「んふぃいいいいいいぃぃぃぃ……生き返るわぁ~……」
「ほんと、毎日天然温泉に入れるなんて夢みたいね」
夜分遅くにこんばんは。月明かり舞う温泉から命子さんです。
今日も今日とて修行漬けの一日を終えて、戦いの塵を落とすべく大浴場にシオリっちと一緒に来てまぁす。
他にもぼちぼち修行場帰りらしき客もいるけど……ぬほほ、みんな美人揃いで目の保養ですなぁ!
「命子、目がやらしい」
「おっと失礼。シオリっちも綺麗だぜ☆」
「余計にやらしくなった気がする……女の人が好きなの?」
その質問にはNOと言わせてもらうぜ!
あたしが好きなのは人体の造形的神秘であって、そこに男女の区別は無いのだ。
他の変態共のように性欲が結びついた下世話な感情ではないと心得ていただこう!
「ほんとにもう……程々にしなさいよ? 掲示板での発言もその……あんまり品が無いのは良くないわ」
「めっちゃオブラートに包んでるあたりに深い気遣いを感じりゅ」
「茶化さないの。見ててなんだかハラハラするというか、仲が良いのは結構だけども……」
「お、お母ちゃん……!」
そこまで訥々と諭されるとさすがに恥ずかしい……!
だがあたしは反省しても改めない。なぜなら掲示板はカス共が己を曝け出せる最後の聖域だからだ。
「ところで本当なの? その、中層以降だと性癖を述べてから殺し合うって……」
「改めて人から聞くと頭イカれてて草なんだよね。んまぁそういう層もいるみたいな?」
「層?」
「セツニキのフォロワーが先達の慣習に則ってるみたい」
だからまぁ実際にはふつーに探索してるヤツもいるっちゃいる。
ただそういう真っ当な探索者って、そもそもその文化が生まれた経緯を知らないというか、ドッペルゲンガーの怖さを理解してなくて割と死にやすいのが現実。
そもそも挨拶文化もドッペルゲンガーチェックとして一当てするだけのものだしね。悪いのはそれを建前にしてPvPしたがる一部のカス共や。
まーじであの五連戦キツかったからな許せねぇ……!
「あら、修行場のお話?」
「剣キチネキじゃーん、こばはん」
「
「はぁいこんばんは二人とも」
中層の話題を聞きつけて湯けむりの奥からやってきたのは剣キチネキこと成実っち。
角こそ無いがその美貌は某グラブルのナルメアに酷似しており、実際その胸は豊満だった。
……なのに剣キチネキとしか呼ばれないあたり※お察しください。
「中層はねぇ、今でこそ攻略が安定しているけど、到達当初は上層とは段違いの難易度にすごーく苦労したそうよ」
「らしいですね。
「そのセツニキを筆頭に、今は真修羅勢と呼ばれる人達が最初にアタックしてね? 物理自慢の真修羅がそうとは知らずにドッペルゲンガーと戦って――」
「物理反射でおっ死んだんですよねぇ~」
そこからの顛末は上記参照として、今では絶対無敵の超人とすら思われている先輩ニキ達にもそういう未熟な時代があったんやなって。
「なるほど……でもそれって性癖を開示する理由にはならないですよね?」
「それはそう」
「セツニキ達ってああ見えてノリが良いというか、普通にスケベだからねぇ」
そも式神からしてドスケベだしね、セツニキ。
ありゃあ練度の高い盛るペコ族だ、間違いないね。
東方は性質的にキャラ造形が割とフリーダムとはいえ、あそこまで盛るのは魂に根差した性癖でないと実行できないぜ。
「ところでシオリちゃんの性癖はどうなのかしら? お姉さん気になっちゃうなぁ……♪」
「はい?」
「そういや聞いたことねぇ! あたしとしたことがシオリっちの性癖を把握してなかっただと……?」
「なんでそういう話になるんですか!?」
顔を真っ赤にして後ずさるシオリっち、おお初心い初心い。
こういう純情なリアクションが清楚系として人気を博す理由なんじゃろかね。
あたしはそのへん全然オープンというか、あたしを直接アレコレするのでもなけりゃご自由にってスタンスなのであんまわからんけども。
この命子、己が性癖と美貌に恥じ入るところなど一切無いぞ!
