認知されたい。
ヤミさんを唆そうとした得体の知れない相手に対し、啖呵切って喧嘩を売った翌日。僕の頭の中はずっと、そればっかりだった。
今更になって気づいたけど、結構でしゃばってイキリ散らした気がする……。大分……いや、かなり恥ずかしい。まあ、後悔はしてないけど。
あの一悶着の後、ヤミさんは何も言わずに、何処かへ行ってしまった。……今日はまだ会えていない。
「うーん、やっぱり手を握ったのは馴れ馴れしかったかな……? 我慢出来ずに好き勝手喋っちゃったし……」
《それはないと思うぜ? あれは単なる嬢ちゃんの照れ隠しだろ》
「いやいや、ヤミさんの顔赤かったし、あれ絶対怒ってるよ。ちゃんと謝らなきゃ」
《は?》
「え?」
VBが『何言ってんだコイツ?』みたいな反応してきた。
別に僕おかしなこと言ってないと思うよ?
《……ハイジって、近年稀に見る絶滅危惧種タイプだよな。ご愁傷さま》
「急に憐れむな。どういう意味だよ」
《恋愛もの読んで勉強しろ》
「? 読んでんじゃん」
《………………そっか》
「憐れみを増すな」
――さて。
そろそろVBとのおしゃべりを止めて、現在進行形で発生している困った事について考えよう。
視線を下げて、自分の足をちらりと見る。そこには、二頭身ぐらいの小さな幼女。頭上には花が咲いている。……頭に花が咲いているって何?
そんな謎の花の幼女は、僕のズボンの裾を掴んだまま動こうとしない。人が居ない所でVBと話してたからビックリした。
流石に放置はよろしくはないので、まずはコミュニケーションから始めてみよう。変に緊張する……。
兎にも角にも怖がられないように、僕はその場にしゃがみ、出来うる限りの優しい声で話しかけてみる。
「……こほんっ。えっと……お嬢ちゃん、こんな所でいったいどうしたのかな? もしかして迷子?」
「ま〜う」
おっと意思疎通が難しいパターンでしたか。
これが未知との遭遇……。
「まうっ」
「え、何して――ちょっ、危ないよ!?」
幼女が僕の背中に回り、突然登り始めた。そして所謂肩車状態に。幼女は、むふーっ、と満足気。……どうしてこうなった。
ていうか今更だけど、小さい女の子が一人で学校の中を歩き回れるってどうなの。危険にもほどがある。我が校のセキュリティはガバガバか? まあ、校長があんなだし、しょうがないのかな。だとしても自由すぎるでしょ。
幼女が僕の頭をベシベシ叩く。
はいはい、分かりましたよ、歩きますよ。このまま座り込んでても意味ないし。
とりあえず、この子の関係者を探すとしよう。
「ミカゲ号発進〜〜」
「ま〜う♪」
うわっ、これ恥っず。
――あっちこっち行ったり来たり。そんな感じで適当に学校の中を歩き回ること30分。昼休みがあと少しで終わりそうだ。けれど中々見つからない。そして幼女はすやすや眠っている。マジかよ。
……こうなったら放送室ジャックして呼ぼうかな?
「セリーヌ〜〜!! どこだ〜〜!! いたら返事してくれ〜〜!!!」
ゴリ押し戦法を思い浮かべていると、慌てた様子の人がこちらに誰かの名前を叫びながら走ってきた。昨日の茶髪の人だ。その後ろには第3王女と、
「…………うげっ」
口うるさい風紀委員の古手川先輩もいるのか。
ここにいたら捕まって、また説教を喰らってしまう。早く離れなければ。早速僕は回れ右をし、来た道に戻――背後から声。
「あら? 御影さん? って、リトさん!! あれ!!」
「あー!! セリーヌ!!」
見つかったし、人を指差すんじゃない――って、君がセリーヌなんかい。いい名前してんね。これは逃げるのは無理そうだ。あ、起きた。
「ほら、セリーヌちゃん、お迎えが来たよ」
「……まう……zzz」
「こらこら二度寝始めるな?」
結構図太い性格してらっしゃる。
まあ、いいや。見つかったんだから良しとしよう。
「あー、もしかしなくてもこの子の関係者? こんなにちっちゃい子を、ひとりで歩かせるのはどうかと思うんだけど。学校の中とはいえ、万が一があってからは遅いでしょ」
「わ、悪い! 御門先生んところに預けてたんだけど、いつの間にいなくなっちまってて……」
「保健室っていつの間に託児所なったの? フリーダム?」
