生きてます。
外が暗くなっても中々帰ってこないリトさんと美柑さんに、夕食の準備をしていた私は妙な胸騒ぎを覚えた。
お姉さまとナナは『ふたりなら大丈夫』『心配しすぎ』って言ってたけれど、居ても立っても居られなかった私は、二人を探しに家を出た。そして――
「も、モモ!? どうしてここに!?」
「リトさんと美柑さんの帰りが珍しく遅かったので、心配になって様子を見に来たんです」
「そ、そうなのか。ていうかコイツ大丈夫か? なんか痙攣してっけど……」
「これは惑星ゼラスで採れた黒バラです。協力な麻痺毒なので、しばらくは痺れて動けないでしょう」
私はリトさんに説明しながら周囲を見回す。
……嫌な予感が当たってしまったみたいね。ヤミさんは服も破けてボロボロだし、美柑さんの様子もどこかおかしい。
褐色肌の女は私を睨み、スーツの集団は武器を構えて警戒。でも、ただ一人、スーツの集団の先頭に立つ四つ目の大男だけは、何かを企んでいるように思えた。すごく気味が悪い。
激しく地面を叩く音が耳朶を打つ。見やれば褐色肌の女が青筋を浮かべていた。
「どこの誰だか知らないけど、急に出てきて何だいあんたは」
「あら、私としたことが、自己紹介がまだでしね。――私はモモ・ベリア・デビルーク。デビルーク星の第3王女ですわ。以後、お見知り置きを」
「!? デビルークだって……?」
褐色肌の女が驚くのも無理も無い。スーツ集団もザワつく。
私の実父であるギド・ルシオン・デビルークは、戦乱の真っ只中にあった銀河を統一させた大戦の覇者だ。銀河の裏社会を生きる者達にとって恐れられる存在と言っても過言じゃない。お母様曰く、かつては『鬼神』なんて二つ名で呼ばれていたらしい。
「……それで? デビルークのお姫様が何の用だい。関係ないクセに出しゃばった挙句、あたしの復讐を邪魔して――。タダで済むと思ってんのかい」
「…………関係ない……ですって?」
私は、褐色肌の女に怒りの感情をぶつける。
「ここにいる人達はみんな、私の大切な人達なんですけど? あなたの方こそタダで済むと思わないでください。絶対に許しませんから」
「はっ! 生意気な小娘だねぇ! それじゃあお望みどおり、あんたの事もたっぷり虐めて可愛がってやるよォ!!」
鋭い風切り音と共に鞭の攻撃が連続で繰り出される。私はそれらの全てを躱し、反撃の隙を伺う。
未だにスーツの集団は動きを見せない。四つ目の大男は何かを話している。ますます不気味だ。
鞭の攻撃は激しさを増し、褐色肌の女が叫ぶ。
「金色の闇と同じで逃げてばかりかい!! デビルークの血筋が聞いて呆れるよ!!」
「誤解なさらないでください。殿方の前ではしたなく戦う姿を見せたくないだけです」
「ホント生意気な小娘だよ!! だが、余裕でいられるのはここまでだァ!!」
パチン、と褐色肌の女が指を突然鳴らした。
? 一体何を――
「モモ!! 後ろ!!」
「!?」
リトさんの声で反射的に後ろを振り返る。するとそこには、私に殴り掛かろうとする美柑さんがいた。
ギリギリで攻撃を躱すも、今度は跳び回し蹴り。私の頬を掠めた。
私は一先ずヤミさんのいる場所まで後退。頬を拭って息を吐いて思考を巡らせる。……今の美柑さんの動きは何? 明らかに普通じゃない。それによく見れば目も虚ろ。まるで人形みたい。嫌な予感が加速する。
「モモ、大丈夫か!?」
「リトさん……」
リトさんと後ろにいたヤミさんが私の近くに来てくれた。……でも、ヤミさんの方は満身創痍でふらふら。立つのもやっとの様子。
「……美柑は今、操られています」
「操られている……? それって……」
「暴虐のアゼンダ。かつて私が倒した
「念動波……」
……なるほど。操られた美柑さんを
「美柑を助けるためには、アゼンダを倒して念動波を解く必要があります。最悪倒せなくても、強い衝撃を与えて集中力を乱すことさえ出来ればいいでしょう」
