トランスオーダー・ディストラクション   作::Crane

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#1:やれるもんならやってみろよ

 ――――“楽園計画(ハーレムけいかく)”。

 

 それは、私――デビルーク星第3王女のモモ・ベリア・デビルークが考えた、みんなが平等の幸せを得るための計画。

 私が敬愛して止まない地球人の結城リトさんは、お姉様のみならず、いろいろな女性から好意を寄せられている。もちろん、私もリトさんのことが好きだし、愛していると言っても過言ではないわ!

 そしてリトさんは次期デビルーク王になられるお方。

 お父様に側室はいないけれど、王制のある惑星(ほし)では側室を持つのは何ら変な話じゃない。というか普通まである。

 リトさんがデビルーク王になられた暁に側室を持てば、お姉様や春菜さん以外にも複数の女性に同時に愛を注ぐ事が可能! それは、つまり、この私も堂々とリトさんから寵愛を受けられる!!

楽園計画(ハーレムけいかく)”完遂させるのは、決して生半可なものじゃない。茨だらけの道とも言えるし、失敗すれば、私たちの関係性は、修復が不可能なほど崩壊してしまうかもしれない……。

 ……だけど私はやってみせる……いえ、やらなきゃいけないの!!

 

 全ては最高のハッピーエンドを迎えるために!!!

 

 というわけで、リトさん周りの女性関係を詳しく調べるべく、まずは、双子のナナを誘って彩南高校に入学。これは予想通り簡単だったわね。校長が単純……こほん、理解してくれる人で助かったわ。

 ふふっ、私たちの転入を知った時のリトさんのお顔、とても可愛かったです♡

 

 担任の小川先生に連れられて、今日からお世話になる1-Bの教室へ。私とナナは頷き合い、自己紹介を始める。

 

「ナナ・アスタ・デビルークだ! よろしくな!」

「モモ・ベリア・デビルークです。よろしくお願いしますね」

 

 パチパチパチ、と私たちを歓迎する拍手の音。

 指定された席に向かう僅かの間、男子たちの視線が私に向けられる。――ニコッ♡

 

「「「「「「うおーーーーーっっ!!!」」」」」」

 

 男子たちの野太い声が教室内に響いた。うん、好感触ね。

 つつがなく朝のホームルームが終わった途端、男子たちが私を取り囲むように集まって来た。そして始まるのは怒涛の質問ラッシュ。

 

「も、モモさん! お話があるんですが!!」

「オレも!」

「ぼ、ぼぼ僕も!!」

「あのさっ、今って彼氏いる!?」

「ご趣味は!?」

「あのララ先輩の妹さんだよね!!」

「あ、そうだ、良かったらメアド教えてよ!!」

「オレ、放課後に校内案内するよ!!」

「やだ〜〜〜〜そんなぁ、困りますよぅ」

 

 あ、圧がスゴいわね……! とりあえず適当に質問は受け流して、ゆっくり探っていきましょう。

 とは言っても、何から聞こうかしら……あ、そうだ。

 

「あのぅ、ひとつ……よろしいですか?」

「「「「「はい!! なんなりと!!!」」」」」

「今はいませんが、窓側に座られていた、カーディガンを着ていた人ってどんな方なんですか?」

 

 自己紹介で教壇の前に立った時、窓側に座っていたカーディガンの彼だけは、勘ではあるけれど、他の人と何かが違った気がしたのよね。

 存在というか……雰囲気というか……。私の計画の重要なピースになるような……そんな感じ。

 一人だけ夏服じゃなかったから、ただ単に気になっただけかもしれないけど。

 さっきと打って変わって、男子たちが顔を強ばらせ、苦虫を噛み潰したような表情になる。ひとりが言いづらそうに口を開いた。

 

「あー……あいつには、関わらない方がいいですよ」

「? どうしてですか?」

「何考えてるか分かんねぇし、不気味なんだよ……。ブツブツ独り言も多いし」

「そうそう黒い噂もあるよな」

「オレ、この前校舎裏で3年の先輩をボコったって聞いたよ」

「僕は夜な夜な不良狩りをしてるって聞いた事がある」

「へ、へ〜、そうなんですか……」

 

 かなりヤバい人らしいわね。

 なるほど、あのカーディガンの人は不良……と。

 

