トランスオーダー・ディストラクション   作::Crane

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書いては消してを繰り返した結果、短めです。


#4: 面倒臭いったらありゃしないよね

「……はじめましての人ははじめまして、金色の闇です。今日からこのクラスでお世話になります。よろしくお願いします」

 

 そう淡白に言って、教壇前に立つヤミさんがぺこりとお辞儀をした。歓迎の拍手と男子たちの歓喜の声が混ざって響く。

 いや、早過ぎない?行動力凄いな。びっくりだよ。ああ、でもやっぱり彩南高の制服似合ってる。

 

「じゃあ、後ろの空いてる席に座ってくれ」

「はい」

 

 担任の小川先生に促され、頷いたヤミさんは指定された席へと向かう。

 その間もクラスメイトたちの視線は釘付けだ。特に男子の。分からんでもないけど…………うーむ。

 

《なんだ嫉妬か?》

(うっせェ、黙れ、ぶっっっ飛ばすぞッ)

《え、怖っ、キャラ崩壊?》

 

 断じて嫉妬じゃない。いやマジで。

 だって、彼女にそういう感情を向けるのは、お門違いというか何と言うか…………。うん、忘れよう。

 ヤミさんの席は窓側の一番後ろ。思ったより僕の席と距離は近かった。

 それから少しの連絡事項があって、朝のSHRは終了。

 そして終わるやいなや、一部の男子たちが一斉に立ち上がり、ヤミさんの席を囲むように集まって質問攻めを始めた。何なら口説こうとするやつもいる始末。目に見えて下心全開だ。鼻の下も伸ばしてるし……。

 

「や、ヤミちゃん! これ、俺のオススメの本! 漫画だけど読んでみてよ!」

「いつもたいやき食べてるよねっ? 俺、学校近くのたいやきが美味しい店知ってるからさ! 今日の放課後にでも一緒にどうかなっ? いくらでも奢るよ!」

「ね、ねぇ、俺の顔たいやきに似てると思わない!? 可愛いでしょ!」

「………………」

 

 うわぁ……、四方八方からの質問にシカトを決め込んでいらっしゃる。ヤミさんにいたっては変身(トランス)で作った大きな手で、しっしっと、どっか行けって追いやってるし……本当に無関心。追いやられた男子たちは、肩を落として自分の席へと戻っていく。背中の哀愁がひどい。

 さっきの人マジでたいやき顔だったな。テレビ出れるよ、テレビ。

 それはそうと、ヤミさん、教室に入ってからずっと難しい顔をしてるような……考え事? あ、こっち来た。

 

「えーっと……お疲れ様? 有名人は大変だね」

「有名なのはハイジの方では?」

「それは悪い意味で、だよ。こんなナリだし……ていうか早かったね。びっくりした」

「はい。正直、あの男にお願いするのは嫌でしたが、背に腹は変えられません。一言だけ言って了承をもらいました。今は恐らく、目を覚まして校長室の片付けをしている最中でしょう」

「……一体何をしたの?」

「調子に乗っていたので」

 

 グーにした拳をぶんぶん振るうヤミさん。金色の髪もゆらゆら。

 あーシバいたんだろなぁ。それも思いっきり。

 まあ、あの校長(セクシャルハラスメント)が余計なことを言ったんだろう。だったら自業自得でしょうがない。この学校の日常だ。それに慣れ始める自分って……。なんか悔しい。

 

「でも、ヤミさんが彩南高(うち)に転入して来るなんて意外だったよ。どういう風の吹き回し?」

「ハイジも言っていたじゃないですか。転入すれば、地球の文化が色々学べると。……それに、嬉しい……って……」

「…………あっ」

 

 数日前に言ったあの発言を思い出し、僕の顔が熱くなる。

 うーん、慣れないセリフは言うもんじゃないね、とにかくむず痒くなってしまう。あまり口にしないでおこう。

 ヤミさんが軽く両手を広げて見せる。

 

「あ、あの……制服、どうでしょうか?」

「えっ? いやぁ……その……に、似合ってる……よ……。うん、めちゃくちゃ……似合ってる……ます……はい」

「そ、そう……ですか……」

「「…………」」

 

 変な雰囲気が流れ、僕とヤミさんは、互いに目を逸らして無言になる。

 言ったそばからだよ。ますます顔が熱くなる! ほらもう、VBのやつがニヤニヤしてる気がする……。でもしょうがないじゃないかっ、似合ってるのは本当のことだし、聞かれて答えるのは筋ってモンでしょ。あー、もう、恥ずかしっ。

 

「――私の予想通り、転入早々モテモテでしたね、ヤミさん♡」

 

 パタパタ手で頬を扇いでいると、猫を被ったような甘ったるい声が耳朶を打った。第3王女だ。転入早々モテモテはこの人の方では?

