【カオ転三次】今更転生ごちゃまぜサマナー   作:ふーじん

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42話:【魔人決戦 ネフィリモマキア】

 道南支部が決意を新たにした年の瀬から早一ヶ月余り。

 元旦を迎えて早々に警戒態勢にあった支部員達は新年の祝賀に浸る間も無く神経を尖らせていたが、その意気込みとは裏腹に何事もなく一月の終わりを迎えていた。

 毎週のように飛来していたICBMも遥か南部に一本が飛んできたのみで、前年までの頻度からすれば平穏とすら言える状況に落ち着いている。

 厳に警戒に努めていた支部員は肩透かしを食らい、どこか釈然としない思いを抱えたまま二月を迎え――

 

「これカス子ネキの占い外れたんじゃねぇの?」

「あり得る。本人そんな得意じゃないっつってたし」

「フゥン、所詮カスはカスなのだァ……」

 

 ――更に二週間が過ぎようとしていた頃、防衛任務を受けた出稼ぎ勢達はすっかり楽観していた。

 暦上では間もなく冬が終わらんとする二月中頃、街はすっかりバレンタインムードに染まっており、彼らのみならず一般人もまた行政の注意喚起を杞憂と思い始め甘い一時を満喫している。

 無論数年前までと違い情勢不安の波は確かに押し寄せてはいるが、それでもシーズンイベントの昂揚を掣肘するまでには至らない。

 立ち並ぶ店々もバレンタイン商戦に精を出し、人々は「今日は特別だから」と近年の不穏さを忘れるように街へ繰り出していた。

 

「ただいまー。今日も問題なしっと、メシアンのメの字すら見当たらないぜ。木っ端の悪魔ならちらほらいたけどいつも通りだ」

「お疲れ様でした。引き続き依頼を継続されますか?」

「いや、そろそろ本社戻るわ。大変なのはわかるけどもうすぐ冬も終わるし……雑魚ばっか相手してると鈍って仕方がねぇ」

「そうですか……いえ、ご協力いただきありがとうございました。こちら報酬となります――」

 

 道南支部の受付窓口では、こうして見切りを付けて依頼から離れる者も出始めている。

 広く人員を募るため日雇いで募集をかけ、都度受注契約の更新を確認する形で依頼を貼り出したはいいが、その手軽さが却って一月に亘る平穏で見切りをつけさせる要因となっていた。

 無論その手軽さから新規に応募してくる者達も同程度いるが、当初とは異なり物見遊山な者が増えつつある。最初に深刻さを呼び掛けた分、一月の平穏は逆に彼らから緊張を奪ってしまっていた。

 

「うーん……」

「わりィなカス子ネキ、俺は先に上がらせてもらうわ。どうにも暇は性に合わなくてなー」

「いやぁこっちこそごめんねー棍棒ニキ。むしろニキが年明け早々に一ヶ月も付き合ってくれたことに驚いたわ、ほんとありがとね」

「ま、そこは日頃世話になってる義理の分だな」

 

 受付嬢に断りを入れた後、ロビーの隅で頻りに唸っていた命子へ声をかけたのは棍棒ニキ。

 死神同盟(三馬鹿)の面々に少しだけ先駆けて下層入りした修羅勢()からすれば、実的な実入りは殆ど無いにも関わらず依頼を引き受けてくれたことに感謝こそすれ、文句を言う筋合いなどあろうはずもない。

 命子は素直に感謝の意を伝え、そしてまた目前のデスクに向かってうんうんと唸りを上げた。

 

「で、カス子ネキは何してんの? これ、こっくりさんだよな?」

「どちらかと言えばウィジャボードね、あたしの未来視に使うやつ。【託宣人形】って名付けたんだけども」

 

 棍棒ニキが覗き込んだのは、五十音のカタカナが書かれた一枚のボードと、それぞれの文字を指し示すための器具(プランシェット)を携えた備え付けのカラベラ人形。

 命子の呟きに応じて人形の腕がひとりでに動いて特定の文字を指し示す――プランシェットの示した文字は、サ行とラ行の五文字目をそれぞれ交互に二度ずつ。

 