「そう言えば、あいつ、金髪の可愛い子といつも一緒にいるよな。昼とか放課後」

「!?」

「ああ、あのドレスっぽい服の?」

「おう、その子だ。前にさ、紹介してくれって頼んだら、速攻拒否られたぜ」

 

 ドレスっぽい服装で金髪の女の子ってまさか! ウソでしょ!? あの人、リトさん以外の男の人と関わりあったの!? し、しかもいつも一緒にいるって――背後から刺すような視線。

 振り返ると、件のカーディガンの彼がいた。手には飲み物。どうやら自販機に行ってたみたい。

 改めて彼を観察してみる。

 背はリトさんよりちょっとだけ高く、白髪混じりの黒髪。タレ目の下には、寝不足なのかクマが(うっす)ら。肌は病人みたいに青白い。そして唇には小さなキズ……。

 

「…………」

 

 彼は一瞥だけして自分の席に戻って行く。その近くでは、ナナが赤毛の少女と話していた。

 た、確かに、不気味ね……。

 その後、私の周りにいた男子全員、彼から逃げるように離れていった。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 何か話してるなーって見てただけなのに、怖がられた。解せぬ。そんなに僕の真顔って怖いのかな? まあいいや、気にしないでおこう。

 

「ハイジくん! ハイジくん! ハイジくん! ハイジくん!」

 

 座ろうとしたら黒咲さんに名前を連呼された。いや何回呼ぶんだよ。ちゃんと聞こえてるよ。だから引っ張らないで、お気に入りのカーディガンが伸びちゃう。

 黒咲さんの隣にはナナ・アスタ・デビルークさんの姿。

 

「この子、ナナちゃんって言うの!!」

「ああ、うん、唐突だね。知ってるよ、さっき自己紹介してたじゃん」

「ナナちゃん! この人がハイジくん!!」

「おお! お前がハイジか! メアが話してた面白いヤツ!」

「面白いヤツ」

「顔色悪いな! 病人みたいだぞ!」

「お? 失礼か??」

 

 言葉はオブラートに包んで提供するもんだよ? 病人みたいなのは否定しないけど。デビルークさんが慌てたように両手を振る。

 

「ご、ごめん! 気ぃ悪くしたか……?」

「ん? ああ大丈夫、別に怒ってる訳じゃないよ。顔色が悪いのは本当だし、よく言われる。それに僕自身も毎朝鏡の前で病人みたいだなって思ってるから」

「ハイジくんは不摂生の塊だもんね!」

「塊て。その通りだけど」

「その通りなんだ……ま、とにかく、よろしくな! ハイジ!」

「うん、こちらこそ、デビルークさん」

「デビルークじゃなくて、ナナでいいぞ! モモとごっちゃになるからな!」

「オーケー、ナナさん」

 

 ナナさんか差し出してくれた手に応え、握手を交わす。

 黒咲さんが何やら頬をプク〜と膨らませ、僕とナナさんを見て不満そうだ。これは面倒臭くなる予感。

 

「む〜〜、ズルい!!」

「何が?」

「名前! ナナちゃんだけズルい! 私も苗字じゃなくて、メアって呼んでよ! 私の方が付き合い長いのに〜!!」

「たった数週間程度でしょーが。……あーもう、分かったから、おさげを振りわすのを止めなさい。器用かよ」

 

 イタタタタタ。顔にベチベチ当たる。

 助けてVBえもん。え? 自分で何とかしろって? この裏切り者め! それでも僕の心臓か!?

 

「はいはい、メアさん。これでいいかな?」

「!! うん♪」

「仲良しだなー、お前ら」

「私は呼び捨てでも良いんだよ?」

「あたしも良いぞ!」

「え、それは……流石に……ちょっと。僕には、ハードルが高いと言いますか……」

「「…………」」

 

 二人が何か言いだけに見てくる。多分ヘタレと言いたいのだろう。ごめんなさいね、ヘタレで。

 

《ヘタレ野郎》

 

 VB(おまえ)が言うんかい。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 昼休み。僕は、お昼ご飯が入った袋と本を持って、友達が待つ場所へと向かう。前の授業が少し長引いたので、小走り気味にだ。

 渡り廊下の外にあるベンチに彼女はいた。本を読みながら、好物のたいやきを食べている。

 ツーサイドアップに結われた長い金髪に、紅い瞳。彩南の生徒じゃないので、着ているのは制服ではなく黒いドレス。そして相変わらずお人形さんみたいで可愛らしい。

 彼女は僕に気づいたようで、顔をこちらに向けた。

 

