【カオ転三次】今更転生ごちゃまぜサマナー   作:ふーじん

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38話:高貴なる死霊使い

「こうして直接顔を合わせるのは初めてになりますね。ネビロスと申します、どうぞよしなに」

「ドーモ、ネビロス=サン。命子です。いつも支援ありがとね」

 

 修行場異界深層にて。

 こないだぜっちゃんを通じてラブコールを送ってきたネビロス――黒おじの前にあたしら三人は立っていた。

 これまで幾度となく交信はすれど直接の面識はなかった黒おじを前に、シオリっちとカレンちんは油断無く警戒を示して無言を貫いている。

 かくいうあたしも言葉こそ親しみを込めているが、警戒の度合いで言えば初対面の二人より余程黒おじを危険視していた。

 

 眼の前に立つ黒おじは、原作メガテンのようなヴードゥースタイルではなく、黒男爵の異名に相応しい紳士然としたシルクハットに黒服の美男の形を取っていた。

 あたしらを見つめる眼差しにも友好の色が見え、一見して無害そうに見えるが――纏ったMAGの色にははっきりと好戦の意思が示されている。

 悪魔にとって友情とは、必ずしも無害であることを意味しない。どれだけ友好的に見えても力及ばなくば……あるいは隙あらば陥れることに躊躇のない超常存在だ。

 例えば今も――

 

「流石に無警戒に魂盗まれる(パクられる)ような真似はしねーよ」

「結構。そうでなくては」

 

 その視線で。声音で。一挙一動で。あたしらの魂を抜き取ろうと干渉していたのを遮断する。

 常人であれば相対するだけで魂を奪われるだろう手業も、彼にとっては呼吸をするに等しい。

 それをあたしが防ぐのも織り込み済みでかましてきたのは挨拶か挑発か……まぁどっちもなんだろうけど。

 

「見切りも覚えずにクジンシーと戦うようなバカはいないじゃんね」

「いいですね、好きですよロマサガ2。近頃魔界ではすっかり現代文化がトレンドになっていましてね。ゲームやりたさに地上へ低位分霊を送る者も多い有り様ですよ」

「かぶれてんねー。ぜっちゃん経由で文化汚染進みすぎでしょ」

「代行殿には頭が上がりませんよ全く。副王様も上手くやったものです……よもやこれほどまでに貴方方ガイア連合が幅を利かせることになろうとは。あの御方の見識は確かだったと認めざるを得ませんね」

 

 黒おじはソロモン72柱には名を連ねていないけど、ベルゼブブに仕える上級精霊の一柱として当然ぜっちゃんとも知己がある。

 というか日頃の付き合いで言えばあたしよりもずっとぜっちゃんと仲が良い気がするのは気の所為じゃねぇよな、じゃなきゃエロ本の貸し借りなんてしねぇし。

 

「で、こうして呼び出したからには戦るってことでいいんだよね?」

「ええ。思えば貴方との付き合いも長いですが、一度矛を交わしてみたいと思いましてね。今やガイア連合は星の行く末を左右する重要なファクターとなった。貴方方も最早並の神格では太刀打ちできぬ領域に至り、我ら悪魔の隣人として立とうとしている。……ならば試さずにはいられないのが悪魔のサガというもの」

「そこで()()()()()()とならないのが悪魔らしいじゃんね」

「今の御時世ではジョークにもならないでしょう、それは。――さて、舌の上で遊ぶのはここまでにしましょうか」

 

 黒おじが擬態を脱ぎ捨て、見慣れた姿の【堕天使 ネビロス】として現れた。

 これまでに見たどんな悪魔よりも高位の、霊格(レベル)にして100を数える正真正銘の超越存在。

 本霊に限りなく近い超高位分霊に、あたしらは挑む。

 

『私は地獄の元帥にして検察官。遍く魔神を監視し、あらゆる死霊を統べる者。――我が前に斃れたならば、死後の安息は訪れぬと知りなさい』

「シオリっち、カレンちん、あたしの指示で動いて! この戦いは――」

 

 戦闘ではなく――()()になるからね!!

