『――美柑。私がこの
『おすすめ?』
私――結城美柑の大事な友達であるヤミさんからの質問に、私は首を傾げた。
地球の文化と言われても色々ある。
お祭りだったり伝統だっり習慣だったり……世界規模で考えたら本当に色々。なので頭にピンと閃いた案を、隣でたいやきを食べているヤミさんに提案してみた。
『料理、なんてどうかな? 料理なら毎日やってるから、教えてあげられると思う』
『料理……ですか?』
『うん! まぁ、地球の文化なのかどうかって言われたらちょっと怪しいし、もしかしたら宇宙の方とあまり大差ないかもだけど……』
私は苦笑して頬をかく。
ヤミさんは残りのたいやきの一欠片をもぐもぐ。ごくん、と飲み込んだ。
『いいですね、料理。前々から本とかで少々興味があったので、是非、教えてください』
『! う、うん! 任せて!! あっ、せっかくだし泊まっていきなよ!』
『それもいいですね。ではお言葉に甘えて』
『やった♪』
もうすでに私の頭の中は、ヤミさんと何の料理を作ろうか楽しみでいっぱいだった。
やっぱり初めての料理といったら無難にカレーかな? でもそれだと普通すぎるかも。ハンバーグは……ちょっとハードル高いし……悩む。
と、私はある人のことを思い出し、たいやきが入っていた紙袋を折りたたむヤミさんに尋ねてみた。
『ねえ、ヤミさん。ハイジさんって呼べたりしない?』
『ハイジを?』
『うん。いつもヤミさんの話に出てくるから、一度会ってみたいなーって思って』
『…………別に、いつもじゃないです』
いつもだよ? 結構な頻度で出てくるし。もしかして自覚ないのかな?
『あ、でも、もしハイジさんが忙しそうだったら全然いいよ』
『……いえ、そこは大丈夫だと思います。ハイジは基本堕落に耽った暇人なので……縛ってでも連れてきます』
『や、優しくしてあげてね……?』
――これがちょうど1週間前。
そして今日が待ちに待ったヤミさんとの約束の日! 私はヤミさんとハイジさんが来るのを、今か今かと待ちわびていた。
すでに料理を始める準備は番端。あとはヤミさんに着せるエプロン出しておかなきゃ。どこかに仕舞ってたはず。
リビングでは同居人のララさんとナナさんが寛いでいて、セリーヌと一緒にテレビを見ている。
モモさんは……多分リトと一緒にいるのかな。帰ってくるなり、2階から降りてこないし。うーん、最近2人は一緒にいることが増えた気がする……。
「!」
ピンポーン、と我が家のチャイムが鳴った。ヤミさんだ!
「は〜い!」
ぱたぱたスリッパの音を出しながら、私は軽やかな足取りで玄関に向かう。
そう言えばヤミさん、ハイジさんのこと不良って言ってたっけど、やっぱり怖い人なのかな? でもヤミさんが作った友達なんだから、きっといい人のはず!
扉を開けて、ヤミさんを出迎える。
「ヤミさん、いらっしゃい!」
「美柑。今日はよろしくお願いします」
「うん! こちらこそ! ――ところでハイジさんは……」
いた。ヤミさんの後ろで手を縛られた男の人。ほ、本当に縛って連れて来ちゃった……。
……それにしてもこの人が……ハイジさん、か。
おじーちゃんみたいな髪の色に青白っぽい肌。疲れきったような目と口元の小さなキズ。あ、ピアスつけてる。……ちょっと怖いかも。
失礼ながらそう思っていたら、ハイジさんと目が合う。
ハイジさんは拘束された手をヒラヒラ上げる。
「どーも」
「ど、どうも……。えっと……」
ヤミさんから色々聞いてたけど、こういう時はまず――
「ち、ちゃんとご飯食べてますか……?」
「んえ? ああ、うん。そりゃもう毎日、朝昼晩しっかり食べてるよ?」
「へ、へ〜、そうなんですね〜……」
電線で休んでいた鳥が羽ばたき、私たちの間に何ともいえない空気が流れる。
何言ってるの私!? まずは普通自己紹介からでしょ!? ハイジさんの目が点になってたよ!! は、恥ずかしい……!!
ハイジさんが鞄の中をゴソゴソ漁って、オレンジ色の箱を取り出し、掲げるように私へ見せる。カロリーメート?
