【カオ転三次】今更転生ごちゃまぜサマナー   作:ふーじん

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29話:穏健派なるもの

「本日は面会の機会をいただきありがとうございます」

「――いいえ。こちらにとっても今後を占う一大事です、お気になさらずに」

 

 ガイア連合山梨支部の応接室に緊張が奔る。

 上座に位置するのは道南支部長であるカレン。その左右に幹部のシオリと命子が侍る。

 対面には面会を希望してきた、一見して人好きのする愛嬌に満ちた女――テンプルナイト・幸子。

 曰く昨今世間を賑わすメシア教の()()()と袂を分かったという平和主義の()()()、その首魁だ。

 

 言うまでもなく大半の連合員、現地異能者にとって不倶戴天の敵であり、穏健派を標榜していようとそれだけで遺恨を晴らせるような間柄では決してない。

 にも関わらずこうして表向き穏当に対話の機会を設けたのは、先の日本神解放作戦に際し過激派の防波堤となったのが彼らだからであり、その功績と縁を以て手を組むことを連合上層部が決めたからだ。

 

 しかしながら密室に緊張が満ちる一番の理由はそうした因縁によるものではなく――見届人として【ガイア連合】の総領主、"神主"峰津院道満が立ち会っているからに他ならない。

 言うなれば神、あるいは大魔王の御前での宣誓にも等しい場であり、誰もが瑕疵を見せぬようにと神経を尖らせていた。

 あの奔放が形になったような命子すらも固唾を呑んで見守り、シオリはメシア教への敵意を努めて秘し静観に徹している。

 一見して余裕があるように見えるのは笑みを絶やさないテンプルナイト・幸子と、鷹揚とした態度を取ったカレンくらいだった。

 ――当の元凶たる神主その人は、見守るように薄い笑みを浮かべて宙空に胡座を掻いていたのだが。

 

「お互い歓談する間柄でもないでしょうから単刀直入に参りましょう。――そちらの要望である()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()についてですが……」

「はい。先の作戦での便宜に対する報奨として要求する機会を得たものと認識しています」

 

 先に口火を切ったのはカレン。

 その内容は彼らメシア教穏健派が連合の傘下に加わるきっかけとなった日本神解放作戦、その功績に対する報奨として求めた待遇についてだった。

 不倶戴天の敵である彼らを組み入れるばかりか、その活動まで保障し保護せよという要求に反感と憤りを見せた連合員は多い。それは黒札(転生者)非黒札(現地民)問わずだ。

 無論その場で確約するほど連合も甘くはなく、弁明の機会を与える程度に言質を取っていたが……その対応にも是を示し下手に出る姿勢すら見せた穏健派に肩透かしを食らい、ある種の情を見せる形になってしまった連合員も少なからずいた。

 

 メシア教に反感を持つ黒札は多い。多いが、しかし実体験としてその脅威を感じたものは案外少ない。

 黒札の多くは本社に籠もり、一部の例外が各々の事情で地方活性化に動き、現地民を通してメシア教の実態を知るくらいだった。

 つまりは原作知識という色眼鏡(偏見)を通しての敵意が殆どであり、また地方にて実情を知る者達も地方運営上の諸々の不足を認識するにあたり、不承不承ではあるが穏健派の参入を許さざるを得なかった。

 直接の怨恨を持つ現地組織も、恩人にして支配者である黒札がそう言うならば苦渋を呑んで受け入れるしかない。

 

 かくして当初こそ反発の強かったメシア教穏健派の参入は、未だ反感を抱えつつも連合傘下として受け入れられつつあった。

 目立った例外は連合でも屈指の強者であるセツニキのお膝元である岩手支部や、同じく大幹部である霊視ニキの坐す恐山擁する青森支部。支部を丸ごと監獄として起ち上げた十勝の支配者ウォレスニキくらいだろう。

 名目として支部の置かれた地方に関しては各々の裁量に委ねるとして決定権を与えられているが、上記のような例外でもなければ大なり小なり干渉を許さざるを得ないのが実情だった。

 

 対して、道南支部長カレンは。

 穏健派の求めるところを諳んじ、吟味するように目を伏せた後――その冷徹な美貌に相応しい冷たさを乗せて口を開いた。

 

「――()()()()()()()

「…………」

 

 口調は慇懃に、しかし断固とした拒絶の意志を示しながら一方的に告げた。

 さしもの幸子も笑みを僅かに崩し、しかし即座に何故を投げかけずにカレンの意図を咀嚼する。

 ややもして口を開いた幸子の声には、半ば観念したような、ある種の達観が宿っていた。

 

「トラピスチヌ修道院の件ですか」

「ええ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をどうして受け入れられるでしょうか?」

「確たる証拠が――」

「心にも無いことを仰る。我々が旧トラピスチヌ修道院(古巣)に居を構えている時点で察しはついていたでしょう? 何より――」

 

 ――()()()()()()()()()()()()、と。

 そう明かしたカレンに幸子の顔からますます笑みが抜け落ちた。

 

