姫蜘蛛ですが、なにか?   作:トンTon

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閑話:迷宮の悪夢と夢喰

この時期になんて運の悪い。

第一子が生まれたばかりだと言うのに。

私の名はブイリムス。

レングザンド帝国でも有数の実力者だと自負している。

だが、今回の任務は気が乗らない。

帝国では王子が生まれ、お祭りムードだ。

なのに、同じ時期に生まれた我が子、マリィムの顔を見れないなんて。

今回の任務は、迷宮に生息する二体の蜘蛛型モンスターの狩猟だ。

事の発端は、オウツ国からの支援要請だった。

エルロー大迷宮に魔物が大量発生している。

そのため、我が国に救援要請が来たのだ。

すぐさま国境付近に待機させていた部隊をオウツ国入りさせる。

そのうち異変の原因を突き止め、帰還すると思われた。

事実、彼等は異変を突き止め、帰還した。

しかし、彼等は逃げ帰ったのだ。

二匹の蜘蛛型の魔物から。

その内の一匹は脅威をあまり感じなさそうだったが、もう一匹からは全滅を覚悟しなければならない恐怖を感じたという。

しかもその区画は霧に覆われており、前も見難いらしい。

最低でも危険度Aランク、恐ろしいことにSランクにも匹敵するかもしれないと予想されるとのこと。

もう片方は威圧感を全く感じさせないことから、最低ランクのFだと予想されている。

タラテクトの変異種で、その二匹は番であると推測される。

ただ、タラテクト種は雄がいないので姉妹の可能性もある。

もし片方に危害を加えた場合、もう片方が激怒する可能性が高そうだ。

そんな危険な魔物が迷宮の外に出てしまっては堪らない。

 

しかし、それと同時に奇妙な噂が流れ始めた。

迷宮には冒険者を助けてくれる蜘蛛型の魔物がいる、と。

現地の調査員に噂の出所を探らせた結果、その蜘蛛型の魔物に助けられたと言うパーティが見つかった。

強い方の蜘蛛はエルローバラドラードから救ってくれ、弱い方の蜘蛛は冒険者を治癒したという。

さらに、クリクタの実と引き換えにして謎の魔物の菓子を置いていったらしい。

そんな馬鹿な。

それが私の感想だった。

魔物使いである私は、魔物については詳しい方だ。

知能こそ低いが、全く考えなしという訳ではない。

が、人助けなどという行為など、伝説クラスの魔物でしか聞いたことがない。

しかも、弱い方の蜘蛛は菓子を置いていったそうではないか。

料理をする魔物など、もう魔物ではない。

菓子を迷宮で怪我をしていた冒険者に与えているそうではないか。

一つ実物を持ってきて鑑定したが、それはとてつもない性能を誇っていた。

 

<エルロータニシムシのスナック:エルロータニシムシを油で揚げた菓子。黄金の焔によってのみ製造可能。食べるとHPMPSPが1000回復するだけでなく、一定時間SPがプラス10%増加する。過食系スキル未保持でも純粋なエネルギーとしてストック可能>

 

英雄級でもなければ全回復する回復量に、過食の上位スキル、飽食の力を持つ菓子。

はたしてこんなものが存在していいのだろうか。

最近台頭してきた、獣人族やドワーフもこんな性能のものを持っていたような気がする。

たしか……コメという植物だったか?

それに、ミソシルというスープがつくらしい。

いや、良く考えてみれば全くの別物だな。

エルロータニシムシという聞いたことのない魔物を使っている時点で。

それにしても、そんなものを作る伝説級の魔物に勝てるのか?