 何やら第3王女がヤミさんに耳打ちをする。

 

「ヤミさん。あれから、()()()()のアプローチは何かありましたか?」

「!」

 

 第3王女の言葉に、ヤミさんの目が僅かながら細められた。

 やけに強調された『誰かさん』の部分。おおかた先日のことだろう。

 男子生徒たちを操ってヤミさんを襲わせた謎の人物。

 その謎の人物は、昔のヤミさんを知っていて、殺し屋の世界に戻そうとしていた。あれは本当に何だったのだろうか……。

 

(……って、ヒソヒソ話してるみたいだけど全然聞こえる。聞いてていいのかな)

《いいんじゃねーの? ハイジはあの場にいたうえ、得体の分からんやつに喧嘩売った張本人だしよ》

(……そう)

《あん時のお前、カッコよかったぜ〜》

(茶化すな茶化すな)

 

 思い出して若干の気恥しさを感じつつ、僕は二人のヒソヒソ話をぼんやりと聞いた。

 

「何か力になれることがあればいつでも言ってくださいね?」

「力……ですか?」

「はい♡ これでも銀河を統べるデビルーク王の娘。戦闘は勿論のこと情報収集などでも微力ではありますが、ヤミさんのお役に立てるかと思いますので、是非」

「それは頼もしいお話しですね。ですが……プリンセス・ モモ。私はまだ、あなたをそこまで信用していないので。結構です」

「かはッ!?」

 

 ヤミさんの言葉がぐっさり刺さったのか、第3王女は胸を押さえてよろめいた。仲良さそうなのに……意外だ。

 第3王女は「あはは……」と乾いた笑いで頬をかいた。幻覚かな、額に怒りマークが見える。

 

「ま、まあ? お姉様や美柑さんと比べたら? まだまだ付き合いは浅いですもんね〜〜…………」

「少なくとも、プリンセス・モモよりハイジの方がそれなりに信用できます」

 

 唐突に信頼を寄せられて僕の胸はトゥンクした。嬉しい。でも、第3王女からは鋭く睨まれた。なんで? とりあえず……ドヤっとくか。

 

「ふっ……」

「は、なんですかそのムカつく顔は。……あなたの方は大丈夫なんですか?」

「ん? 何が?」

 

 首を傾げたら、第3王女とヤミさんが呆れるようにため息を吐かれた。

 

《ハイジ……お前マジか》

 

 VBもかよ。

 

「ハイジ、あなたは少し危機感を持った方が良いと思います」

「ヤミさんの言うとおりです。御影さんは正体の分からない相手に向かって、啖呵を切ったんですよ? しかもあんなに煽って……。命を狙われる危険性も……」

「あー……、なるほどね。――でも大丈夫! 僕、こう見えて結構強いから!」

 

 僕は二人を安心させるように力こぶを作ってみせた。

 そしてまたため息を吐かれた。な、何故……?

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 昼休み。校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下の外のベンチに座って、僕はカロリーメート(カフェオレ味)を齧った。5時限目の小テストが憂鬱である。……このカロリーメート、微妙な味だな。興味本位で買わなきゃ良かった。

 隣に座っているヤミさんをチラリ。買った紙パックのジュースを口にせず、ぼーっとしていた。朝と同じ顔だ。何かあったのかな……? 

 気にはなるけど、無闇矢鱈に聞くのはデリカシーに欠けるし、ヤミさん自身も嫌だろう。下手したらしばらく口を聞いてくれなくなるかもしれない。

 と。前から人影……げぇっ、古手川先輩だ。

 

「あら。ヤミちゃんと……御影くん? 意外な組み合わせね。二人とも知り合いなの?」

「こ、古手川先輩……」

「……ちょっと。人の顔を見るなり嫌そうな顔しないでくれる? 失礼よ!」

「すみません、脊髄反射です」

「本当に失礼ね! ピアスも制服も直してきてないし……。はぁ、もう諦めたわ。言っても直す気ないでしょ?」

「はいッッ!!!!!!!!!!!!!」

「ムカつくほど良い返事ね」

《エクスクラメーションマークすごいな。顔が喧しい》

 

 風紀委員長の公認で制服着崩して良いんだぜ? そりゃこうなるさ。やったね!!