「とにかくセリーヌの面倒見てくれてありがとな! 恩に着るよ!」
「ありがとうございます、御影さん」
……なんかむず痒いな。
僕はセリーヌちゃんを引き渡すため屈んだ。
「……今この子、ぐっすり眠ってるみたいだから、ゆっくり下ろしてやって――」
肩が軽くなる。
顔を上げて見ると、古手川先輩が茶髪の人に代わって、セリーヌちゃんを抱っこしていた。
「私からもお礼を言わせてもらうわ。セリーヌちゃんの相手をしてくれてありがとう」
「あ、どうも」
「――でも、それはそれとして」
古手川先輩が僕をキッと睨む。くそっ、やっぱり逃げられんかった。
「御影くん! いつもいつも、あなたのそのピアスと服装! 校則違反だわ! いつになったら直してくるの!?」
「あーもう、気が向いたら直しますよ。ていうか僕もいつも説明してるじゃないですか。ピアスはともかくとして、
「理由って何よ」
「オシャレ?」
「そんないい加減な理由で許されるわけないでしょ! 早く脱ぎなさい!」
「……それはつまり……古手川先輩は僕の裸体が見たい、と?」
「なっ、なななな何でそうなるよ!?」
「ハレンチめ」
「〜〜〜〜〜っっっ!!??」
「お、落ち着けって、古手川!」
少しからかっただけでこの反応。相変わらず面白い。
ん? もしかして茶髪の人……古手川先輩と同じ2年生? だとしたらずっとタメ口で失礼だったかな。
「あ、そういえば、まだ名乗ってなかったな。オレ、2年の結城梨斗。よろしくな」
「ああ、やっぱり。すみません、僕1年なのにずっとタメ口使っちゃって」
「別にいいよそれぐらい。えっと、名前は確か……御影――」
「はい、御影琲爾です。そっちのお姫様のクラスメイトですね。以後お見知りおきを、結城先輩」
◆ ◇ ◆
じゃあ僕はこれで、と御影さんは私たち……というより古手川さんから逃げるように足早に去っていった。……よっぽど古手川さんの注意が嫌なようね。しっかり校則を守ればいいのに。
セリーヌさんをだっこする古手川さんは、保健室に戻る間もずっと、大変おかんむりな様子。そんな古手川さんをリトさんが「まあまあま」と宥める。
「まったく、なんで彼はああなのかしら! 学校の中で喧嘩してるって噂も聞くし!」
「え、あいつ不良なの?」
「私のクラスでも男子たちがその話をしてましたよ。校舎裏で3年生をボコったとか。まあ誇張表現されているだけで、真相は分かりませんけど」
「そ、そうなんだ……。でもオレ、御影が悪いヤツだって思えないんだよな〜」
確かに見た目は不良っぽいけど、と付け足して、リトさんは自身の頬をかく。私と古手川さんはキョトンとした。リトさんが話を続ける。
「だってセリーヌのためにオレたちを探してくれてたんだ。しかもセリーヌは肩車してもらって眠っちゃってるし。少なくともこれって、セリーヌが御影に懐いてるって証拠だろ? じゃあ良いヤツじゃん」
リトさんの言うとおり、彼は良い人なのかもしれない。
……でも、ごめんなさい、リトさん。
私は、御影琲爾という少年を、古手川さんとは別の理由で警戒しているんです。
彼がリトさんに危害を加えそうだからじゃない。
もしもリトさんを害することがあっても彼は地球人。噂どおりの不良で他より多少強くても、私ひとりでどうにか対処できる。私には、銀河中で収集した多種多様な植物たちがいるんだし、何があっても大丈夫。
お昼休みが終わり、今は5時限目の授業中。
私は後ろの席から、左斜めの席に座る御影さんを観察する。念のため勘づかれないよう細心の注意を払って。あ、大きなあくび。
…………男子が言っていたとおり、まさか本当にヤミさんと一緒にいたなんて。しかもヤミさんからはフルネーム呼びじゃなく、美柑さんと同じファーストネーム呼び……。それはつまり、それほど仲が良いという証!
――これが私の警戒する理由。
ヤミさんは、
彼女をリトさんにメロメロにさせてリトさんラブへと堕とし、
本人の口から、直接、御影さんと友達と言っていたけど、男女の友情は成立しないって昔から相場が決まってるんです!
リトさんがこのまま何もアプローチしなかったら、ヤミさんが盗られるなんてことに……!! このままでは私の計画が破綻してしまう!!
