「ん、にゃろ――!?」
全身から力が抜け、ギャップに崩れ落ちそうになる身体を咄嗟に持ち直す。
まるで三種のンダ魔法を何度も重ね掛けされたような倦怠感に、久しく感じていなかった
――
即座に自分を【アナライズ】して状態を確認すると、そう表記されていた。
現在Lv21……元が43だから、半減した上に端数切り捨てかよクソが!
いや、それよりも。
「案の定アンタらは
『此処は我らの聖域。
やっぱりアライメント特効――!
敵の
いや、だが天使連中に変化は無いか。
最悪
『さぁ、苦しむ必要はありません。大人しく我らに身を委ね、恩寵を授かるのです』
「口説き文句にしちゃあド三流もいいとこじゃんね。身内同士で
レベルは半減してステータスも相応に落ちたが、それでも雑魚連中より格は上。
ギャップに戸惑ったのも最初だけ。すぐに感覚を切り替えて【
だがMPの都合上安易に
『シオリっち!』
『わかってる……!』
念話で意思を疎通し、シオリっちと一緒に包囲網へ風穴を空ける。
あたしがLv21でシオリっちはLv15。元ステからすれば余裕は無いが、それでも木っ端天使を仕留めるには十分なレベルだ。
相手はまさかレベルダウンして尚抵抗されるとは思っていなかったのか対応が遅れ、その穴を塞ぐより先に突破し聖母室を脱出できた。
『シオリっち、起点を探して!』
『説明!』
『こんな
『装置……って、まさか!?』
『無理なら先に脱出しな、んで霊視ニキに増援ヨロ! それまでの時間は稼いだるじゃんね』
幸い転移阻害までは展開されてない。ならあたしが引き付けているうちにシオリっちが戦場から離脱すれば脱出は可能。
問題は増援が間に合うかだけど……こちとら恐山が誇る必殺の霊的暴力装置やぞ、天才舐めんじゃねぇ!
『問答してる時間は無いよ。はいかYES、どっち!?』
『――NOに決まってるでしょう、そんなもの!』
『いい啖呵じゃんね! んじゃ敵はこっちに引き付けるから、その隙によろしゅー!』
『そちらこそ無理をするんじゃないわよ!』
それぞれ逆方向に飛び出し、異界を駆け回る。
同時に上空を舞っていた天使共がこちらを捕捉し、四方八方から攻め寄ってくる。
「空はこっちも十八番じゃんよ――行け、【
空を飛ぶあたしを追う天使共へ式神から人形を繰り出す。
新たに【外道 ジャックホッパー】*1の因子を組み込まれ、【跳躍】を始めとする機動力強化のスキルを得た人形達が天使共に張り付きその寝首を掻かんとする。
数は圧倒的にあちらが上だし、機動力に長けるとはいえ空戦特化でもない以上落とされていくが、それでも多少なりとも手傷は追わせられた。
追手は……大半がこちらに来てる。
プリンシパリティは聖母室上空で待機し、配下の指揮に専念しているようだ。
彼我の戦力差は歴然。こちらにデバフもある上に、口振りからもあたしらを
だったらその思い上がりに付け込ませてもらうとしましょうか!
こんな土壇場でお披露目するつもりはなかったけど――初公演だ!
「踊れ――【
『――カカカッ!』
式神の懐に手を伸ばし――
迫りくるアークエンジェルの剣を
「【絶命剣】!」
新手の出現と、それに隊長格を殺られた動揺で寸時動きを止めた天使共。
そのうちの一体が慇懃な拍手を鳴らし、
『これは奇っ怪な――
「
以前フェイスレスニキから貰った
試みに作ったはいいが戦力外の烙印を押され、手の込んだ玩具としてプレゼントされたこれを
フェイスレスニキとの談義では
技術協力を要請した製造班には散々馬鹿だアホだと言われたけど、最終的には「かっこいい!」の一言で全面的に協力を取り付けた第二の専用式神じゃい!
