「ハワイに遠征?」
「おう、上の決定でな」
とある平日のお昼過ぎ、珍しく霊視ニキが道南支部までやってきたかと思うとそんなことを切り出した。
わざわざシオリっちに覗き見を遮断させて、霊視ニキ自身も他に不審物が無いか厳重にチェックした上での密談だ。
上の決定という前置きも含めて、連合にとっても重要案件なのは察せられるけど……にしたってなんでハワイ?
「詳細は割愛するが、今のうちに恩を売って傘下に入れたいっつー運営陣の思惑でな。終末後を見据えての布石だが……」
「噂には聞いています。南国フルーツや畜産物等の継続的な取引も視野に入れている、と。確かに手を結ぶ相手としては手頃でしょうね」
ほーん、支部長ネットワークの情報かな?
あたしは日頃スレを巡回してはいるけど、そのへんの情報網からは距離を置いてるからなー。
けどまぁ理解はできる。要は多神連合と似たような扱いってことか。それよりはやや身内に近いポジションってことかな?
「確かにそのへんは終末後も食べたいよねー。んで具体的にはどうするん?」
「現地霊能者の保護、そして移住地への護送だな。俺が主導するが、お前らにも手を貸してもらいてェ」
「霊視ニキ主導ってガチ作戦じゃん。あたしらいる?」
海外の方が平均的な霊能レベルは上らしいけど、それにしたって霊視ニキ単独で過剰戦力っしょ。
「目的が目的だからな、純粋に人手がいる。かといって場所は連合のシマじゃねぇからそれなりの戦力が必要だ。そこを踏まえると対応力が高く長距離転移が可能なお前と、念の為純戦闘員がいるのが望ましいってことだ」
「あー、はいはい。都度必要な物資を本社から持ってくりゃいいのね。そういうことなら納得」
連合には【密輸課】を始めとする
その点あたしはネビロス由来で権能化もしてめちゃくちゃ優秀だから、マイ式神の高レベル【収納】スキルも併せて利便性が高い。
対応力の高さも霊視ニキとは別ベクトルながらあたしの強みだし、アウェーに出張るなら納得の人選やね。
「んまぁ他ならぬ霊視ニキの頼みだしあたしはいいよ。ちょうど一段落して手が空いてたとこだし」
「ではもう一人はシオリさんにお願いできますか?」
「もちろんいいわ。けどこっちはカレンさんだけで大丈夫? 近頃メシアンの密入国が活発化しつつあるのに」
「なんだと?」
あーね、最近樺太経由でロシア方面からの密入国者が結構いるんだよね。
故郷をメシア教に追われた現地民だったり、それを追ってきた
今のところ目に見える形で動いてはいないけど、潜在的な脅威には間違いないから頭の痛い問題だ。
「チッ、連中めどこにでも湧いてくるな……なんなら把握できてる分だけでも潰してこようか? 協力への手付金じゃあないけどよ」
「相変わらずメシアンに対しては血の気多いね霊視ニキ。まぁこっちも問題視してる以上、何の手も打ってないわけじゃないよ。でしょ? カレンちん」
「ええ。……【KSJ研究所】*1から
そう言って取り出したるはコンクリっぽい材質の皿と、ギリ携行できるサイズのピッチャーマシン。
どちらも霊具だが、特に皿の方は見るものが視ればそれに宿った呪詛の濃さに震え上がること間違いなしだろう。
さながら物質化した呪詛とも言える呪具は、霊能者でも無防備に触れれば即殺されるだけの力を秘めていた。
「【蟲毒皿】か、良い評判はちらほら聞くな。んでこっちは……?」
「新商品の【蟲毒皿ピッチャー】ですね。どうも蟲毒皿単体だと命中性に難ありとのことで、補助パーツとして開発されたようです。実演してもらいましたが威力、取り回しともに申し分無く、試運転の結果次第では正式導入も検討しています」
「いつの間にそんなことを……けど本当に有用なら助かるわね。やっぱり私達だけじゃどうしても手が回りきらないもの」
「物理威力はともかく、この呪詛濃度なら耐性でもなけりゃ即殺だろうねぇ。いい買い物したんじゃない?」
つーかこれ素材どう確保してんだ? 確かに原作にもこのアイテムはあったが、性質的にそうぽんぽん量産できる代物じゃねぇと思うんだけど。
降霊術に長けるあたしや霊視に特化した霊視ニキには、この皿から轟く怨嗟のMAGが視えてるんじゃが……。
……いやまぁいいか、知らぬが仏ってやつじゃんね。味方が有用なアイテムを用意してくれたっつーんならそれでいっか。
「レベルが低くてもアイテムの効能は変わらんからねぇ、これなら数はいる現地民も戦力化できるだろうし」
「ええ、支部としてもそれを見込んでのことです。そういうわけですのでこちらは問題ありません、命子さんの複製人形もありますしね。なので気兼ねなくどうぞ」
「悪ィな、恩に着るぜ。……立派に支部長やれてんじゃねェか、カレン」
「ふふ……師匠の薫陶の賜物と、皆様のお力添えあってのことですよ」
「ま、もしものときはあたしに連絡くれればひとっ飛びすっからね。どうせ何度もこっちとあっちを行き来することになるだろうし」
ともあれ話はまとまったかな?
