――旧青森県【恐山支部】
終末を迎えて地球が広大な魔界のいち地方と化して幾数年。
旧来の地域区分が形骸化し今や恐山を旗頭に統治される旧青森県地域では、激変した環境と昼夜問わずPOPする悪魔どもにヒイヒイ言いながらも意外と逞しく人々が生き抜いていた。
……というと割とポストアポカリプスな(実際そうなのだが)暮らしぶりを想像するかもしれないが、今や人類生存圏の要となった【ガイア連合】の恩恵を真っ先に与ったここ【恐山支部】では、その字面から想像されるディストピアライフとは無縁である。
むしろ終末前よりも活気があるというか、メシア教にズタボロにされていた頃のダークギャザリング因習村そのものだった時とは違い、霊視ニキという連合の大幹部をトップに据え、その他大勢の黒札まで所帯を持って居着き、終末後にはなんとなんと最長老がガイア連合盟主である"神主"――峰津院堂満を再誕せしめ剰え夫婦として子までもうけたというのだから、そのブランド価値は鰻登りを超えて盤石。
終末後の人類生存圏の中では間違いなく最も成功した都市であり、旧時代の辺境都市のイメージから一転して今一番ホットなスポットであった。
とはいえ終末後の人間社会は半ば都市国家化し、各々独立しつつ持ちつ持たれつで緩い連携を保つことを是としているので、国力を傘に着た横暴とは今のところ無縁だったが。
元が男子禁制のイタコ衆の総本山である恐山。
しかしメシア教の台頭により力ある者は処され、次代を生むための肚も潰され、連合に解放されるまでは明日をも知れぬ身だった彼女たち。
だから、というわけではないのだがこの恐山支部の支配領域ではある風潮が生まれた。
そう……連合という救世主の光に灼かれた彼女たちは、急に開けた未来を前に弾けたのである!
――主に性的な意味で。
元より霊能ある子を引き取るか、外の種を孕んで血脈を繋いでいたイタコ衆である。
盟主の覚え目出度く、当主に戴いた霊視ニキを通じてガイア連合の流儀を学んだ彼女たちは、その手練手管を活かし全力で囲い込みを画策した。
霊能に知悉し黒札に及ばぬながらも魂を磨いたイタコ衆はその多くが美貌を誇る。
そして閉鎖的な空間で共同生活を営んでいたために家事の類は基礎教育であり、外の種を迎えるための諸作法も当然心得ていた。
更に更にとうの昔に枯れ果てた長老衆が【恐山の冷水】で若さを取り戻し、その歴戦の経験を発揮すれば力は童貞なんぞベイビーサブミッション。
即ち恐山支部は一皮剥けば歓楽街も真っ青なサキュバスハウス!
無論それを大々的にアピールするような品のない真似はしない……表向きはとても真面目な霊能組織である。
だが訪れた者の自尊心をさりげなく擽り、とーっても良い気分にさせることでリピーターを増やし、頃合いと見るや竿と胃袋を掴んで虜にする女郎蜘蛛の巣であった。
重ねていうが彼女らは大真面目である。断じてビッ◯ではない。
ただ連合の流儀に適応し、次代を繋ぎ続けることに注力した結果生まれた天然の男殺しなのだった。
そんなわけだから恐山では連合に与して以来、未曾有のベビーブームがずーっと続いている。マジでず~~~~~~~っと!