とはいえ時間が足りず育成中だったものだから、こんなところでお披露目することになるとは思わなかったけれど……試運転にはちょうどいいぜ!
『しかし不遜ですね。その出で立ち、南米の異端者共が崇める
「イカすデザインっしょ? あとそりゃアンタらの自己紹介か?」
『減らず口を……者共、かかりなさい』
口を開けばテメェが言うなのオンパレード、つくづくメシアンってのはおめでたい連中やね。
ニッと笑って親指を下に向けてやれば、余裕ぶりながらも苛立ちに震える声で攻撃命令を下すプリンシパリティ。
けれど舐めんなよ。
こちとら前世含めてン十年、糸繰り一つで観客を沸かせ続けた
そこに今生の異能を併せて演じてやりゃあ……あたしの演目はアンタらにとって飛び切りの
「
『グアアァッ――!?』
魔人人形が併せ持つ各色の腕のうち漆黒の手が呪詛を帯びて先陣を切った天使を殴殺し、残る複腕で構えた大鎌が描く複雑怪奇な軌道が続く
その呪毒に反応して効力を増す刃が追撃し、迫る刃をその命ごと切って落とした。
今のあたしが同時に操作可能な人形は五体。
その処理能力の全てを魔人人形一体に注いで専念すれば、
まぁ承太郎ニキみたいに権能レベルにまで至った【
こと人形遣いの技術では誰にも負けるつもりはない――たとえそれがショタオジ相手だろうとな!!
『クッ、たかが人形遊びに情けない! 術者を狙えばいいだろう!!』
「馬鹿かアンタ? んなもんこっちだって百も承知ですってぇの」
突貫する天使に対し魔人人形を盾にする。
自立行動機能をオミットした分純粋性能で他の式神に勝る人形の物理耐性は、格下相手ならほぼ無効化の域にある。
打ち込んできた天使を複腕で雁字搦めに捉え、胸部に具えた仕込み刃でさながら
これで
(ほんとはあたしの【エナジードレイン】も組み込んでから本格運用するつもりだったんだけどねぇ)
内蔵されたMAGバッテリーの残量はまだ十分あるが、それでもこのままだとジリ貧は否めない。
自立行動と自我を切り捨てたことの結果として、装備型式神のように道具としての属性が強くなり
霊格にして25……デバフを食らったあたしと大差ない戦力だと、この状況を打破するには諸々足りない。
だから結局、このレベルダウンギミックを解除しないことには展望がないのだけど――
(マジで頼むぜシオリっち……躊躇うんじゃねーぞ)
酷なことだとわかってはいるけれど、
◆
「はっ、はっ、はっ――! ……っ、く……!」
空を舞う命子と天使達とは異なり、地を這うしかできないシオリは必死になって走っていた。
起点を探り当てることを託され、天使達の大半を一手に引き受けた命子が持ち堪えられる時間は然程長くはないことくらい理解している。
限られた時間の中、一時でも足を止めれば破滅が待ち構えている緊張の中で、それでも
――異形の仔を孕み苦悶に喘ぐ女達。
――乱雑に並べられ、腑分けられる最中のままの赤子。
――人とも獣ともわからぬ異形の相を宿し溶液漬けにされた検体。
それら正視に堪えぬ所業の末路を目にして尚見捨てざるを得ない余裕の無さに、シオリの心が軋み悲鳴を上げる。
「こんな、こんな――ッ!?」
「そこまでです」
行く手を阻んだのは天使――ではなく、彼らを仰ぐ
彼らの多くは未覚醒、霊能に目覚めていても精々がLv1前後の、今のシオリにとっても障害にはなり得ない有象無象。
容易く排除できるそれらが、無手のまま一団となってシオリの前に立ちはだかる。
「天使様のお手を煩わせてはなりません。どうか観念なさいますよう……」
「て、天使……っ!? あれがっ、あんなものが――!」