「――……ハイジ」

「お待たせ、ヤミさん」

 

 彼女の名は、金色の闇。実名は不明で、宇宙からやって来た殺し屋さんだという。この学校にターゲットがいるらしい。

 ヤミさんは僕の友達で、VBの存在を知っている、唯一の人物でもある。というかそれがきっかけで友達になった。

 

「珍しく遅かったですね。何かあったんですか?」

「先生が授業に熱中しすぎて長引いたんだよ。それで遅れた」

「そうですか、それは災難でしたね。ところで……」

 

 ヤミさんが紅い瞳で、僕の顔をじっと見る。

 

「ん? どうかした?」

「……いえ。今日は顔色が良さそうだなと思って……。ただ、それだけです。そんなことより」

「そんなことより」

「早くここに座ってください」

 

 そう言ってヤミさん、ベンチの端に移動し、空いた隣のスペースをポンポン叩く。無視する理由もないので、いつものようにヤミさんの隣に腰を下ろす。そして袋から出した、お昼ご飯のカロリーメートの箱を開ける。新作の味は如何程に? 横から視線を感じた。

 

「……また、固形栄養調整食品ですか。飽きませんか? それ」

「好きだし、色々なフレーバーがあるから飽きないよ。それに今日のは、新作フレーバーのたいやき(風味)味!! あ、ヤミさんも」

「いただきます」

「食い気味がすごい」

「では、たいやきと交換しましょう」

「あ、ハイ」

 

 有無も言わさずに食べ物を交換。

 僕はたいやきを、ヤミさんはカロリーメートをぱくり。うん、あんこが詰まっていて、とても美味しい。ヤミさんをちらりと見やる。安定の無表情だ。

 

「ハイジ。これ、たいやき味というよりあんこ味です。商品名の詐称です。詐欺罪で訴えましょう」

「そりゃあたいやき風味だからね。で、お味の方は?」

「可もなく不可もなくな味です。やはりたいやきこそが至高」

「さいですか」

 

 パラパラ本が捲れる音と、緩やかな時間が流れる。

 さて僕も本を開いて読書を――服が引っ張られる。

 

「ハイジ、この漢字は何て読むんですか?」

(あらたま)だね。掘り出したままの状態で、磨かれていない玉って意味」

「これは?」

「それは艱難辛苦(かんなんしんく)。たしか……とてもつらい……苦しみ悩む……とか、そんな意味だったはず」

「なるほど、ありがとうございます。ところでハイジは何を読んでるんですか?」

「古本屋で買ったやつだよ。『カニバリズムの享楽』。ある食人病に侵された主人公が狂って藻掻くストーリさ」

「……絶対に食事中に読むものじゃないです」

「まさに正論。でもオモシロい。ちなみに恋愛小説です」

「……ハイジが恋愛ものを選ぶなんて……。意外です。明日は雨でも降るんでしょうか」

『もしくは槍だな。解釈違いで』

「VBもかよ……って、何勝手に出てきてんのっ?」

『安心しろ、ちゃんと隠れてるって。俺様も嬢ちゃんと話したいしよォ』

「VB、あなたもそう思いますか」

『おう!』

 

 僕の背中辺りの影から腕を出したVBがゲラゲラ笑う。こ、こいつ……! あっ、拳をコツンてすな!!

 たしかに僕は基本サスペンスとかバイオレンスなものが好きなジャンルだし、カニバリズムの享楽を読み進めるまでは、この物語が恋愛だって知らなかった。

 だからってそんなに笑うか? 二人してひどいなっ。ぐぬぬ……――人影が近づいて来た。瞬時にVBは影の中に潜り、姿を隠す。

 誰かと思えば転入生の、モモ・べリア・デビルークさんだった。

 

「ヤーーーーミさんっ♪」

「あなたは……モモ・べリア・デビルーク……。デビルーク星の第3王女が私に何か用でも?」

 

 え、第3王女?

