喫茶リコリコにサードがもう1人移動になりましたが、どうやらたきなとは別次元でヤバいやつみたいです。 作:くりこま
「井ノ上たきな、本日付をもってDA支部への転属を命じる。」
「……了解しました。」
「向こうにも優秀なリコリスがいる。そいつから学べ。」
「はい。失礼します。」
DAの司令官・楠木は、事務的に辞令を言い渡すと、ため息をひとつつき、次に呼び出す相手の顔を思い浮かべて眉をひそめた。
「次はあいつか……」
「指令、私も……がんばります……」
傍らの秘書が、どこか同情を込めた声でそう言った。
その時、ノックの音が響き、別のリコリスが姿を現した。
「失礼します。木目田葵、入ります。」
入ってきたのはサードリコリス。茶髪のポニーテールに凛とした顔立ち。身長はやや高めで、スタイルも目を引くほど整っている。
見た目だけなら模範的なリコリスに見える。だが、彼女には致命的な問題があった——というより、問題が多すぎた。
「一応、聞いておくが……お前が呼ばれた理由は分かっているな?」
「心当たりが多すぎて……何から自白すればいいか分からないですね」
楠木のこめかみに、痛みが走る。
「……では例を挙げてみろ」
「講堂でAVの上映会を開催。次に資料室でエロ漫画博覧会を実施、噴水前で自作の同人誌を販売——それもアダルト含む——、その次にイケメン職員の入浴シーンを隠し撮り、さらに……」
「もういい!もうそれ以上喋るな……」
楠木は頭を抱えた。
「そこまで分かっているなら話は早い。お前にもDA支部への転属を命じる。」
「……っぷ、イヤっすw」
「そうか。なら前回、お前を鍛える名目で送った山奥の修行場へ再配属に——」
「喜んで支部に行きます!」
「さっさと荷物をまとめて行け。」
「その前にもう一つ。」
「なんだ?」
「どうしてたきなに、本当のことを話さなかったんですか?」
さっきまでのふざけた態度は消え去り、葵は真っ直ぐに楠木を見つめていた。
「なんのことだ。」
「あくまでシラを切るんですね。……そういうの、よくないと思いますよ。」
「わからんな。話は終わりか? なら出ていけ、私は忙しい。」
「……了解しました。失礼します。」
葵が出ていくと、楠木は秘書と共に深いため息をついた。
「……あいつ、相変わらず鋭いですね」
秘書が呟く。
「まぁな……それが長所でもあり、厄介なところでもある。普段から真面目なら助かるんだがな」
「本当に……ですね」
二人は、揃って疲れ切ったため息を吐いた。
てなわけで、私こと木目田葵は、現在、錦糸町にあるDA支部へ向かっております!
いや~、最初はね、左遷かよって思ってましたよ。心外にも程がある。でもよく考えたらですよ? 本部よりゆるそうだし、創作時間も取れるし、アダルト動画も見放題……ある意味、天国じゃね?
「えーと、ここか」
指定された住所には、“喫茶リコリコ”と書かれた看板のある小さなカフェが立っていた。外観は普通。だが、ここが新たな職場らしい。
扉を開けると、先に着いていた井ノ上たきながカウンター席に座っていた。
「あれ、たきな、もう来てたんだ?」
「……あなたも転属ですか」
「なんで“うわぁ……”みたいな目!?」
「あなたと同じ配属ってだけで……正直、気が重いです」
「泣いてもいいかな……私、そんなに嫌われてたっけ……?」
「嫌いというか、存在が受け入れがたいんです」
(ちょ、今の普通に殺意あるやつ……)
その時、カウンターの向こうから強烈な視線を感じた。
「んー、あんたが変態過ぎて本部追い出されたって噂のリコリスか」
「いやその言い方は傷つくぅぅぅ!」
視線の主は、緑の和服を着た女性。どこか品のある顔立ちに、落ち着いた雰囲気……だが口調は辛辣だ。
「えっと、あなたは?」
「それは中原みずき。元DA。今は店の手伝いをしてる」
「だからそれっていうな!」
「あれ、この声……教官……?」
「今は教官じゃない。久しぶりだな」
「元気です!元気ビンビン!教官、今度モデルになってくださいよぉ」
「断る」
横からミカがコーヒーを置きつつ、ため息をついた。
その直後、店の扉が勢いよく開く。
「先生、大変!タベモグの口コミで“ホールスタッフが可愛い”って書かれてた!これ、私のことだよね?」
「いや私のこと!」
「冗談は顔だけにしなさいよ、酔っ払い……って、リコリス? 」
「例のリコリスたちだ。お前とチームを組む。仲良くしろよ」
「え、マジで!?はじめましてー!私は錦木千束!年は!?名前は!?」
「井ノ上たきなです。16歳です。」
「木目田葵です、同じく16歳です。」
「わぁ~年下なんだ!でも“さん”は要らないよ!」
(テンション高ぇ……)
「で、たきな、その怪我は?」
「…………」
[newpage]
一段落して、千束はフキと電話で喧嘩していた。
「うっせぇ!アホ!!」
(切ってから怒鳴っても意味ないし……)
「よし、じゃあみんな、先生のコーヒー飲んだら仕事行こうか!」
「はいっ!」
さてさて、ここでの仕事って……どんな感じ?
想像していた任務とは、全く違った。
——保育園でのお遊戯支援、日本語学校での講師、組事務所へのコーヒー豆配達。
(これ、リコリスの仕事……?)
さらに警察署で安倍警部から依頼され、ストーカー被害に遭っている女性の護衛につくことになった。
「こんなことをして、DA本部に戻れるのでしょうか……?」
たきなの不安はもっともだった。
「たきな、DAじゃ対応しきれない問題も私たちが引き受けてる。つまり、これも平和を守る仕事なのさ。」
「……そうなんでしょうか」
たきなの視線が伏せられる。
「葵はどう思う?」
私は——
「これはこれで、良いと思いますよ。」
たきなが、少し驚いた顔をしてこちらを見た。
「だよね!いやー分かってくれて嬉しい!」
「私は、やっぱりあなたのことは理解できません」
(そこまで言う!?泣いていい?)
「確かにDAとはかけ離れてるけど、得るものもあるよ?」
「例えば?」
「創作ネタ……」
「最低です。」
「……あはは、ちょっとひどかったか」
(千束さんにも引かれた……)
その時、依頼人のさおりさんが現れた。彼女は恋人とのツーショット写真がきっかけで、脅迫やストーキングを受けているという。
「どう思う?」
「特に違和感はないですね」
「葵は?」
「彼氏さん、イケメンですね。今度二人でモデ……すみません、調子に乗りました。」
二人の冷たい視線が突き刺さる。
「どうしたの?」
「あー、なんでもないですさおりさん!」
「葵、真面目にやれ」
「Yes ma'am!じゃあ真面目に言わせてもらうと……」
「最初からそうして」
「まぁまぁ、それより、この写真の後ろ……」
「ん?これは……!」
「まずいですね……」
写真の背景に映っていたのは——例の銃取引現場だった。