話には聞いていた。メシア教なる者達のことを。
ガイア連合にて先達から様々にその所業と脅威を、口を酸っぱくして何度も何度も教え込まれていた。
授業を通じて彼らの脅威を理解し、理解していたつもりだった。
だが心の内では、思想は違えど同じ人間だと信じていた。
悪いのは人間を誑かす天使達で、彼らもまた被害者なのだと。
「あんなことを命じられて、怖くはないの……?」
「天使様のお言いつけです」
「っ、あんな真似をしてッ……恐ろしくはないのッ!?」
「天使様のお言いつけなのです、
そう信じていた――なのに。
鬼畜の所業を命じる悪魔に――ただ天使だからという理由で盲目的に従う彼らを、果たして本当に人間と信じられるものか。
あるいは天使の振りかざす暴力に屈し、生き残るために手を染めたというのなら……理解できた。
表面上は無感情を装っていても、内なる悲鳴に心が軋んでいたのなら……同情もできた。
与えられた命令の通りに、何の躊躇もなく――まるで機械のように。
「ッ――退きなさい……」
「それは出来ません、
シオリは意思の疎通を諦めて命じた。
しかし
「退かないと殺すわ……っ」
「それは出来ません、
語気を荒げて刃を振り翳す。
しかし
「――殺すって言ってるのよ! 死ぬのよッ!? わかってるの!?」
「我らの命で
信仰に盲た奴隷達がシオリを取り押さえようと躙り寄る。
それが例えようもなく恐ろしくなって――シオリは振り翳した刃を薙いだ。
「あっ……ぁあ、ああぁァ……――ッ!?」
容易く両断される身体。
迸る鮮血は朱く、被れば生暖かく錆臭い。
溢れる中身は回路と配線などではなく――正真正銘、人間のそれだった。
「アアア嗚呼ああああ唖々――ッ!?」
人の死など過酷な修行の中で見慣れたものだと思っていた。
自らも幾度となく死に、蘇って。目にしなかった部位など存在しないほどには傷ついた。
だがそうして見た死のどれよりも生々しく五感を刺激し、拭い難い嫌悪として脳裏に絡みつくこれが同じ
「――――ッ!!!!!」
行く手を阻んだ信徒達を斬り捨てたシオリは、絶叫しながら駆けた。
身体に纏わりつく怖気を振り切るように走り、人を殺めた罪悪感を忘れるように目的に専念した。
一刻も早く起点を潰し、この悍ましい地獄から脱出する。それだけを考えて、この戦場を終わらせるために奔走した。
そうして見つけたのは、無数ある施設のうち最奥に位置した講堂。
白く大きな門扉に隔てられたそこを力任せにこじ開け滑り込む。
荒ぶる感情に呼応して励起したMAGが示す流れを辿り、外明かりに照らされて見上げた先を見て――シオリは遂に膝から崩れ落ちた。
「――――――――」
そこは聖堂だった。
せり上がった中央に設けられた祭壇を取り囲むように、幾本もの柱が聳え立つ。
その更に周囲を覆うように、ガラスで隔てられた水槽が配置されている。
さながら水族館のように、祭壇と柱を中心として全周を見渡せるようになっていた。
その柱に幾人もの女体が組み込まれていなければ――。
その水槽に満たされた溶液に幾つもの脳髄が浮かんでいなければ――。
そして邪視――
より正確に言えば……
天上の美声で無機質に賛美を唄う
溢し続けていた涙が尚も流れ、身体が枯れ果てんばかりに――。
『遂にここまで辿り着きましたか。母体と言えど、これ以上の狼藉は許されませんよ』
無防備を晒すシオリの背後にエンジェルが迫っていた。
首魁プリンシパリティの意思を中継し、彼の声で語る天使が居並ぶ御柱と脳髄を前に恍惚とした声音で謳う。