 

 

 

 

 

「はー。全く、この儂に迷宮探索などさせおって」

 

私の隣には帝国が誇る大魔法使いのロナント様。

現在私達はエルロー大迷宮の中にいる。

人族最強の魔法使いと称される彼がいないと、あの魔物を討伐、ましては捕獲などできない。

まずはあの魔物を発見するところからだ。

 

「ここが噂に聞く地竜の死骸があった場所じゃな?」

「はい……そのはずですが、霧も見つかりませんね」

「放棄されておるみたいじゃのう」

 

地竜の死骸があった場所が放棄されていると知り周囲を探索してみるも、成果は得られなかった。

その後、しらみつぶしに離れた場所も探索したが、その魔物が見つかることはなかった。

結果的に見つけることができたのは、テーブルとイスのみ。

迷宮の所々に石のテーブルとイスがあったが、これは何だろうか。

試しに真ん中にある突起を押してみると、「エルロータニシムシのスナック」が出てきた。

しかし、この周りには巣がない。

これは一体なんの目的で作られたのだろうか。

エルロータニシムシのスナックを持って立ち去ろうとすると、石にしてはふわふわな触感があったことに気付いた。

座っていたイスを見ると、見事に石に擬態した蜘蛛の糸があった。

ただし粘着性は無く、ただフカフカなだけ。

本当になんなんだろうかこれは。

 

数日後、私達は中層の入り口付近に入った。

 

「うわ!?」

 

迷宮の案内人が不恰好な姿勢で止まる。

どうやら私達は当たりをひいたようだ。

霧があたりを隠していて、極細の糸が張り巡らされている。

剣で切ろうとするが、切れることはなかった。

ロナント様が炎の魔法で糸を焼き切ろうとする。

だが、全くと言っていいほど糸は燃えなかった。

流石に案内人が火傷しそうなので、他の場所で糸を燃やす。

だが、やはり糸が燃えることは無かった。

試しに鑑定石で鑑定してみると、この糸は火への完全耐性を持つらしいことがわかった。

どうすべきかと火を広範囲にまき散らしていると、一か所だけ燃えた。

その場所はちょうど巣のような大きさで……。

 

「あちゃあ、やってしまったの」

「ここも放棄されているといいんですが」

 

霧がある時点でその線は薄いと言わざるを得ない。

巣があった場所に行くと、緋色の小さな蜘蛛がいた。

その蜘蛛は希薄な気配を出しながら此方を見ている。

これが弱い方の蜘蛛か。

しかし攻撃してくることはなかった。

私達は困惑しながらその蜘蛛を見つめ合うことしばし。

興味が失せたのか、緋色の蜘蛛はアークタラテクトの死骸を食べ始める。

恐らく強い方の蜘蛛が狩ったのだろうが、Sランクのアークタラテクトを狩っていたということに戦慄する。

アークタラテクトを狩り、あまつさえ食糧にするような魔物がここにいるだと?

撤退すべきだ。

しかし、その判断は一歩遅かった。

悪夢が、我々の前に姿を現す。

その八つの瞳が、我々を睥睨する。

緋色の蜘蛛が悪夢に駆け寄り、念話をしている。

傍受してみたが、謎の言語を使っていてよくわからなかった。

だがこの言語は、噂に聞く亜人語か?

ドワーフや獣人が話す言語として知られている。

 

「お、ぉおおぉぉぉ?」

 

奇妙な呻き声が聞こえたと思って横を見ると、ロナント様が震えていた。

体をゆすって正気を取り戻させ、詳しく聞くと、あの魔物は常時ありえない量のスキルを多発動させているという。

恐怖した訳ではないようだが、状況はよくない。

なぜなら、悪夢が、あの王者のような魔物が怒気を発しているからだ。

しかも、鑑定をしてくる。

鑑定!?

そんな馬鹿な!

そのステータスをこちらも鑑定するが、鑑定結果に唖然とする。

すさまじいまでのステータス。

膨大な量のスキル。

こんなもの、勝ち目がない。

 

「なっ!?ま……魔帝!?」

 

魔帝?そんなスキル見たことも聞いたこともない。

よく見れば、見たことがないスキルばかりだ。

見たことがあるスキルでさえ上位のもの。

だが、私の驚きはそこで終わりではなかった。

突如として<鑑定が妨害されました>という文が表示される。

鑑定を妨害する?