「うふふ……私や命子ちゃんにも目移りしないってことは、普通に異性愛かしら? でもシオリちゃんってTS勢だったわよね」
「うっ……ご、ご存知でしたか……」
「ああ別に咎めてるわけじゃないの、ごめんなさい。別にTS勢は大勢いるし、今更前世の性別を気にする子なんて……少なくとも今
「そのへんギャーギャー騒ぎ立てるやつはそもそも合流しないか、いても孤立してるみたいですからねぇ」
まぁそういう連中のことは考えるだけ無駄や。
転生者とはいえ大半が所詮前世パンピーだから、そもそも転生というかここがメガテンの世界であること自体を認めなかったり、前世の常識にそのまま従ってオタクを毛嫌いするやつもどうしてもいるからね。
そもそもの価値観が違うから迎合できんし、ならまぁ距離を置いてお互い知らん振りしましょ、みたいな棲み分けも自然とできてる……ってセツニキが言ってた。
「ちなみに私は
「筋肉! おっぱい! 人形!!」
「ふ、二人とも特殊性癖すぎて理解できない……!」
そこで理解出来ずとも否定しないあたりが良い子ちゃんなんだよなぁ。
つか剣キチネキ風呂場にも得物持ち込んでるんスか。普通こういうときって腰の物とか預けたりしないん?
……蘇生もできるし、ここで刃傷沙汰なんて起こしたら一発除名で抑止は効いてるから問題ない? それもそっか。
連合の暮らしにどっぷり浸かったやつほど、この環境がない暮らしに耐え切れんだろうしねぇ……特に式神とか式神とか式神とか。
「で、どうなのかしら? お姉さんにこそっと教えてみ?」
「あたしも! あたしも!」
「そ、その……ですね……」
しどろもどろになりながらも圧に押されて口を開くシオリっち。
いいよいいよー、そうやってなし崩し的に言っちゃいな! 今だけここは修学旅行や!
「お恥ずかしながら……今生ではそういった感覚がわからず……」
「あら、ひょっとして前世でも童貞だった?」
「いえ、妻帯はしていましたが……つまらない男でしたので……。十年も経たず離婚されて……以来仕事だけが生き甲斐でして」
曰く殆ど娯楽にも触れず、パソコンも仕事上で使うだけで、子供もおらず仕事に精を出して生活費を稼ぐだけだったとのこと。
奥さんが働かずとも良いくらいに稼ぎはあり、何不自由無く暮らせる安定感はあったが、良くも悪くも変化のない家庭に愛想を尽かされ奥さんには離婚を切り出されたのだとか。
幸い不倫などの不貞は無く、あくまで双方の価値観の不一致による離婚のようだけど……まぁありえない話ではないよね。個人的にはドロドロの家庭板案件でなかっただけちょっと安心だわ。
「なんというか、前世からして根っからの真面目ちゃんなのねぇ。個人的には好感が持てるのだけど」
「変に夢見がちというか、浮ついた男よりかはよっぽど優良物件ですよねぇ」
「あら、命子ちゃんも所帯持ちだったの?」
「ああいや、そうではないんですけど……まぁ前世は芸人でしたんで、世間一般よりはドロッとしたあれやこれやは見てきましたよぉ」
ちなみに恋愛経験は人並みにはあったよ、どれも長続きしなかったけど。
ベクトルは違うけどあたしも
「それでまぁ、今生ではなぜか女に生まれたんですが……実家、というよりは故郷が前時代的でして」
「ふんふん」
「私自身然程リベラルな性分ではないと思ってるんですが、それでも前世の感覚で過ごしていたら女らしくないだの、男女だのと言われまして」
「いやぁ今時あるんすねぇそういうとこ」
「この世界は実際にオカルトがあって、霊能の流れを汲む家系も多くて保守的な思想はやや強い傾向にあるけれどねぇ」
「実家が村長一家の世話人的な立場でしたので、徹底的に矯正されて……ご覧の有様なんですが」
実際とても元が男だったとは思えない女らしい立ち居振る舞いだもんね。
初見でシオリっちがTS勢だと見抜けるやつは多分おらんでしょ。あたしもシオリっちが口ポロするまでは想像だにしてなかったし。
「それで、ですね……」
「うんうん」
「元は男だった自分としての感覚と、徹底的に躾けられた女としての自分がごちゃまぜになっちゃって……そういうのわかんなくなっちゃったんですううぅぅぅ……!!」
「あらぁ……」
「Oh……」
羞恥のあまり顔を覆って湯船に沈むシオリっち。
いやまさかあたしらもこんなつぶさに事情を語られ、性癖行方不明な実情をお出しされるとは思わず顔を見合わせちゃうよね。
てか思ってたより事情が重くて茶化せそうにねぇぞ……どうすんだこの空気(
「実家も村長一家もクソで好き嫌い以前の問題でしたし、学校でも告白されたことはありますけど男相手は元より女の子からも告白されて、そんなの責任取れないし、前世の感覚が邪魔をするしで何が何やらでええぇぇ……」
「……ごめん、正直ここまでピュアというか、デリケートな話になるとは思わなかったわ」
「みーとぅー。やべーな感覚がまともすぎてあたしらのほうがグサグサ突き刺さってる……!」
