トラブルがなーんにもない。
あまり美味しくなかった火竜を倒した後、美味しいものを食べるために奮起した私達。
蜘蛛子さんと中層を進んでるけど、本当になにもない。
トラブルが無い。
ここら一体の魂を刈り尽くした訳でもないだろうに。
多分蜘蛛子さんの覇気を見て逃げてると思うけど、そんなにひどいかな?
命の危機を感じてヒリヒリするくらいじゃない?
私はそれが気持ちいいけどねー。
ちょっと強くなり過ぎたよね。
蜘蛛子さんが。
私は蜘蛛子さんを助けるにはまだまだ足りない。
この魔物がいない現状は私の身体を食べて飢えをしのいでるけど、一つの味だけじゃ飽きるよね。
自分の足を食べながら考える。
やっぱり迷宮の外に出たいよね。
私の分体は元気にしてるかな。
あー、とにかく最強の敵マグマをどうにかしてくれないかな。
なんて油断してた私達は、恐怖に震えることになる。
生まれた時に感じた、あの絶望を。
……正確には、蜘蛛子さんが。
私は感じてない。
まあでも、火竜や猿なんて虫けらにすぎない。
それだけの威圧が、マザーにはあった。
こんにちは、マザー。
私ならシステムを辿って鑑定できる。
けど、それをする気にはなれない。
おぞましいステータスなことは予想できる。
けど、私の本能が言っている。
鑑定すれば、死ぬと。
恐怖は無くても、本能はあるからね。
でもここから観察するくらいなら死なないでしょ。
マザー大きいなー。
あれ?背中になにかいる。
あの桜色のような緋色のような身体……プリンセスタラテクトか。
三体いるね。
私を合わせたら、マザーは四体産んだわけか。
確かに私が生まれた時、周りに私の卵と同じ色の殻が散乱してたね。
ということは私、末っ子なのか。
あ、マザーが結界みたいなのを張った。
何だろうと思ったら、マグマから火龍っぽいのが出てきた。
我が子を守ろうとしてるのかな。
ステータス底上げ系スキルが無かったら、プリンセスタラテクトってそんなに強くないしね。
子を守るっていうハンデがある辺り、いい勝負になるんじゃないかな。
いくらマザーでも火龍軍には苦戦するでしょ。
なんて呑気なことを考えていた私は、その後の光景に絶句……いや感激?した。
マザーがブレスを一発放っただけで、地面にクレーターができたのだ。
火龍軍は塵も残ってない。
マザーすごーい。
でもようやく平和が戻ってきたかも。
マザーは下に戻っていったし。
と思っていたのか?とでも言わんばかりに火龍がダバーっと出てきた。
うわー……。
めんどくさいから地獄門でも数十発やろうかな。
いや、そんなことしたら迷宮崩落するね。
ささっと蜘蛛子さんと作戦会議を済ませ、私は前に出た。
ここは私が囮になる。
火炎無効、物理攻撃無効なら火龍の攻撃ほとんど効かないでしょ。
蜘蛛子さんは火龍の後ろに回り込む。
勿論そっちには向かせないよ、火龍。
虚空魔法を火龍に向けて放つ。
深淵魔法並みの制御を必要とする虚空魔法だけど、その範囲は小さい。
それだけエネルギーの密度が多いってことだけど。
ふとした瞬間に暴発しそう。
魂のバックアップは取ってあるし、死ぬことはないと思う。
火龍の身体に小さな風穴を開けていく。
その隙に蜘蛛子さんは毒合成で火龍に攻撃するという作戦だ。
毒合成は避けられたけど。
……想定外だったのは、毒合成を摂取しかけた後、私を無視して蜘蛛子さんを攻撃したことだ。
私は身を焦がすような痛みを感じた。
蜘蛛子さんが自分を攻撃する可能性を考慮してプランBを提案していた。
あれは幻影!あれは幻影!
外道魔法式の幻影は効果が薄い。
私が制御に力を貸して、空中にホログラムを映すような感じの魔法を蜘蛛子さんに教えた。
幻影を使って火龍を騙している。
それを今やった形になる。
けど……けど!
この燃え盛る怒りはどうすればいいんだろう。
初めて感じた感情……怒りは……。
《条件を満たしました。スキル「怒LV10」が「激怒LV1」に進化しました》
視界が赤く染まる。
蜘蛛子さん以外の全てを破壊してしまえと、怒りは叫ぶ。
そう、それは私でさえも。
火龍……いやクソトカゲに体当たりする。
腐蝕攻撃で火龍の身体に傷を付ける。
蜘蛛子さんを、よくも!
す べて を 破 壊し て――
『ストーップ姫蜘蛛ちゃん!私はここ!正気に戻りなさい!』
はっ……そうだった。
怒りに染まった魂を破棄する。
ふぅー、もう私は冷静だよ。
じゃあこのクソトカゲに止めを刺そうか。
私達は糸を使って、攻撃してきたクソトカゲの動きを止め、腐蝕攻撃で止めを刺した。
けど、私はそれで許す気なんてない。
ふふ、しっかり魂を回収しておいた。
殺して、蘇生して、殺して、蘇生して。
とりあえず称号の龍の天災に至るまでこれを続けよう。
分割して、増殖させて、複製する。
大事な事なので三回言いました。
それを壊して直して壊して直して……。
あ、繋がりの回路が魂に組み込まれてる。
龍の王とかの系譜だったのかな。
勿論破壊する。
ばれないうちにこういうのは破壊しておくに限る。
よし、天災化完了。
レベルも50になった。
てかまだ進化しないのー?
進化とかガセネタなんじゃないかな。
あ、蜘蛛子さんが今回獲得したスキルポイントで邪眼を取ったみたい。
今は重力修行してる。
多分重力系の邪眼かな?
それ私にもかけて。
『いいよー』
目指せ重力一万倍克服。
いや死ぬか。
肉体は死んでも魂は死なないし問題ないかな。
――ッ!?空間に歪み!?
なにか転移してくる!
妨害は……無理そう。
邪魔ならできるけど、魔術が弾かれるからめんどくさい。
転移してきたのは、全身が黒い人。
鑑定結果は鑑定不能。
蜘蛛子さんは親近感を感じているようだけど、私はなにも感じてない。
マザーのように超越した存在なのでは?
何を伝えようとしているのかも理解できない。
私は理解できない存在は嫌いなんだ。
いや、蜘蛛子さん以外の全てが嫌い。
じゃあこの黒い人は……敵?
『もしもし、こちら管理者Dです』
身構えていた私の耳に、日本語が響く。
気がつけば目の前には光る板が落ちていた。
これはどうやって現れた?
私の探知に全く引っかからなかった。
『はい。Dです。蜘蛛さんはちょっと待っててください。そこの従魔にも命令を』
あれ?このDって人は私が転生者だって知らないのかな。
まあいいや。
待てと言われたので待つ。
その後、Dは蜘蛛子さんと会話をしてから消えた。
いや、正確にはあの光る板が。
それが、管理者との出会いだった。