つい手に力が入り、ミシッ……とシャーペンが悲鳴を上げる。
……さすがにそれは考えすぎね。一旦冷静になりなさい、モモ・ベリア・デビルーク。あなたはデビルーク王家の第3王女なのだから、慎みを持たないとダメよ。
私は頭を振って反省する。大丈夫、
「――ではここのページの5行目から、モモさん、読んでください」
「はい」
先生に指名されたので、私は立ち上がり、教科書を読み始める。それと同時に男子たちの視線が私に集まり、読むのに邪魔だった髪を耳にかけただけで小さな歓声が上がった。ネットとか漫画に書かれてたけど、やっぱり男の人って、こういうのが好きなのね。
……今度リトさんに試してみるのもアリかも。ドキってしくれるかしら?
ちなみに御影さんも私を見て……ない!? なんか凄く眠たそう!! ちょっと悔しい! ちょっとだけ!!
「ありがとうございます、モモさん。じゃあこの続きを……今私から目を逸らした、御影くんお願いします」
「…………」
「あからさまにイヤな顔をしない」
「イヤです」
「口に出したって変えません。いいから早く読みなさい」
御影さんは少し気怠げに立ち上がって教科書に視線を落とし、首を傾げ、隣の赤毛の少女にヒソヒソ問いかける。
「……どっから読めばいいの?」
「えっと……ここからだよ」
「ん。ありがと」
少女にお礼を言って、御影さんが教科書の音読を始めた。……面倒臭そうだったにしては意外と丁寧に読むのね。
私はそれを聴きながら、頭の中で今後の
リトさんの女性関係を調べ、接触するのはもちろん継続。
それと並行してヤミさんと御影さんの関係を――ゾクリと刺すような視線を感じた。
ハッとなって、視線を感じた方向に目だけを向けると、教科書を読み終えて座ろうとした御影さんが私を睨んでいた。
「――――……ッ」
心臓が跳ね、冷や汗が頬を伝い、息を呑む。
すぐに視線は逸らされた。……一瞬だったとはいえ、本当に地球人なのか疑ってしまうぐらいの威圧感があったわね……。
『何か企んでたりする?』
脳裏に過ぎったのは、御影さんとの初めての会話。
深く詮索はしてこなかったけど、もしかしたら地球人にしては結構勘が鋭いのかも……。
……ふふっ、やっぱり
問題は山積みだけれど、私は絶対に諦めない。
幾多の困難を乗り越えて、
◆ ◇ ◆
「じゃーな、ハイジ! また明日!」
「ハイジくんバイバイ〜♪」
「うん、また明日」
僕はそう言って、ナナさんとメアさんに手を振り返す。
結局、今日はヤミさんに会えないまま、放課後になってしまった。別に毎日会えるわけじゃないけど、胸に名状しがたいモヤモヤ。…………図書室に行ってみようかな? いや、でも、最近は僕のオススメ本を貸してるからな〜。
そういえば、何で第3王女は僕のこと見てたんだろう。
「……………………帰ろ」
鞄に教科書やノートなどを詰め、肩にかける。
もしヤミさんに会えたとしても、怒ってるから、すぐにどっかへ行ってしまう可能性が大いにある。最悪は斬られるかもしれない。そうなれば甘んじて受けよう。……なんかまたVBから憐れみを感じる。気の所為であれ。
ガラガラと扉の開く音。
そちらを見やると、教室後ろの出入口に、金髪の美少女――ヤミさんが立っていた。表情は特に変わらず、いつも通りの無表情だ。
「ハイジ、両腕を出してください」
「へ? あ、うん」
こちらにやって来たヤミさんが、藪から棒にそう言ったので、首を傾げつつ僕は言われた通り腕を差し出す。これはアレだ。まるで警察に手錠を掛けられる寸前の犯人みたい――僕の両手首がヤミさんの髪に縛られる。そして胴体にも、彼女の長く伸びた髪が巻きつけられ、いとも容易くひょいと持ち上げられた。
「ん~~~~?????」
『!?』
混乱により、僕の脳内に宇宙空間が広がった。
周囲からは動揺の声が聞こえる。
「さあ。行きますよ」
「どこに!? てかなんで縛る必要があんの!? 連行!?」
「説明は歩きながら。早くしないと約束の時間に遅れてしまいます」
「や、約束の時間……? あっ、ちょッ、分かったからせめて下ろして!?」
「…………」
なんで『やれやれ、しょうがないですね』みたいな顔なの?