そんなスキルが、あるのか?

 

「ま、待ってくだされ!もっと、もっと見せてくだされ!」

 

ロナント様は正気を失っている。

いちおう弱い方も鑑定しておこうと思い鑑定すると――

 

<鑑定不能>

 

「は?」

 

思わずそんな言葉が出てしまった。

鑑定が失敗することや、妨害できることは先程の行動で分かっている。

鑑定……不能?

私はとんでもない間違いをしていたのかもしれない。

あの悪夢の方が強そうな覇気を放っている。

それは間違っていない。

だが……この緋色の蜘蛛は何者なんだ?

怒気を表している訳ではない。

威圧を放っている訳でもない。

ただ、無感動に、こちらを見ている。

そんな私を正気に戻したのは、前にいた仲間が一瞬で死んだことだ。

なにもしていない。ただ、見ていただけだ。

何のスキルだ?見ることが条件だとすれば、悪夢が保持していた邪眼というスキルか?

そんな光景に仲間の一人が耐えかねたのか、悪夢、エデ・サイネに斬りかかった。

だが、攻撃が当たった瞬間、その仲間は塵になった。

なにが起こったのかわからない。

いや、解りたくない、

一瞬だけ、あの緋色の蜘蛛から、ありえない威圧が放たれたなんて……。

ロナント様はあの緋色の蜘蛛を凝視している。

 

「馬鹿な。エデ・サイネの数倍のスキルを常時多発動しておる……のか……?」

 

私でも見えた。

あの緋色の蜘蛛が、存在する全てのスキルを発動しているような錯覚に陥る。

しかしあれ以来緋色の蜘蛛は攻撃していない。

好都合だ。部下達を撤退させる為、四匹の召喚獣を召喚した。

それを、とにかくはエデ・サイネに向かわせる。

キレコークの風の魔法が直撃した。

だがその瞬間、あの仲間のように塵となった。

あれは、緋色の蜘蛛の攻撃か?

あの蜘蛛の行動原理がよく分からない。

推測すると……エデ・サイネに攻撃を当てた者だけを塵にしている?

試しに、緋色の蜘蛛にスイテンの水ブレスを当てた。

しかし、緋色の蜘蛛は動かない。

傷は無かった。そして攻撃してくることもまた無かった。

緋色の蜘蛛を倒すことは無理だった。

ただ、あの塵になる攻撃を放つ様子は一向にない。

なんとかして緋色の蜘蛛にのみ攻撃を集中させ、時間稼ぎをしなければ。

フェベルートがエデ・サイネに飛びかかるのを見て、私はやめろ!と叫びたくなった。

あの蜘蛛は、恐らくエデ・サイネが攻撃された時のみ激怒する。

幸いと言っていいのかどうか、フェベルートは土の槍と風の魔法で殺された。

 

「スキルを使わずに一から魔法を構築するじゃと!?」

 

記憶を思い返すと、確かにエデ・サイネはそのスキルを持っていなかった。

ロナント様が驚いていることから、普通はできないことなのだろう。

さらに、スイテンが水ブレスをエデ・サイネにかける。するとやはり塵になってしまった。

まただ。エデ・サイネに攻撃をしてしまえば最後、塵になってしまう。

最後の希望のロックタートルは、何もできずにHPMPSPを吸い取られて死んだ。

私の心の中をただ恐怖が支配する。

いつの間にか、仲間は全員死んでいた。

生き残っているのはロナント様と私のみ。

私はロナント様に向けられた暗黒槍を受け、ロナント様の魔法によりギリギリ転移した。

多大な犠牲が出たが、私達は生き残った……。

あの、悪夢、エデ・サイネと、それさえ喰らうような力を持った夢喰、緋色の蜘蛛から……。

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