 

 開戦と同時、あたしとネビロスは()()を展開した。

 あちらは悪魔と死霊の群れを、こちらは人形軍団に加えて【死想の魔人人形(サンタ・ムエルテ=アルレキン)】を。

 喚び出す人形兵は千を数え、下層での戦闘にも堪え得る上級兵を展開するが、あちらもまた同規模の死霊系悪魔の軍勢を展開し対抗する。

 両者の霊格はあちらが超越者級(Lv100)に対し、こちらはやや劣る準超越者級(Lv90台)

 大気中のMAG濃度の兼ね合いから同時に展開できる兵力は数の面ではそう変わらないが、練度の差で兵の質そのものはあちらに軍配が上がるだろう。

 軍の指揮官(指し手)としての力量はあちらが上回ることはこのあたしも認めざるを得なかった。

 

 だがあちらにはない特記戦力がこちらには存在する。

 それは指し手たるあたしと同等以上の個人戦力を誇るシオリっちとカレンちん。

 単体で通常戦闘時のあたしを上回る英雄ユニットの存在は、軍としての戦力を覆し得るジョーカーだ。

 それを示すようにカレンちんが先駆け、敵陣の真っ只中で挨拶代わりの【ティタノマキア】を繰り出すが――

 

『恐るべき威力です。しかし――』

「全体蘇生、ですか……」

 

 あたしにとっての降霊術の師とも言えるネビロスが、蘇生できない道理はない。

 こと降霊術に限ってはあたしを上回るネビロスが【ネクロマンシー】*1を行使し、斃れた配下を一匹残らず蘇らせた。

 そして間髪入れずに技後硬直の隙を突いて軍勢がカレンちんを数任せに叩くが、それをタフネスで耐え切ると復帰がてらの【ティタノマキア】で再び一掃し、【吸収追加】によってダメージに比例した流出MAGを取り込んで傷を癒やす。

 

「命子さんで見慣れてはいましたが……敵に使われるとこうも厄介だとは」

『そういう貴方も恐るべき剛力と耐久――ほぼ不死と言って差し支えないでしょう。しかし成程……その魂の色は――ふむ』

 

 感心しているところ悪いけど、こっちは容赦はしない。

 秘匿化した【念話】でシオリっちに指示を出しながら【魔人人形】を繰り出し、組み込んでおいた【石化ブレス】で敵兵を石に変えていく。

 シオリっちも同様に【ペトラアイ】で視界範囲内の敵を石に変えながら、石化を逃れた悪魔を大鎌で斬り伏せていった。

 

『成程、考えましたね。確かに石となっては私の支配は及ばない』

「お互い不死身戦術が十八番なのに対策しないわけないじゃんね!」

『こちらが同じ手で対抗しようにも当然対策済みでしょうね。これだから人間は恐ろしい、生来の未熟を恐るべき成長性と技術力で無限に補い克服する。我々悪魔には存在しない強みです』

 

 不死存在に対し【石化】を始めとする封印戦術は常套手段だ。

 あたしやネビロス級の不死にもなるとそれに特化した権能でもないとそうはいないが、()()()()程度の連中なら下層でもそれなりにいるから修羅勢は当然対策している。

 まぁその手段が()()()()()()()()()()()()だったり、()()()()()()()()()()だったり、個々人によって違いはあるけど……あたしレベルにもなるとそうした不死殺しにも対策しておくのは当然の嗜み。

 もちろんそれはネビロスも同様で、死によってはこの戦いは決着しない。故にあたしとネビロスの思惑は一致した。

 

「つまりは盤上遊戯――」

『――先に王手(チェック)をかけた側の勝ちです。紳士的でしょう?』

「上等じゃんね!!」

 