霊視ニキと一緒に仕事するのは何気に初めてだし、ちょっとテンション上がるよね。
それに海外も久々だしなー。前世だと割とあちこち行ってたけど、転生してからはずっと忙しくて国外になんて行く余裕なかったもんね。
「出発は一週間後だ。現地では先行した自衛隊と協力して要救助者を保護し、富豪俺達の用意した船で避難先まで護送する」
「行きはどうすんの? 飛行機? ならファーストクラスがいいなー」
「確かに飛行機だが……ったくおめぇはよぉ。そういうと思ってファースト用意してやったから、精々気合い入れて働いてくれよ」
「やったー! やるやる、あたし超頑張る!」
「すみません薫さん、命子がいつもワガママを……」
「まァファーストクラスでこいつをこき使えるなら安いもんだ、気にすんな」
そうだぞ、ほんとならあたし様クラスの人材を動かすなら金如きじゃ話にならねぇんだからな!
まったく命子さんの優しさは五大陸に響き渡るでぇ……あ、そうそうお土産も買わないと!
ウチで預かってるチビ共や支部員の皆と、普段お世話になってる自衛隊やお付き合いのある支部の皆さんにと考えると、いくらあっても足りねぇからなぁ。
今のうちに手持ちを米ドルに両替しとかないとだわ!
◇
というわけでサクッと一週間後、我々取材班はハワイ諸島はホノルルへと赴いた!
「ふあ、ァ……あふ。行きはほとんど寝ちゃったわね」
「まー日本からハワイまではナイトフライトが基本だからねぇ。時差も19時間あるし、行きは睡眠を取っておくのが無難だよ」
「現地までは自衛隊から案内があるはずだが……ああ、いたいた」
相変わらずの傷面に筋骨隆々の巨体、それと白スーツ姿が眩しいどうみてもヤのつく自由業な霊視ニキ。
そこに寄り添ういつもの巫女服とは違ってもだーんな装いの、どう見てもヤーさんの愛人かなにかな巴姉。
同じく愛人にしか見えない金髪スポーティー美女のモーさん。
加えていつもの眼帯&レディスーツ姿のシオリっちに、他所行き用のガーリーファッションなこのあたしという組み合わせは空港内でも随分と目立っている。
そんな目立つ集団だからか案内役だとかいう隊員もすぐにこちらに気付いて、霊視ニキの威圧感にやや気圧されながらも車を出してくれた。
「これがハワイ……随分と異国情緒溢れる光景ですねぇ」
「そういや巴姉は外に出たことなかったっけ。ってか巴姉に限らずか、今までそんな余裕なかったもんね」
「ええ。ですから御役目であることは重々承知していますが……それでもやはり心が浮ついてしまいますね」
「本当はもっと落ち着いて新婚旅行*2でもしたいんだがなぁ……巴には苦労ばかりかける」
「言いっこなしですよ、薫さん。貴方が背負った責任の重さは承知しています。そしてそれが誇らしくもあるのですから、その一端でもお手伝いできるなら巴にとって何にも優る喜びですとも」
久々に二人で共同作業だからっていちゃついてんなー。まぁ結婚して数年だしまだまだ新婚気分だろうけども。
とはいえ巴姉の言う通り霊視ニキと巴姉は全然新婚らしいことできてないし、せっかくの海外任務なんだからちょっとくらい新婚旅行気分でも許されるか。
「仲睦まじくて何よりですな。こんな情勢でもなければ喜んで観光ガイドでもしたかったのですが」
「……やはり芳しくはねぇか」
「ええ。表向きは何事も無いように見えますがね、一皮剥けば随分と陰惨なことですよ。
そう苦虫を噛み潰したような顔で語る隊員に、惚気を見せていた巴姉を含め皆の顔が険を帯びる。
「皆様の前で言うことではないと重々承知していますが……【
「あれらが平和主義、というのはイタコとしては業腹ですが……伝え聞く情勢を見るに事実なのでしょうね。住み慣れた故郷を捨てることを決意せざるを得ないほどにとは……私にとっても他人事とは思えません」
「二人で異界潰しまくってたのが懐かしいよねー。マジで過労死寸前だったもんね」
懐かしいなぁ、連合加入前の地獄の日々。まともに戦えるのがあたしと巴姉くらいだったから酷使無双だったもん。
