1話:イタコに生まれ変わったけど質問無いよね
怖気を誘うような暗がりと薄霧。絡み合う枝葉と谺する何かしらのうめき声。
そこに一人歩を進める
実のところそれは全く誤りではなく、事実この地は人智及ばぬ【異界】にして、魑魅魍魎の犇めく彼岸の辺。
「――スライム4、オンモラキ1。いつもの手順で」
『リョウカイ、ダ!』
行く手に立ち塞がる五体の異形。余人にはそもそも知覚することすら能わぬ情報存在。
見鬼でその正体を見抜くと、言葉少なに指示を出して
「【ムド】」
唱えるは呪殺の言霊。
通じればたちまち死に至らしめる魔法は過たず効力を発し、オンモラキは
間を置かず
『【ファイアブレス】! ……ウオオオン! スマネェ、ウチモラシタ!』
「織り込み済み。【九十九針】」
火炎耐性持ちのオンモラキを先に仕留め、頭数を減らした上で放ったイヌガミの火炎攻撃。
焔は属性全般に弱いスライムを一撃で仕留めるものの、しかし
が、しかし。その背後から忍び寄っていた
かくして戦いは終わり、束の間の休息を得る。
イヌガミは勝利を誇らしげに吼え、クグツは定位置である懐に戻る。
そしてあたしは戦塵を手で払いながら、MAGに分解されゆく悪魔たちを見据えて溜息一つ、と。
「エンカ率たっか」
MAGを取り込み錬磨されていく
霊脈の異常な活性化だとか、それに伴う異界の発生だとか、さらに伴って異界に棲み着く悪魔の増加だとか。
諸々の理由はあるが、要するに放置しておけば人の世が危ないというわけで。
だからこそ対処するための人手が必要なのだけど、問題はその人手も全く足りてないという点で。
「ゲームと現実を混同しちゃいけませんってマジで。
◇
唐突だが
前世では一芸で身を立ててそこそこに活躍して、程々の年頃でぽっくりくたばっちまった身分なわけだが、よもやよもやの二度目の人生よ。
現代人らしく相応にサブカル界隈に浸っていたから
よりにもよってメガテン世界なんぞに生まれ変わっちまったものだから、こりゃあモブではいられんわいと一念発起したのが赤子の頃ってワケ。
幸いにしてあたしには才能があった。
生まれつき霊能があって、実家はそれを生業にしていて、才能を磨く機会に恵まれていた。
まぁ裏を返せばそれは
なんせ実家、恐れのお山なんで。
日本三大霊地の一つなんで。
実家とは言ったけど血の繋がりはなくて、各地から引き取られた霊能少女の一人ってことなんだけども。
その中でとびっきりの才能を発揮して、イタコ衆筆頭と目されているのがあたしってワケ。
……あたしから言わせりゃ周囲に才能が無さすぎなんですけどねぇ!
なんかこのメガテン世界、ヤタガラス壊滅してるらしいっすよ。
ついでに言えば葛葉一族も戦後のゴタゴタで壊滅してて、国内の霊的国防組織はガッタガタなんだとさ。
詳細は割愛するけど、戦後の霊的国防はメシア教の介入でズッタズタにされて、各地の才能ある術師は虐殺されて、ほとんど瀕死だけどそれでも護国のためにヒイコラ言ってるのが各地霊能組織の実状だってよ。
かつては数多くの才ある霊能者を輩出し、葛葉にすら血を繋いだっつー名門中の名門である恐山のイタコ衆も、今じゃほとんど拝み屋もどきっていうね。ワハハ、ウケる。
「異界の攻略どころか、悪魔を倒すことすら一苦労な現状。だからあたしみたいな不良娘が重宝されるってワケですねぇ」
『ワオオオオン! ゴス、カマエ!!』
とまぁそんな愚痴を挟みつつ一服。
今回の
わかりやすくあの世から湧いて出た連中だが、冥府に近しい恐山に生じた異界の悪魔としては至極オーソドックス。
問題は以前よりも明らかに悪魔の質が上がっている点で、こんなものが異界の外に漏れ出たら、それだけで里は壊滅必至というのがやるせないね。
……ああ、ボスはもう倒したよ。だから一服してんじゃん。
今ウチの犬っころが首をボールにして遊んでる。文字通り鬼の首を獲ったようなはしゃぎよう。
咥えて持ってきたのを適当に蹴飛ばしてやれば、大喜びで追いかけていく可愛いワンコ姿。
あれで元は名のあるイタコが従えた
……あ、追いかけた先で首が霧散した。露骨にしょんぼりしてら、ウケる。
「
『ワウ!』
ボスの亡骸がマグネタイトとして霧散したということは、この異界も間もなく崩壊ってわけだ。
成果としては
この世界、ゲームみたいにステータスが可視化されないんだよね。まぁ現実化したらそんなもんかもしれないけど。
COMPでもありゃ話は変わるかもしんないけど、ウチ電気通ってねぇ超アナログ環境だし。
なんなら悪魔との戦い方も我流だし。トーク? ワハハ、冗談はおよしよ。あいつら基本殺意満開だぜ?