「……ずっと気になってたんですけど、あの集団は何者なんですか?」
「私が地球に来る前、殺し屋の仕事で潰した組織です。プリンセス・モモは、マダクアファミリーという名前の組織と、ボスであるスカム・マダクアに聞き覚えはありませんか」
「マダクア……」
その名前には心当たりがあった。
たしか以前、デビルーク星王室親衛隊の隊長であるザスティンさんが教えてくれた犯罪組織の名前ね。
このタイミングで現れたという事は、アゼンダと同じでヤミさんに対しての復讐かしら。いずれにせよ、早く打開策を――
「あたしの事ほったらかして仲良く作戦会議かい!!」
アゼンダの声と一緒に金網のゴミ箱が念動波で飛んで来る。
私はリトさんを抱えて回避。ヤミさんは地面を蹴って、
「――かは……ッ」
とうとう彼女はその場に倒れてしまった。
力なく美柑さんへと伸ばされた手は、容赦なく踏みつけられる。
「ヤミ!!」「ヤミさん!!」
すぐさま駆け寄り――何処からかレーザー音。それは地面を焦がし、小さな硝煙を立てて私達の行く手を阻んだ。
私は歯噛みする。
青白い光線が飛んできた方向を睨みつけると、四つ目の大男が、光線銃らしき物をこちらに向けているのが分かった。スカム・マダクアだ。
「そこを動くな。少しでも妙な動きを見せれば、地球人の小娘の命はない」
「「……ッ!!」」
「そう怖い顔をするな、デビルークのプリンセス。ようやく今から金色の闇の尊厳を穢すパーティーが始まるんだ。我々と一緒に楽しもうじゃないか」
「……最低」
「フッ。なんとでも言え。――さあ、お前達、お待ちかねのご褒美タイムだ。存分にやれ」
冷たく発せられた命令。マダクアファミリーの数名が、上気させた顔で、満身創痍のヤミさんへ群がり始める。
「お前らッ、ヤミから離れやがれ!!!!」
「リトさん!!」
目の前の光景に耐えきれなかったリトさんが敵目掛けて走り出す。しかしヤミさんを取り囲む敵に辿り着く寸前で、操られた美柑さんに足を引っ掛けられ転倒。そのまま取り押さえられてしまった。
「クソっ! 頼むからっ、目を覚ましてくれ!! このままじゃヤミが……!!」
「 」
「美柑!!」
何度叫んでも届かない。
響くのはゲラゲラと敵の薄汚い嘲笑だけ。
「地球人ってのは、何も出来ない雑魚種族のくせに、ホント健気だねェ。坊やはそこで金色の闇が辱められるのを指咥えて眺めてな。くくっ、そう虐めがいのある顔をするんじゃないよ、坊や。むしろあたしに感謝して欲しいぐらいさ。最期にイイもんが見れるんだからな!!」
「お前……ッ!!」
アゼンダを睨みながら立ち上がろうとするリトさん。
と、その時、またレーザー音が聞こえた。
「――――――――は?」
アゼンダの間の抜けた声。
次いで
「ぐあぁッッ!!??」
そして集中力が乱れたのか、念動波から解放された美柑さんは、糸が切れた人形のようにリトさんの上に覆いかぶさった。
突然の事で私達は混乱する。
なぜなら、彼女の太腿に、小さな風穴が開けられたからだ。
「ぐぅ……あッ、スカム、貴様ァ……!! これは一体、何の、つもりだッ!!??」
「はぁ……、ギャーギャー喚くな、みっともない。耳障りだ。分からないのか? 単純に気が変わって貴様が邪魔になったんだよ、『暴虐のアゼンダ』。契約の話も無しだ。金色の闇は私が殺す。だが、まぁ、金色の闇をあそこまで追い詰めた事は褒めてやる」
「……ッッこの!!!!」
さっきまで余裕だったアゼンダの顔が苦痛で歪み、強く噛まれた下唇からは血が滴っている。
仲間割れ……かしら。でも、とにかく、言い争っている今が最大のチャンスだわ! 美柑さんは自由になったし、 早くヤミさんの周りに群がるヤツらを剥がさなきゃ! その前にまずはデダイヤルからなるべく攻撃性の高い植物を召喚して敵を一掃する!!