 そんな僕に呆れる古手川先輩は、ジュースを飲むヤミさんに微笑んだ。

 

「それはそうと、ヤミちゃんが一年のクラスに転入したって噂は本当だったのね。制服。とても似合ってるわよ」

「……」

「どうしたの? 何だか元気がないみたいだけど……」

 

 聞かれて、俯いていたヤミさんは少し顔を上げた。

 

「――最近、可笑しいことに……自分で自分の心が解りません。……笑えますよね、心なんて自分が一番理解しているはずのものなのに……」

「「…………」」

 

 自分の心が解らない、か。……それが朝から暗い顔をしてた理由なんだろう。うーん、他にもありそうな気がするけど……僕の考えすぎかな。

 

「……何か悩んでるみたいね。でも、ヤミちゃんの『解らない』は、普通のことなんじゃないかな」

「普通……?」

 

 ヤミさんの意外そうな顔に、古手川先輩が頷く。

 

「ええ。私もそうだもん。最近、私も自分の心に振り回されてばかり……。御影くんはどうかしら?」

「え、僕ですか?」

 

 まさか話を振られるとは思わなかった。

 僕は読もうとしていた本を閉じ、顎に手を当てて答える。

 

「……そうですねぇ。今読んでるこの本の展開が、ちょっと趣味に合わなくて、困ってます」

「それ意味違くないですか」

「なのに面白くて……!」

「面白いのね。何読んでるの?」

「官能小説です」

「か!? なんてもの学校に持って来てるのよ!?」

 

 びっくりするほど顔を真っ赤にさせた古手川先輩が、僕の本を取り上げる。ヤミさんからは物理的に少し距離を置かれた。わぁ、ヤベぇもん見てる目だ。悲しい。いや、そんなことよりも!

 

「返してくださいよ! 今からA太とC美の濡れ場なのに!!」

「ぬっ、ぬれ!? ハレンチよッ!! これは没収します!」

 

 ちくしょう、また没収されてしまった……!

 ただ学校で官能小説を読んでただけなのに、なんで!!

 

《いやジャンルがアウトなんだよ。つーか何回没収されりゃあ気が済むんだ、お前は。学習しろよ。馬鹿か?》

 

 脳内正論パンチやめて!!

 

「――と、まあ、お巫山戯はこの辺にして。さっき古手川先輩も言ってたけど、ヤミさんの『心が解らない』は案外普通でよくあることなんだよ。地球人だろうが宇宙人だろうが関係ない。みんな何かを抱えて毎日生きてるんだ。ホント、面倒臭いったらありゃしないよね」

「そういうものなんですか……?」

「そーゆーもんだよ。ですよね、古手川先輩」

「……そうね、御影くんの言うとおり。だからあまり一人で思い詰めないで、本当に辛い時があったら、誰かに頼った方がいいと思うな」

「…………」

「そうそう、なんなら僕に頼ってm」

「学校でえっちぃ本を読んでる友人はちょっと」

「げふ……っ」

《ぐうの音も出なくて草》

 

 任せろ、と立てた親指も虚しい。

 でも、少しだけ、ヤミさんの表情が晴れた気がする。

 と、その時、背後に感じた気配。振り返ると回りをキョロキョロするナナさんの姿があった。どうしたんだろう?

 ナナさんが僕たちの存在に気づいた。

 

「あ。ヤミとコテ川……それにハイジだ」

「あらナナちゃん。キョロキョロして、どうかしたの?」

「んー、ちょっとな。友達探してるんだけど、どこにもいなくてさ。なあ、二人とも、メアのやつ知らないか?」

「メアさん? いや、僕は知らないけど――」

 

 金色の美しい髪が翻される。声を掛ける間もなく、ヤミさんは校舎の中へ入っていった。

 何事かと後を追いかけてみる。しかし、その姿はもう見えなくなっていた。相変わらず足が速い。

 

「や、ヤミのやつ急にどうしたんだ……?」

「さあ……」

 

 僕とナナさんは互いに首を傾げた。

 その後、ヤミさんに訊ねても「何でもないです」の一点張りで教えくれず、始業ギリギリで教室に入ってきたメアさんは、とても上機嫌だった。――まるで新しいオモチャを見つけたかのように……。

 

 ちなみに余談だけど、古手川先輩に没収された官能小説を、冗談で読むのを勧めてみたらめちゃくちゃ叱られた。茹でダコかなってぐらい顔が真っ赤だった。はい、ごめんなさい。反省はしません。

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