「これが僕の今日の晩御飯です!!」
あ、この人、ヤミさんと同じタイプだ。
「どや!!」
…………。
ヤミさんの友達はちょっぴり変な人みたいです。
◆ ◇ ◆
どうもこんにちは。
晩御飯用に取っておいたカロリーメートをドヤ顔で見せたら、ダダ滑りをかましてしまった愚か者こと、御影琲爾、15歳です。
VBからは呆れられ、ヤミさんからは『偏った食生活ですね。改善した方がいいのでは?』って言われた。毎食たいやきの君だけには一番言われたくない。
だがしかし、僕の主食はカロリーメートだけではない。ちゃんとコンビニ弁当である程度の栄養は補給しているのだ!
と、まあ、そんなに感じの説明をしたんだけど……それがダメだった。
『コンビニ弁当の食べ過ぎも良くないですっ。カロリーメートと同じで栄養が偏っちゃいますよっ? だから今日はうちで夜ご飯食べてくださいっ』
美柑さんの何かに触れたらしい。しっかりしてんね。
そういうわけで、僕の結城家での滞在時間は大幅に増え、カロリーメートは帰るまで没収された。不思議だね。
そして現在――
「まーう♪」
僕は、セリーヌちゃんのお馬さんになっていた。
お馬さんごっこである。かれこれ30分近くやってるので、そろそろ僕の膝小僧が限界を迎えようとしていた。
別に息は絶え絶えではないけれど、この体勢でリビングをぐるぐる周るのはシンプルにキツイ。もう腕とかプルプルしてるもんね。
「……い、今、何周……やってる……?」
多分50周以上はやってる気がする。
そもそも、なんでこんなことに……。
VBが脳内に語りかけてくる。
《状況のおさらいだ。結城家にお邪魔する→嬢ちゃんがハイジの拘束を解除→リビングで花のガキンチョとエンカウント→タックルを受ける→なんやかんやでお馬さん完成――だな》
ご丁寧にどうもありがとう。何も分からんわ。
すぐ近くから楽しそうな声。ララ先輩だ。そしてその隣にはケラケラ笑うナナさんと、二頭身ロボットのペケさん。急にSF。
「うーん、38……あ、今ので39周目だね☆」
「全っ然、じゃないですか……ッあ……」
「ハイジくん、ガンバレ〜〜♪」
僕を応援するララ先輩は、デビルーク星の第1王女で、ナナさんと第3王女のお姉さん。
紆余曲折あって結城先輩に惚れ、この家に居候してるらしい。ちなみに結城先輩は次期デビルーク星の王様になるんだとさ。聞いてもないのに教えてくれた。大変だね、結城先輩。
「かはッ……」
腕がカクっと折れて、べしゃり、とカーペットの上に倒れ込んだ。
セリーヌちゃんがべちべち僕の背中を叩く。勘弁してください。
「まうっ、まうっ」
「あばばばばば」
すっごい乱打してくる。ごめんって。もうミカゲ号は終了したんですよ、お客様。
「仲良しだね〜〜」
「バテンの早すぎるぞ〜〜」
ララ先輩はニコニコ。
ナナさんは僕の頬をつっつく。
「なるほど……。これが子を持つ世の中のお父さんの気持ちってやつか……。ふっ、体験しちまったぜ」
「何言ってんだお前」
ナナさんが呆れる。あ、そうだ。
「ナナさん、バトンタッチ」
「え? あたしがハイジの上に乗るのか?」
「なんでだよっ。僕に代わってナナさんが馬! その上にセリーヌちゃんが乗る! そして僕は端っこの方で読書! 完璧な構図だ!!」
「よっと」
「ちょっっ」
ナナさんも乗ってきやがったよ。
重……くはないけど、変に動かないでほしい。ていうかなんで乗った? 距離感がおかしい。まだ知り合って2日目なんだけど。
「それにしても驚いたよ。まさかヤミとハイジが友達だったなんてな」
え、このままの状態で続けるの? 降りてよ。
お構い無しにナナさんが僕を揺する。やめていただきたい。
「なあ、ヤミとどこで知り合っんだ?」
「どこって……」
ハッ! ヤミさんがこっち見てる! 『喋ったらただじゃ済みませんよ?』のジト目で見てる!!