あれにメシア教の対処まで加わってたらどう考えても合流前にくたばってたし、その点で言えばメシア教の日本支部がストッパーになってたってのは間違いない。
まぁそれ以前までの所業もあるし、今も同じ看板掲げてる以上感謝なんて口が裂けても言えねぇけどさ。にしたってアレがマシって海外情勢ほんとやべーな。
「ま、事情はどうあれ素直に
「そうだな。……で、状況は?」
「先んじて交渉できた方々は我々の拠点で保護しています。しかし我々の力量では手の及ばぬ箇所も多く……皆様にはそちらの視察や見回り、残る現地霊能者や悪魔等への交渉をお願いします。その他雑事や身の回りに関することはお任せください」
「わかった。追加で必要な物資があればリストに纏めた上でコイツに言え。本国から持ってくる」
「ういうい。よろしくねー、隊員さん」
「了解しました。その際は是非お願い致します」
というようなやり取りからしばらく。
自衛隊が保護したという霊能者から話を聞き、あたし達はまだ合流していない現地民との交渉や周辺の見回りに徹していた。
交渉役には見た目と実力を兼ね備えた霊視ニキ達が出向き、あたしとシオリっちは出没する悪魔の討伐に繰り出す。
世界的な霊地活性化の影響はハワイにも例外無く現れ、日本のように鎮静化の結界も張られていないせいで出没する悪魔のレベルも高い。
同じく日本の霊能者よりも平均レベルの高い現地民でも相手をするのは難しく、本来の戦力である戦士達は皆メシア教に駆逐されてしまった後ということもあり割とヤバい状況やね。
自衛隊の拠点が無事だったのも、本国から持ち出してきた結界装置やデモニカ装備、それと彼らの部隊としての練度によるところが大きく、それにしたって長くは保たないという状況だったようだ。
ま、あたしらが来たからにはその心配もなくなったけどね!
あたしの【エネミーサーチ】とシオリっちの機動力、そして飛丸の隠形警戒を以てすれば現地の野良悪魔如き野良猫も同然よ。
早々に要所を押さえて悪魔の発生を抑制したあとは、霊視ニキが連れてきた現地民を匿いつつその世話の手伝いをすることが増えていった。
それというのもこの現地民ってのがねー、まーじーで女子供しかいねぇの!
戦士達はメシア教に駆逐されたってさっき言ったけど、この戦士ってのがイコールで大人や男手なのね。
残されたのは女子供ばかりという追い詰められた状況で、追加で保護されていく現地民も同様。
間違いなく霊能者としては滅びに向かうしかない状況だからこそ、一縷の望みを懸けてガイア連合の傘下に加わることを決意したってわけだ。
……一族再興のための男手っつーか種は、間違いなく連合から供出されるんやろなぁこれ。霊視ニキを見る目がかつてのイタコ衆と同じだもん。
まぁそのへんの段取りは上が用意してるだろうからそっちに丸投げするとして、集められたのが女子供ばかりということは、一口に保護するといってもまーそう簡単にはいかないのよ。
なんといっても子供だからね、状況を呑み込めてないけど父母を奪われた幼児もそれなりにいるし、あっちこっちでグズるチビや泣き喚くガキンチョが絶えない。
そこで一肌脱いだのが他ならぬこの命子さんってわけよ。
元芸人として泣く子がいるなら笑わせてなんぼ。彼らの祭神だっつー【カマプアア】の神話を再現した人形劇で注目を集め、そのまま上手いこと宥めすかして事なきを得た。
意外にもこの人形劇が彼らの保護者や年長の子供達にも人気を博し、彼らからレクチャーを得て演劇を更に改良し、より詳細な神の姿を取り入れた人形を新しく作って何度も上演するうち、次第に彼らの信頼を寄せられつつあった。
いやー懐かしいなぁこの感じ。前世だと旅先で路銀に困ったときは、こうやって大道芸しておひねりをもらってなんとかしてたのを思い出すぜ。
現地の文化を取り入れると単純にウケがいいんだよね。おかげであとから合流した現地民もすぐにおとなしくしてくれるし、芸は身を助くってやつだな!
