「やぁカス子ネキ、少しいいかな?」
「あれ、どしたんです? あたしに用事なんて珍しい」
中層試験の帰り道、回復の泉でリフレッシュしてから製造棟への回廊を歩いていると、ぬるりと胡散臭い笑みが現れた。
ヒゲとグラサンと白い歯が輝くナイスシルバー、こんなんでも医療班の主力の一人ことフェイスレスニキ。
製造に関して何度か意見を交わしたことはあったけれど、こうして待ち構えられていたのは初めてやね。
「ちょいとキミに見せたいものがあってねぇ。きっと喜んでくれると思うんだけど」
「ほほーん、随分言うじゃないですかぁ。そう言われたらあたし超期待しますよぉ」
俄然興味が湧いたのでフェイスレスニキについていくと案内された先はテストルーム。
製造棟で日夜開発されるあれやこれやを試験する広間だが、対悪魔を前提にしたモノばかりなので耐久性もちょっとしたシェルターなみにある物々しい場所だ。
なんぞ耐久テストでもするのかなと思いきや、ニキが広げたトランクケースの中身を見てそんな疑念はあっという間に吹き飛んだ。
「こ、これは……【あるるかん】じゃないっすかぁ! しかも完全版のほう!!」
「ま、ボクが造るんだからこっちになるよね」
白く整った造形の顔と、頭部を彩る五本の長い髪飾りを生やした装飾品。
手足は長くひょろりとした大柄を包むだぼついた演劇衣装。
無事に揃った両手にフェイスペイント、首周りを飾る襟巻きと白のカラーリングが眩しい衣装は、原作の最終決戦でフェイスレスが繰り出した完全版!
読者を虜にした懸糸傀儡の傑作あるるかんがトランクケースの中に収まっている姿に、さすがのあたしも興奮を抑えきれないぜ!!
「うわー本物だぁ……! フェイスレスニキが造った完全版あるるかんだ!! ヴォーカッケー!!!」
「ンフフ……実は手慰みにコツコツ造ってたんだけどねぇ、つい先日完成したのサ」
ヒゲをしごきながら渾身のドヤ顔を見せるフェイスレスニキ。
とんでもねぇ、アンタが神か! フェイスレスの鑑だよ!!
「ねねね、これ動かせるの!?」
「もちろんさァ! はいこれ取説」
「ほうほう……うっわなにこれゲロムズ!?」
「難易度高すぎてパンピーには無理だけど、高レベル転生者の処理能力ならギリってとこだねェ」
普通のマリオネットがカスタネットだとしたら、これはグランドピアノくらいあるぞ!?
全然種別が違うじゃねーかって? それくらい別物ってことだよ!
「なるべく原作に忠実にと思って極力MAGに頼らず組んでみたんだよね。まぁ基幹部分は悪魔技術を用いてるけども」
「さすがに純粋な科学技術だけじゃあ無理があったと」
「所詮はフィクションってことサ、悲しいけどねぇ。……で、どう? 動かせそう?」
「んー……ああなるほど、全身の振りも操作に直結してるんですねぇ。腕の振りがこうで……」
取説を睨みながら図解されてる動きをなぞってみるが、まぁなんとかなりそうかな?
ものは試しとさっそく懸糸リングに指を通して――
「――あるるかん!」
両腕を勢いよく振り上げて名前を呼べば、ケースから飛び出し直立するあるるかん。
やや前屈気味の基本姿勢で、あたしの前に堂々と降り立った!
「おお!」
「
続けて全身をバネに運指すれば、垂直に並べた手を鏃に貫手を高速連打!
そのまま腰を捻りながら糸を繰って――
「
羽飾りが前方に伸びて巻き付く動きを見せ、続けざまの上半身高速回転。原作でも多用された定番コンボ!
そして〆はもちろん――
「
回転の勢いが残ったまま両袈裟斬りからの蹴り上げを左右でワンツー!
ちゃんと手足全部に刃が仕込まれてる! すげぇ、完全再現だ!!
「――お客様、演目は如何だったでしょうか?」
「すごいすごい! よくもここまで動かしてくれたねェ! 製作者として鼻が高いヨ!」
感無量と共にあるるかんへボウ・アンド・スクレープを取らせると、フェイスレスニキから惜しみない拍手が。
へっ、これでもマリオネットには一家言あるんでね……まさかガチで懸糸傀儡を動かせる日が来るとは思わなかったけど!