 返礼の【メパトラ】が石と化した兵を戦線復帰させると同時に、改めてあたしたちの戦争(ゲーム)は開始された。

 カレンちんとシオリっちには念話でそれぞれ前線維持と撹乱を指示しながら、あたしは【魔人人形】を操りつつ小隊長ユニットを捌きながら後方の【魔法人形】部隊を左右に展開。

 各属性の全体攻撃魔法を斉射し、併せて【死霊の呼び声】で呪詛をばら撒く。呪詛によって敵軍の火力を大幅に引き下げ、簒奪したMAGで味方の霊力(MP)を微量回復するが、それは相手も同じこと。

 本家本元の【死霊の呼び声】でこちらも同様の呪詛にかかり、相対的に効力が打ち消される。狙いはシオリっちとカレンちんに解呪の手間を割かせることだろう。

 実際息をつく暇も無いほどに数の暴力に晒されている二人にとって、その僅かな手間が大きな隙となるため実にいやらしい手だ。幸いなのは耐性装備があるため必ずしも呪いにかかるわけではなく、解呪手段も潤沢にあることか。

 あたしが使える手は当然ネビロスも使えるものと前提に考えた上で用意してきたのが功を奏している。しかしそうなると余計に指し手の実力が試され――つまるところあたしの責任が重大ってワケ!

 

 念話と念糸によって意思を配下ユニットと直結させ、戦場を俯瞰できる上空に位置取る。

 考えることはあちらも同じようで、さながらボードゲームの盤面をあたしとネビロス(プレイヤー)が見下ろすような形になった。

 事実一定規模を越えた集団戦闘において、戦場における個は埋没し戦力総体を構築する数に成り果てる。

 それを単一の意思の下に統率し、勝利を目指して駒を差配するとなればまさしく盤上遊戯だ。違うのはスピードチェスのようにターン制の概念が無く、対戦相手へのリアルファイト上等なフリースタイルという点か。

 指揮の合間合間に交わされる妨害(挨拶)を捌きながら、寄せては返す波のように蠢く戦場を見下ろしつつあたしは思考した。

 

 突出した単体戦力が数の戦場において個を主張するというのは先に述べた通りだが、あたしの軍におけるそれがシオリっちとカレンちんであるのに対して、ネビロス軍にはそれらしいユニットの姿は見えない。

 だがそれは存在しないというわけではなくて……文字通りただ()()()()だけだ。それが意味する理由を他ならぬあたしが誰よりも知悉していた。

 

 統率機でもある【魔人人形】の索敵術式をフル稼働させることで、ようやくその影が視えた。

 それは軍と軍が衝突して生じる波を掻き分けるようにして疾駆し、幻惑の暴風(【ミラージジャダー】)を撒き散らす不可視の殺意。

 ネビロスの従僕ともペットとも言われる【魔獣 グラシャラボラス】の高位分霊が、透明化の権能を駆使して戦場を撹乱していた。

 

(やっぱそうするよね――!)『二人とも、観測術式を繋げるよ。ほんのちょい(刹那)ラグはあるけど捕捉はできる。牽制には飛丸を出すけど、狙えるなら迎撃よろ!』

『この乱戦ではやや困難ですが留意しましょう』

『命子、私は千日手だけどいいの?』

『大丈夫、そのまま続けて。全体の動きを鈍らせることに意味があるから』

 

 ネビロスに先んじられはしたが、こちらも飛丸(グラシャラボラス)を放ち影を追わせる。

 日頃隠形による斥候ユニットとして使い倒している飛丸は、いうなればあたしにとっての()()だ。

 何かと便利な透明化の権能だからこそ、それを使われたときの不利も十分承知していて、だからこそ隠密技能と同等以上に探索技能を鍛え上げている。

 かつての【イヌガミ】から【グラシャラボラス】へ変異するきっかけとなった【グラシャソース】、その提供元であるネビロス配下のグラシャラボラスの霊格は飛丸をやや上回るが、長年をかけて合体を繰り返し成長を吟味してきた積み重ねもあって総合的な戦闘力はほぼ互角。