あ、でも、腕は解放してくれないんだね。痛くはないけど、こんなのマジで連行じゃん……。うわぁ……すっごい見られてる。おい、そこのぽっちゃりメガネくん。ハンカチ噛んで血の涙を流すんじゃない。地団駄も踏むな。他の女子から冷めた目されてるぞ。
教室を出てしばらくし経ったタイミングで、僕はヤミさんに話しかける。
「……ヤミさん。このままで良いから、僕の話聞いてくれるかい?」
「端的にであればどうぞ」
「ごめん、端的には無理そう。…………えっと、昨日のこと……なんだけど」
「…………」
ヤミさんが足を止めた。どうやら僕の話を聞いてくれるようだ。
「……その、ヤミさんの全部を知らないくせに、好き勝手言っちゃたからさ。ヤミさんの心はヤミさんのもので、君自身が決めることなのに……。それに、えっと、馴れ馴れしく手も繋いじゃって……怒ってるかな〜って思いまして…………」
「…………」
……あ、ヤバい。ヤミさんが何も反応してくれない……。やっぱり怒って……? ……こういう時は大人しくしておこう。無闇矢鱈に話しかけたらジ・エンド。
読んでる本に出てくるモブみたいにぐちゃぐちゃでオーバキルだ。あれは酷かった。だって主人公がモブから引きずり出した腸やら内蔵やらを首に巻いて笑ってんだもん。『カニバリズムの享楽』……恐るべし。
僕と一緒に読んでいたVBは終始引いてたけど。というか五月蝿かった。
振り向いた少女の紅の瞳に、 僕が映る。
「…………確かに、色々と余計なお世話でした」
「うぐっ」
「………………でも……別に、手を繋いできたのは驚きましたが……その……です、から……。そ、それぐらいで怒ったりなんて、しませんっ……」
「?」
耳は良い方なのに、一部聞き取れなかった。
「――そっか。それなら良かった」
「……私も、良かったと思います」
「ん? 何が?」
「久しぶりに、ハイジの声を荒らげていたところを見られたので……良かったです」
「…………そ……すか」
何コレ恥ずかしい。
まあ、怒ってないのなら一安心。
……じゃあ、あの時顔が赤かったのは一体……僕の気のせいだっのかな。VBが意味深なため息を吐いた。またかよ。
再びヤミさんが歩き出したので、その後ろを僕も(強制的に)着いて行く。
「あ、結局今どこに向かってるの?」
そういえば、と思い出して聞いてみた。
「前に教えたと思いますが、美柑のこと覚えていますか?」
「ああ。確かこっちに来て最初に出来た友達……だっけ。ちょいちょいヤミさんの話に出てくる女の子」
「はい。今日は彼女から地球の文化の一環として料理を教えてもらうため、自宅にお呼ばれしているんです」
「へ〜」
ますます女の子らしいことやってるじゃないか。僕は嬉しい限りだよ。是非楽しんできてほしい。
「そこで、あなたを紹介することになりました」
「なんて?」
「安心してください、ハイジ。あなたのことは、不良で、顔色が悪くて、不摂生を極めている本の虫、と美柑に伝えていますので」
ぐっ、と親指を立てるヤミさん。何を安心しろと……?
「いや、全部マイナスじゃねーかっ。なんでそこをピンポイントに伝えたァっ? もっと他にあったでしょ!!」
「VBの存在?」
「アウト! それ以外で!」
「?」
えぇ……なんで首傾げんの? すっごい不安!
VB!! フォローして!!
《え?》
お前もかよ!!
――しばらくして目的地である二階建ての一軒家に到着。
その道すがらも僕は連行されっぱなし。
途中、現れた
「着きました」
「…………んえぇ……」
表札にある『結城』の二文字。
結城……ゆうき…………もしかしてここって……
「結城先輩の家……?」
「結城リトと知り合いでしたか」
「知り合いってほどじゃないね。今日初めて喋ったし」
「そうですか」
ヤミさんが結城家のチャイムを押す。
うーん……これは流石にちょっと気まずい。
…………よしっ、長居はせず、ちゃちゃっと挨拶してちゃちゃっと帰ろう。うん。そうしよう。ヤミさんには悪いけど、適当な理由つけて――
「ちなみにこの家には、デビルークのプリンセスたちが居候していますので」
「なんで今言った?」
とんでもねー爆弾ぶち込んできたよこの子。
ていうか、マジかよ結城先輩。美少女たちと同棲してんの? ラブコメじゃん。尚更帰ろ。絶対いたたまれない。
「……すみません。今日が楽しみで……その、つい言うのを忘れていました……お泊まりですし……」
「楽しみだったならしょうがないか〜」
じゃあ許す。
《うわ、ちょっっっろ》
溜めてちょろいとかやめろ。
次回、結城家におじゃまします。
ご感想お待ちしてます。