別に恥ずかしいことじゃないと思うんだけど……了解。
「……ナイショ」
「え〜。なんだよ〜。教えろよ〜」
だから揺すんないでってば。ドギマギしちゃうだろっ。
「ハイジ、こっちに来てください」
「んぇ?」
ヤミさんが僕を呼んだ。
僕は、セリーヌちゃんとナナさんを乗せたまま方向転換し、ヤミさんの方を見る。
いやなんでもうすでに包丁持ってるんだよ。まだ料理始まってないでしょ。しかもやけに包丁を持つ姿が似合う。
「あれ? 美柑さんは?」
「私のエプロンを取りに行ってくれています。……この刃物、中々のものですね。手入れもされていてほど良い重さです」
「ほど良いて」
「投げやすそう」
「包丁は暗器じゃないよ……」
ヤミさんが言うと物騒に聞こえる。
背中の二人には、ぶつくさ文句を言われながらも退いてもらい、ヤミさんが立つ台所へ。
ちょうどそのタイミングで、二つの人影がリビングにやって来た。結城先輩と第3王女だ。滅茶苦茶驚いてる。
「ハイジ共々、お邪魔してます。結城リト」
「や、ヤミ!? それに御影も!? 二人がどうして台所に……てか何でヤミは包丁持ってんだ!?」
「ヤミさーん! エプロン持って来たよー」
美柑さんがヤミさんにピンク色のエプロンを渡した。
「えっと……美柑さん? ヤミさんと御影さんはここで何を……?」
「ん? 今日はね、前々からの約束でヤミさんが泊まりに来てくれたの。ハイジさんはヤミさんに連れて来てもらったんだよ。ヤミさんの友達だから、私にも紹介してって頼んでね」
「へ、へー……、そうなんですか……」
「うん。それで今から地球の料理を教えてあげようと思って」
「美柑に地球の文化を尋ねてみたところ、料理を薦められましたので、挑戦してみようかと」
「は……? ヤミが……料理……?」
何故か顔を青ざめて驚く結城先輩。
そんなに驚くことだろうか。ヤミさんが料理をするのは何もおかしくないでしょ。
「よし! 準備も出来たし、そろそろ始めよっかヤミさん! まずは野菜から切ってみよう!」
「はい……」
「あ、そのまま押さえたら指切っちゃう。切る時は、こんな感じに猫の手、だよ」
「猫の手……こう、ですか?」
二人でにゃーにゃーやってて微笑ましい。え、僕も? はい、にゃー。美柑さんにクスリと笑われた。恥ずかしっ。
……で、さっきから結城先輩と第3王女は後ろでヒソヒソ何やってんだか。ヤミさんが伝説の殺し屋だから油断しない方がいいって――トントン野菜を切っていたヤミさんが包丁を持ち替え、ノールックで投擲。
包丁は、結城先輩と第3王女の会話を裂くように、二人の間を抜けて壁に刺さった。
「すみません。慣れないもので手がすべってしまいました。悪気はないので許してください」
ダウトでしょ、絶対。
「ほ、包丁はしっかり握らなきゃダメだよヤミさん!」
「すみません、ついうっかり。――……せっかくですし、ハイジも一緒にどうですか? 料理。美柑の師事のもと、この機会に料理を覚えてみては」
「僕はいいよ、ちゃんと自炊出来るし」
「え、ハイジさん、料理出来るの?」
美柑さんが僕を意外そうな目で見てくる。ヤミさんは訝しみ、VBからは『不摂生の塊がどの口で言ってんだ???』みたいな気配を感じる。失礼だな。
「一人暮らしだからね。時と場合と気分とテンションと余裕と『あれ? 今日は出来そうな気がする……』みたいな感じになった時作るよ」
「つまり出来ないんだな……」
苦笑する結城先輩に、人差し指を立てて「ちっちっち……」と舌を鳴らし訂正する。
「お湯を注いで3分待ったら完成です」
「それは所謂カップ麺じゃ……」
「そうとも言いますね。慧眼ですよ、結城先輩」
「そうとしか言わないんだよな〜」
「ハイジさん……カップ麺は自炊した内に入らないよ……。ていうかまた体にあまり良くないものを……」
おっと薮蛇だった。