 単純な戦闘能力ではあちらに分があるが、対隠密ユニットを想定し探索技能を鍛え上げてきた飛丸の追撃は逃れられるものではない。

 不可視の殺戮者として無数の獲物を駆り立ててきたグラシャラボラスは慣れぬ追手へ鬱陶しそうにしながら、その意識を飛丸に割かざるを得なかった。

 片手間に放って効力を発揮できるほど攪乱戦術というものは甘くはない。対集団に有利な【ミラージジャダー】も飛丸を起点に放っては最大効率で敵を巻き込めず、兵力を僅かに削る程度に留まっている。

 一方で純粋性能で下回る飛丸もグラシャラボラスを仕留めるまでには至らないがそれでいい。そうして野放しにはしておけない遊撃戦力を抑えておくのが目的だからね、ウチのバカ犬はちゃんと役目を果たしている。

 

『よく躾けている。余程かの異界で鍛え上げたようですね』

「それプラス訓練相手にも困らないかんね。斥候組相手に散々泣かされた甲斐があったよ」

 

 マジで容赦ねぇからなセツニキゼミ!

 飛丸の訓練風景見たら動物愛護団体が絶叫するで。まぁ飛丸のナリでそんなこと言えるやつはいないけど。

 ついでにあたしもサマナーとして連携訓練をやらされたし、なまじ暴力で解決しきれない分野だからめちゃくちゃ苦労したわ!

 

 ちょっとした雑談の合間にも種々様々な妨害が飛び交い、指し手(プレイヤー)の思考を乱そうとする。

 先に王手をかけたほうの勝ち、という戦いだが、王手の定義については実は定められていない。

 結局のところ相手に敗北を認めさせればいいんだけど、言っちゃあなんだがあたしは負けず嫌いだし、ネビロスのほうもまたとない戦争の機会をとことん味わい尽くすつもりだろうから、戦意喪失による決着は考えにくい。

 となれば互いの軍を殲滅させるかと言えば、こちらも互いに大規模な蘇生が可能である以上早期決着は見込めない。勿論それなりにリソースは消耗するから兵力を削る意味はあるけどね。

 

 こちらの攻め手はシオリっちによる妨害とカレンちんによる大規模殲滅を人形軍団で補佐する形になる。

 対するネビロスの攻め手は戦力の逐次投入による負荷の押し付け。指揮官としての地位と権能をフルに活かした王道戦術だ。

 前世で嗜んでいたMTGで例えるなら、あたしは黒緑青(スゥルタイカラー)で、ネビロスは白青黒(エスパーカラー)のそれぞれコントロールタイプといったところか。

 シオリっちとカレンちんが示すハイパワーの緑と、陸軍元帥としての軍事力を示す白とで区別化された両者の違いは考察のし甲斐がありそうやね。今度MTGでネビロスに挑んでみてぇな。

 

 さてと、一呼吸できる程度には膠着状態やね。

 つっても殺っては殺りかえされ蘇生しあいーの泥沼状態だけど。戦場マスを塗り潰した端から別のマスが塗り潰されては元の色がもどりーのっていうモザイク模様だ。

 わかっちゃいたけど二人とも遅延戦術大得意なせいでまーじで一進一退。このまま何日でも戦い続けられるっちゃあ続けられるけど、事前に【食没】で溜め込んでたMAGも枯渇するだろうし、そもそもそんな何日も支部を空けたくないよね。

 生憎周辺一帯が隔離されてるわけでもないから時間の流れも外部と同一だしで、ちょーっとめんどくさいかなぁ。

 

 別に戦闘が長引いたからって心が先に折れるようなことはないけど、多分これ途中で飽きるやつやんね。

 戦力を連れてリタイアもできるけどそれはそれで無粋極まりないし、そんなことをすれば流石のネビロスもへそを曲げるだろうから今後の付き合いにも支障が出る。

 となるとどうしたもんか……流れ弾や妨害を片手間に捌きながら思案していると、ふと戦場に変化が生じた。

 