所帯を持って落ち着くイタコもいれば、ワンナイトラブを重ねてぽこじゃか赤子を生むイタコもいるし、それを見て育った子供達もそれが常識となれば、年頃になった者から割とぽんぽん生んでいく。
なもんだから支部には保育施設がやたら多い上に、その育児環境も共同作業的というか、血筋にこだわらず皆で面倒を見るような風潮が育っていた。
元々訳あり子を引き取ることも多い上に、年少の子の面倒を見るのは見習いの役目だったこともあり、そうした知識に精通していたことも大きかった。
余談ではあるがそんな環境にあってただ一人の女を愛し続ける強面当主は、蜘蛛の巣に引っかかった男連中からは尊敬を集めていたりする。
上はババアから下はロリっ子まで数え切れない女たちから秋波を送られているにも関わらず小揺るぎもしない益荒男は、この女の園にあって一等見事な高嶺の花であった。
妹たちはともかくババア共はマジで自重しろよ――とあるカスはそう呟いた。
閑話休題。
そんなわけで今日も支部の保育舎は満員御礼。
生まれたばかりの赤子から、それなりに分別が付き始めたやんちゃ坊主まで、とかく活発なキッズで満ち溢れていた。
育児担当の見習いたちや、その他大勢の保育アルバイトたちも、容赦を知らないキッズの猛攻に晒され撃沈している。
そんな混沌とした騒がしさの中、連合が誇らないカスの星こと命子の姿はあった。
「ほーらガキどもあっちいけー。おらそこっ、赤ちゃんに触るときは優しくする! それとあんまベタベタすんなよ嫌われんぞー」
押し寄せるキッズの群れを慣れた手付きで捌きながら、全体を見渡してトラブルの芽を事前に摘んでいく命子。
意外に思われるかもしれないが彼女は子供好きである。
それというのも連合に加入する前は年少の妹たちの面倒を見ていたこともあるし、前世の夢がNHKに教育番組を持つことだった女だ。
腕に乳飲み子を抱えながら謎のPOWERで子供達を観覧車の如く動かしてあやす命子は、この場の子供達にとっても格好の遊び相手であった。
「おじゃましまー……って多っ!? これ差し入れ足りますかね……?」
「あれ、バカのワルツ3号じゃん。1号と2号はどしたん?」
「ひょっとしなくても私の見た目から言ってます!? FF9ネタ*1ってもう通じる人の方が少ないですよ!」
手土産を携え保育舎を訪れたのはバカのワルツ3号ことクロマニキ*2。
三馬鹿と呼ばれる集団は連合に数あれど、特にバカな連中として有名な三人組の一人である。見た目はその通称から推して知るべし。
残る二人のサスケニキとヨロイニキがいないことに気付いた命子が問えば、彼は大仰に肩を竦めて呆れたように言った。
「あのバカ共なら真っ先にキャバクラに行きましたよ。今度こそ卒業するんだーって息巻きながらね!」
「ほーん、童貞共がちったぁ行動するようになったじゃん。まぁウチの店ならチェリーの相手も心得てるし、いい卒業記念日になるんじゃね?」
童貞の僻みを吐き続けて幾数年、風俗に突入できるくらいには前進を見せたバカ共に心底どうでもよさそうな顔をする命子。
あの連中のことだしなんやかんやヘタれて失敗するんやろなぁと思いながらも、そういうチェリーボーイの相手も手慣れた嬢が集う店ならワンチャンあるんじゃねーかなーと耳の穴をほじりながら聞き流した。
まぁその手の嬢の大半は年甲斐も無くはしゃいでる元ババア共であることは言わないでおこう。パネマジでないだけマシだろうし。
「まぁ許しませんけどね、この私を差し置いてアイツらだけが卒業するなど……! 今日は私が財布を管理していることも忘れてお高そうな店に行きましたよ。素寒貧になって追い出される様が今から楽しみですねぇ!!」
「おまえらほんとバカだよなー」
そんなだからいい年こいても三馬鹿なんだよ、と同じ三馬鹿のカスが嗤う。
常々卒業したいと嘯く割に据え膳すら食えないこのヘタレ共のことを周囲はすっかり珍獣として見ていた。
知ってるか? おまえらがかつて構ったガキどもの中には、もう所帯を持ってるやつもいるんだぜ……?