「各地から拐かした乙女を犯し、仔を産ませ、素質あらば聖母と称して改造を施し半人半魔の異形(【ネフィリム】)を産ませる。そうでないならば脳髄を引き出し聖具に改造し、天使賛美の道具に据える。――これを悪とも思わぬ外道の輩と取り合う手は、我々は持ち合わせません」

「我々は彼らのような過激派とは違います」

「ならばその名を捨て、今一度主を信じなさい。天使信仰という異端を脱し、祈りを以て主を讃えなさい。無論俄には信じられるはずもありませんが、それでも尚信心が真と認められたならば、隣人として手を取り合う余地も生まれるでしょう」

「――――」

「貴方達は一度、そうして祈りに生きてきた同胞を裏切り、その尊厳を踏み躙ったのです。――貴方達が如何に自らを穏健派と称し、過激派(彼ら)とは違うと主張したところで……同じ看板(メシア教)を掲げる限り信じるに値しませんよ」

 

 終始冷徹にそう言い放ったカレンに対し、幸子は二の句を継げずに押し黙った。

 いっそ人形的な程にそれでも笑みを絶やさなかったのは見事だったが、この状況では却って不審にしか見えないことを果たして彼女は自覚出来ていただろうか。

 暫しの黙考の後、今度こそ観念したように小さく息を漏らすと、立ち上がって深々と頭を下げた。

 

「――わかりました。今回は御縁が無かったようで……残念ですがこれにて失礼させていただきます」

「態々ご足労いただいた中、ご希望に添えず恐縮です」

「いえ、これも因果というものでしょう。けれどもしお声がけがあれば、我々は喜んで手を差し伸べましょう」

「――そうあれる日が来ることを私も願っていますよ」

 

 神主の式神に連れられ退室する幸子の背を見送り、その気配が遠ざかったのを察してようやく緊張の糸が途切れる。

 カレンは鉄面皮を湛えたまま変わらないが、シオリは思い出したように冷や汗を一筋垂らし、命子は「ぷはぁ!」と大きく深呼吸した。

 ケラケラと笑う余裕を見せられたのはショタオジくらいだった。

 

「いやぁ魔人ネキってば終始キレッキレだったねぇ! 取り付く島もないとはこのことだよ」

「態々ショタオジが立ち会っていただけたのも、我々の事情を汲んでのことでしょう? お手数をおかけして面目次第もありません」

「それはあったけど、まぁ杞憂だったね。霊視ニキのほうがまだ荒れ気味で気が抜けなかったよ」

 

 そう、ショタオジがこの場に立ち会ったのは、メシア教の直接的な被害者とも言える三人が一堂に会する面談を危惧してのこと。

 何と言ってもそれぞれがメシア教に対して恨み骨髄、連合でも高レベルに位置する排斥派であるために、単に破談に終わるだけならともかく刃傷沙汰に発展したならばショタオジでなければ無傷での制圧は不可能という判断によるものだった。

 それが言葉こそ棘のあるものだったが終始穏当に徹し、穏便な話し合いに留まったのは偏にカレンの鉄の意志によるものだろう。

 仮に対面していたのがシオリならば上手く丸め込まれ、命子だったならば勘気を抱いた瞬間に殺しに掛かっていたことは間違いない。

 その点カレンは本人の気質と支部長としての責任感で上手い具合に自制が働き、少なくとも連合としては遺恨無く終えることができた。

 それにショタオジは満足を示し上機嫌でいる。

 

「んで今後はどうすんのカレンちん? 受け入れないことは決めたけど定住してる連中は?」

「発見次第退去を勧告します。無論移住先の便宜や諸費用は手当しますが、応じない場合は過激派として処理するつもりです」

「まるで隠れキリシタンだねぇ、史実よりはずっと穏当な対応だけど。けど人手は大丈夫? 言っちゃあなんだけど穏健派のマンパワーは本物だよ?」

「全く痛くない、と言えば嘘になりますが……幸い命子さんの人形がいますので、単純作業ならば最低限なんとかなります」

「足りない部分は観光地としてテコ入れして引き続き参入を呼びかけていくよー。ショタオジも蟹とかホタテ食いたいっしょ?」

「それはまぁ確かに。最近は探求ネキやカタリナネキも頑張ってくれてるけど、天然物の海産物はやっぱ敷居高いみたいだし? それにやっぱ地方特産はまた別の醍醐味があるからねぇ」

「ちゃんと終末後を見据えて漁業ガチ勢も呼んでるから期待してくれていいよー。余裕できたら鍋パしようぜ鍋パ!」

「いいねぇ! 闇鍋もしようぜ!」

 

 穏健派の話題もそこそこに鍋で盛り上がっているショタオジと命子を他所に、未だ沈黙したままのシオリにカレンが歩み寄る。

 思い悩むシオリをカレンが優しく抱き留めてあやすように背中を叩くと、シオリがおずおずと口を開く。

 

「……ごめんなさい、私何にもできなくて、二人に頼りきりで」

「適材適所というやつですよ。それにシオリさんが何も出来てないなんて、自己評価が低いにも程があります。貴方にそう言われては、皆の立つ瀬がありませんよ」

「でも私、いつも思い悩んでばかりで、なのに二人みたいにはっきりと動けなくて……」

「貴方の真っ当さがあるからこそ、私も命子さんも自分を信じて動けるんです。私と命子さんだけでは自制が利かず先鋭化するのは目に見えてます。――私も命子さんも、三人でようやく一人前なんですから」