「ソ、ロ、ソ、ロ……これは?」

「『Xデーがいつ来るか?』っていう問いに対する返答。ちなみにこれで三日目」

「ダメじゃん。それ本当に信用できんの?」

「さぁ? 当たるも八卦当たらぬも八卦っていうしねぇ……一応黒おじ(ネビロス)に媒介としては問題ないってお墨付きも貰ってるから大丈夫だとは思うんだけど」

 

 命子自身疑わしげではいるが、かといって全く見切りをつけられていないのにも理由があった。

 今年に入り何度も未来視を試みたところ、そのどれもで曖昧な返答しかなかったが、一度として「こない」という答えはなかったのだ。

 占術をするにあたって可能な限り余分(雑念)を切り捨てた人形が、こうも頑なに時期こそ曖昧なれど危機の到来を告げている以上、命子としても完全に切り捨てるのは難しい。

 不得手と言えど限りなく超越者に近い命子が造り上げ、本家本元(ネビロス)がその出来映えに是を出した人形の示す託宣は、生半可なレベルの占術師の示す卦よりは余程信用が置ける。

 高位に至った真正の占術師は因果干渉すら引き起こすが、それには及ばぬとはいえ啓示に特化させた人形の託宣を無視する愚は犯すべきではない。

 それを心得ているからこその命子の葛藤であり、さりとて確たる根拠として示せないがための悩ましさだった。

 

「やっぱ占いって性に合わんわ、一度占ってしまうと気になって仕方がないじゃんね。自分で始めたことだから無視するわけにもいかんしさぁ……諸々終わったらこれはお蔵入りかなぁ」

「まぁカス子ネキはそうだろうなって。んな答えの出ないことうだうだ考えるくらいなら脳死で動いたほうがマシって気持ちはわかるぜ。……ま、あんま根を詰めすぎないようにな。それじゃ」

 

 そう言って棍棒ニキは命子の肩を叩き、そのまま支部を去っていった。

 この厳戒態勢のために支部が中期契約を結んだ密輸課職員*1に本社へ送ってもらったのだろう、すぐにその気配が消えた。

 その代わりとでも言うように新たな来客が職員に連れられて現れ、受付窓口へ向かっていく。レベルは24、地上基準では悪くないが半終末の今では第一線と言うには些か物足りなさのある力量。

 しかし間違いなく戦力ではあり、然程苦労をかけずに高い報酬が得られるという噂を聞きつけてこうしてやってくる者が最近は多くなっていた。

 そうした空気の緩みにふと嘆息が漏れ出ようとしたところに被さる低音があった。

 

「お疲れのようだな、カス子ネキ」

「ん? ああマタギニキか。いやぁそうでもないよ、ここに詰めてるだけだし。マタギニキこそ毎日鳥撃ちお疲れさん」

「アメリカほどじゃないさ、こっちは随分と大人しくて平和なもんだよ」

 

 相棒のかくれ奈を引き連れ、一仕事を終え戻ってきた彼を命子は見上げた。

 秋頃にドクトルニキとの契約を終えアメリカから戻ってきた彼は、以後道南支部に所属し対獣・対天使のスペシャリストとしてその辣腕を振るっていた。

 半終末に入りメシア教天使の出没件数は海外のみならず日本国内でも増加傾向にあり、そうした状況の中で彼の存在は道南の守護に大きく寄与している。

 長い狩猟生活で培った熟練の技術はこの厳戒態勢でも遺憾なく発揮され、一時の平穏に気を緩ませる者も現れ始める中全く油断していない彼は流石のプロ意識と言えよう。

 

「オレの方でもいつもと変わりはなかった。小規模異界の発生予兆がやや多いか……と言ったところだな。世界的なGP上昇の前には誤差の範疇だろう」

「全国に結界ばらまいて鎮静化してても、押し寄せる世界規模の荒波を前には無影響とはいかないからねぇ。そろそろ一般人に隠蔽したまま対処するのも限界が近そうやね」

「残念だが保って今年一杯、といったところだろうな。特に道南(ここ)は長年メシアンの勢力下にあった影響か、他所よりも天使の発生頻度が高いように思える。オレがアメリカに渡る前まではそんなこともなかったはずだが……いやはや嫌な時代の流れだな」