 ……つまりナナさんは……お姫様? 何それ初耳。ヤバい、無礼千万かましてたかもしれない。

 

「ふふっ。せっかくこの学校に転入しましたので、同じ宇宙人同士、ヤミさんと仲良くなりたいな〜と思いまして♡」

「それはつまり……私と友達になりたい……と?」

「はい、ぜひ♪」

 

 ニコニコ微笑むモモ・べリア・デビルークさん。

 対してヤミさんは、無言で何かを考えて目を伏せた。

 

「……遠慮しておきます。今は募集なんてしてませんし、友達なら美柑とハイジで間に合ってますから」

「……ッ」

 

 ヤミさんの言葉に、デビルークさんが衝撃を受けてよろめく。

 

「み、美柑さんなら分かりますけど……えーっと、ハイジさんというのは……?」

「ハイジは私の隣にいる彼――どこにいくつもりですか?」

「いやぁ……お話の邪魔になるかな〜って……」

 

 その場から離れようとした僕は、ヤミさんの“変身(トランス)能力”でがっしりと掴まれていた。これは逃げられない。大人しくしておこう。

 ――変身能力。

 それはヤミさんが持つ特殊な能力で、身体のあらゆる器官を自由自在に変化させる事が可能な力だ。

 現にこうして、僕の胴体には彼女の長い金髪が巻きついているのである。……全然離してくれないや。もう逃げないよ?

 と。頬をひくつかせる、モモ・べリア・デビルークさんと目が合った。なのでとりあえず名乗っておく。

 

「あ、どうも、同じクラスの御影琲爾です」

「! ――コホン……これはご丁寧にありがとうございます♡ 私は、モモ・べリア・デビルーク。私の事は、気軽にモモって呼んでくださいね、御影さん」

「…………」

 

 分かりやすぐらいの猫撫でた声とその表情。なるほど、そういう感じか。……苦手なタイプ……というか――

 

「? どうかされましたか? 怖い顔して」

「……ああ……うん……一つだけ質問してもいいかな?」

「構いませんよ。私に答えられる範囲であれば何なりと」

 

 じゃあ遠慮なく。

 

「何か企んでたりする?」

「――――いいえ、何も。ふふっ、御影さんは面白い方ですね。仲良くなれそうです♡」

 

 一瞬、彼女の紫の瞳が僅かに揺らいだような気がしたんだけど……気のせいか? でも、絶対、何か裏があるはず。

 

「…………お手柔らかにね」

 

 とにかく今は様子見だ。

 

「うわわわ!!! どうしたんだよ、お前ら!!??」

 

 叫び声が聞こえて、そちらを見ると、茶髪の男子がこちらに走ってきた。あの人って今朝の……。

 

「あら? リトさんじゃないですか、どうかしました?」

「も、モモ!! あいつらが急に襲ってきたんだ!!」

 

 茶髪の人が指差す先には、フラフラの足取りで現れた数名の男子たち。

 

「!? な、何ですか、あなたたちは!!」

「猿山のヤツ、さっきまでオレと普通に話してたのに、いきなり様子がおかしくなって……」

 

 

 確かに、肌の色が変わっていて、目の焦点も合っていない。ヨダレを垂らして歩く姿は、まるでB級映画のゾンビみたいだ。猿顔の男子が口を開く。

 

「み……みつ、見つけたぞォ……。“金色の闇”ィ……!! オレらとォォォ、愉しく遊ぼうぜェェえァァ!!!!」

 

 猿顔がヨダレを振り撒きながら飛びついてきた!!

 狙いはヤミさん!?

 

「ハイジはこちらに」「離れてくださいリトさん!!」

 

 僕はヤミさんと、第3王女は茶髪の人と一緒に左右に別れて猿顔の攻撃を回避。

 猿顔が振り下ろした両手は、破砕音共に、木製のベンチを真っ二つにした。なんだあの力、本当に人間か!?

 

「……あれ、どう思います?」

「……どうって……人間離れした腕力とゾンビみたいな顔から察するに、操られてるのが妥当じゃない? 何ハザード?」

「では、やる事はただ一つ――」

「叩いて殴って止める、だね」

 

 僕とヤミさんは二手に分かれて制圧開始。

 たらこ唇ゾンビが放ったパンチを掴んで引いて、その顔面に肘鉄を喰らわせる。たらこ唇は鼻血を噴いて倒れた。

 

「ふぅ……。ヤミさんの方は大丈――」

 

 ヤミさんの方を見た僕の思考が停止。

 4人のゾンビに拘束されていたヤミさんは、無理矢理両手両足を広げた状態になっていた。それによって無理矢理露わとなった、胸や太腿、そして純白の――

 

「……っ」

「あっ」

 

 視線が重なってしまった。

 足元の影を撫でて咄嗟に取り出し、数本の蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具を、尖っていない丸い部分に持ち替え、ゾンビたちに投擲!!