「ただいま戻りました……っと、命子もお疲れ様です」
「巴姉おかえりー。霊視ニキは?」
「薫さんならモードレッドさんと一緒に責任者へ報告にいっています。保護した方々もまずは休息をということで別室です」
「ういうい、いつも通りってことね。経過はどう?」
「当初懸念していたほどの襲撃は無かったですね。メシア教も沈黙を保ったままで……交戦したのも先に現地民を
「そいつらを見かけた覚えがないってことは、軒並み霊視ニキのゲンコで沈められてたか。所詮は悪魔ってとこじゃんね」
「ええまったく。……とはいえ見るからに罠とわかっていても縋らざるを得ない彼らの状況を同情こそすれ、責められるはずもありませんしね」
ほーんとメシア教がクソなのは当たり前だけど、悪魔も悪魔で大概クソなんだよなー。
大体弱みを抱えてる状態で悪魔と交渉なんてするもんじゃないんだけど、そういう窮地に付け込んで取り入るのが上手いからこそ悪魔とも言える。
まぁそういう連中に有効なのは古今東西暴力と相場が決まってるんで、その点でもやっぱ霊視ニキが適任やね。シオリっちはそのへんどうしても甘いからなー。
「そちらも無事なようで何よりです。命子のおかげで子供達も随分大人しくなったと、年長組が感謝していましたよ」
「んふふ、まぁねー。あとはホビー部の玩具もウケがよかったし、大半がキッズだったのも相性が良かったかもね。巴姉が一緒になってはしゃいでたのも知ってるよん」
「な、なぜそれを……!?」
巴姉が娯楽好きなのは長老経由でリサーチ済みだからね。
つかいい加減里も電化して久しいし、テレビだけじゃなくてゲームとかも導入していいんでないかい?
そのへんもホビー部に話通しとくか……霊視ニキも否とは言わんやろ。
イタコってその性質上全国から身寄りのない子供を集めてるし、今更杓子定規に伝統に則る意義も無いんだから、そのへんの娯楽も充実させていいだろうしねー。
「ま、まぁそれはともかく……要救助者は粗方確保できましたから、そろそろ出立の準備をするとのことです。一週間後には離れるつもりのようですよ」
「おっけー、んじゃそのつもりでいとくわ。巴姉も休みなー」
「ええ、それでは失礼しますね」
自室に戻る巴姉を見送ると、ようやく終わりかと思わず溜息が漏れる。
結局観光って雰囲気でもないからあんま楽しめてないし、日々集まってくる現地民もまぁ暗い顔してばっかだから気が滅入るんだよねぇ。
お土産は先にパパパッと確保したけど、今となってはとっとと帰りたい気持ちがおっきいわ。
「戻ったわよ、命子。……どうしたの? 溜息なんか吐いて」
「世知辛い世の中だなーって。シオリっちは大丈夫?」
「こちらは問題ないけど……やっぱりメシア教の動向が気になるわね。ここまで全く動きが無いのは奇妙を通り越して不気味だわ」
「流石にここまで保護に動くと捕捉されそうなもんだけど……泳がされてんのかね。こりゃ帰国前に一波乱はあると思ったほうがいいかもね」
こと霊能界隈で順風満帆に事が運ぶなんてこたぁ早々無いからね。凪が続いた分来たる嵐はでっかいのが通例だ。
当然霊視ニキもそのことは念頭に置いてるだろうし、そのためにあたしとシオリっちっていう高レベル異能者を連れてきたんだろうから、あたしらの方でも警戒しておくか。
「来るとしたら逃げ場の無い海上か出港前後ってところかなぁ? つっても市街地だし、そう派手な動きはできんっしょ」
「仮に海上だとしたら厄介ね……私達は無事でも船を沈められたらひとたまりもないもの。なるべくそうはなってほしくないものね」
「ま、お互い注意しておきましょってことで。一週間後までには発つみたいだから、シオリっちも備えておいてね」
「わかったわ。それじゃあ先に部屋に戻ってるから……命子も根を詰めすぎないでね」
HAHAHA、根を詰めるなんて言葉はこの命子さんには最も縁遠い言葉ですぜ!