「……それを言うなら私も、二人がいないとダメよ」

「だったら尚の事、私達は三人で一つです。どうかこれからも私達を助けてくださいね? シオリさん」

「――うん」

 

 悩みがちな次女(シオリ)長女(カレン)が慰める尊い光景と、それを眺める馬鹿二人。

 はしゃいでたのがいつの間にか静かに見守る態勢に移っていて、ヒソヒソ声で囁いていた。

 

「ごらんショタオジ、あれが本場のてぇてぇですよ」

「ナマモノネキが見たら鼻血を吹きながらスケッチしてそう」

「あの間に挟まれるのはあたしだけってワケ。どうだ羨ましかろう!」

「うーん……そういうもの? よくわかんないなぁ」

「ケッ、これだから童貞は! いい加減女の一つや二つ抱いたらどうやねん」

「そう言われてもなぁ、今のとこそういう縁も無いし……」

「嘘つけウチの長老がアタックしてるの把握してんだゾ」

「……なんで知ってんの?」

「本人がクッソ惚気てるもん、わからいでか。ショタオジも満更じゃないっしょ? 家柄的にも親戚筋らしいし、普通にアリなんじゃん?」

「いやまぁ……今は忙しいしね? 最低限終末乗り越えないことにはなぁ」

「今なら可愛い命子さんを始めとするイタコの若巫女がついてきてお得ですぜ旦那ァ」

「あ、今すっごくその気がなくなった。カス子ネキが親戚はノーセンキュー」

「なんでや!!!! 可愛い孫娘やぞ! 血は繋がってないけど!!」

「あの……二人とも? 見られながら騒がれると恥ずかしいんだけど……」

 

 ヒソヒソ声もどこへやら普通に騒ぎ出していた二人をジト目で見遣るシオリに、ショタオジは「さて戻らないと」と退散(転移)

 残された命子を責めるように頬を膨らませると、カレンもようやく仕方のないように笑みを浮かべた。

 

「ほんとにもう……あんまりからかわないでよね。外から言われるとすごく恥ずかしいんだから」

「ごめんて。まー傷心も癒やされたようでなにより! シオリっちはほんといちいち考えすぎなんだよなー」

「命子が考えなし……じゃないのは知ってるけど、突き抜けすぎなだけよ。目を離すと何をやらかすかわかったもんじゃないんだから……」

「まーまーまー! ほれほれ命子さんのここ、空いてますよ?」

「むう……」

 

 カレンの腕から抜け出て今度は命子を抱きかかえるシオリ。

 戦歴ではこの中の誰よりも長い三女(命子)が満足そうに鼻から息を吐くと、「さて」とカレンが口を開く。

 

「今日はスケジュールも空いてますし、せっかくですから本社に寝泊まりしていきましょうか」

「いいねー。久々に三人で下層アタックしてく? 最近レベル停滞気味だからここらで稼いでおきたいよねー」

「そうね……ハワイの件もあったし、もっと精進して備えないと」

「とはいえあまり気負いすぎても逆効果ですよ? 本番での平静を得るための修行と心得ておかないと、何のための研鑽かわからなくなってしまいますからね」

「真修羅勢みたいに修行のための修行なんてガラじゃないしねぇ。キリのいいとこまで潜ったら温泉入ろうぜ! 回復効果はやっぱ本社が一番だしねー」

「そうと決まれば行きましょうか。こんなところで立ち止まっていられないもの」

 

 そう意見が纏まると、三人は命子の【トラポート】で修行場に飛んだ。




・カス子
自由奔放なカスい三女。
メシア教? 碌でもないしスレイでいいんじゃね? となるので今回はお口チャック。
典型的な個人主義なので、究極的には組織よりも自分の好みを優先する。

・邪視ネキ
焦心苦慮な真面目な次女。
なんやかんや言って三人娘のバランサーを担ってるのはこの娘。
邪視ネキがいなければ残る二人は先鋭化して思想的に対立するので最重要ポジション。

・魔人ネキ
迅速果断な鋼の長女。
本当に必要なことならばたとえ仇であっても受け入れる合理性の持ち主。
でも邪視ネキが内心嫌がってることや、カス子が乗り気でないことを察し、改めて考慮した結果「別にメシア教いらんな」となったのでお断り。
単独で差配すると有能な独裁者になり得る適性の持ち主。

・ショタオジ
本日の立会人。別にどっちに転んでも良かったが、三人娘の意思が統一されていたことに満足した。
終末後には霊視ニキ共々カス子の(血は繋がらないが)親戚になることが決まってるガイア連合総領主。
二人ともその件に関してはとても不服に思っている。


今回は穏健派への対応についてのお話でした。
正直受け入れるか受け入れるまいか迷ったのですが、冷静に三人娘の立場になって考えてみたところ、名実ともに受け入れる余地が全く無かったので穏健派はノーセンキューです。
人手はパピヨンニキとKSJ研究所がいるからなんとかなるなる!(
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