転生したら魔導王の子だった   作:又三郎

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一年経つの早すぎワロタ。


第九話 期待してる

 人には、産まれてから成人までの間に、三つの節目が存在する。

 かつて『無職転生』を嗜んだ俺には当たり前の常識である。

 まあ、一応列挙しておこう。

 

 5歳。生まれてから今日の日まで無事に育ったことを祝う。

 10歳。育ったことを祝う。婚約、進路の話が動き始める。

 15歳。成人を祝う。社会的な扱いはまだまだ若造である。

 

 こんな感じ。

 俺とルーシーは真ん中、10歳の年だ。

 誕生パーティーは身内で楽しみ、届いた大量のプレゼントや手紙は順次開封している。

 ノルン姉からも「欲しいものはありますか?」と訊かれた俺は、スペルド族の里巡り三泊四日ツアーをねだった。

 ルイジェルド宅にお泊まりだ。

 下の弟妹たちは抜きだから、俺は思う存分ルイシェリアちゃんを構い、ノルンに構われるのだ。羨ましいだろう。

 

 贈り物は、ルーデウスの友人や知人に留まらず、ほとんど面識のないラノアの貴族からも届いた。

 誰も言葉にすることはないが、俺にはわかる。

 貴族のドラ息子の嫁候補として、目をつけられている!

 いや、ドラかどうかは知らないけど。

 

 ノルンの嫁入り話でルーデウスが回想していたように、結婚には同盟の結束を深める効果がある。

 龍神の配下たるルーデウスと縁を持ちたい者は多く、その娘は婚活市場での価値が高いのだ。

 

「ママ」

「ふふ、どうしたの、ペトラ。重いよ」

 

 シルフィママの背中にのしかかる。

 居間のテーブルで、俺やルーシーに届いた手紙を一つ一つ開封していた白ママは、擽ったそうに身をよじる。

 俺は背中から離れ、テーブルに顎を乗せて彼女を見上げた。

 

「婚約者とか、私も決められることになるのかな?」

 

「ペトラが望めばね」とママは言い、ボクたちが良い旦那さんを探してきてあげるよ、と優しい目を向けた。

 俺はべっと舌を出す。

 

「やだ! 一生独身でいるもん!」

 

 男と結婚だなんてごめんだ。

 一応養われてる身だし、俺の将来についての方針は、保護者に確認すべきだと思ったけどさ。

 多分これ、折々で結婚したくないと意思表示しないと、縁談を持ってこられるようになるな。

 強制はさせないだろう。ルーデウスとシルフィたちが優しく、子供の意志を尊重するパパママであるのが幸いだ。

 

「私、男の子が好きじゃないんだ」

「女の子が好きなの?」

「わかんない、女の子とキスしたくなったこともないし」

 

 この世に爆誕したての頃は、まだ自分が男で、異性愛者だという自覚もあった。

 そこそこ成長して、この体の性別にも慣れた。

 そこで気がついたのだが、この世界で俺は、可愛い女の子をみても、その子とどうこうなりたいという気持ちを全く持たない。

 かといって男と恋愛できそうにもないし……。

 中途半端だ。

 実際の性別と心の性別が引っ張りあい均衡して、アセクシャルな感じに落ち着いてしまったのだろうか。

 誰にも恋愛感情を持たないから未熟だといいたいのではない。

 前世の俺は人を恋する男であるからして、異なってしまった今の状態に座りの悪さを感じているのだ。

 

「おかしい?」

「おかしくないよ。でもママは、パパと結婚して幸せになったから、子供たちの幸せを考えたときに、同じ道を用意しようとしちゃうかな」

 

 頬杖をついた白ママの耳元で、耳飾りがキラッと光る。

 ルーデウスがシルフィママに買ったアクセサリーはいくつもあるが、ママはその全部を大事にしている。

 普段使いはこれ、おめかしする時はこれ、と使い分けているようだ。

 ときどき金細工師がうちにきて、手入れのために何点か預かっていく。

 シルフィもすっかり奥様だ。

 イジメられていた子供時代のことは知識として知っているのに、今のシルフィママには面影もない。

 

 そうだ、耳飾りだよ。

 俺とルーシーももらったんだ。

 パパからじゃなければ、その他大勢のプレゼントに埋もれていってしまうそれは、パパがくれる事によって特別な意味を持つ。

 身だしなみに気を遣い、いつでも嫁に行けるように心の準備をしておけ。

 などと、きっとルーシーは考えている。

 