私は、見つからないようデダイヤルを操作しつつ、リトさんへ小声で話しかける。
「リトさん。美柑さんを抱えて走れそうですか?」
「あ、ああ、大丈夫だけど……、何をするつもりなんだ?」
「私が隙を作りますので、逃げる準備を。ヤミさんの方は私に任せてください」
「……分かった。頼む、モモ」
頷いてくれたリトさんがゆっくり美柑さんを背負う。
私も早速デダイヤルの
「おい。さっきからコソコソ何をしてやがる」
「!?」
冷たい声が耳朶を打った。
声の方を振り向く間も無いままデダイヤルが蹴られ、私の手から離れる。こめかみには光線銃が突きつけられた。
そして最悪な事に、デダイヤルはスカム・マダクアの近くまで飛んでいってしまった。
「ん? 何だこれは。携帯……通信端末か?」
デダイヤルを拾ったスカム・マダクアが訝しみ、不気味で歪んだ笑みをこちらに向けてきた。ぞわり、と悪寒が走る。
「まったく、我々の目を盗んで助けを呼べると思っていたのか? デビルークのプリンセスは、随分と今の状況を甘く見ているようだな」
そう言って、スカム・マダクアはデダイヤルを投げ捨てた。
「これ以上騒がず、大人しく従えば丁重に扱ってやる。可愛がってもやる。私は優しいからな。だが、また怪しい行動をすれば、この女と同じ風穴を貴様の柔肌に空けるぞ」
「…………、アゼンダはあなたの仲間じゃなかったんですか?」
「さっきまでな。言っただろう? 気が変わった、と。金色の闇を憎み、恨み、殺すという理由と目的はアゼンダと同じだ。アゼンダは今すぐにでも殺したいようだったが、私は『勿体ない』と思った。だってそうだろう? どうせ殺すのなら、長い時間を掛け、徹底的に苦しめて殺す方が最高に気持ちイイではないか!」
だからアゼンダが邪魔になった、と吐き捨て、スカム・マダクアは倒れているアゼンダの頭を蹴って気絶させた。そして話を続ける。
「しかしながらこの
「ち、地球の征服ですって……!? そんな事させるわけ」
『ぐああああっっっ!!!!!!』
スーツの男達が飛んできた。ヤミさんに群がっていた奴らだ。ヤミさんを見ると、制服を全て剥がされ下着一枚の姿に。どうやら敵を束にした金髪で薙ぎ払ったらしい。
スカム・マダクアが少し驚いた表情をする。
「ほう……、これは驚いた。まだそんな力が残っていたとは。流石、と評するべきか」
「…………はぁ…………はぁ……」
「だが、その惨めな姿で何が出来ると言うのだ、金色の闇。いい加減無意味な抵抗は止せ」
「……ッッ」
「見てみろ、貴様が蹴散らした私の部下はもう既に立ち上がっている。 以前の貴様であれば、我々を一瞬で殺す事も可能だっただろうに……、腑抜けて滑稽極まりない。――さあ、お前達、忌まわしき金色の闇の全てを辱めろ!! 終わらせろ!! そして、この
さっきより倍の数の敵がヤミさんへと再び襲いかかる。
今すぐ助けたいのに、デダイヤルを奪われて何も出来ない。
自分の尻尾でビームを撃つ? ……いや、駄目ね。撃つには
……私は、大切な人達を守れないまま、ただ呆然とヤミさんが穢される姿を見る事しか出来ないの……?
なんて不甲斐ない。
胸が締め付けられ、痛くて苦しい。
ふと無意識に見てしまったリトさんの表情は悲痛そのもの。胸の痛みは激しさを増し、視界が滲み始める。
「………………誰か……っ、助けて…………」
乾いた喉奥から零した私の願いは、喧騒に搔き消され、何処にも届く筈がない。そう思っていた、その時だった。
『――――ッッッ!!!!????』
どろりとした重くて不気味な気配を感じた。
それは辺り一帯を侵食し、金縛りにかかったかのように全員の動きが固まっている。
「何……やってんの?」
混乱の最中、聞き覚えのある声がして、目をやると、一人の少年がやって来た。スカム・マダクアの表情は愉悦から一転して不愉快を露わにする。
「誰だ、貴様は……」
少年は見知った顔だった。だから予想だにしていなかった人物の登場に、リトさんと私は目を見開いて驚き、ヤミさんは声を震わせて彼の名を呟く。
「……ハイ……ジ…………?」
御影琲爾。
最近何かと関わりがある私のクラスメイトであり、ヤミさんが美柑さんと同じくらい心を許していると思しき少年。