『では、これは如何です?』

「……流石ホスト、憎い真似するじゃん」

 

 こちらの心境を察しての手の変化に思わず笑みが溢れる。

 見れば消耗を見せた人形兵の霊核がネビロスに乗っ取られ、そのまま敵の手に堕ちる様子が映し出されていた。

 降霊術のちょっとした応用だろう。これまでのスピードチェスに将棋のエッセンスを加えた形か、確かにこれは味変が効いてて面白い。

 なにより気に入ったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()という挑発とも信頼とも取れるネビロスの意図で、となれば乗らなきゃ命子さんの名が廃るってもんだ。

 

 人形操作を半自動から自動に切り替え、浮いたリソースでネビロスの死霊に霊糸を繋ぐ。

 ちょうどカレンちんの範囲攻撃が掠め消耗を見せた隙を突いて霊糸を接続し【デビルクラック】。

 手持ちの素材を消費してそのまま【ドロイド(人形化)】させ、即席の人形兵として安定化させた。

 名付けるなら【粗製人形】と言ったところか。趣味じゃないから試したことのないぶっつけ本番だったけど、まぁこんなもんかな。

 当然正規手段で造った人形ほどの性能は無いが、それはあちらも同じこと。命なき人形を無理矢理【死霊化】するなんて無茶の反動はユニット性能に現れている。

 だが、これで再び局面は動き出した。

 

「こっからは争奪戦も込みだね」

『遊戯なればこその楽しみ方でしょう。……さて、ギアを上げていきますよ』

 

 消耗したユニットを味方化させるルールが追加され、プレイヤーが干渉する余地が増えたことで俄に指揮も忙しくなる。

 混沌はより度合いを強め、隣にいる味方が真実味方とも限らない疑念が鈍りを生み、鈍りは隙となって更に混乱を招く。

 あたしの人形兵もネビロスの死霊兵も、個を確立するレベルではないが状況判断ができるだけの自意識は宿している。

 その未熟な自意識を翻弄する戦術がプレイヤー間に生まれたことで、自意識を持ちながら指揮に従順な本物の兵力となって恐れも躊躇も無く喰らい合う。

 

 例外は特記戦力……シオリっちにカレンちんに飛丸、そしてあちらのグラシャラボラスのみ。

 二人の方は長年の経験が生きて、この局面でも混乱なく対応できている。とはいえ消耗の度合いはやや強くなってきたかな。

 飛丸とグラシャラボラスのワンココンビは撹乱の意味が薄くなったことで本格的に対峙し、時折影をチラつかせながら戦場のやや外で文字通りのドッグファイトを繰り広げていた。

 

 さーてさて、どうすっかな。

 変化は生じたが、じきに戦場も再び膠着するだろう。

 これがお遊びでなければ他所から戦力呼び込むなりしてとっとと決着をつけるとこなんだけど、部外者はあくまで観戦に徹するつもりらしい。

 勿論まだ切り札はある。使えばこの状況を打破し、決着をつけられるだけの自信はある。

 あるけど……こちらから明かすのは、癪だ。あたしは相手が満を持して唱えた呪文(スペル)対抗呪文(カウンター)で打ち消すのが大好きなのだ。

 だからネビロスのほうからまた動いてくれないかな~なんてチラチラ見るんだけど、ニッコリ微笑まれて流される。

 さすがに二度目のサービスは無いか。となるとどうしよっかなぁ、飽きが来る前にこっちから動くしかないのか……とりあえずまだリソースに余裕があるうちは見に徹しておこう。

 

 あたしの駒として戦う二人には負担をかけるけどね。ほんと二人との縁は今世で得た最大の宝物やで。

 あたしら程の高位能力者で、こうも積極的に組める相手というのは希少だ。

 日頃から行動を共にし、連携を組み込めるまでに戦いを知悉できた仲間というのは、この領域に到れる者の少なさと、上位者特有の我の強さからなかなか成立しない。

 星祭組を筆頭とする修羅勢にあるのは極めて高度なスタンドプレーから生まれるチームワークであってチームプレイではない。――けれどあたしら三人はチームプレイを前提にもできる。

