転生したら魔導王の子だった 作:又三郎
よく考えたら特に曇らせではないな?と思ったので曇らせタグ削除しました。
ララとアルスが生まれた。
わーい妹だ弟だーなんつって過ごしているうちに、家は浮き足立ってきた。
リーリャを捕まえて聞いてみる。
ママたち何してるのー?
「ノルンお嬢様とアイシャが15歳に……大人になるのですよ。今はお祝いの準備をしています」
そうか。もうそんな時期だ。
二人の成人祝いは盛大に行われた。ルーデウスが張りきったのだろう。
俺はといえば、普段より豪勢な飯を食えて満足である。
ノルンとアイシャの成人もめでたい。アイシャはともかく、ノルンはあと五年もしないうちに嫁に行くんだよな。
おのれルイジェルド。
ルーデウスがノルンに贈ったパウロの胸像も見た。
造りは立派で精巧だが、サイズのせいか圧がすごい。
「だれのお顔?」
俺はきょとんとした顔で、パウロ胸像を見上げる。
ここで「おっパウロじゃん」なんて言ったら俺が転生者だとバレるからな。
知らないふり知らないふり。説明をせびりついでにパウロの思い出話でもノルンから引き出せたら僥倖だ。
シルフィが俺を抱き、テーブルにひとまず飾られた胸像を見せてくれた。
「ペトラはパウロさんの顔を知らないんだよね」
知ってるで。前世でな。
涙ぐんでいたノルンが俺の頭を撫でる。
泣いていても美少女だ。ノルンちゃん! 可愛いよノルンちゃん!
「この人はね、私たちのお父さんだよ。ペトラが産まれる前に死んじゃったけど、こんなふうに、すごくかっこいい人だったの。ペトラも会いたかったよね……」
そりゃ、ファンとしてはね。
「おじーちゃんだね!」
と、胸像を指して言うと、シンと場が静まり返った。
俺は戸惑う。なんかおかしいこと言ったか?
パウロじいちゃんの話は前から聞かされていたし、「これがじいちゃん(のレプリカ)だよ」と言われたから、「ペトラわかった! これがじいちゃん(のレプリカ)なんだね!」っていう、ただのレスポンスのつもりだったんだが。
あ、わかったぞ。
胸像そのものをパウロ本人だと勘違いしてると思われたんだな。
そこまでアホじゃないつもりだぞ。
最近教えられ始めた文字の読み書きだの魔術だのは、ルーシーの習熟度を見ながら、その少し下になるように調整しているけどさ。
「うん、そうだね、ペトラのおじいちゃんだよ。パパのパパだからね」
俺の体はシルフィからルーデウスの腕の中に移る。
生ぬるい空気だ。俺の勘違いを訂正しない方向性でいくことに決めたらしく、パーティは何事もなかったかのように再開した。
くそう。人間と彫像の違いもわからないレベルのアホだと思われていたとは……。
計画通りっちゃ計画通りなんだが、フクザツ。
夕方頃、庭先が賑やかになってきた。
人の声に誘われて向かうと、アイシャが大勢の獣族に囲まれている。
「ペトラか! 久しぶりだニャあ!」
「リニアー!」
リニアじゃーん!
駆け寄ると、腕を掴んで砲丸投げの要領でぐるぐるぶん回される。
うおお。出る。ご馳走が出る。
リニアも、うちにいた時より身なりは薄汚いが、態度はずっとのびやかだ。
あそこにいる犬耳美女はプルセナだろう。
こうして、家族だけで行われていたパーティは、猪を仕留めて持ってきた獣族も加わり、さらに賑やかなものになったのだった。
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時期的に、そろそろクリフ編が始まる頃だろう。
クリフの帰省、ゼニスを攫われててんやわんやのルーデウス。錯綜する教皇と枢機卿の思惑。
神子によって明かされる、ゼニスの内心。
そしてギースという新たな使徒の発覚。
覚えているのはこれくらいだ。
舞台はミリス神聖国、俺とはまったく無関係の場所だ。
今回も頑張ってくれ、としか言いようがないな。
ルーデウスと三ママは不在の夜。
「しっこ……」
子供部屋にルーシーと弟妹と一緒に寝かしつけられていた俺は、突然の尿意で目が覚めた。
おねしょだなんて失態は赤ん坊時代に卒業したのさ。
眠い目をこすりこすり、トイレに向かっていた俺は、リビングから漏れる光に気づいた。
蝋燭の炎による明かりだ。けっこう明るいのに、目に優しい橙色である。
「ノルンおねえちゃん?」
「……! ペトラ、起きてたの?」
のこのこと入室した俺は、夜更かしを咎められることもなく、ノルンの横に収まった。
リーリャ、アイシャ、ノルンが一通の手紙を囲んで深刻な顔をしているのだ。
いつの間に帰宅していたのか、ルーデウスもいる。
おかえりパパ。
ははあ、とうとう始まったんだな。
手紙の内容は読まなくても察した。
ゼニスの帰省を要求する手紙。
クリフ編の始まりだ。
「連れて行くしかないか……」
ルーデウスは悩ましげだ。
家族のために苦労をかけるね、パパ。
「ペトラも連れていくなら、私は反対です」
ファッ!?