でもどうしてここに……って、じゃあ、さっきのアレは御影さんが……? だとしたら彼は一体何者なのっ? この場にいる全員を恐怖させるほどの
御影さんは速めた歩調で一直線にヤミさんの元へ。そして流れるようなモーションで、彼女の腕を掴んでいる豚顔の男の脇腹に拳を打ち込んだ。強烈な一撃。豚顔の男は堪らず体をくの字で蹲ると、今度は顔面を蹴り上げられ、そのまま気絶した。
よ、容赦がない……。彼がクラスで怖がられている理由、ちょっと分かったわ……。
気絶した男の仲間達は、言葉を失い後ずさった。御影さんはイライラした様子で首を掻き毟り、口を開く。
「邪魔、だから退いて。雑魚には用はないんだよ」
その言葉で、男達はハッとして憤慨し詰め寄った。
「邪魔だと!? 俺達の同胞ぶん殴っておいて、タダで済むと思ってんのか!?」
「地球人のガキが何の用だ! 薄気味悪ィ顔しやがって、女を助けてヒーローにでもなったつもりか!?」
「生きて帰れると思うなよ!!」
しかし御影さんはそれらを無視。あろう事か背を向け、脱いだカーディガンをヤミさんの肩に羽織らせた。
「ごめんね、ヤミさん。来るのが遅くなっちゃって」
「な、なんで、ハイジが……。っ……、もしかして私があなたを……」
「謝っちゃ駄目だよ。僕がここに来たのは自分で決めた事だし、巻き込まれたなんて微塵も思っちゃいない。だから、余計なお世話かもしれないけれど、あとは全部、僕に任せて」
御影さんはそう言って、敵の方を振り返り、私とリトさんを一瞥。少し驚いていた。……今気づいたの?
すると聞こえてきたのは大きな舌打ち。
スカム・マダクアが御影さんを睨んで、何かを握りしめていた。あれは写真?
「白髪混じりの黒髪に両耳のピアス……、病人のような青白い肌と鈍色の目……、そして口元の傷……。何故ここにいる」
「その反応、あんた、やっぱりあの宇宙人の仲間なんだね。話は全部、僕を拉致ろうとしたヤツにゲロってもらったから聞いてるよ」
「……何だと……?」
「昔ヤミさんに組織をぶっ壊されたんだって? それが理由の復讐とはいえ、女の子一人を大勢で囲んで欲情するとか、ダサいにもほどがあるだろ。はぁ、本当気色悪い。マフィアを名乗って恥ずかしくないの?」
煽って嘆息する御影さん。
彼に神経を逆撫でされたスカム・マダクアが青筋を浮かべて右手を前へ。それを合図に部下達が御影さんを取り囲む。
「…………本来、貴様は生け捕りにして
『話が長ェ』
突如、誰かの声と衝撃音がスカム・マダクアの話を遮った。
目を疑うような光景に私は言葉を失い、隣のリトさんが呟く。
「な、何だあれ……、腕……か?」
そう。それは腕だった。黒くて不気味な細長い腕が、御影さんの足元――影から無数に生えており、彼とヤミさんを取り囲んでいた敵達を蹂躙したのだ。そして後ろから悲鳴。振り返ると、数本の腕が、私に光線銃を突き付けていた敵を高く持ち上げている。
「ぐぁっ、な、何だこれ!? は、放しやがれぅえっ!!??」
敵は振り回され地面に激しく叩きつけられた。もしかして、助けてくれたのかしら……? 黒腕がこちらにやって来る。
『無事か? ケガは無いか?』
「えっ? は、はい、ありがとう……ございます……」
『そっちは?』
「あ、ああ。えっと……、お前は一体……」
『俺か? 俺はハイジの――』
「ちょっとVB!! なに勝手に蹴散らしてんだよ!! 殆ど残ってないじゃんか、このバカ!!」
『は~~~っ!? バカじゃねェわ!! こっちは暴れたくてウズウズしてんのに、話が長ェんだよ!! つーか、こんな雑魚カス共と遊んでないで、早く嬢ちゃん達を助けた方がいいだろうがっ!!??』
数秒の間が空いて、御影さんがこくりと頷く。
「確かに!! ありがと、VB!!」
『素直!! どーいたしまして!!』
……コント見せられてる?
二人? のやり取りに苦笑していると、あっけなく部下達がやられた事により、スカム・マダクアが初めて焦った表情をした。
「な、なっ、何なんだ、貴様は!!??」
聞かれて、御影さんが影を右手に集めながら答える。
「僕は琲爾。御影琲爾。地球生まれ、地球育ちのバケモノで、ヤミさんの友達だ」
更新は遅いですが、引き続きよろしくお願いします。