「まぁあのバカのことはいいや。手土産持参ってことはわざわざウチのガキどもを構いにきてくれたん?」
「ククク……我々は悪徳の伝道師。ピュアなキッズに罪の味を知らしめるべく娯楽を携えやってきましたよ……! あっこれ離乳食缶とおむつのセットです、常に需要があると聞いたんで」
「山梨から遠いのにわざわざ悪いねー、ありがたくもらうわサンキューな。つーかおまえもマメだねぇ、真面目にやってりゃ普通に嫁の一人や二人もらえるだろうに」
「いないんですよね中々……私の業を受け止められるだけの女性が!」
そう言いつつもいざとなればヘタレるだろうことは他のバカ二人と同じなクロマニキであった。
そして理想ばかり追い求めて妥協と折り合いをつけられないところが童貞の童貞たる所以である。
今日は比較的おとなしいがしばらくすればまた盛大にバカやって騒ぎを起こすんだろうなーと予感しつつも、彼の手土産を受け取った命子はあやしていた幼児の何人かを彼へ寄越した。
「扱いが雑い……雑くない? そんな枕みたいにぽーんって渡されても!」
「ウチのガキどもは頑丈だから大丈夫だって。終末後生まれのニューエイジ共はマジでタフだゾ」
「よく見たら目が多かったり角が生えてたり、なんか見るからに大きかったりする子もいますねぇ。ワンピ世界のキャラか何かで???」
「それかヒロアカな。まぁせっかく来たんだ、ガキどもあやしてけー」
「クッ、もうちょい年長の子を想定していたのですが……仕方ありませんね、この私が全力で構い倒してあげようじゃないですか!」
そう言うとやたら手慣れた様子でキッズを構い倒すクロマニキ。
この男……というか彼を含む三馬鹿ラスは良くも悪くもガキンチョと同じ目線に立って遊ぶことができる連中なので子どもウケは抜群に良いのだった。
その面倒見の良さが初見には変に頼もしく映ったり、彼らの本性を知る者からは何かしでかさないかと戦々恐々とされるのだが……それらをひっくるめて芸人扱いされる理由である。
そうしてすっかり子供の山となった二人だが、代わる代わるキッズの面倒を見ていた折、ふとクロマニキの目が命子の腕の中で眠る赤子に留まった。
「その子はぐっすりですねぇ、こんなに騒がしいのに我関せずとは大物になりますよ。しかも見た感じバリバリ霊能ありそうですし」
「ほーん、ちったぁ見る目あんじゃん。少しはレベリングしたん?」
「ぼちぼちですけどねー。見たとこ生後二ヶ月ってとこです? このくらいの赤ん坊はちぎりパンみたいで可愛らしいですねぇ……よく見たら髪色もカス子ネキにそっくりじゃないですか」
「そりゃそうでしょ、あたしの子だし」
「へーえ、そうなんですかぁ……え゚っ?」
さらりと明かされた衝撃の事実に名状しがたい奇声を上げてフリーズしたクロマニキ。
そんな彼にも構わずこれまで通りの流れで子供達をあやす命子。
そこへ現れる新たな人影――!
「命子ー、そろそろ帰らなきゃ――ってお客様?」
「シオリっちおかえりー。そっちは三馬鹿ラスのクロマニキだよん、わざわざ差し入れに来てくれたんだって」
「ああ、例の……初めまして、宮古シオリと申します。邪視ネキ……の方が通りがいいかしら?」
「ミ゚ッ!? ド、ドーモ、ハジメマシテ……クロマニキです。そ、それよりも……」
記録や映像で見知ってはいてもなんやかんや初対面だった二人。
シオリのほうは良い噂も悪い噂も沢山聞こえる例のバカ――の一人。しかし律儀に差し入れまでしてくれたので礼儀正しくはあるのかなと評価はフラット。
一方でクロマニキはといえば、かつて命子を始めとする女性陣に打ち砕かれた野望*3の矛先を向けた相手とあってしどろもどろ。
いや、それよりも視線は彼女ではなく――彼女が後生大事そうに抱えている、小さな小さな命へ――
「あっ……その……うふふ。わ、私の子です……」
雌顔を通り越して母の顔でそう答えるシオリにクロマニキの脳は爆発四散した。
命子とシオリ――連合でも相当な有名人であるカス子ネキと邪視ネキが、揃いも揃って母の顔をして我が子をあやしているという事実に、所詮童貞でしかない彼の脳髄は耐えられなかったのだ。
例えるならずっと馬鹿騒ぎしてきた遊び友達がいつの間にか家庭を持って落ち着き、これまで通りの付き合いができなくなったような……独り身がいつかぶち当たる現実をいち早く目の当たりにしたことによって彼の世界観は今粉々に打ち砕かれていた。