ま、パパッと護衛用の人形を増やしてから休むことにしますかぁ。
◇
市街地だから派手な動きはないと言ったな。スマン、ありゃあ嘘だった。
「白昼堂々襲撃だと!? トチ狂ってんのか連中!」
「皆さんは後ろへ、自衛隊の方々はその警護と周辺住民への対処を! 敵は我らで受け持ちます!」
三日後に帰りの船の寄港を控えたある晴れの日に、突如として飛丸が警告の遠吠えを上げたことで飛び出したあたし達が目撃したのは、空を埋め尽くす天使の群れ。
揃いも揃って武器を構え、剣呑な視線をこちらに――巴姉とシオリっち、そして逃げ込んだ現地民へ向けていた。
拠点に設けた警戒網やあたしの【エネミーサーチ】を潜り抜けて奇襲だと? 飛丸が気付かなけりゃまんまと先手を取られてたところだったじゃんね。
咄嗟に探ってみたところ後方にメシアンと思しき不審者集団の気配はあるが、天使の気配がギリギリまで無かったのはどういうことだ?
いくら非覚醒者に天使の姿は見えないとはいえ、対天使用に構築した警戒網を潜り抜けてこうも至近距離まで接近されるなんざ……
『いや、考えてる場合じゃねぇな。飛丸、先にメシアンを始末しろ。そっちが終わったら好きに天使を喰っていい』
『了解、ダ! オレノ分ハ残シテオケヨ、ゴス!』
『だったらとっとと行け!』
念話で飛丸に指示して後方のメシアン共の殲滅を命じ、現地民の護衛に人形を差し向けて天使軍団に向き直る。
構成しているのは全て【アークエンジェル】とはいえ、異界でもないのにLv20弱の悪魔がこうも数を揃えるとかいくらなんでも無茶苦茶だろ!
いくら日本国内よりも霊地が活性化してるとはいえ、それだけでこんな簡単に悪魔を揃えられたら今頃地上はとっくに悪魔の天下じゃ!
『困りますねぇ、我々のマリアを拐かすなど』
「あァ、マリアだぁ? 起きながら寝言ほざいてんじゃねぇぞクソが!」
「……どっかで聞いたフレーズじゃんね。さてはテメェあいつらの仲間だな?」
『"人形遣い"……よもやこの地で相見えようとは。貴様が奪った極東のマリアと大聖母のこと、同志達より聞き及んでいるぞ』
ハッ、あたしも随分名が知られたみたいじゃんね。
そしてあのクソ共の縁者で確定と。相変わらずマリアだの聖母だのときっしょい連中だわ。
にしてもまさかここまで因縁が続くたぁね……これだから霊能界隈の縁ってのは怖い。望んでもねぇのに引き合わせやがる。
「……貴方達は何をするつもりなの?」
『知れたこと。貴様ら悪鬼共の手から我らのマリアをお救いし、来たる救世主の礎に据えるのだ。――無論我らとて無策ではないぞ、見よ!』
目を据わらせたシオリっちの問いに先頭に立つ天使が自信満々に振り仰ぐと、強烈なMAGの奔流が現出し悪魔を召喚する。
『ゴス! ニンゲンガシンダ!』
『あぁ? 殺したじゃなくって?』
『喰イ殺スマエニシンダ! 変ナ機械動カシテシンダ!』
その最中に届いた飛丸からの念話。うちのワンコが仕留めるより先に自ら命を捧げたらしい。
変な機械、との報告に訝る間もなく巨体が現れ、注意は否応無くそちらに向けられる。
市街地に屯するどの住居よりも上背のある醜い異形。大口を開き、だらだらと垂れ零す涎からは食欲しか感じられない。
だが問題はそこではなく、見覚えのあるその姿とMAGの気配にこそあたしは警戒し――シオリっちの顔から表情が消えた。
「邪鬼――【ネフィリム】……」
『如何にも! 今は亡き大聖母の遺児が一つ! いずれ淘汰される命ではありますが、悪鬼へ向ける尖兵としては有用でしょう』
よりにもよってそいつをあたしらの前に出すかよ……。
レベルは40……随分とまぁ丹念に
あたしとシオリっちで制圧する前に外へ出された
『貴様らはここで確実に潰し、禍根を絶つ。そしてマリアを我らの手に、救世主の礎となるのです』
「テメェ……女子供だけに飽き足らず、俺のツレまで誑かそうってか?」
『類まれなる力を宿す母体は我らにこそ相応しい。全ては神のため、正義のため、遍く秩序を齎すためです。故に果てなさい、異教の悪鬼達よ』
御高説を垂れて悦に浸る天使共。お前らって本当にどこでも変わんねぇのな。