 ママたちも……青ママあたりは何となくそういう意図を読み取ってそうだし、俺も、もしかして? とは思った。

 この世界の10歳って、もうそういうことを考え始める歳だし。

 パパは純粋に子供の成長を喜んでいるだけだと時間を置いて察せたのは、前世の記憶のおかげだ。

 

 俺は自室に戻り、手のなかのものをルーシーに見せびらかす。

 

「ルーシー、見てこれ」

「え? パパからのイヤリング……なんか形変わってない?」

「ピアスに改造したんだ」

 

 俺のことだ、イヤリングは落として失くすだろう。

 ピアスにして耳に刺しておけば外れにくいし、紛失確率は減る。

 針で耳朶をぶすっと刺せば、ピアス穴の貫通である。

 頭を怪我した時に治癒魔法を使うと塞がってしまうから、そこは面倒かもな。

 ルーシーはむっとした。「パパがくれたものに勝手に手を加えるなんて!」という顔だ。

 

「ルーシーのも改造してあげようか、耳に穴あけるのも、私うまいよ。自分と後輩の耳で練習したしさ」

 

 歳を重ね、順当に進級した俺たちには後輩と呼べる存在がいる。

 中には俺の言うことに従順な奴らもいるわけで。

 

「……私はやらない」

「まあそう言わんと」

 

 じりじりと攻め寄る俺に、ルーシーは同じくじりじりと後退る。

 授業で使うワンドまで構えられた。

 

「エルフ耳にやるのは初めてだけど、痛くはしないから、ね!」

「いーやー!」

 

 飛びかかり、じゃれつくうちに、俺たちはきっかけを忘れてぎゃいぎゃい騒いだ。

 長姉として完璧でいようという自負が芽生えているルーシーにも、ガス抜きが必要だ。

「パパはルーシーに良い意味で期待してないんだよ!」と誤解を解こうとしたら、真顔のルーシーから光のパンチが飛んできたことがある。 

 価値観の違いはどうしようもない。

 子は親の所有物にあらず、自由に生きてほしい、幸せになってほしいというパパの愛情は、放置と受け取られてしまうのだ。 

 

 結局ルーシーが気づくか、パパ本人が言葉を尽くして説明するかでしか誤解はとけない。

 俺にできるのは、馬鹿をやってルーシーを笑わせることだ。

 

 

 

---

 

 

 

 誕生日から一ヶ月が経ち、休日に自室で本を読んでいると、パパがノックをして入ってきた。

 惰眠を貪った俺が、昼前にのんびり起きたとき、ルーシーたちはもう居なかった。

 外で鍛錬をしているか、秘密基地で遊んでいるかのどっちかだろう。

 空き地にみんなで作った秘密基地はけっこう居心地がいい。

 最初は遊びで掘り続けた穴が、途中で自分らの限界を試したくなり、気づけばちょっとしたワンルーム並みの空間に。

 そこに絨毯だのクッションだのを持ち込めば、立派な基地だ。

 ……あれ、もしかして、ジョブレスにも出てきた秘密基地か?

 ほら、リリとクリスには受け継がれなかったやつ。

 

 ジークが家を出て廃れていく基地を思うと寂しいな。

 よし、シャリーアに住み続ける予定のこの俺が、管理することにしよう。

 

「ペトラ、この後予定はあるか?」

「家でぐーたらするよ」

「そっか……休むのも大事だからな……」

 

 何やらひとり納得し、寂しそうに部屋を出ようとするルーデウスの背によじ登る。

 何故そこで引くんだよ、押せよ。暇なんだな! って俺を自分の用事に巻き込めよ。

 

「あーあ、暇だなー! 何かすることがないと退屈で死にそう!」

 

 パパはじいちゃんの墓参りに行くのに俺を誘いたかったらしい。

 背負われたまま連れて行ってもらうことにした。

 

 

 町外れの墓地は、いつ訪れても、きちんと手入れが行き届いている。

 貴族用の墓地だから管理が良いのだ。

 

「拝啓パウロ様、そんなわけで、ペトラは10歳になりました」

 

 ルーデウスが墓前の報告を済ませ、パウロの冥福を共に祈る。

 墓地である小高い丘を駆け下り、俺はまだ上にいるルーデウスに手を振った。

 闘気を身につけてからあまり寒さは感じなくなったが、「寒い!」と言って、追いついてきたパパの腕にしがみつく。

 

 10歳の誕生日を迎えてから一ヶ月だ。

 なぜ今さら報告するんだろう。マメなルーデウスなら、翌日にはもう赴いていそうなものだが。

 ま、仕事が忙しかったんだろうな。

 