これが女遊びの激しい他の男黒札や、女黒札でも性豪と名高い幼女ネキであればこうはならなかっただろう。
しかし相手はよりにもよって子をもうけるという生命にとって普遍の常識を体現するとは思いもよらなかった連合のカス筆頭であるカス子ネキと、今の今まで男の影どころか浮ついた話一つすら聞かずピュア民の評価を恣にしていた邪視ネキである。
天地がひっくり返ってもあり得ないと思っていた現実を前に彼の生命活動は停止、死んだのだ――なお天地をひっくり返すくらいのことは割と出来るやつがいるのが今の黒札上位陣である(
「どうしたのかしら、固まっちゃって……」
「童貞にはキャパオーバーじゃったか、アワレなやつよ喃……これだから童貞は悪なんだよ」
悲しき童貞の末路を見届けた命子がそう嘲笑した――と同タイミングでドタドタと走り寄る複数人の足音。
バァーン、と襖を開け放って雪崩込んだのは、覆面代わりに何故かタオルで顔を覆ったサスケニキと、鎧を剥がれてさながら落武者の如き装いのヨロイニキ。
つまるところ残るバカ二人であった。
「テメクォラこんボケェ! テメーが日和ったせいでとんだ恥かいたじゃねーか!!」(小声)
「オメーみたいなヘタレに財布を預けたのが間違いだったぜ……初めてですよ、ここまで私に恥をかかせたおバカさんは……!!」(小声)
勢いよく開け放ったはいいものの、お疲れモードに入ってすやすやなキッズがいることに目敏く気付いて小声でブチギレながら怒鳴り込むという器用な真似を披露した二人に詰められるクロマニキ。
そのクロマニキはというと、猛るバカ二人に囲まれながらも奇妙な沈黙を保ち、足蹴にしてくる二人へ反撃に出る気配もない。
ただ小さく「ぅ……」だとか「ぁ……」だとか呻くのみである。ニブルヘイムの黒マントかな?*4
だが……
「早く出すもん出しやがれ! 担保に覆面と鎧置いてきたんだよこちとら!」
「せっかく良い気分で飲んでたのに台無しじゃねーか! アフターまで台無しになったらどうする!!」
「う……う わ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! !」
「「な……なんだあっ」」
人間の暗黒面を見て絶叫した仙水忍みたいな顔で急に叫びだしたクロマニキが飛び出すと、彼はそのまま彼方へ走り去ってしまった……二人の財布も握ったまま。
突然の奇行に呆気に取られていたサスケニキとヨロイニキの二人だったが、やがてその事実に気がつくと血相を変えてその後を追い、そのまま去っていったのだった。
「な、なんだったのかしら一体……」
「相変わらず賑やかなやっちゃなーあのバカども。とりま店には話つけとくか……その前に霊視ニキに〆られそうだけど」
騒ぎを聞きつけた霊視ニキの拳骨を食らって沈む三人を想像して呆れる命子。
事の前後を踏まえれば、絵面は完全にヤのつく自営業が後ろ盾の店でのトラブルである。まぁ実際それと大差は無いが。
そんなこんなでいつの間にかおやすみモードに入っていた恐山キッズの世話も終え、二人は帰路に着くことにしたのだった。
◇
そしてその道中、二人で赤子を抱えながら歩いていたところ。
不意に滲み寄る悪魔の気配を察知したシオリが戦闘態勢に入ったのを、命子が制して声を掛ける。
「そろそろ来る頃だと思ったぜ――ネビロス」
『ふふふ……流石ですね、命子殿』
現れたのは二人にとっても長い付き合いとなった悪魔ネビロス。
そしてその傍らに立つ、紅蓮色をして三叉槍を携えた有翼の竜人――【魔王 ベリアル】。
黒札の間で知らぬ者はいない名物コンビである。
しかも普通に高位分霊なので、周囲に発覚すれば一大事なのは間違いない。本来であればパンデモニウムに詰めているであろう両名だからだ。
その二柱がわざわざ向こうから命子たちを訪う。
意図をはかりかねているシオリは彼らを警戒しているが、その目的を察していた命子はごく自然体で彼らを出迎えていた。
『まずはご両名とも御出産おめでとうございます。出産祝いと言ってはなんですが、まずはこちらを御笑納くださいませ』
「おーうありがと……ってアンタも離乳食缶とおむつセットかよ! 準備万端だなオイ!!」