なんで俺? 何言ってるのノルンちゃん。
眠気も覚めたわ。
唐突で的外れなノルンの発言には誰も突っ込むことはない。真っ先にバカにしそうなアイシャでさえ、うんうんと頷いている。
「わたし、どこかに連れていかれるの……?」
説明してけろ。
不安そうな顔で首をかしげてみせると、「どこにもやらないよ」とルーデウスに笑いかけられる。
いや、そういう子供騙しの声掛けではなくてね。
なんでゼニスの帰省に俺を連れていく話が浮上したのか、その根源を知りたいわけよ。
「あっちにも会いたい気持ちはあるだろうが、ペトラはまだ小さいし、俺の子なんだ。せめて会わせるなら、ラトレイア家に事情を把握させてからだ」
「ペトラちゃんがどんな扱いを受けるかもわからないし、あたしもそれがいいと思う!
あと〜……あたしもお米の収穫があるから行くのは厳しいかな~……って……」
「アイシャ」
「なにさお母さん、お兄ちゃんの大好きなお米だよ? 大事な仕事なんだよ?」
話題はあっという間にアイシャの同行についての話に移る。
概要の見えない話に置いていかれた俺は、せめてテーブルに置かれた手紙を盗み読みしようとした。
だが、その前にルーデウスが手紙を懐にしまったのでそれも断念。
迫りくる尿意は限界を訴えていた。
俺は疑問を残しつつ、トイレに駆け込まざるをえないのだった。
シルフィの妊娠が発覚し、ルーデウスらはちゃんと俺を置いてミリシオンに向かった。
ふう、やれやれ。
ミリシオンに行くのは、ギースに近づくことでもある。
ヒトガミと接触する可能性も微レ存だ。
不安の種には近づかないに限る。
「赤ちゃん、赤ちゃん」
「ふふっ、楽しみだね、ルーシー」
リビングにて。
ソファに座るシルフィの腹にくっつき上機嫌なルーシーは、「女の人のお腹が大きくなると、しばらくして自分の弟か妹が増える」というのがわかってきた年頃だ。
シルフィの懐妊を喜びレオと庭を駆け回るルーデウスを見れば、いやでも理解するだろう。
ルーデウス。おもしれー男だ。
「ペトラも触ってみる?」
「赤ちゃん動く?」
「うーん、もっと元気に動くようになるのは、まだ先かな」
などと会話しつつ、シルフィのお腹を撫でる。
やったねペトラちゃん! 弟2だよ!
妹は可愛いが、弟も可愛い。
アルスは最近よく喋るようになった。
喋るといっても喃語がメインだが、よく喋るし笑う。
将来は陽キャだな。
ララはぼーっとしてる事が多くて、ほとんどと言っていいほど喋らない。ロキシーは娘のそんな姿を心配している。
もしかして、ちゃんと喋れない子に産んでしまったのでは……、という不安。娘の将来を案じる気持ち。
しかし転生者の俺は知っている。ララとゼニスが念話で通じ合っているのを。
だからあんまり心配することないぜ、青ママよ。
「ルーシー、眠いの?」
「んー……」
白ママにくっつき、ルーシーはうとうとしている。
さっきまで魔術の練習をしていたからな。魔力が枯れ気味で、体が休息という名の睡眠を欲しているんだろう。
「んっ!」
そのまま昼寝はしたくないようで、ルーシーは俺の方へ手を突き出す。
ぎゅっと握ってやると、繋いだ手は体温以上に温かくなり、ルーシーの目は冴えた。
こういう事はよくある。
俺はこれを、元気玉譲渡と名づけた。
もしかして魔力を移してるのか? と考えた時期もあったが、すぐにそれは無いと否定した。
無職転生では魔力を人から人へ移す技術は存在しないのだ。
そんな方法があったらオルステッドは魔力使い放題、ループはルーデウスが産まれる前に終わっていただろう。
「ありがと!」
ルーシーは俺のほっぺにちゅっと感謝のキスをくれた。
いやん。照れちゃう。
シルフィがそんな俺たちをマジマジと見ていた。
「ペトラ、ルーシー、いま何したの?」
「ありがとうのチューだよ」
「じゃなくて、その前」
「ペトラとおてて繋ぐと、元気になるの!」
元気よくそう答えてくれたルーシーに、シルフィは「そうなんだ」とヨシヨシ彼女の頭を撫でた。
「ペトラ、ママにも同じことをしてくれる?」
「はーい」
シルフィの白くてほっそりした手に俺のぷにぷにおててを置き、きゅっと握る。
しかし、なにもおこらなかった!