しかし……カップ麺は自炊に含まれないのか……じゃあ僕、料理出来ないや。威張らんとこ。
美柑さんが手を合わせる。
「ヤミさんもああ言ってたし、今からハイジさんも料理に挑戦してみたら?」
「僕のこそげた血肉が混ざっても良ければ、是非」
「グロい言い方だな! ケガする前提かよ!」
「よしっ、ハイジさんはゆっくりしててね!」
「かしこま」
結城先輩にツッコまれ、美柑さんの戦力外通告を受けた。
なので大人しく後ろの方に下がっていると、ナナさんがララ先輩に友達が出来たことを、嬉しそうに話していた。メアさんのことかな。
へぇ……ナナさんって動物の心が読めるんだ。ディ〇ニープリンセスじゃん。いやプリンセスだったな。
「ナナさんたち彩南高に転入して良かったみたいだね」
「そうらしいですね……」
「ナナさんの新しい友達ってどんな人かな~。あ、ヤミさんも転入してみたら?」
「え……? 私も……ですか……?」
「うん! 学校に通えば料理以外の地球の文化をより深く勉強出来ると思うし……何より楽しいよ、きっとね」
「…………楽しい……」
美柑さんからの勧誘に、ヤミさんはちょっと興味あり気だ。
それにしてもヤミさんが彩南高に転入か……。頭の中でヤミさんの制服姿を想像してみる。うん、滅茶苦茶似合う。
《妄想?》
妄想とか言うな。
と、何やら不敵な笑みを浮かべた第3王女が、ススス……とヤミさんに近く。何か怪しい。
「ヤミさんが彩南高生……素晴らしいですね♪ 美柑さんもああ言ってくれてますし、転入してみては如何です? あの校長先生にお願いすれば、即オーケーでしょうし、私のクラスはまだ空きがあるようですから♪」
「そうですね……ハイジはどう思いますか?」
「ん? いいんじゃないかな。美柑さんが言った通り、学校だったら地球の文学や歴史が学べると思うよ。何よりヤミさんが転入してくれたら、いつでも本の話とか出来るし、僕としても嬉しいし大歓……迎……です。…………今のナシ。忘れて」
思いっ切しいらんこと言った。
みんなの視線が痛い。特にヤミさんの……。
完全にやらかし……何でVBは喜んでんだよ。意味分からん。はぁ……顔熱っつ。
「……か、考えておきます」
ヤミさんはそれだけ言って、止まっていた手を動かし始めた。
――日も暮れた頃、結城家の食卓に料理が並べられた。
からあげ、煮物、サラダ、刺身――そして僕だけの前にある、
これ絶対ヤミさんが作ったやつだ。だって右隣からめっちゃこっち見てるんだもん。
「…………ヤミさん」
「何ですか?」
「そんなに見られたら食べづらいんだけど……」
「お構いなく」
構うんだよなぁ……。
左隣の結城先輩が僕にヒソヒソと耳打ちしてくる。
え? 無理しないほうがいい? 何腑抜けたこと言ってるんですか、せっかくヤミさんが作ってくれたんですから、美味しく召し上がりますよ。まあ確かにビジュアルはスゴいですけど。
それはさておき、手を合わせて――
「――いただきます」
味噌汁の中から箸でたいやきを持ち上げる。……重っ。
口へと運んでたいやきの頭を噛み切り、十数回咀嚼して……飲み込む。
程よく溶けた生地に、餡子の甘さと味噌のしょっぱさが……混ざって……なんか、こう……うん……なるほど、そういう感じ…………。
「…………意外と……イケる……?」
「! 本当……ですか……?」
「うん」
軽く目を見開いて驚くヤミさんを余所に、僕は2匹目のたいやきに食らいつく。独特で美味。
「人を選ぶだろうけど、少なくとも僕は嫌いじゃない。他は何作ったの?」
「……からあげ、という料理です」
ほうほう。
テーブルの中央にある大皿から、からあげを取り、食らう。
「美味しいね」
「美柑に教わった通りに作っただけですから……」
「謙遜してどうすんのさ。ほら見てよ、セリーヌちゃんもヤミさんの作った料理を美味しそうに食べてる」
ていうかがっついてる。喉詰まらせちゃうよ?