『いやーこれから人間と悪魔の付き合いも長くなりますからねぇ。代行殿*5や当代ライドウ殿*6のほうも賑やかですから、誼を通じたい悪魔の間ではこうしたやり取りはトレンドなんですよ実は』
「相変わらず機を見るに敏やねほんと。まぁありがたく受け取っとくわ」
ちなみに終末後の今、魔界の産物はちょっとしたブランド品としての認識が広まっている。
特に終末直後に脳缶ニキが広め、今やパンデモニウムの名産品となった【サーモン72柱】は酒飲みの間で肴の王様と親しまれて久しい。*7
利益重視な悪魔の中には積極的に人間へ営業をかけるものも多く、今や人間と悪魔は望む望まざるに関わらず密接な関係にあった。ショタオジにとっては気が気でない。
『ケッ、悪魔ともあろうものが泥人形なんぞに媚売りやがって情けねぇ……』
「そういうオメーはちったぁ
『ンだとコラァ!?』
『まぁまぁベリアル殿。今回は穏便にと言ったでしょう、そういきり立たずに』
基本人間嫌いというか、人間を見下して憚らない悪魔の典型例なベリアルと、一見して物腰柔らかなネビロス。
しかしながら今こうして会話が成立しているのも命子たちが彼らに伍する超越者だからであって、尋常の人間であれば歯牙にも掛けないのは悪魔の共通性質である。
終末前もそうだったが、終末後は以前にも増して暴力が最大の通貨なのだ。優しい言葉に拳銃を添えれば交渉はより上手くいくものだからね、仕方ないね。
『チッ……で、
『ええ、間違いありません――』
二柱の視線は命子が抱えた赤子に注がれる。
この状況でもすやすやと眠り続ける胆力にベリアルも思わず感心を示し、ネビロスはそこに秘められた
『――アリスの魂の欠片を宿した赤子です』
『おお……! マジかよ!!』
眠る赤子に宿った魂。
それを霊視したネビロスの言にベリアルが喜色を浮かべる。
彼らにとっての悲願であるアリス。
その欠片を宿した赤子の存在に、両名は相好を崩して快哉した。
「ま、嗅ぎつけるだろうとは思ったけどねー。ナチュラルに覗き見しやがってよー」
『無論プライベートには配慮しているので御安心を。……その様子だと貴方も認知してはいたようですね?』
「まぁね、魂が芽生えた頃には迷い込んできたのも把握してる。このまま育てば一つの身体に二つの魂が宿るだろうこともね」
「えぇっ!? それって大丈夫なの……?」
サラリと明かされた重大な事実に、様子を窺っていたシオリが思わず問い質した。
同じく魂に通じているとはいえ、命子ほどには精通していない彼女である。
しかしそうでなくとも一般的にイメージして真っ当ではないだろう状態に懸念を示すも、命子はあっけらかんと答えた。
「まぁパンピーなら一大事だけど、この子のポテンシャルなら全然平気よ。ン十人分くらいの魂受け止めるキャパはあるしね。だからといって共存が正しいわけでもないから、摘もうと思えば摘めたんだけど……」
『そうしなかった理由を訊いても?』
「んー? まぁ別に大した理由じゃないけど……偶然流れ着いただけの魂をわざわざ摘むこたぁないかなって」
これが何かしらの悪さをしようものなら容赦なく摘み取っていただろう。
だがアリスの魂の欠片は今、我が子の魂に寄り添って大人しく眠っている。
元より無垢な少女の具現でもあるアリスの霊基は、善に傾くも悪に傾くも環境次第。
きちんと躾ければどうとでもなる上に、その労を惜しんで負い目を抱くよりは多少の面倒を背負うほうが納得が行くというのが命子の判断だった。
ちなみに事情は真っ先にショタオジへ明かし、その彼からは当然難色を示されたが最終的には了承を勝ち取っている。
当然諸々の責任は命子へ課されているが、先に電脳世界へ迷い込んだアリスの例もあり、ショタオジも不承不承ながら存在を認めた次第だ。
黒札という存在そのものが、異世界から流れ着いた魂の集団であるというのもそれなりにある。
とはいえ結局一番の理由は、命子の腕っ節を担保とした暴力決済だが。即ち失敗したら彼女がケジメを取るということである。
「そういうわけだからアリスの魂だけぶんどっていくとか、この子ごと拐うとか考えんなよー。それしたらマジで全面戦争だかんね」
『一番手っ取り早い手段を先に封じやがって……小賢しい連中だぜ』
『まぁそう簡単に事が運ぶとは思っていませんでしたしね。電脳世界のアリスも結局手出しできなくなりましたし』