『これこそは純粋なる信仰の形。肉の檻を脱し、俗世のしがらみから解き放たれ、全存在を余すことなく神への賛美に捧げたもうた献身の極地。――美しいとは思いませんか』
崩れ落ちたシオリを他所に、それらの前に佇んだ天使が愛おしげに撫でて接吻する。
『来たるべき聖戦のため、身を捧げ続けた信徒達の信仰の結晶です。我らにとっても決して欠くべからざる聖遺物……万が一にも損なわれては困るのですよ』
今も尚天使の軍勢を前に孤軍奮闘する
攻めかかれど次々に落とされていく配下達を目にして、しばし黙考した後意を決したように口を開く。
『些か過剰ではあると思いますが、ここは確実を期すとしましょう』
そう言って、糸が切れたように動かなくなるエンジェル。
その先にいる本体のプリンシパリティが再び杖を振り翳して。
『――大聖母様、御出陣願います』
〝あ、ア、唖、々、嗚、呼、ぁ、ァ ―― ! ?〟
そう請願すると同時、聖母室の屋根が破られ巨体が現れた。
蜷局を巻いていた異形が身を起こし、白日の下に晒される。
それは天使達が幾重にも融け合って積み上げられた異形の柱。
それらは今も尚蠕動し、胎動し、脈打つように蠢いて歓喜の声を上げる。
その頂点に
脳裏に直接響き渡るような声を響かせ、唄うように絶叫する。
その理由は――天使の歓喜と共に
――Lv40【魔人 聖母改造魔人】
――Lv20【邪鬼 ネフィリム】
単なる交合を越え、正真正銘一体となった聖母の成れの果てと、それが産み落とす異形の落とし仔達。
天使の歓喜は聖母と合一を果たした法悦。
乙女の絶叫は異形に改造された絶望の悲嘆。
落とし仔は醜い産声を上げて母を求め、それを拒絶するように巨体が
巨体に潰され絶命する仔よりも産み落とされる仔の方が多く、結果として敵の戦力が増強されていた。
『さぁ、そのまま人形遣いも捕らえなさい! 憎き仇ではありますが、過去に無い極上の母体です。もしやすれば
――これが……これが天使のすることか。
――こんな真似をするものが、神の意志を代行する天使であるものか……!
――こんなものに従う者共が、人間であってたまるものか……!!
皮算用に喜色を顕わにするプリンシパリティを見上げ、シオリは涙を流し続ける。
手放した理解を理性が取り戻し、この認め難い現実を前に熱を上げて処理を図るが、それに対しシオリの良識という尺度はあまりに短く――魂を焦がす熱はやがて
――主の意志を騙って人の子を弄び、剰え交合して異形を産む。
――それこそは天使にとっての堕落に他ならず、尚も神のためと嘯くことこそ背信の極みなり。
未だ誰も知らぬ、この世に生まれた理由。
その一因と意志が合一し、魂魄が励起する。
類稀なる強き人の意思の下、微睡んでいた高位存在の意識が浮上し、沸き上がるMAGが
〝――覚悟せよ、堕落者達よ。最早汝らに天の国を舞う資格無し〟
◇
「ク、ソ、がぁああああ――!! やることなすこと最悪飛び越してんじゃねぇ!?」
【聖母改造魔人】だぁ!? みんなのトラウマリスペクトかよ!
おまけに【邪鬼 ネフィリム】って、バリバリ堕天使の産物じゃねーか!! よくそれで天使だなんだとお高く留まれたもんだな!?
ダブスタもここまで極まると尊敬するわ! みんな言っとるけどマジで百遍聖書読み直せや!!
〝ああぁっぁあアァ嗚呼ァアアアあああ唖々――!?〟
クソが……身体の大部分が天使だから操れますってか! なまじ正気を保ててるせいで酷が過ぎる!
おまけのこのレベル……本調子ならともかく今のレベルだとヤバい! 多少の格上なら喰える修行は積んでても、ここまで格差があると小手先じゃどうしようもねぇ! 少なくともあたしにはな!