 そのままパパに連れられて、町の宿屋に入る。

 宿屋の一階はたいてい料理屋も兼ねている。メニュー表から食べたいものを選び注文できる、現代でいうレストランはこの世界にはない。

 客に出されるメニューは一律で同じだが、宿によって美味い不味いのランクは存在する。

 パパが選んだのは、上等なランクの宿であった。

 俺を口説くつもりなんだろうか。

 

 家だとめったに出ない料理に感動しながら食べていると、パパは言った。

 

「ペトラちゃんやい」

「なーにパパ」

「その、ルーシーは、誕生日のプレゼントを喜んでくれていたかい?」

「うん、喜んでたよ」

 

 高級品であるのと、大人っぽいデザインゆえ普段使いはしていないが、ルーシーは大事に引き出しにしまって、クライブが来る時には付けている。

 ときどき磨いてもいるようだ。

 

「ペトラは、他に何かほしいものはある?」

「え? プレゼントはもうもらったけど?」

 

 ほら、と髪をかき分け、ピアスに改造した耳飾りをパパに見せた。

 ルーシーほど丁寧に扱えてはいないが、そこは性格の違いということで許してほしい。

 

「お揃いで用意したプレゼントだけどね、あれはルーシーを主軸にして考えたものなんだ。

 だから、ペトラの希望もちゃんと知りたいなと思ってさ」

「ふーん」

 

 確かに、俺は自分を少女らしく着飾るのには興味がないし、脈絡のないプレゼントだと思った。

 だからといって他に欲しいものがあるわけでもない。

 あ、杖とかいいな。アクアハーティアみたいな、でっかい魔石付きの。

 いやいや、高価すぎるか。

 アクアハーティアを受け継ぐのはララだし……。

 

 だいいち、俺だけルーシーとお揃いのイヤリングに加えて何か買ってもらったら、不平等だ。

 姉妹格差が生まれてしまう。

 確執の芽は繁茂させないぞ。

 

「私は別にいらないけど、ルーシーはパパからの期待がほしいみたいだよ?」

「……期待、か。してない訳じゃないんだけどな」

 

 シルフィみたいに料理上手に育ってほしいとか、ロキシーみたいに賢く育ってほしいとか、エリスのボレアスパンチを受け継いでほしいとか……と、パパは難しい顔で指折り数えている。

 たぶん、そういうことじゃないんだろうな。

 

「期待っていうのは、つまり、プレッシャーがほしいんだよ。俺の子として恥じぬよう云々かんぬん~……みたいな!」

「しかし、そういうのは息苦しいだろう?」

「ルーシーはしっかり者だもん」

 

 その息苦しい型がほしいのだ。親に敷かれたレールというものに憧れを持っているのだ。

 

「私は小さい頃に、オルステッド様の魔力回復装置になるのが決まったじゃん」

 

 命と魔力ある限り一生続くだろう。

 ぜんぜん異論はない。むしろ、それだけで生活が保証されるのだからヨッシャと思っている。 

「ペトラのやりたい事ができるように、何でもサポートするつもりだ」と真剣な顔で言われ、ちょっとニヤケそうになる。そう言われるのは初めてではなかった。

 でも、人から全力で幸せを願われるのって、かなり嬉しいな。

 

「ルーシーに言われたの。神子だから期待されてていいな、って、オルステッド様の役に立つのを期待されてる、って」

「期待ってよりは、不甲斐なさを感じてるんだが……」

 

 ルーデウスはしょんぼりした。

 仲間とはいえ、上下関係を明確にしたのはパパだ。社長には逆らえない。

 オルステッドは魔力を回復する手段を手離さないだろうし、龍神の魔の手から俺を守りきれず、将来を自由にしてやれないのを後悔しているのだろう。

 魔の手なんて失礼なことを考えたが、オルステッドのことは普通に好きだし、パパやオルステッドがなんやかんやしなくても自主的に彼の為に力を使っただろう。

 打倒ヒトガミ! 寿命問題でその瞬間を見届けられないのが悔やまれるぜ!

 

「ルーシーと話してみたら?」

「ああ……そうするよ」

 

 あ、これ数年引き延ばしにするやつだな。

 この男は、家族との仲違いを何より恐れているのだ。

 

 

 そして食事を終え、俺たちはウィンドウショッピングなどしながらゆっくり帰宅した。

 家に帰るなり、二人のおでかけの気配を察知したクリスに、あたしも行きたかった、どうして一緒に行くか訊いてくれなかったの、とギャン泣きされたのは仕方のないことだ。

 

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