 あたし以外でこれを実現できてるほど仲が親密なのはそれこそKSJ研究所の三人組くらい……フッ、美少女揃いな分こっちの勝ちやな。ていうか元とはいえ仮面ライダーレイプには負けたくない(

 

 そんなことを脳休めに並列思考の片隅でつらつら考えながら、応酬を続けること小一時間。

 体感的にはあっという間ながら、傍目には一向に勝敗がつかない戦況に飽きも覚え始めるだろう頃合いで()()は来た。

 

(? ……ッ、ヤバ――)

『、シオリさんフォローを!』

『了解!』

 

 ほとんど無意識に全ての意図()を断ち、転げ落ちるようにして地上へ身を投げた。

 指揮の一切を投げ出しての回避行動に指揮下の人形軍団は一斉に動きを止め、それに気付いたカレンちんの状況判断でシオリっちがフォローに回る。

 カレンちんの消耗を厭わない【地母の晩餐】で敵陣に風穴を空け、そこに滑り込んだシオリっちが結界術式を展開して敵を遮断する。

 そして飛行する間もなく墜落していくあたしの見上げる先で()()が迸った。

 

『あ――ッッッぶねェ~~~~~!!! 直撃食らったら自己蘇生(リスポーン)もしんどい一撃だった!?』

『アレは呪詛の炎――!』

『純粋な耐久力に乏しい命子さんでは危うかったですね』

 

 それを回避できたのはほとんど運だ。

 理屈ではない直感が脳裏に奔り、それを無意識で信じたあたしの体が咄嗟に行動していた。

 結果としてそれはファインプレーとなり、仮にあれの直撃を食らっていたら、魂をも焼き焦がす呪いの炎で不死殺しに耐性を持つあたしですら蘇生に時間がかかり――結果としてこのゲームは敗北に終わっていただろう。

 

 マジでとんでもねぇアンブッシュだよ!

 そして下手人は見当たらない。グラシャラボラスのように視えないのでもなく、死霊軍団に紛れているのでもない――ただただ単純に()()

 この戦場にいるものが干渉しようもない遠方から、地獄の熱線を放って戦況を一変させ得る何者か……その正体にあたしはすぐ思い当たった。

 

()()呼んでたのはあたしだけじゃないってワケね。今のは【ゴモラの獄炎】――()()()()()()()()()()()()()!」

『勿論その通り。我が盟友殿も貴方方と遊びたがっていましてね』

 

 返事代わりの獄炎が再び迸る――回避。

 あるとわかっていれば対処は可能だが、なるほどとんでもねぇジョーカーを繰り出してきたじゃんね。

 黒男爵ネビロスとセットで語られる赤伯爵こと【ベリアル】。

 その戦力は作品によっていくらかバラつきがあるが、いずれの場合でも最高位の【魔王】であり、火炎属性を得意とする獄炎の反逆者。

 そして今あたしを狙った【ゴモラの獄炎】は、特大威力の火炎属性ダメージを与える()()()()()()――デビサバ2の隠しボスとしてのベリアルのスキルだ。

 

 超火力無限射程攻撃をスナイパーに配置させてあるとか殺意が高いにも程があるぜ。

 先にネビロスがデビサバ2の色を濃く戦っていなけりゃ意識の片隅に浮かんでいなかっただろう。

 自分でも自覚するに至らないもしもの可能性を片隅に置いていたおかげで、直感を働かせるだけの土台が整っていたということだ。

 

『命子さん、統率は取り戻せますか?』

『できるけど芋砂がいる状況ではムズい。こりゃこっちも切り札見せるしかないねぇ』

『この期に及んで出し惜しみして負けるほうが恥ずかしいわよ。……全力で行くわ』

『うい、んじゃシオリっちはベリアルに対処よろ。カレンちんは引き続きよろしくねー』

『了解しました。それでは時間を稼ぎます』

 