そう、あたしは雰囲気でリアルメガテンをしている。……よく死んでねぇな? っぱ才能か、才能だな。
◆◆◆
「此度の任、大義であった」
所変わって恐山はイタコの隠れ里。
大屋敷の評定の間にて労をねぎらうのは、イタコ衆を取り仕切る【長老】その人。
その視線の先は長老衆環視の中、退屈そうに糸繰り人形を相手に手遊びする黒衣の若巫女――命子へと注がれている。
齢十代半ばにして歴代最高の戦力を誇る天才。
数多ある拾い子の一人でありながら、血統と伝統に依らずして才覚を顕し、交霊はおろか独自に怪異の使役すら果たした空前絶後の麒麟児にして問題児。
この才児を見出し養育した一点のみで終生の誇りとすら言えるが――よもや単身で異界を封じるまでとは! 生き字引たる長老すら思い至らなかった。
これまで幾度となくその才能に驚かされてはきたが、それすら霞む確かな実績を前に長老の心中には歓喜と困惑が渦巻くばかり。
前者は単純に、戦後以来暗雲が立ち込め続けていたイタコ衆の光になりえるのではという希望。
後者はより単純に、
思えば赤子の時分より泣かず、笑わず、課された行を黙々とこなし続けていた不気味な娘。
どこで覚えたのか糸繰りの手妻にて人形を動かし、妹分達をあやしていた気遣いから悪しき性根でもなかろうと信じていても。
良くも悪くも
「しかし地獄の鬼に餓鬼道の亡者とは……これ程までに霊地の活性化は著しいか」
「覚悟していたとはいえ、俄には受け入れ難く……」
「これでは霊地の奪還どころか、対応すらままならぬのでは……」
そんな心中を他所に、命子の齎した報せを受けてどよめく長老衆。
彼らの理解を超えた命子の実績を脇に起き、異界攻略の報に喜ぶではなく、その内実に戦慄を隠せないでいた。
それも無理はない。
命子が果たした異界攻略はまさしく快挙である。
しかしながら異界は唯一つにあらず――それどころか雨後の筍が如く乱立しつつあるのが昨今の事情であった。
【恐山】を筆頭とする【印巣枡】【マヨヒガ】【犬鳴村】ら大型異界。
それらと比べて段は劣るも、数は大きく五十を超える中小異界群。
いずれも力及ばず放棄せざるを得なかった霊地の管理と、それに伴う結界の崩壊に起因し、その前段階として多くの霊能者と家系が再起不能に陥っていた。
人手は先細りしていく一方で、肥大化していくばかりの霊障。
つまるところ、詰みというやつだ。
「根願寺への要請はどうした、まさか届いておらぬはずもあるまい!」
「仔細は可能な限り詳らかにし、伝手も確かであろう」
「しかしあれらが本当に頼りになるとでも? 戦後以来都内鎮護を盾に安穏としていた腑抜け共に――」
「おぬしら、場を弁えい」
喧々諤々の様相を呈し始めたところへ、長老の静かな声が冷水を浴びせる。
ぎょっとして長老衆が口を閉ざすと、彼女は「気持ちはわかる」と前置きしながらも。
「此度は命を賭して万難を退け、一時の安堵を齎した命子への慰労の場ぞ。恐れ慄くは無理もないが、まずは礼を述べるのが筋合いじゃろうが」
「う、む……それは、その通りじゃ。見苦しい姿を見せたな、すまぬ。命子や、よくやってくれたな」
「いいんすよぉ、お務めですからぁ」
ピシャリと言い放たれた正論に、口籠りながらも恥じて謝辞を述べる御歴々。
それへ
「実際他の子たちじゃあ無理っぽいですからねぇ、婆様方のご懸念は至極尤もでして。兎にも角にも数が多い」
「数以外は問題にならぬ、と?」
余裕のある態度で所感を述べる命子に長老が問う。
命子はそれに酒を一口、こくこくと頷きを返して。
「名にし負う大型異界は別として、雑多な中小異界ならあたしだけでも余裕ですけどねぇ。なにせ東北全土に渡るせいで行き来が難しけりゃ時間も足りない。あたしが異界を潰すのが先か、新たに湧くのが先か……はてさて」
命子は自身を暴力装置と自認していた。
才能に飽かせて積み上げた
前世知識でここが
そんな