ちなみにこのネビロス、電脳世界のアリスについてそれとなーく誼を通じようとしたところ、ショタオジに塩対応されて逃げ帰った前科持ちである。
さしもの陸軍元帥もショタオジ相手には敵わず、あの手この手で電脳世界組からアリスのプロマイドを手に入れてコレクションするのが関の山であった。
話を聞く限りめちゃくちゃ幸せそうなアリスを一目でもいいから見たかったとは彼の談である。
「で、おまえらの目的は何よ? いやまぁ察しはついてるけどさ」
『ふっ、語るまでもないでしょう。しかし搦め手を封じられた以上、最早正攻法あるのみ! なので――』
含みのある笑みを零し、ネビロスは地に足をつけた。
そして――
『我々にもその子を見守らせてください! お願いしまあああああああああああす!!!!!』
「うーん見事なまでの直角90°のお辞儀」
陸軍元帥ネビロス、恥も外聞もないド直球の媚であった。
情けないながらも清々しいまでの姿勢にシオリは目を丸くし、相棒のベリアルは「マジかよ……」という目を隠せない。
『何してるんですかベリアル殿! 貴方からもお願いしてくださいよ!!』
『いや気持ちは分かるけどよ……泥人形相手に頭下げるとかオレのプライドが許さねぇっていうか』
『そんなこと言って負け越してるの貴方じゃないですか! マスコンで毎回しょっぱいキルレ出してるの誰です? 貴方でしょう! ていうかその泥人形がやたら強い上に数もあるのに今更何を言ってんですか! その理屈だと泥人形に負け越してる貴方はそれ以下の木っ端ですよ!!!』
『グハァッ!?』
相棒の容赦ないdisに吐血するベリアル。
あれ、なんかこんなやり取り最近見たな……?*8
『今回が千載一遇の好機なんです! ここでアリスを支えていけば、いずれ我々を頼りとし、いつか天寿を全うしたあとに我々のもとへやってくる可能性もあるかもしれないんですよ!』
『う、うぐぐぐぐ……』
『したくはありませんか、三人で優雅なお茶会を。見たくはありませんか、我々を『おじさま♡』と慕うアリスの笑顔を! それが叶う可能性が目の前にあるんです!!』
『ぐ、ぐおおおおおおおお……!!』
『我々の存在意義を思い出しなさい! そしてちっぽけなプライドなんて捨てて今は希うのです!! 我らの未来は今ここにあります!!!』
『があああああああああああああああ!!!!! わかった! 乗る! 乗った!! つーわけで泥人形……いや、命子! 頼む!! オレ達にもアリスを見守らせてくれ!!!!!』
ネビロスの熱意に押され、プライドを捨てて直角90°のお辞儀を見せたベリアルを見て二人は思った――バカだなぁこいつら、と。
そして命子は更に思った――キッショ。
終末を経て盛大なキャラ崩壊を見せた両名を命子は三馬鹿を見る目で見遣りながら、それはそれは長~~~~~~い溜息を吐いた。
こんなんでもパンデモニウムの重鎮な大悪魔なんだぜ? さすが頭カオスだよな、こいつら未来に生きてるよ。
根本的なノリが連合と一緒と言ってはいけない。しかしながら当のパンデモニウムも連合を介した盛大な文化汚染で大分はっちゃけているのも事実である。
トップのショタオジが散々注意を呼びかけながらもなんやかんや悪魔との交流が絶えないのも、こうした共通性質があってのことかもしれない……連合の未来はどっちだ。
「しょーがねぇなぁ~~~~おまえらはほんとにさぁ! どうせそんなこったろうとは思ってたけど!!」
『『っしゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』』
ネビロスとベリアル、悲願が叶い渾身の雄叫びである。
尚当の赤子本人はそんな状況にも関わらず未だにぐっすりすやすや。本当に大物になるかもしれない。
『そうと決まれば休暇届を出さないと! パンデモニウムに詰めてる場合じゃないですよ!』
『だな! どうせ閣下もしょーもねー作戦に掛かりっきりだし、ベルゼブブのやつも代行のガキの相手してるし……つーかどいつもこいつも好き勝手してるしな!』
『今に始まった話じゃないですけどねぇ! まぁいいや、忙しいのは宰相殿くらいでしょう。つまり平常運転! 何も問題なし!』
――ざっけんなころすぞマジで!!!!!
