多分大人の方かな。
大人の人でも駄菓子買うんだ……と思いながら、私は話しかける。
「あー、すみません。楓ちゃんちょっと今手が離せなくて、少しだけ待ってて欲しいです」
「……………ぇ………?」
……あれ? もしかして上手く聞き取れなかったのかな。もう一度女性の顔をよく見ると、彼女はなにやら驚いたような顔でこちらを見続けていた。
「あ、あのー……」
「あっ!? す、すみません! ちょっとボーっとしちゃって!」
聞こえてきたのは、私が想像していたものよりもずっと幼い声。もしかして私が思っているよりも、ずっと若いのかな……?
端正な佇まいから放たれる小学生のような可愛らしい声とのギャップに、思わず笑みが溢れてしまう。そんな私を見て、顔を赤らめながらこちらを見る彼女。い、一体どうしちゃったんだろう……。
私と彼女の間になんとも微妙な雰囲気が流れていると、居間の方からひーちゃんと楓ちゃんの話し声が聞こえてきた。た、助かった……。
「すみませーん、お待たせしまし……あれ、蛍ちゃんじゃん」
ほ、蛍ちゃん?
「あ、そっかひーちゃん知らないのか。こちら、最近引っ越してきた蛍ちゃん」
「と、東京から来ました。一条蛍、小学五年生です」
「しょ、小学五年生!?!?」
う、嘘でしょ……!? 私よりもずっと背が高くて、体つきも女性的な彼女が……小学五年生!?
「な、なにかの冗談じゃ……」
「あー、まあそういう反応なっちゃうよなー」
ひーちゃんや楓ちゃんの反応を見る限り、嘘はついてなさそうだ。蛍ちゃんの方を見ると、顔を赤らめて少し俯いている。……もしかしたら、今の反応で蛍ちゃんのこと傷つけちゃったかもな……。
謝罪兼自己紹介のために、私は蛍ちゃんの元へと近づく。
「驚いちゃってごめんね。私、久高凪咲。小学生の途中までここに住んでて、昨日帰ってきたんだ。こう見えても私、先輩だから、何か困ったことがあればいつでも頼ってね! 蛍ちゃん!」
「は、はぃ……」
先ほどよりも顔を真っ赤にして返事を返す蛍ちゃん。あ、あれ? なるべく親身に挨拶したつもりなんだけど……。
私、間違っちゃった!? って表情でひーちゃんたちの方を振り返ると、どちらも深いため息をついていた。え!? 本当に間違えちゃったの!?
「まあ、予想はしていたが……」
「蛍でもこうなっちゃうか……」
な、何が。色々な疑問は残るけど、今はとにかくこの雰囲気を変えたい。
「そ、それで蛍ちゃんは何しに来たんだっけ?」
「あ、そ、そうです、今から小鞠センパイの家に遊びに行こうとしてたので、ついでにお菓子も持っていこうかなーって……」
そう言いながら蛍ちゃんは手に持っていたお菓子をレジの方に並べる。良かった。どうにかこの雰囲気からは逃れられそうだ。
それにしても、私がいない間に転校生が来てたなんて初耳だなぁ。さっき東京から来たって言ってたし、もしかしたら共通の話題で盛り上がれるかも。
「毎度ありー。……昼ご飯まだなら、蛍ちゃんもウチで食べてく?」
「え、良いんですか!? ご馳走になります!」
凄いなぁ、蛍ちゃん。まだ小学五年生なのに礼儀も正しいし、まだちょっとしか喋ってないけど、とっても良い子っていうのが分かる。
「じゃあ私は料理の途中だから、出来上がるまで適当に時間潰しとけ」
そう言ってまたキッチンの方へと向かっていく楓ちゃん。本日二回目。正直、時間を潰すといってもやることのない私たちは、結局居間の方へと向かっていった。
「いやー、まさか私以外にも引っ越してきた人がいるなんて」
「私も凪咲センパイに会えて嬉しいです! 名前は前から聞いていたんですけど」
せ、先輩……!
長年ちっちゃい子扱いされ続け、元いた中学でも後輩からはちゃん付けで呼ばれていた私にとって、蛍の先輩呼びは劇薬だった。
先輩呼びによってテンションが上がった私は、うわずった気分で居間へと向かう。蛍ちゃんは本当に良い子だなぁ。お菓子でも奢ってあげようか。
「……そういえば、凪咲センパイに一つ質問があるんですけど……」
「ふふっ。今なら何でも答えちゃうよー」
私がそういうと、蛍ちゃんは安堵した表情を浮かべ、そして頬をほんのり紅潮させ……
「凪咲センパイって彼女いたりしますか?」
「え゛っ!?!?」
……私が驚くより先に、隣のひーちゃんが声をあげていた。
少しずつ小説の書き方が分かってきた……かも