「いやいやいや! フェイスレスニキも良い仕事してますねぇ! パーフェクトだフェイスレスニキ!」
「感謝の極み、ってネ。いやー造ったはいいけどボクじゃ満足に動かせなかったからねぇ、こうして軽快に動いてるとこが観れてよかった!」
同じく感無量といった様子のフェイスレスニキにシンパシーを感じる。
あたしらが
その後も何度も動かして、思い出せる限りの原作の動きを再現させて遊んでから、小休止にお茶を飲んでいたところ。
「で、感想としてはどう?」
「最高の一発芸だった!」
「ですよねー!」
知ってた、と言わんばかりに泣き笑いするフェイスレスニキ。
ニキの求めてるところを察したから、敢えて遠慮なく言わせてもらうけどさ。
「手の込んだギミックだったけど、通常火器相手ならともかく悪魔相手にはまぁ貧弱だよねー」
「原作再現にこだわった分の枷だねぇ。そりゃMAGを利用してスキルを使えば簡単だけどサ」
「それは解釈違いってんでしょう? わかりますともぉ。なのでまぁそこは置いとくとして」
純粋に対悪魔兵装として活用しようとすると、これはこれでまた別の問題が浮上するわけで。
「結局式神でいいじゃんってなるのがねー」
「それを言われたらぐうの音も出ないネ!」
「というかあたしら、どちらかと言えば
「さすがはガイア連合が誇る最高傑作だよねェ。実際
いやでもそれを押して余りある浪漫がこの子には詰まってますぜ!
正直連合に加入してから一番テンション上がったまであるよ。
「んでフェイスレスニキとしてはこの子をどうしたいんです? 実用化させたいんで?」
「うーん……元はフェイスレスっぽいことをしてみようっていう思いつきだからねぇ。組み上げた時点で満足――と思っていたんだけど」
「だけど?」
「実際に人形で戦う転生者が現れたじゃないか。キミだよ、カス子ネキ」
「あー」
確かにあたしのメインウェポンは人形ですけど、とはいえ純粋にマリオネットかってぇとまぁ別物なんですけどね。
「差し支えなければキミの意見を聞いてみたいね。ガワに寄せたわけじゃないんだけど、ボクも人形にはこだわりがあるタイプだからさ」
「つっても原理的には簡易式神とそう変わんないよ? 術式の要があたしの降霊術になってるってだけで」
式神から人形を一体取り出してテーブルに置く。
ナイフを振りかざす【
もちろん暴走しないように術式で縛っているが、原理としては連合の式神技術とほぼ同じ――というか、式神技術を参考にしてあたし用に落とし込んだわけなんだけども。
加入以前に使役していた【クグツ】は、特に名前も無い雑霊を人形に括って最低限のスキルを使えるようにしただけの使い捨てだったからね。
「連合製式神との違いをざっくり挙げると、核となる霊基を直接降霊術で縛ってるのと、連合製ほどの成長性は無いってことかなー」
「あくまでキミ個人の技能に依る雑兵なわけか。スペックとスキルに関しては?」
「スペックについては素体となる人形の等級と降ろす霊基依存で、スキルはデビルソースからですねぇ」
人形がハード、降霊させた悪魔がソフト、デビルソースが外付けメモリってとこかな?
この辺言語化が難しいというか、あたしの主観で組んでるとこあるから結構無理矢理な例えかもだけど。
「となると例の糸は?」
「んぐんぐ……実例をお見せしましょーか」
先に出していた殺戮人形とは別に、盾を持った【
……いやテーブルの上だと危ないな? テストルームに場所を移して、互いに互いを敵だと認識するよう指示を出す。
すると殺戮人形の方は一気呵成に攻めかかり、防衛人形は盾を構えて防御に専念する動きを見せた。
「以前悪魔人形を披露してもらったときは自立駆動は出来ないと言っていたけど、そこは改善したんだねぇ」
「いえすいえす、お陰様で降霊術の理解が深まったんで。その成果ですねぇ」
悪魔人形の技術を売り込んだときに見せた戦いでは、あたしの技術で人形を動かしてみせたけど結局あれはただの演出だ。
遠隔から魔法を使うだけならまだしも、実際に接敵して近接攻撃を仕掛けるならただの真似事では何の意味もない。
自立駆動が可能となり、前衛としての役割と果たせるようになったのが最大の改善点ってワケ。それまでは【九十九針】や【アギ】などの遠隔攻撃しか使わせられなかったからね。
「で、ご覧の通り殺戮人形のほうは性格を獰猛に設定してるから攻撃行動を取ってるけど、防衛人形のほうは臆病な性格なので防御行動に専念してる。行動をオートにするとそれぞれの性格に沿った行動を取るんですねぇ」
「ボクはプレイしたことないけど、一部の作品に実装されていた性格システムを参考にしたのかな?」
「そそそ。まぁ性格に反した行動を命じたところで忠誠度は下がんないけどねー、所詮は人形だし。あたしに従うのは大前提」
この性格設定が一番苦労した!
ガッチリ決めすぎると融通が利かないし、ふんわりしすぎるとまともに働かねぇ!