 いやー参った、さすがにこれには命子さんもびっくり。

 だけどちょうどいい理由付けにはなったね。やっぱりネビロスってば盛り上げ上手じゃんね。

 こちらへの前フリが上手いったら……案外GMとかやってみても面白そう。今度お願いしてみよっかな。

 

 ともあれ仕切り直しだ。

 既にカレンちんが戦線復帰し、あたしとシオリっちに近づく死霊兵を迎撃する傍ら、数秒の間でネビロスと視線で会話する。

 

 ――さて、どう出ますか?

 

 決まってんだろ――必殺技だよ!

 あたしは外套――式神装備【闇の衣】を翻して裾を広げ、()()()()()()()()()()()使()()()

 

「甲縛式O.S.――【月蝕人形劇場】、開演」

 

 闇の衣から影が広がり、影は多腕となって歪な蜘蛛の形を取る。

 蜘蛛脚は闇の糸を手繰って巣を張り、獲物を捕らえるようにして糸を巡らせ、結んだことごとくを人形と化す。

 停止していた人形兵の統率を取り戻し、その全てを手動操作(マニュアル)で支配するがあたしの処理速度に翳りは生じない。

 そして主戦力となる【死想の魔人人形】には無数の糸が結ばれ、あたしと同等の領域にまで霊格(性能)を引き上げ、血が通うかの如くぬるりと動き出した。

 

 これがあたしの奥の手の一つ、甲縛式O.S.【月蝕人形劇場】。

 その効果は思考処理能力の高速・並列化の著しい強化と、指揮する人形兵全てをフルスペックかつマニュアルで意のままに操るというもの。

 探求ネキの著した技術書に記載されていた甲縛式O.S.を、ペルソナ技術ではなく降霊術からアプローチさせて実現させたとっておきだ。

 ……効果が地味だって? だったら挑んでみろよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に真っ向勝負で勝てるんならよぉ! 兵力は無尽蔵だし今も成長途上だぞオラッ!

 あっでもカオルニキやショタオジ、あとセツニキは勘弁な。前者二人は単なるレベル差の暴力だけど、セツニキは相性不利ってレベルじゃねぇんだワ(

 

「対面してのゲームも面白かったけど、そっちがその気ならこっちもやりたい放題やっちゃうかんね!」

『面白い……やはり貴方に目をかけて正解でした。よもやこの私と降霊術で対等に張り合おうとは!』

「言っとくけどタイムリミットはすぐだぜ?」

 

 頭上に()()()()()を戴きながら、あたしは人形軍団を総動員した。

 極限まで強化された高速並列思考のもと一切のラグもロスも無く操られた人形兵は、一体一体が高位分霊に匹敵する性能(スペック)を有しながら、あたしのイメージ通りに展開してネビロス軍を飲み込む。

 その動きは先程までとは別格であり、透明化しながら機を窺っていたグラシャラボラスを【魔人人形】を索敵したと同時、その情報を共有された人形達が取り囲み急所を過たず貫き、早贄の如く掲げて絶命させる。

 すかさずそれを【粗製人形】に変えて軍団に仲間入りさせ、援護射撃の【ゴモラの獄炎】はカレンちんが盾となって受け止める。

 魂すら焦がす呪詛の炎がカレンちんの全身を焼くが、あたしとは比較にならないタフネスを誇るカレンちんの命を奪るには到底及ばず、返す刀の【地母の晩餐】で敵陣の一角を一掃した次の瞬間にはほとんど無傷に立ち戻っていた。

 あたしやネビロスの呪詛と同様に回復阻害効果もあるようだったが、そもそもの生命力(HP)が桁外れなカレンちんにとっては軽傷の範疇を越えず、その回復を多少阻害されたところでぶっちゃけ誤差だ。

 