 

 互いに天使への愚痴を言い合ってしばし談笑し、短い休息を終えてマタギニキが再び外へ向かう。

 その背に命子が呼びかけると彼は「大丈夫さ」と肩越しに応え。

 

「これでも()()()()()ことには慣れていてね、かくれ奈もいるし問題ないさ。カス子ネキこそ気を付けなよ、()()()()()()ことと()()()()()()()なことは全く違うからね」

「ういうい、お気遣いありがとね。……忠告に従って休んどくわ」

「そうしたほうがいい。横になるだけでも気分は大分変わるものさ……それじゃあまた後で」

 

 そう言って出ていった彼の背を見送り、命子は思い出したようにソファに横たわった。

 この二ヶ月弱、【捨食捨虫の術】に任せて一睡もしていない命子だったが、一時的に術式を無効化したからといってそれまでに重ねた疲労が襲いかかってくるようなことは無い。

 しかし彼の言う通り意識を休息に傾けると急に身体が楽になった気がするものだから、肉の身体というものは現金なものだと改めて実感する。

 

 そのまま暫くの間ダラダラと寝そべり続け、支部の様子を眺めること小一時間。

 すれ違う面々と数度挨拶を交わしつつ、このまま仮眠でもしようかと考えたところで卓上に置いたままの人形のことを思い出す。

 結局最後まで大して役に立たなかったなと呆れ半分で身を起こし、だらだらとそれを片付けようとしたところで……人形の動きが目に留まった。

 

「おいおいおい……ようやくかよ!」

 

 静かに骨組みの腕を動かして未来を示した人形に、命子は八重歯を覗かせて笑みを浮かべる。

 プランシェットが指し示した二文字はカ行の二文字目にタ行の一文字目、即ち――

 

キ タ

 

 ――脅威の到来を予見して間もなく、支部の警報がけたたましく鳴り響いた。

 

 

 ◆

 

 

 20XX年2月14日夜、北海道東側近海。

 ICBM着弾予測地点へのPAC-3展開に先駆け、多神連合からMVP報酬狙いの神格が既に待ち構えていた

 前年と比べて飛来頻度が大きく減少した現状、ICBMの迎撃は多神連合にとって千載一遇の好機である。

 並み居る悪魔達に先駆けいち早く躍り出たその神格は、決して好機を逃がしてなるものかと戦意を滾らせ、彼からすればちまちまと地上を這い回って防衛網を構築した自衛隊(ニンゲン)を見下ろして嗤う。

 

『はッ、今回のMVPは俺様のもんだ! 迎撃も召喚悪魔の討伐も俺様だけでやっちまえば戦果は総取りよ、ニンゲン如きの出る幕じゃあねぇぜ――!!』

 

 彼は多神連合の中でも上位に位置する神格の一柱。その大言壮語に違わぬ実力の持ち主であり、これまでに何度もICBMから日本を守り抜いてきた実績を持つエースだ。

 人間を下等生物と見下して憚らず、信者への振る舞いも粗野にして卑。しかし戦闘力に限っては他の追随を許さず、霊格(レベル)にして60を数える【破壊神】である。

 即ちギリシャ神話の戦神【アレス】は超々高速で東から訪う飛翔体を神眼で捉え

 

『雄ォオオオオオオオオオオオ――――!! 【金剛発破】!!!』

 

 PAC-3の迎撃システムが反応するよりも尚速く先駆けて肉薄、その剛剣で以て両断し爆破機能を損壊。

 続く二の矢の【悪魔召喚プログラム】も、現界すると同時に焼き尽くせるよう【地獄の業火】*2をチャージしつつ構え、その目論見通りMAGが実体を形作ると同時にそれを解き放った。

 