更に言えばこいつを殺すわけにもいかねぇ……なるべくだけど! でも最悪ちょっと覚悟はしておけ!!
シオリっちはシオリっちで念話が通じねぇし……大方メンタルがヤバくなってんだろうね! 精神が著しく衰弱してると念話も碌に繋がらねぇからな!
やっぱ無理にでも帰しとくべきだったか……? つかこんな厄ネタ掴まされるとは流石に想定外だわ! ショタオジの卦なんざ従うんじゃなかった!!
いやでもだからといって他のメンバーでなんとかなったか? こうなるとわかってりゃ霊視ニキを最初っから投入しとくんだった! それか真修羅勢!!
ああああああヤバすぎて思考にノイズっつーか逆に余計なことしか考えられねぇシオリっちまだかー!?
『観念なさい。貴方は貴重な母体なのです、みだりに傷付けたくはありません』
「
『その減らず口もいつまで保つか……人形繰りも見事ですが、些か飽いてしまいました。そろそろ手仕舞いにしていただきたいのですが』
「テメェが死んだら終わってやるよ! こちとらおひねりはもうお腹いっぱいだよ!!」
クソッ……せっかくの魔人人形もこうも連戦すると流石にボロボロだわ。
MAGバッテリーはからっけつ。あたしも食没で蓄えてたMAGがそろそろ底をつきそう。
碌に道具を使う暇もありゃしねぇ……やっぱ人海戦術が正義か! 本来ならあたしの十八番なのによぉ……!!
一か八かシオリっちを回収して離脱を図るか?
僅かでも時間を稼げりゃ隠形符と飛丸で身を隠して――いやあのワンコもう死んでるわ!
随分雑魚を狩ってくれたはいいが、流石に多勢に無勢でどうしようもなかったし。
そこで問題だ! このほぼ詰みの状況でどうやって窮地を脱するか?
三択―ひとつだけ選びなさい
答え① 美少女の命子さんは突如反撃のアイデアがひらめく。
答え② 仲間がきて助けてくれる。
答え③ どうしようもない。現実は非情である。
答え①か②――と言いたいところだけどさすがに③かぁ!?
いやまてあたしは天才だぞ! この程度……この程度ォオオオオオオオオ!!!!!
「背に腹は代えられねぇ――【自爆】ゥ!!」
『なにっ!?』
魔人人形に【自爆】を命令し、霊糸から切り離して投下ァ!
クッッッッッソ出費が痛いけど一応式神だから自動回収はできる! 修復コスト考えたくないけど!!
併せて【
あ、取り巻きの天使くんはおとなしく死んで、どうぞ。おう
『ガァアアアアア――!?』
「ざまぁみやがれカスが! でも魔人のほうはまだまだ元気いっぱいか!」
殺すわけにはいかないっつったけど、普通に殺される可能性のほうが高いっていうね。
うおおおおおおそっちはそっちで根性でなんとかならんか!? 無理だよな、ごめん!! 正気保ってるだけえらい!!
『こ、の……下手に出ていれば図に乗って――!』
「テメーがいつ下手に出てたっつーんだよ、端から見下しすぎて逆に見上げとったわ!」
『わけの分からぬことを!』
とはいえ流石にもう手札ねーぞ、こんなことなら式神コアなんぞ作っとらんとレベリングに専念しとくんだったわ。
いや、どう言い繕っても言い訳やね。結局あたしの力不足だ。
問題はあたしはまぁ死んでもいいけど、シオリっちがなー……生きて辱めを受けるよりは死なせてやったほうが……いやいやいや。
最悪
まぁ尊厳はちょっとばかし諦める必要があるけど……イタコなめんなよ、こちとら苦渋舐めるのには慣れっこじゃい!
でもやっぱシオリっちだけはどうにか――おん?