こうなるのも当然だ。
シルフィは水が満杯のコップである。
俺の元気が入る隙はない。
ルーシーに繰り返し元気を与える中で、俺はこの不思議パワーの制御に成功している。
ルーシーの体は、コップだ。手を繋いでそう意識すると、俺にはコップの中の水の残量が見える。
見えた残量に応じて、俺はそのコップにどれくらい水を注ぐか決める。
ルーシー、ゲンキイッパイ。オレ、ウレシイ。
やりすぎると俺も疲れるんだけどな。
俺はルーシーが家をはね回ってる姿が好きだ。終わることのないお喋りが好きだ。だから別にいい。
「ルーシーとペトラは仲良しだね」
ルーシーの回復を精神的なものだと結論付けたのか、シルフィはそれ以上は追及してこなかった。
うーん、元気玉譲渡について、ちゃんと話した方がいいんだろうか。
……。
決戦が終わるまでは話さなくていっかぁ!!(思考の放棄)
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ララを先頭に、ルーシー、俺の順でレオにまたがって家を練り歩く。
ルーシーのサラサラの麦藁色の髪しか見えないが、けっこう楽しいんだこれが。
わはは。行け行けレオパルトー!
そんなふうに遊んでいると、レオがバウッと鳴いてルーデウスの帰還を知らせてきた。
もちろんゼニス、アイシャも連れての帰還である。
一ヶ月半ぶりのパパだ。
さすがに父親の顔を忘れることはなくなったルーシーは喜び、ララはいつも通りぼーっとし、アルスは抱っこされた瞬間ギャン泣きしていた。
しかしアイシャが抱くと満面の笑みだ。
筋金入りのおっぱい星人だ。恐れ入る。
「おかえり、パパ!」
「……ただいま、ペトラ」
おや?
奇妙な間があったぞ?
その日の夕方過ぎに、ルーデウスは家族を集め、この一ヶ月半の成果を報告した。
ちょっと前まではきょとんとしていたルーシーも、今やキリリとした顔で話を聞いている。
俺はまだ、何のお話してるかわかりませーんって顔をさせてもらおう。
アホの子だからな。
報告には、ギースが使徒であった情報も含まれていて、彼と親しくしていた者はエリス以外は顔を曇らせた。
ギース、死す。
俺は一キャラとしてしか知らないが、ここにいる者たちは、生身の人間としてギースと関わってきたのだ。
顔の一つや二つも曇らせるだろう。
「ギースを殺すだろう」と宣言するルーデウスは、辛そうだった。
辛いんだよな。
そうだよなあ……。
「良い報告もあります。母さんの呪いのことです」
と、ルーデウスは顔を綻ばせて話題を変えた。
全容は俺の知るとおり、ゼニスは、周囲の想像よりも、正確に世界を把握しているということだ。
普通の意思疎通こそ難しいが、記憶を忘れたわけではないし、きちんと優しい世界を見ている。
改めて知らされると、俺もちょっと泣きそうになる。
嬉しさ、感動は、ゼニスの世話を一手に引き受けていたリーリャがひとしおだろう。
俺は彼女を慰めることで自分も泣きそうなのを誤魔化した。
「ではっ、ゼニス様は、ペトラお嬢様のことは……?」
やめろ!
ゼニスを介して俺が転生者なのがバレてたらどうすんだ!
俺の焦りをよそに、ルーデウスはまた少し辛そうにした。
こえぇ! 聞きたくねえ!
「……今まで通りです。ペトラは、母さんにとって、可愛い孫でした。ルーシーと一緒に生まれた、
……この感じ、バレてないな。
人の思考がわかるといっても、全部把握してるわけではないってのは本当だったんや!
いやー、よかった。いやマジで。
今まで若干避けてたけど、今後は孝行してやるからな、ゼニスばあちゃん。
ばあちゃんって呼ぶのも違和感だ。
ゼニスは迷宮で囚われていた時間、歳をとるのをやめていたかのように若々しい。
クレアがゼニスを結婚させようとしたのもわかるなあ……。
ゼニスに人間らしい反応が見られない以上、やろうとしたことは虐待に他ならないんだが。
でも、ウチの娘ならまだいける! ってなるのもわかる。
それこそ、俺の母親でも通じるくらいには若いのだ。
しげしげとゼニスを見ていると、リーリャに抱きしめられた。
「ペトラ様には私たちがおりますから」だってさ。急になんだよ。
でもまあ、せっかく家族なんだし、今後もめちゃくちゃ頼るとしよう。