『ハッハハハハ――!! これでMVPは俺様のもんだ! これで――』

『――この私に地獄の業火など』

 

 快哉し勝利に雄叫ぶアレスに、冷ややかな、しかし怒りに満ちた声が届く。

 それにアレスが反応を示すより先に、獄炎の中から影が彼の前に躍り出て右手を前に差し出し、アレスの放った炎よりも尚(おお)きく熱い焔を放って

 

『不遜が過ぎるぞ、異教の悪魔め。――失せろ!!』

『ハ……? ――グオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?』

 

 アレスの五体を一呑みにし、塵一つ残さずに焼き尽くした。

 多神連合において紛れもないエースの一角である【破壊神 アレス】を鎧袖一触したそれは、苛立たしげに息を吐くと()()を広げて西を見据えて。

 

『ここは……そうか。ならばまずは神の家を奪還するとしよう――!』

 

 そう言ちると一直線に飛翔して西へ――函館湾へ向かった。

 

 

 ◆

 

 

「つっかえねーなぁあの脳筋、まぁ失敗するってわかってたけど」

「まぁまぁ……ひとまず核爆発は阻止できたから仕事はしてくれたわよ」

 

 その一部始終を【遠視】していた命子が吐き捨て、シオリが苦笑いして宥めた。その横ではカレンが目を伏せて沈黙している。

 この一件は彼女達と強固に結びついた因果の結実。故に因縁なき者が介在する余地はなく、むしろ核攻撃の阻止を果たしたアレスは称賛されて然るべき戦果だ。

 今頃本拠で地団駄を踏んでいるだろう彼がそれを認めるかはさておき、最低限の迎撃は果たしたことを確認した命子は続けて指揮を下す。

 

「うし、あたしらはこのままアイツを函館湾沖合で迎え撃つよ。その他戦闘員は沿岸に配置し、敵勢力の上陸を阻止して」

「敵は単騎ですが、増援があるとでも?」

 

 その指示に疑問を呈した鎌ロリネキへ、命子は確信を持って頷く。

 

「アイツをアナライズしてむしろ確定したよ。成程こじつけがだけど悪くないチョイスじゃんね。なんせ――」

 

 命子はアナライズ結果を共有して言葉を続け。

 

「――【降天使 ウリエル】、Lv80の超大物だ。考えられる限りで最大級のお出ましだぜ」

 

 その言葉に命子達以外の全員が戦慄し、絶句した。

 修行場下層に戦場を移した死神同盟の三人ですら背筋に冷たいものを覚え、海外の地獄を知るマタギニキも固唾を呑む。

 

 霊格にして80の悪魔――それは容易に世界を滅ぼして余りある力の持ち主に他ならない。

 深層を知る命子達三人からしても決して油断できない相手。なにせ深層で雑に湧く霊格(レベル)が高い()()の有象無象とは異なり、アレは過激派が鳴り物入りで開発した最新鋭兵器(悪魔)だ。

 深層と比べてMAGの薄い地上では三人ともフルスペックを発揮するには至らず、一方であちらは長年培ったノウハウで一時ならばそうした制約を踏み倒せて当然の措置を施していることだろう。

 単純スペックを比較すればLv90が三人も揃った道南支部戦力に軍配が上がるだろうが、ことはそう単純で無いことを他ならぬ三人が承知していた。

 

「あたしらがガチで動くんだ、あっちも相応にガチで当然じゃんね。逃げたいなら逃げてもいい――()()()()()()()()()()()()()()()()。依頼受けてここにいるんなら報酬分は働いてもらうかんね、死にたくなきゃ精々足掻きな!」

 

 しかし、だからこそ。

 

「上等……! 逆にお前がくたばったら指差して哂ってやりますよ――!!」

 

 そう挑発的に言い放った命子に対し、鎌ロリネキは楚々とした表情を崩して獰猛に牙を剥き。

 

「まぁ温い地上には珍しくやり甲斐ありそうだし?」

 

 鎌ショタニキは飄々として軽口を叩き。

 

「鬼が出るか蛇が出るか……けれどそれが楽しみってものよねェ」

 