ほんとにすげぇよお前ら……
「さぁ往きなさい天兵達よ! 我らに神のご加護があらんことを――」
「――そんなものは無いわ」
隊長格の号令で進撃を開始しようとした矢先、
Lv40。小国を落として余りある地上における超抜戦力が瞬きの間に死に、MAGの光として塵になっていく姿に天使達の出鼻が挫かれる。
その
『なッ、――!?』
「本当に……本当に――哀しすぎて嫌になる。正義を掲げてこんな真似をする貴方達が。――そんな貴方達に憐憫を抱いてしまう自分が」
血の涙を流しながら大鎌を横薙ぎに一閃、天使達から翼が奪われ地に堕ちる。
すかさず霊視ニキが拳で頭蓋を砕き、念入りにMAGへ還す。
遅れて合流した飛丸が地に伏せる天使達を貪り喰らい、豪勢なランチに舌鼓を打って歓喜の遠吠えを上げた。
『その姿……否ッ、その御力は、まさか――!?』
「誰も彼も同じ反応ね。
先に死ねた天使は幸運じゃんね、なにせ
なまじ生き残ってしまった方こそ悲惨だ。
かつての大覚醒で見せた
それは即ち、彼女の基準に抵触した、自分の
およそメシア教の天使であるならば、実力でシオリっちを上回らない限り戦いの土俵にすら上がれない"天使殺し"――それが【大天使 サリエル】のデビルシフターとしてのシオリっちの、今の力だった。
『あああアァアアア嗚呼――!? 光が、神の愛が遠ざかって――!!』
「――背を向けたのは貴方が先よ」
こうなると天使の末路はいつも一緒だった。最期まで怨嗟と絶望の声を上げながら地獄へ落ちていく。残る天使達も同様に。
……例えメシア教の天使でも余計なことしなけりゃあ真っ当に死ねるだけで終わるのに、下手にシオリっちの逆鱗に触れるからこうなる。
用途が限定されすぎてる上に、対外的な風評がよろしくないからシオリっちも滅多に使いたがらないっていうのにさぁ……案の定、一部始終を見ていた現地民の目に恐怖が宿る。
「……ごめんなさい、先に帰らせてもらっていいかしら。この先は大丈夫なはずだから」
「おう、無理はするな。こっからは俺達だけで大丈夫だ」
人間態に戻るも、救助した現地民から向けられる視線が堪えたのかシオリっちが顔を伏せる。
多くは語らずにシオリっちを先に日本へ転移で送り届けると即座にホノルルに戻り、どうにも神妙な空気になってしまったのを振り払うように声を張り上げる。
「はいはーい、敵も撃退したんで避難進めるよー。ちんたらしてないでとっととホノルル港に移動する!」
「命子、本社から隠蔽結界符を持ってきてくれ。あれだけの戦力のあとだ、そんなすぐには二の矢もねぇと思うが念の為だ」
「そう言うと思って手配済みよー。予定日までの塒が決まればパパッと処置できっからさ、さっさと移動して一息つこうぜ!」
「そういうわけだ。慌てず車に乗り込め、台数は十分ある。全員が乗り込んだのを確認したら出るぞ」
未だ動揺が収まりきらないまでも霊視ニキの圧に押されて車に乗り込む現地民を見守りつつ、全員の収容を確認して車を発進させる。
そして車内で一息ついていると、同乗していた霊視ニキが珍しくバツの悪そうな顔でおずおずと言った。
「……シオリには割りを食わせちまったな。なにかあれば遠慮なく言ってくれ、こちらで出来る限りフォローさせてもらう」
「いやまぁしゃーないっしょ、彼らの境遇的にもさ。シオリっちもそれはわかってるって」
それに現地民の方も理性では理解してるだろうしね。ただ感情の問題ばかりは余人がどうこう言ったところでどうにもならないってだけの話よ。
「つーか悪いの全部メシアンじゃん? なーんであいつらの仕出かしたことでシオリっちや現地民が嫌な思いしないといけねぇんだっていうね。どっちも被害者だから時間が解決するしかないんだよねぇ」
「まったくだ……あークソ共根絶やしにできねぇかなぁ~~~~~」
その後も口々にメシアンへの愚痴を言い合いながら、ホノルル港最寄りのセーフハウスへ向かっていった。
ったく嵐は来るだろうなって覚悟してたけど、メンタルに攻撃してくるのは勘弁してほしいじゃんね。
……そういやなんか忘れてるような気がするけど、なんだったっけな?