『手足の一つや二つはやむを得ません、ここで――何?』
切羽詰まった状況で必死に考えを巡らせていると、不意に空が暗くなるのを感じ取った。
思わず見上げれば、雲一つ無い晴天が俄に暗黒に染まり――煌々と月が輝く夜に塗り替わる。
異界法則の改編――いや、領域の乗っ取り……待て、
馴染みのあるMAGの波動――これは、
「シオリっち!?」
MAGが放つ気配を追って視線を動かせば、月を背に浮かぶシオリっちの姿があった。
でも、気配は同じだけど放つ圧力が圧倒的に違う。
『なに、が――いえ、いや……まさか……この気配は――!?』
この変化を齎したシオリっちらしき影を見上げ、誰何の声を上げようとしたプリンシパリティ。
だけどその姿を認識し、放たれるMAGを感じ取った瞬間……表情を変えて狼狽を顕わにする。
『なぜ、貴方様が――』
〝問答は無用〟
――平伏せよ。
その一言を以てプリンシパリティの――天使達の背から
重力に引かれ墜落した衝撃で自然と膝をつく形となった天使達が、尚も信じ難い表情でシオリっちを見上げて――やがてその表情を絶望に変える。
〝我が権能によりて汝らの翼を剥奪する。以後天の国を舞うことは赦されず、以て地の獄を這い回るがよい〟
『――何故です!? 何故今になって貴方様が……――
――Lv60【大天使 サリエル/宮古シオリ】
絶叫と同時に【アナライズ】した結果には、そう表記されていた。
レベル……60!? いや、それもだけど……こいつら。
――【堕天使 グリゴリ】
続けて地に落とされた天使達を【アナライズ】すると、種族がそう改竄され――自ら展開したアライメント結界に囚われ、そのレベルを半減していた。
中には存在の変質に耐えられず、身体が崩れて【スライム】と化す個体も現れ……全てが絶望の叫びの中絶え果てていく。
個体名を持たない尖兵に過ぎない天使達が諸共に堕天使へと貶められて、堕天使の一団と看做され【グリゴリ】へと変質していく。
それは首魁のプリンシパリティも例外ではなく、権力を象徴する権天使すら名もなき
『わた、私が……堕天使……!? そんな、なぜ……私は、神のために――』
〝――主は
堕天使達の嘆きを前に
描いた弧が地面に次元の裂け目を刻み、そこから伸びた無数の亡者の手が殺到し堕天使達を絡め取っていく。
遥か地の底――地獄へ彼らを誘わんと、怨讐の如く執拗に群がって。その抵抗も虚しく引き摺り込む。
〝汝らの所業、地の上において贖うこと能わず。されど地の獄にも安息はあろう。そこで主の御言葉に耳を傾け省みるがいい。さすれば永劫の果て己が律も見出せよう〟
『や、やめろ……! 私から光を……神の愛を奪うな……! いやだ、いやだ――』
〝――さらばだ、同胞よ〟
――いやだあああああああああああああああ……――!!
そう絶望を叫んで、天使達は尽くが地獄に堕ちた。
あまりの急展開にさすがのあたしも理解が追いつかない。
いや、それよりも――!!
「シオリっち、無事――!?」
事態はどうあれまずはシオリっちの安否が優先!
サリエルと同調しているその理由はわからないけど、もし呑まれてるなら命を懸けても取り戻さないといけない!
戦力差と呼ぶことすら烏滸がましい絶望的な差を承知の上で近付くが……。
〝――――〟
サリエルが再び大鎌を振るう。
あたしの
おそらくは天使の手も届かない遥かな安息地へと。降霊術士として絶対の自負を誇るあたしですら理解の及ばない領域へ。
それと同時に全身を苛んでいた霊格減衰の結界も消える。
〝――――〟
サリエルが三度大鎌を振るう。
その一振りで無秩序に産み落とされ肉を食んでいたネフィリムが活動を停止し、MAGに還る。
同時に魔人へと改造されていた
「生き、てる――?」
その巨体はMAGに還らず、眠ったように沈黙を保っていた。
そっと耳をそばだてるが……息はある。ここで初めてまともに見れた顔は安らいでいて、苦悶に呻く様子はない。
これなら……本社に連れ帰ればなんとかなる!