 鎌ホモニキは余裕を湛えて蠱惑的に笑み。

 

「オレはやるべきことをやるだけさ」

 

 マタギニキは落ち着き払って猟銃を背負い直し。

 

「怖くねぇ……と言えば嘘になるけど、あたしだってやってやるさ! なぁアンジェロ!」

『上司に楯突くってレベルじゃないんですが、まぁトチ狂った役員のせいで傾いた会社に義理立てすることもありませんか……精々退職金を毟り取ってやりますよ!』

 

 佐倉杏子とその守護天使は相変わらずの凸凹ぶりで、決戦に向けて己を奮い立たせた。

 

 各々の意気込みを見て、命子は二人と顔を見合わせて頷き。

 決戦開始を告げるため、カレンが一歩前に進み出る。

 

「それでは作戦を開始します。各員配置につき次第、各々の裁量で動いてください。――御武運を!」

 

 支部長カレンが号令を発し、各々持ち場に向けて動き出し――三人は戦場へ跳んだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「こっから先は通行止めだぜ。通りたきゃ身分証明書か通行許可証、もしくは紹介状が必要だけど……生憎天使(クソ野郎)は一律お断りでね」

『貴様は"人形遣い"……それに"魔女"と、そこの娘は――』

 

 函館湾沖合で地上を見下ろしていたウリエルに呪詛が、凶刃が、強打が繰り出され、その悉くを剣で打ち払う。

 それは霊格のみに依らない確かな技量の現れだが、不意打ちを防がれた三人は滲み出るように虚空から姿を現し、命子がそう挑発的に言い放った。

 対するウリエルもまた不意打ちに驚いた様子もなく、冷静に三人を見遣って静かに呟く。

 

 これまで数々の同胞を亡き者にしてきた地上最悪の降霊術士(ネクロマンサー)にして傀儡師(マリオネッター)

 その共犯であり、拳で打ち鳴らす弔鐘の下、天の使いを地に還してきた剛腕の魔女。

 そして生きて帰る者無きが故に、その一切が謎に包まれた正体不明の死神。

 

 内、三人目の死神を見据えてウリエルは得心したように目を伏せ、悔恨とも無念とも取れぬ激情に唇を震わせた。

 

『そうか……貴様【サリエル】の力を持つ者か。道理で同胞が皆帰らぬわけだ。大天使の力を宿すとはいえ、人の子が恣意を以て天の使いを堕落の使徒に貶め、悉く地獄に投げ入れたというわけか。――不遜、極まりなし』

「ハッ――トラウマ直撃か? 人の都合で堕天させられた人気者さんよ」

 

 一説によればウリエルはサリエルとも同一視され、共に堕天使でもあるとされる。

 そしてまたウリエルは加熱した天使信仰を抑制するための見せしめとして、西暦745年に教皇ザカリアスによって堕天使の烙印を押され今以て撤回されていない。

 まぁそれを言い出せばミカエル、ラファエル、ガブリエル以外の全ての天使はローマ・カトリックの正式な教義において堕天使なのだが、それはさておき。

 

 サリエルとの同一性による共感で一目でシオリの正体を見破ったウリエルは、主の力を人の身で濫りに振るった事実に強い憤りを覚え、努めて冷静を保つも吐き出す呼気には激情の熱が込められていた。

 今にも激発せんばかりのウリエルに対し命子はにやついた笑みを浮かべ、からかうような声音で。

 

「昔は言いがかりだったかもしれんけど、今のザマ見てたら先見の明があったとも言えるよな。地獄の悪魔もドン引きモンの所業を恥ずかしげもなく堂々とやって、さも誇らしげにしてる姿は情けねぇったらないよね。ひょっとして(パパ)の声が聞こえなくなったのもそれが理由じゃねーの? だぁい好きなパパに振り向いてもらいたいからって、弱いものイジメして見せびらかすなんてコミュ障にも程があるだろ。それともなにか? ケツの拭き方一つすらパパに言われなきゃ満足にできねぇ赤ちゃんかオマエ? 偉そうに人の子を導くとか宣う前にまずはヨチヨチ歩きから卒業するのが先じゃねぇ? それに――」