そんな造幣局長の魂の叫びが轟いていたとかいなかったとか。
「んじゃあまた2~3年後にな。それまでに詳細な契約詰めるってことで」
『『は?』』
舞い上がる両名へそう命子が伝えると、彼らは思いがけずといった表情で振り向いた。
「は? じゃねーよ。流石に赤ん坊の面倒をおまえらに見させるわけねーだろうが。つーか今が一番大変な時期なんだよ無駄な面倒持ち込むんじゃねーよぶっ殺すぞ」
『『す、すんません……』』
ガチトーンの命子に素で謝る大悪魔二名。
ご覧、これが暴力通貨の光景だよ……そうでなくとも乳飲み子を抱えた母というのは気が立っているものなのだ。
如何な超越者とはいえ母としての道理からは逃れられないのだ。母虎を前に虎子を得ようとする者の末路は往々にして同じである。
『コホン……少々取り乱しましたが、無事了承を得られて何よりでした。数年後を楽しみにしながら時を待つとしましょう』
『いやぁー……ン百年暇してたけど、ようやく生き甲斐が蘇ってきたな! 今なら泥人形共のことも許せそうだぜ!』
現金な奴らである。ベリアルに至ってはいつもの不機嫌ヅラが嘘のように晴れ晴れとしていた。さながらヒゲを剃った碇ゲンドウの如く。
『とそういえば、まだお名前を伺っておりませんでしたね。差し支えなければお教えいただいても?』
「ウチの子が百合ね。んでシオリっちの子が
『しませんしません、そんな命知らずなこと』
『普通にオレらが死ぬわ。ユリにチギリね……まぁお前らのことは目にかけてやんよ』
ちなみに命子ですらショタオジ直々の命名とあっては呪うことはできない。
再誕に際し力を減じたとはいえ、大海からコップ1杯分の水を汲み取ったところで誤差なのと同じである。
『それでは長々とお邪魔しました。我々は退散させていただきます。健やかに育つことを祈念しておりますよ、御二方』
『再会するまでに何かあったら承知しねぇぞ。じゃあな、精々上手く育てな』
最後にそう言い残して両名は去っていった。
まるで嵐のように慌ただしかった一幕にさしもの命子も気疲れした様子で溜息を吐き、シオリも呆れた様子で嘆息する。
「なんだか……どっと疲れちゃったわね……」
「三馬鹿ラスはともかく、あの二人までああもアホになるとは思わなかったわ……どんだけアリス大好きやねん」
世界を隔てても変わらないくらいにはアリスLOVEなのがあのコンビである。
「まぁ今はあいつらのことよりも子供のことだかんねー。夜寝る暇もないくらい忙しくなるから覚悟しなきゃ」
「その辺はいくらでも耐えられるからまだマシだけどね……一般の人だともっと大変なんだから」
「一緒に頑張っていこうね、パーパ♡」
「命子――その件に関しては本当に二度目は無いからね……?」
「ごめんて」
◇◆
――数年後
「ままー、ともだちできた!」
『ヒホー! オイラ、【外道 ジャック・リパー】! こんごともよろしくホー!』
『オレサマ【妖精 ジャックランタン】! これからよろしくな! じゃねぇ、よろしくホー!!』
「おまえらってほんとバカ!」
◇この悪魔たちの正体は―――?*9
・カス子
いつの間にか一児の母。その父は一体――?