〝――是にて我の役目は終わる。是より先は汝らヒトの歩み次第〟
「アンタ、もしかしてシオリっちの……」
〝最早逢うこともない。我はこの娘の魂の裡に融け往くまで〟
さらばだ――と、最後にそう言い残して気配は失せた。
崩れ落ちそうになるシオリっちを慌てて抱えるが、こちらもどうやら命に別状はなく穏やかに寝息を立てている。
アナライズ結果も大天使から達人に戻り、後遺症も無し……と言いたいところだったのだが。
「――レベル、40になってんですけどぉ……?」
しかも
こっから後始末しなきゃいけないのか~~~~???? あたしがぁ?????
幸い異界は崩壊しないみたいだけど……核がどっかにあるなら潰さなきゃだし。
つってもシオリっちはともかく、仮称聖母ちゃんの図体はちょっと抱えきれんしなぁ……。
「しゃーない、一端外出て応援呼ぶか。あたしだけじゃ対応しきれんわ」
あ~~~~~~~……クッッッッッッッッッソ疲れたわ!!!!!!!!!!
・カス子
このあと不寝番で二人を警護しながら増援を待った。
帰還したら泥のように寝た。
・邪視ネキ
メンタルグッサグサに刺されて大分ヤバめ。例えるなら黒の章を見た仙水状態。
精神的な負荷が重なりすぎて本霊降臨、一時的に合一して大天使サリエルのデビルシフターと化した。
というわけで本霊はサリエルだった俺達。読者にはバレバレやったね。
邪視ネキイジメイベントにして邪視ネキ覚醒イベントでもあった。
・聖母ネキ(仮称)
全身魔改造されたけど正気を保ってたすげーやつ。
でもさすがに限界も近付いてたので死にてーとはなってた。
ひとまず一命を取り留める。
・サリエル
前世の世界では使命から解放され、バカンス的に人間に紛れて暮らしてみようと初めての家出もとい転生を試みたはっちゃけ大天使。
うっかり人の意思(前世ネキ)に取り込まれたのは御愛嬌。でもそれはそれとして人間の可能性を見れて満足だった。
こっちの世界へ一緒に転生した際、こっそり四文字の言葉を受信していたらしい。
長らく微睡んでいたが、邪視ネキ大覚醒の一助となり今度こそ全存在が邪視ネキの中に融けていった。
イメージは大体キングハサン。
・メシア教の皆さん
洗脳されてたかもしれないしされてなかったかもしれない。
情状酌量の可能性はあるかもしれないがカス。
サリエルの慈悲で霊魂を導かれただけ大分マシとも言える。
・天使の皆さん
カス。
堕天使に貶められ、絶望と共に地獄へ流されていった。
すごくひどいめにあう
・聖母改造魔人
見た目はクッソキモいネオエクスデスみたいな感じ。
生態はクッソキモいチョウチンアンコウみたいなもん。
いずれにせよクッソキモいことには変わりない。
動きのイメージはルビコニアンデスワームことアイスワーム。
・ネフィリム
こんなん生み出しといてまだ天使のつもりでいるとか、立川のロン毛もダッシュで両頬をビンタするレベル。
・死想の魔人人形
正式名称『サンタ・ムエルテ=アルレキン』。カス子肝入りの特製人形。
色とりどりのローブを幾重にも羽織った、髑髏頭と複腕、大鎌装備のOSRなやつ。
まだまだ開発途上で今回お披露目したのも割と不本意だったのだが、未完成なりに奮闘はした。
通常の悪魔人形が雑兵の制圧用なら、こっちは同格以上との決戦用。
今のところ開発に携わった一部を除き他の転生者には内緒にしている。
ちなみに「アルレキン」とは「あるるかん」のスペイン語読み。