『――よくもそこまで舌が回るものだな売女ァッ!!』

「顔真っ赤で草。ナチュラル上から目線のくせに煽り耐性低すぎじゃん、オモロ」

 

 流れるように罵倒と挑発を垂れ流す命子にウリエルが激昂し(キレ)た。

 横で聞いていたシオリとカレンは、いくら怨敵相手とはいえ言いたい放題な命子に呆れ半分、ウリエルに憐れみ半分で閉口。

 怒気を真正面から浴びた命子はどこ吹く風と受け流し、終始おちょくった態度で怒り心頭のウリエルを見下ろしていた。

 

「にしても【降天使】ねぇ……素直に【堕天使】と言えばいいのに、そういう見栄っ張りなとこがほんっとセコいっつーか、みみっちいっつーか。おきれいな自分を保ちたくて仕方がないの逆にみっともないよ?」

『これは聖務のため俗世に身を落とさんとした我が覚悟の現れ。この身の霊は二度と天に帰れぬとしても、我が同胞のためならば喜んで汚泥に塗れよう!』

「どうせならそのまま地獄に一直線すれば? パンデモニウムとかマジオススメ、先輩方が歓迎会してくれるってよ?」

『無論地獄へも参ろうぞ、我が苛むべき罪人も数多くいるが故。――だがそれも地上を清めてからよ。出でよ!!』

 

 これ以上の問答は無用。ウリエルが掌を天へ向けると、そこから闇が漏れ出し幾つもの深淵の門が開く。

 ウリエルを中心として開いた穴からは()()()()()()と雫が滴るように無数の異形が落ち出で――それを掻き分けるようにして巨大な()が深淵の縁に指をかける。

 広大な門をして尚も窮屈そうに、産道から産み落とされんとする赤子のように現れ出づる影は数えて十二。

 最初に這い出た巨影は函館湾を産湯のようにして落着し、湾内の水底に半身を浴して尚余りある巨体を海面から覗かせて――やがてゆっくりと立ち上がった。

 

『MAAAaaahhhh……』

 

 その威容、山の如く。

 姿形はヒトに似て四肢を持ち、しかしヒトとは似ても似つかぬ凶相を浮かべた醜い顔貌には、およそ知性らしきものは見受けられない。

 それが唯一示すのは飽くなき貪食への希求。旧約聖書において地上の食物を食べ尽くし、尚も足りず互いに食い合った暴食の徒。

 その完成体にして、最も神話に近き形の忌むべき巨人。

 

『MAAAAAAAAaaaaaaaaHHHHhhhhhhhhhhHHHHHHHHHH――!!!!』

『ガヒッ、グフォッ、グフォッ』

『手始めに貴様らが奪った聖地を返してもらう――地獄に堕ちよ、異教の者共!』

 

 Lv70【魔人 ネフィリム】――完成体十二体。ウリエル指揮の下、集結。

 Lv30【邪鬼 ネフィリム】――総数、無尽蔵。餌を求めて上陸を図り、散乱。

 Lv80【降天使 ウリエル】――統率個体一名。聖地奪還及び地上掃滅のため、君臨。

 

 函館湾海上にして、ウリエル率いるネフィリム軍団と交戦開始。

 後に【魔人決戦】と号される、終末前における道南支部最大の作戦――【ネフィリモマキア】が幕を開けた。

*1
『ガイア連合武器密輸課職員の日常』から設定をお借りしました。

*2
敵ランダムに2~4回、火炎属性の魔法型ダメージを与える。




後書きでのキャラ紹介は決着がついてから。
ちなみに【ネフィリモマキア】は造語です。多分構文?もそれっぽい……はず(
まぁネフィリムってそもそもギリシャ語で、旧約聖書のギリシャ語訳でネフィリムはギガンテスって呼ばれてるんですがさておき。
大ボスがウリエルで、完成体ネフィリムの数が12体なのにはちゃんと意味があります。
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