別に男女関係はこれが初めてではないが、血の繋がった肉親を得るのは前世含めてこれが初。
それによる影響はカスに多大な変化を齎した……さながらどこぞの七夜当主の如く。
ちなみに現時点では近しい身内に出産報告をしただけなので界隈はこの事実を知らない。
知ったら今回のクロマニキみたいになる連中が大勢現れると思われる。
ある日邪視ネキから恋愛相談を受けた際に、魔が差して相談に乗りながら一発決め込んだら見事にヒットした。
第一次道南大戦勃発の前夜である。
・邪視ネキ
カス子と同じくいつの間にか一児の母――にして父(
夫は奇跡の急接近を果たした例のボンボンだが、妻は例のカス。
この件に関してはカスと邪視ネキの間にガチ喧嘩が勃発し、本編最終決戦なんて目じゃない大破壊が北海道の辺境で巻き起こった。
紆余曲折を経て和解したものの、二度目は無いとしっかり釘を差した。
余談だが天使状態だと生えてる。
・例のボンボン
奇跡の復縁からゴールインしたブラッドジャケットのユダにして現地民きっての勝ち組。
邪視ネキはチョロいので一度絆されたあとは同郷の誼もあってあれよあれよと急接近した。
日夜ラブラブ吸血ックスをしてるのでバカみたいに強化されて道南現地勢としては最強格。並の黒札よりも強い。
KSJ三人組に課された縛りも入籍に際して解放され、今では元気に道南の憲兵隊長をしている。
カス子と邪視ネキの一件に関しては百合にも理解があるのでむしろお得だよなとサムズアップした漢。
本人は邪視ネキ一筋の愛妻家である。
・百合
カス子の実娘。アリスの魂の欠片を宿している。
父母ともに世界最上位層の超サラブレッドなのでそのポテンシャルは抜群。
生まれながらに霊能を有し、生も死も見通す魂の支配者。
一つの身体に二つの魂。文字通り一心同体となった片割れとは姉妹のように仲が良い。
迷える魂を導く水先案内人。無縁の死を看取る報復者。二人で一つの"
人形遣いとしての才能は無いが、ネクロマンサーとしては母をも凌ぐ。
そしてライドウの前転ばりの回避性能を誇るヘッスラ回避術の持ち主。
・契
邪視ネキとボンボンの間に生まれた娘。
百合ほどではないがこちらもめちゃくちゃ優秀な超上澄み。
母の天使属性と父の吸血鬼属性を受け継いだ影響か、両性具有かつ吸血嗜好者。
百合とは同じ日に生まれ、姉妹のように育った。日によって兄だったり姉だったりする世話焼きタイプ。
後に黒死ネキを師と仰ぎ、母譲りの邪視と大鎌技術、父譲りの血液操作を駆使して戦うOSRバトラーと化す。
・三馬鹿ラス
遂に拙作でも登場してもらったみんな大好き三馬鹿。
このバカ共がいると無限に話を膨らませられそうで、まるでジャンクフードのような中毒性があった。
そしていろんな面を見せてくれる分、却ってキャラ像を掴みにくいことも。解釈違いだったらごめんなさい。
クロマニキは犠牲になったのだ……
・ネビロス&ベリアル
今回の話で急にハジケた両名。悲願叶いそうなのでさもあらん。
キャラ崩壊も甚だしいかなと思ったけど、ご本家様やその他三次を見るに、悪魔連中も大概俺達なんだよな……と思ったので気にしないことにした。
勘違いしては困るがこれは相手が命子達だったからこそ成立したシチュエーションであって、その他一般人や力不足の黒札が同じようなことをしても普通に処されるので注意。後者は忖度されるけど。
ちなみにこいつら、原作でも「あいつらが真面目にやってりゃ混沌軍はもっとやれたんだ!」って言われるくらいにはどうしようもない連中であることを留意すべし。
・恐山支部
本文では大袈裟に描写したが、普通に住心地の良い領地だと思われる。
ババアも冷水で若返って年上の手管で導いてくれるし、年下も真っ当にしてれば良い気分にさせてくれるだろう、きっと。
ご本家様でも連合加入後に大分はっちゃけてたし、それ以前までの反動を思えばこれくらいは可愛いものだろう。
ちなみに本当にどうでもいい余談なのであとがきに書くが、邪視ネキ誘拐に関わったヤマダ某もカス子の妹分の一人に竿と胃袋を握られて人生の墓場行きになっている。
なんかしれっと勝ち組になってるやらかし連中多いな(
以下にマカーブルさんから戴いた応援イラストを紹介させていただきます。
マカーブルさん、ありがとうございます!!
・カスのくせして可愛いカス子ネキ
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・露出度控えめ、調子こいてるカス子ネキ
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・強者感漂うクソガキスマイルのカス子ネキ
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・微笑む邪視ネキ
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・戦場の邪視ネキ
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・サリエルモード邪視ネキ
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・魔人ネキ支部長
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・弔鐘の魔女
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・ウルトラカレン
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