ん~~~~……考えてみたけど思い出せないし、大したことではないっしょ!
いつまでもクサクサした気分でいるのも鬱陶しいし、一段落ついたから今度こそ観光するぞ~!!
・カス子
今回も出る幕がなかった。というかこいつが本格的に動くときは大抵血みどろの集団戦なので動くとマズイ。
地上における実用性で言えば飛丸だけでも過剰な上に、大抵のことは人形に任せてどうとでもなるのがその要因。
すっかり変な機械(=COMP)のことを忘れているが、機能停止しているので大した影響はない。なにせもうすぐ生きたCOMPがショタオジの手に渡るので。
・邪視ネキ
レベルが追いつきトラピスチヌ修道院で見せた大天使モードを自由に使えるようになっていた。
しかしながら大天使形態で使える権能の用途が限られる上に、それを抜きにした強みが精々飛行能力くらいで、対外的な印象が悪すぎるせいで滅多に用いられることがない。
しかも堕天使認定できるのもメシア教の過激派天使のようなよっぽどブッチギレた連中くらいなのでますます使い道が無い。
――その代わり該当する天使に対しては無類の力を発揮する過激派天使の天敵。
クッソOSR力が高いのだが、そういう事情から知る者は殆どいない秘められしOSR。
大天使モードの外見も破面の帰刃状態をイメージすれば大体あってる。
・霊視ニキ
本家でハワイ異能者を保護した連合幹部。本作では諸々の縁を通じてカス子と邪視ネキが参戦。
本家作中ではさらっと流されてたので実際の作戦内容は九割捏造。でも単独でできるとも思えないし、諸々の支援に自衛隊が関わっててもいいんじゃないかなということでこのような形に。
今回の件を通じてますますメシア教への怒りを燃え上がらせた。
・自衛隊の皆さん
本作における影の主役。というか細かいことを全部丸投げできるのが便利すぎる。
無論表立っては動けないので表向きにはいろいろカバーを被っている。
まぁそのへんは上手くやったということでよろしくお願いします。本題じゃないしね。
・メシアンの皆さん
きしょいうんこ。
満を持して即殺されたネフィリムは、魔人ネキことカレン支部長の血を引くサラブレッド。転生者の血を引いているので潜在的なスペックはめちゃくちゃ高い。
魔人ネキが保護されるまでに出荷された落とし子はこうして利用されているようで、どうせ碌なことではない。
言うまでもなく本作におけるクライマックスのための布石である。
本家様で描写されていたクトゥルー召喚直前の、ハワイ異能者の保護任務の話でした。
霊視ニキが関わってて、天使の襲撃もあったとなれば関わらない選択肢はなかった。
その上で本作の独自設定もこねこねすると、メシアンの特級戦力として魔人ネキの落とし子である特製ネフィリムが生まれました。
ここからは他三次創作者様へのお礼をば。
れべっか様、カス子を登場させていただきありがとナス!
三人娘視点の馬ニキは「終末後にわざわざ長野から道南まで美少女メダでロボトルをしにきた変な人」です、よろしくお願いします。
本題に入らずすごすごと帰っていったのマジで草なんだ(