 対抗するネビロスはあたしの人形兵を乗っ取ろうとするが、支配力がより上回ったあたしの人形兵を掠め取るには至らず一手が無駄に終わる。

 ならばとあちらも降霊術をフル稼働させて死霊軍団を強化するが、機先を制したアタシの人形軍団を上回れるほどではない。

 兵力の簒奪戦術を一方的に封じられた以上どう足掻いても有利はこちらのものであり、軍団は徐々に徐々にとあたしの人形軍団に侵蝕されていき――

 

「固有結界――【告死の月】」

 

 その間に展開を終えたシオリっちの()が、瞼を開くようにして月明かりを覗かせ――満月(魔眼)が遥か彼方に構えていたベリアルを捉えた。

 如何な彼方に隠れていても、頭上に(魔眼)を戴く以上、その月光(邪視)から逃れる術はない。

 ――無数の状態異常に罹って苦悶するベリアルの末路は、シオリっちだけが看取っていた。

 

「――王手(チェック)です、陸軍元帥」

『成程――これは想像以上だ』

 

 そしてネビロスの背後に回ったカレンちんが拳を背筋に添えて王手をかけると、ネビロスは観念したように両手を上げる。

 送還されていく死霊軍団。これ以上交戦の意思は無いことを示すと、敗北を喫しながらもどこか得心がいった様子で――

 

『お見事――投了(サレンダー)です。素晴らしい勝負(グッドゲーム)でした、御三方』

 

 ――そう敗北を宣言して、穏やかな微笑を浮かべた。

*1
デビサバ2の隠しボスとしてのネビロスが使用する蘇生行動。原作では一度に蘇生できるユニット数に限度があったが、この戦いにおいてはそのような制限は無い




・カス子
集団戦術のスペシャリストにして、三人組の指揮官役。
三人娘は修羅勢の中でも稀有なチームプレイを可能とするのが最大の特徴。
フェイバリットスキルは甲縛式O.S.【月蝕人形劇場】。
式神装備【闇の衣】を媒介にして多腕を展開し、さながら蜘蛛の如きシルエットの異形を背負う。

・邪視ネキ
斬首戦術担当のオールラウンダー。
フェイバリットスキルは固有結界【告死の月】。
月夜の結界を展開し、月を魔眼に見立てる超広域邪視術式。
暗黒騎士のLB3みたいなエフェクトで展開されるOSR仕様。

・魔人ネキ
常に最前線に立つ切り込み隊長にして物理アタッカー。
殴ってるだけで半永久的に戦闘続行できるゴリラの化身。
フェイバリットスキルは未習得だが、基本スペックが一番高いので無くても問題ない。

・ネビロス
黒男爵。地獄の陸軍元帥にして検察官。魔神屈指のネクロマンサー。
そして脳缶ニキとエロ本の貸し借りもする紳士でもある。
人間クソヤベェって思ってる悪魔の一柱。なので副王様の方針には大賛成。
ちなみにゲームを始める前に脳缶ニキを通じてショタオジに菓子折りを送って根回し済み。
悪魔だって死ぬのは怖い(

・ベリアル
マブダチのネビロスに誘われて参戦した芋砂野郎。
この後魔界の掲示板で「芋砂決め込んどいて攻撃外してノーキルで乙るとかwww」と散々に煽られ、気晴らしに低位分霊で地上へちょっかいに掛けにいったところでとんでもない目に遭うことになる。

・観戦者の皆さん
魔界のお歴々だったりその他の修羅勢だったり。
魔界の掲示板では実況スレが立ち、修羅勢はビール片手に見物していた。


対ネビロス戦でお送りしました。サブタイトルはデビサバ2のネビロス戦から拝借。
集団戦術のことはわからん……わからんがなんかもっともらしいことを考えて書いた!

それはそれとして最近いろんな三次でカス子が登場してきてめっちゃニヤニヤする反面「そんなカスで大丈夫か?」と心配になります。
でも起用してくれてありがとね、サンキューフォーエバー!
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