ヤミさんが箸を止めて神妙な面持ちになる。そんなヤミさんの顔を美柑さんが覗き込む。
「ねえヤミさん。料理やってみてどうだった?」
「……そうですね。悪くはなかった……と思います。少し興味も湧きましたし。なので、また教えてくれますか、美柑」
「! うん! まかせて!」
花が咲いたように美柑さんは喜びを頬に浮かべた。
和やかなゆったりとした時間が流れる。
セリーヌちゃんの汚れた口元を拭いてあげるララ先輩。
結城先輩にあーんして料理を食べさせようとする第3王女。
そんな第3王女に、人前でやめろと噛み付くナナさん。
ヤミさんは、美柑さんと楽しそうにお喋りしている。
僕はそんな光景を眺めていた。
《ん? どうしたハイジ。箸が止まってるぞ? もう腹一杯か?》
(VB……。いや……なんというか、こういうの暖かくていいなって思って……。こんなに大勢でご飯食べるの久々だ)
《……そうか。そりゃあ良かった》
何やら安堵するVBの声を聞きながら、僕は若干原型を留めていない最後のたいやきを、味噌汁と一緒に流し込んだ。
「――……ごちそうさまでした」
◆ ◇ ◆
外がすっかり暗くなった夜の8時過ぎ。
もう遅い時間なので、僕は帰ることにした。
ヤミさんは美柑さんとの約束どおり、今日はこのまま結城家に泊まるみたい。すでに
靴を履き、玄関の扉を開けて振り返る。そこには結城家勢揃い。まさか全員からお見送りされとは……。セリーヌちゃんは、ララ先輩に抱っこされてスヤスヤ眠っている。
そりゃそうだ。だってさっきまで遊んでたもんね。お馬さんごっこで。またせがまれるとは思わなかったよ。
僕は頭をぺこりと下げる。
「ごちそうさまでした。色々楽しかったです。美柑さんもヤミさんも、今日は誘ってくれてありがとう。料理美味しかった」
「ううん、私もハイジさんと話せて良かった。セリーヌとも遊んでくれてありがとね!」
「セリーヌがあんなに懐いてるとは思わなかったよ。今日の昼は本当に助かった。でさ、御影が良ければだけど、また遊んでやってくれ」
「ええ、構いませんよ、結城先輩」
なんだかんだで楽しかったですし。
「ハイジくんは、ナナとモモと同じクラスなんだよね? 2人のことよろしくね♪」
「ちょっ、姉上っ? そーゆーのいらないから!」
「あ、あはは……」
恥ずかしそうに両手をブンブン振るナナさん。僕は頬をかいて苦笑し、一瞬だけ視線を第3王女へ。……うん、目が笑ってない。何かを企んでる人は怖いね。
「ところでヤミさん」
「なんですか、ハイジ」
僕は右腕を軽く上げて、ヤミさんにジト目を向ける。
「何で僕はまた縛られてんの?」
「なんとなくです」
「なんとなくで縛るんじゃないよ」
デジャブだよ。
「……本当に泊まらなくていいんですか? 美柑は泊まっても大丈夫と言っていましたが……」
「うん。ありがたいけど、そこまでお世話になるつもりはないよ。それにほら、明日も普通に学校だし、授業で使う教科書とか家にあるからね。……あれ? もしかしてヤミさん……僕がいなくなって淋しいだだだだだだっっ!!」
捩じ切れんばかりに腕が縛られた。
僕は両手をヒラヒラ上げて降参のポーズをすると、すぐに弛んだ。
「ち、ちょっとしたジョークだよヤミさん」
「私は別に淋しくなんかありません」
「そうだよね、ヤミさんは強いもん」
「そうです。私は強い。例えば結城リトなんて、けちょんけちょんのギッチギチのバラバラが一瞬で可能です」
「何でそこでオレを例えに出した!?」
いつでも殺れますと言わんばかりに、ヤミさんが
ヤミさんと視線が合う。何か言いたげだ。
「……淋しいのは……いえ、なんでもないです」
「?」
「ヤミ?」「ヤミさん?」
よく分からないまま腕が解放された。
結城先輩と第3王女が首を傾げる。
様子を伺っていた美柑さんが、半歩だけ僕に近く。
「ハイジさん、またご飯食べに来てよ! その間にヤミさんの料理のレパートリーが増えてるはずだから!」
「み、美柑っ。ハードルを上げないでくださいっ」
「――うん、楽しみにしてる」
「ハイジっ?」
さっきのお返しだよ。
僕は手を振ってさよならを言い、結城家を後にする。
あ、カロリーメート返してもらってないや。ま、いっか、今度でも。賞味期限かなり先だし。
しばらく歩くと、足元の影から細腕が伸びてきた。
『いやー、今日は随分と充実してたじゃねーか』
「VB……何出てきてんの? 他の人に見られたらどうするんだよ」
『心配すんなって。今この道を歩いてるのはお前だけだ。人間の気配がしたらまた隠れるさ』
まあ……それなら良いけど。
『別に泊まらせてもらっても良かったんじゃねーの? 嬢ちゃん、淋しそうだったぞ?』
「? 淋しくないって言ってたじゃん」
『……………………はぁ』
「それは何のため息だよ。……ていうか泊まれるわけないだろう」
僕は袖を捲り、腕にあるおびただしい数の
「……細心の注意は払っているけれど、ふとした拍子に見られたら、これを見た人が不快になっちゃうでしょ」
『…………』
「だから僕は肌を隠して、秘密にするんだ」
たとえ信頼する友達のヤミさんであっても。
そしてもう二度と、あの日裏切られた過去を繰り返さないように。
闇深系主人公が好きです。