そういう難しいことは上に考えてもらって、自分はできるとこまで
――という基本姿勢のもと、努力を重ねて生きていた。
フワフワしてるって? その自覚はある。でもしょーがねーだろ、(元)
「で、どうするんですぅ? アテが無いならこのままジリ貧戦術続行ですかぁ?」
「軽いのうおぬし。……おぬしは逃げんのか?」
「はぁ?」
「おぬしならどこででも生きていけよう。おぬしがその気なら儂らに止める手立てもなかろうて。だのに――」
「あー! あー、あーあー……それ言っちゃいますぅ……?」
心外な、とでも言いたげな膨れっ面で頭を抱える命子に、きょとりと顔を見合わせる長老衆。
一頻り悶えたあと、何が恥ずかしいのかほんのりと赤面しながら、誤魔化すように酒を一息に飲み干して。
「――あたしはねぇ! すげぇ天才だけど根っこはパンピーなんですよ!」
「お、おう……」
「そんなあたしがですねぇ! 世話になった大人や可愛い妹分を見捨てて逃げたらねぇ! どうなると思いますぅ!?」
カッ、と目を見開き涙を流す命子。
彼女は泣き上戸だった。
「一生モンの傷になってメソメソ泣きながら生きていくに決まってんじゃないですかヤダ~~~~!! どうせ生き残るならみんなが死んでから自分を納得させてメソメソ生きてくってんですよぉ!!!」
「ナチュラルに自分は生き残る前提で言いおったなこやつ。あとどちらにしても泣くんかい」
言わせんな恥ずかしい! と酒の勢いもあって盛大に喚く命子を前に、長老衆は呆気に取られ……少しして思わず吹き出した。
次第に笑みが伝播し、陰鬱だった空気はやがてがらがらと嗄れた笑い声に塗り替えられていく。
初めて聞いた麒麟児の本音。
それを知って己の中の最後の蟠りが氷解していくのを自覚し、長老は真実慈愛の眼差しで命子を見た。――見ることができた。
何のことはない。
力の多寡は何ら問題ではなく。
結局はただの人間だったということだけだ。
「ふっ、ふふ……そうかえ、そうかえ。ならまぁ……腹は決まったのう」
「というとなんだね、美羽様や」
和らいだ雰囲気の中、眦に浮かんだ涙を拭いながら決意に満ちた言葉を放つ長老に側近が問う。
久しく呼ばれた己が名に首肯を返しながら、長老――美羽は応える。
「先刻根願寺から返事があってな。出自定かならぬが、頗る腕の立つ霊能集団がおるらしい。それを頼ろうと思う」
「随分と思い切ったのう。して、その名は」
「――【ガイア連合】」
いつの間にか酔い潰れて眠りこけていた命子を見遣りながら、美羽は覚悟を決めて言い放った。
「【ガイア連合山梨支部】。彼の者らの力を借りてこの難局を切り抜けようぞ、皆の衆」
◆
後日。
要請に応え参集した【ガイア連合】の異能者集団。
その顔役として矢面に立った筋骨隆々、傷多くして白スーツの映える偉丈夫と。
その連れ合いだという人並み外れて見目麗しい金髪の女騎士との初顔合わせは。
「ファー!? 喧嘩師とモーさん!? どういう組み合わせ!?」
「――ハァ!?」
同じく恐山側の顔役の一人として立ち会っていた命子渾身のツッコミによって思わぬ展開を経ることになる――。
・命子
恐山のイタコに拾われた俺達(無自覚)。
ネットどころか電気すら通ってねぇド田舎育ちなのでガイア連合どころか転生者の存在すら認知してなかった。
才能があるのは自覚してるが物差しが無いので具体的な状態は把握できてない。
テンプレ主人公じゃんと自虐しながらメガテン世界でダークギャザリングめいて力戦奮闘していた。
見た目は『世界樹の迷宮』のカス子。
・飛丸
とあるイタコの家系に憑いていた元【神獣 マカミ】。
零落して【魔獣 イヌガミ】と化していたが、才能お化け(俺達)の命子の仲魔として飼われた。
こんなんでも現地霊能基準だと決戦兵器扱い。現地民が仲魔にするとMAG不足で寿命がマッハ。
・クグツ
主人公の戦力。『真・女神転生』に登場した【マシン クグツ】。
詳細はいずれ。