キツすぎず緩すぎない絶妙の塩梅を見極めるのに何度人形とバトったか!
この部分で合格をもらうまでにショタおじからもらったボツは数え切れねぇぜ。
一頻りオート行動を観察してもらってから、次いで霊糸を両者に繋ぐ。
すると今度は防衛人形が盾を鈍器に攻勢へ回り、殺戮人形の方が短剣で捌いて防御に専念する。
違いはそれだけではなく、両者共により動きが洗練されているのが見て取れるだろう。
「キミが直接あのように糸を繰ってるわけじゃないよね?」
「指動いてないっしょ? 霊糸を通じてダイレクトに動かしてるよー」
実のところ性格任せに自動で動かしてるとあまり賢くないのが現状の欠点。
だけどそこへ霊糸を直結し術者の
単体性能としては簡易式神と専用式神の中間ってとこかな? 専用式神の性能は掛けたコスト次第で上限が青天井だから比較対象としては微妙だけど。
「とまぁ見ての通り、結局は式神技術の範疇なんですよねぇ。そこをあたしは手数と対応力で戦力にしてるって感じ」
「発想は面白いけど、あくまでカス子ネキの個人技能だねぇ。転生者へ普及するには性能が中途半端か」
フェイスレスニキの興味はある程度引けたけど、彼の悩みへの解決策にはならないか。
まぁしょうがないね、そもそもの式神技術が飛び抜けて優秀だから、並大抵の技術じゃ対抗できないもん。
専用式神はもちろん、簡易式神も簡易ならではの使い勝手の良さがあって便利だからなー。
「けどまぁいい気分転換にはなったよ。特に霊糸の使い方が面白いね。無線ではなく有線か……なまじ最初から霊的なパスで使役していたから、結構逆転の発想だねぇ」
「言われてみれば単純なことなんですけどねー」
お役目を終えた人形を式神に仕舞ってテーブルに着く。
そこからは自然と話題は懸糸傀儡に移り、あーでもないこーでもないと意見を交わしていく。
「最初から懸糸傀儡として式神を造るのはどうだろう? 自律行動にリソースを割かなくていい分性能を底上げできそうだけど」
「両手を塞いでまで得るメリットかってーと微妙ですねぇ。いずれ専用式神を得ることを考えるとほぼ完全に下位互換になっちゃうんじゃ?」
「そもそも命令伝達のための糸を開発する必要があるか……興味はあるけど流石に需要が無さすぎるねぇ」
「懸糸傀儡型式神……浪漫はありますけど、結局既存の式神でいいじゃん問題は解決できないのがなー」
長々と花を咲かせていたけれど、結局
いやー個人的にはいいと思うんだけどね? とはいえ
「懸糸傀儡については残念な結果に終わったけど面白かったよ。カス子ネキの人形技術は個人的に大いに参考になったとも」
「へへへ、こちらこそマジモンの懸糸傀儡を触らせてもらって最高でしたよぉ……フェイスレスニキぐっじょぶ!!」
「そう言ってもらえると製作者冥利に尽きるねぇ。お礼と言ってはなんだけど、あるるかんはカス子ネキにあげるよ」
「いいの!? マジで!?」
「いーよいーよ、設計図は描いたしネ。カス子ネキの好きに使ってちょーだい」
マジかよひゃっほう!! こりゃ最高のプレゼントやで!!
フェイスレス謹製の完全版あるるかんなんて持ってるの、三千世界を見渡してもあたしだけやろなぁ!!
「フェイスレスニキありがとう!! めっちゃ大切にする!!!!」
「喜んでもらえたなら何より。それじゃあもう夜も遅いし戻りな。帰り道気を付けてねーん」
あるるかんの収まったトランクケースを手にテストルームを後にする。
ふへへ……まじかよあるるかんだぜなぁおい? 人形遣いとしてこれ以上テンション上がることあるぅ? ねぇよなぁ!?
懸糸傀儡か……フェイスレスニキとの話ではああ言ったけど、あたしなら……――やってみるか?
腹案はあるけど……前途多難か。素材も力量も足りないし……中層のドロップでいいのがあればいいんだけどねー。
・カス子
リアルあるるかんを動かせた上にプレゼントされてテンションMAX。
なにか思いついたようだ。
・フェイスレスニキ
リアルあるるかんを実際に造り上げたすごい人。
近い将来に今回交わした論議が十日町で生きることになる。
・懸糸傀儡型式神
論議に論議を重ねたが、結局俺達には需要がないということでお蔵入りとなった。
多分一部の俺達が今回のことを知ったら「言えよ!!!!」の大合唱が起きる。
今回の話は『【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち』より「麻績屋媛神と霊糸と操り人形」から着想を得て執筆させていただきました。
作者の名無しのレイ様、勝手ながらありがとうございます。