「お友達でいましょう、って言って誤魔化してたんですけど、実際振ったようなもんでその後もギクシャクするしかないじゃないですか……! そんなだから男女からも遠巻きにされて、結局親しい友達もできなくて……」
「ご、ごめん……もういいから、もういいから、ね? そのままだとのぼせちゃうわ!」
「ちょっとベンチに引き上げましょ、顔どころか全身真っ赤っかだわ」
わっせわっせと二人がかりで引き上げて、ベンチで休ませ団扇で扇ぐ。
まだ顔を見せられないのか手で覆ったままで、全身真っ赤に火照り上がったシオリっちを涼ませていると、ようやく落ち着いたのかぼんやりと空を見上げながら。
「……しいて言えば」
「あ、まだ続くんだ」
「しっ、命子ちゃん。めっ!」
「うい」
命子さんお口チャックモード。
「…………安心できるもの、かなぁ」
「もの」
「もの……ものときちゃったかぁ」
そう言って諸々の糸が切れたのか寝落ちするシオリっち。
やべーな、性別問題でコンフリクト起こしまくって性癖の矛先がそもそも性別じゃなくなっとるわ。
かといって剣キチネキのような無機物ラブともベクトルが違うし……こりゃ難物やでぇ。
「これ必要なのは性癖の発露ではなく癒やしでは?」
「少なくとも男女のあれこれはナシよね……」
「今のシオリっちに必要なのは男女のぬくもりではなくアニマルセラピーであると思われる」
残念ながらウチのワンコはセラピーにはまったく向いてないからね……。
見た目からしてまずエキゾチックが過ぎるし、天使を含めたいろんな悪魔*1を喰い殺すのが好きすぎて血腥いったらありゃしねぇ。
「ショタおじに相談して、イヌガミかクダを見繕ってもらったほうがいいかしら?」
「ならクダですかねぇ……シオリっちってば面倒見いいし、ちゃんと世話してあげる必要のあるクダのほうが気が紛れるかも」
「
ともあれ寝落ちしちゃったシオリっちを介抱せねば。
あたしが全身を拭いてる間に剣キチネキが髪を乾かして服は……浴衣でいいか。
なんかもう赤ちゃんみたいにスヤスヤなシオリっちを起こさないように手早く静かに整えて、そのまま部屋に放り込んで寝かしつけた。
いやー焦ったぜ……オタクは非オタクのデリケートな話題には弱いんよ。
剣キチネキも完全にお姉ちゃんモード発動してたし、こりゃ安易に突っつくのはNGやね。
とりあえず掲示板でも内部のノリをシオリっちの前には持ち出さないことをお願いしとかなきゃだな。
◆
そんなこんながあった日の翌朝。
しっかり記憶のあったシオリっちに平謝りされながらものんびり早朝の風を浴びていると、ショタおじの分身が現れてお呼びがかかった。
どうやらあたしだけでなくシオリっちにも用があるらしく、この日は修行場に潜る気にもなれなかったあたし達は呼び出しを了承して応接間に向かった。
「おう、来たか。悪ィな、こんな朝早くによ」
「あれ、霊視ニキじゃん。どしたんわざわざ本社まで来て」
「おはようございます、霊視ニキ」
すると待っていたのは白スーツの巨体こと霊視ニキ。
昨夜も早朝も姿を見かけなかったのにここにいるってことは、トラポート持ちに運んでもらったのかな?
てことはなんぞ急ぎの案件か……ともあれまずは飯にしようとのことで、和食御膳をいただきながら話を聞く。
「話ってのは他でもねぇ、以前ウチが総出で洗った青森一帯の汚職の件なんだがな」
「私の生まれ故郷も関与していたという、アレのことですね」
例の件と聞いてシオリっちの表情が険を帯びる。
シオリっちの拉致事件を発端として顕わになった大規模汚職だけど、それに関して何か進展があったのだろうか?
当時のブチギレカーニバルなイタコ衆を思い出しながら、霊視ニキの続きを待つ。
「ああ。アレに関して諸々洗ってみた結果、思ってたより根が深ェらしいことがわかってな。少なくともウチのシマで上がっていた拉致被害や行方不明者の何割かはメシア教の関与があることがわかった」
「ッ……!」
「時期は少なくとも十年以上……トータルで見りゃとんでもねぇ規模だ。流石に捨て置けねぇってことで本腰入れて調査してな……結果、臭いホシが一つ浮かび上がった」
本腰……と来たか。つまり霊能捜査どころか、関係者に対し
こりゃおふざけが許される空気じゃねぇな。さすがのあたしも居住まいを正す。
あたしらの空気が変わったのを察して、霊視ニキが一枚の書類を差し出す。
カラー印刷でプリントされたそれは、何やら観光地のパンフレットのようで。
「
『【カオ転三次】現地民とのぐだぐだ小話』作者のややや様、アイデアをお借りします。
そして『【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち』作者の名無しのレイ様、邪視ニキ使ってくれてありがとナス!!
本霊については……うふふ(^U^)