 こめかみや喉などにヒットし、ゾンビたちが怯んだので、距離を詰めて掌底と背負い投げ! 

 そして、鼻の下を伸ばしていた猿顔には腹蹴りをお見舞いした。誰かは知らないけどゴメンなさい。緊急を要したので。

 

「ヤミさん大丈夫!?」

「……助かりました、ハイジ。…………み、見ましたか……?」

「………………………………一瞬……だけ――痛い!!」

 

 思いっきし足を踏まれた。しかも踵で。

 あれは不可抗力じゃん!!

 

「…………えっちぃのはキライです」

「すんません……!!」

「でも、結城リトには見られていないので、百歩譲って良しとします」

「え? あ、ありがとう……?」

「褒めてませんが」

 

 と。背後からものすごい音。

 振り返って見れば、地面を割って、巨大な人食植物みたいなビジュアルのものが生えていた。それは残りのゾンビを、うねうね動くツタで捕縛。キシャーッ、と鳴いていた。

 って、あの茶髪の人、なんで第3王女のスカートの下にいるんだよ。イチャイチャするんなら他所でやれ。呑気か?

 

『やはり……誰一人として、息の根を止めていないか……。弱くなったものだ。地球の脆弱な空気に当てられ、牙を抜かれたという情報は本当だったらしいな』

 

 気を失ったはずの猿顔の口から、突然、声が発せられる。それは男か女か分からない声。……こいつが今回の黒幕か?

 

「…………。……何者ですか」

 

 ヤミさんの問に、黒幕は薄ら笑う。

 

『私は、()()()()を知る者だよ。さあ、目を覚ませ、金色の闇……。地球(ここ)は君を弱くする。君のいるべき場所じゃないのだ……!!』

「――――」

 

 黒幕の声にヤミさんは無言。

 黒幕が続ける。

 

『君も心の何処かで気づいているんだろう? 自分の本質が、どの色にも染まらない“闇”であり、殺戮以外に生きる価値の無い存在なのだと。地球人と仲良く出来るはずがない。君がやってきた全ては幼稚な遊び。仲良しごっこだ。こんな下らない甘い夢など止めてしまえ……』

 

 身体が勝手に動いた。

 気づけば僕は、ヤミさんの手を――

 

「…………ハイジ……?」

 

 握っていた。

 

『もう終わらせるべきだ。何故なら、君の抹殺対象は、すぐそばに――』

「巫山戯んな」

 

 たった一言。

 剣呑な空気をぶち壊す言葉。

 僕の喉から、それは、発せられていた。

 

『………………貴様、今何と言った』

「巫山戯んなって言ったんだよ、馬鹿野郎」

 

 得体の知れない相手に向かって、自然と語気が強くなる。

 だって、ヤミさん(ともだち)が好き勝手に非道い事を言われてるんだ。

 黙って聞いてるなんて僕には無理。反吐が出る。

 だから僕も好き勝手言ってやる。

 ――たとえそれが、余計なお世話だったとしてもだ。

 

「ヤミさんの事を、殺戮以外に生きる価値が無いなんて、なんでアンタが勝手に決めつけてんだ。隠れて他人の声帯でべらべら偉っそうに……。アンタ何様のつもりだよッ!」

『………………ほう』

「ヤミさんの過去とか、素性とか、まだ全然知らねェけど! 僕は、たいやきと本が好きな普通の女の子だって思ってるよッ!!」

『人を簡単に殺せる力を持っていてもか?』

「それは使い方しだいだろうが。少なくとも、今のヤミさんは人なんて殺していない。つーか僕が殺させねェ。何も知らないくせに、『仲良しごっこ』とか言ってんじゃねェよ! 僕は友達なんだ。絶対、お前の思いどおりになんてさせない……!! 絶ッッ対にだ!!!」

『…………なるほど。面白いな、地球人。ククっ、どうやら貴様は、私と遊びたいようだな。――――よし、いいだろう』

 

 ぞわり、と背筋が凍る。

 明確な殺意。

 ……久しぶりの感覚だ。

 

『これは余興だ。まずは貴様から殺してやろう』

「ハハッ。やれるもんならやってみろよ」

 

 昼休み終了のチャイムが鳴る。

 それと同時に殺意は霧散し、1羽のカラスが飛び去った。

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