姫蜘蛛ですが、なにか?   作:トンTon

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白1:傲慢から始まった殺戮、色欲から始まった自己犠牲

「ぁぁ、あ、ぁあぁ」

「大丈夫、大丈夫だよ」

 

二年ほど前、UFO事件が起こった時、大量のMAエネルギーを私達は吸収した。

その結果、私と緋ちゃんは神になったのだ。

でも、こんなのはあんまりだよぉー!

神になったとはいえ、魔術を使えるというわけでもなく、ステータスもなく、スキルもなく……。

大幅に弱体化してしまった。

私の肉体は前世の若葉姫色に準拠しているのか、とても虚弱だ。

平地でも簡単にダウンしてしまう。

体力測定でぶっちぎりの最下位をとったのは伊達じゃないのだよ!

まあ、それはまだいい。

死ぬわけじゃないんだし。

まあ下手したら死ぬかもしれないけどな!

いやいやそういうことじゃなくて、問題は緋ちゃんの方。

緋ちゃんは、神として目覚めた当日は特に不調はなかった。

ただ魔力が体を駆け巡っていて魔術を使えないだけだった。

そのはずだった。

 

翌日、緋ちゃんは、溶けた。

な……何を言ってるのかわからねーと思うが、私もどうなっているのかわからなかった……。

頭がどうにかなりそうだったよ!

なにか恐ろしいものの片鱗を味わった。

緋ちゃんも驚愕した顔でこちらのことを見ていた。

 

「白、ちゃん、わ、たし……」

 

私はその症状に心当たりがある。

他ならない緋ちゃんが語っていたことだから。

ケツイという力、緋ちゃんは日ごろからそれを使っていた。

私のように並列意思を暴走させることなく、一つの意思の元に統率していた。

そして、緋ちゃんは不死身だった。

老いることなく、死ぬこともなく、ステータスなんて飾りでしかない。

けど、それについては緋ちゃんが言っていた。

「これ、肉体が丈夫だからいいけどさ、そうじゃなかったらこのケツイに耐えられるかどうか……」って。

ケツイとはそれほど強い力ではあるけれど、耐えられないほどに肉体が弱くなってしまったら?

ステータスが1でも体が溶けることなんてなかった。

というかあのDが作ったシステムなんだし、そんなことがあったら困る。

そんな超便利なシステムの中で緋ちゃんは自分の肉体を幾度となく壊し、再生してきた。

それはもう、本当の体とは言えないと思うな。

その肉体は魔力によって作られた仮初の体。

ステータスがなければ、不安定な体になってしまう。

幻影みたいなものだからね。

まだシステム内の力、奇跡魔法とかで治癒してたらよかったんだろうけど……。

緋ちゃんはシステム外の力を平然と使ってたからね……。

緋ちゃんが自分の体を犠牲にし始めたのは、あれを手に入れてからだったかな。

「色欲」というスキル。

私が傲慢を獲得したと同時に獲得したあのスキル。

 

魔王が、大罪系のスキルは初代の影響を受けるから取らない方がいいと言ってた。

初代色欲の保持者は、どんな人だったのかと魔王に聞いたことがある。

頑張り屋で、不器用で、そして愛していた人の為に身を粉にして働き、どこまでも自己犠牲に……。

最終的には愛した人が死んでしまい、失意の底に沈みながらも戦いに明け暮れた。

そんな人だったと。

まあ、色欲を獲得してやっとその精神汚染が起こり始めるから、怠惰みたいにデメリットなしではないけどデメリットは少ない方のスキルだと言っていたんだけどね。

それでも納得しちゃった。

緋ちゃんは初めからそんな感じの雰囲気はあった。

謙譲を獲得してからは、魂なんて消費されて当然みたいな顔をして……。

私の為に頑張ってくれていた。

それが、色欲を獲得する因果になった。

それが、謙譲を獲得する原因になった。

どこまでも私のことしか考えていなくて、分裂した意思が消えることを何とも思っていなかった。

理解できないけど、私は緋ちゃんのそういう所が好きだ。

っと、随分話がそれちゃったね。

そんなわけで、緋ちゃんは溶けてしまった。

私が抱きしめることで、その症状はある程度緩和できたけどね。

なんでかはわからない。

世界なんてそんなもんでしょ。

 

緋ちゃんはほぼ一日中寝ていて、起きている時は大体溶けている。

一日中寝ているのは毒のせい。

緋ちゃんの体からは、常に毒が生成されている。

その毒を自分で分解することはできず、姫神殺毒という凶悪な毒なのでなにもしなければ死ぬしかない。

と思いきや、ケツイの力で死なない、死ぬことができないので、ずっと苦しんでいる。

毒を作るために常人より多くの栄養を必要としているのに、内臓がその毒で弱っているので少しずつしか食べることができない。

栄養が無くなったら毒が作られないのかと言われればそうではなく、栄養失調になったうえで作られていく。

ちなみに、そんな状態でも死ねない。

そういえば魔王がそんな緋ちゃんの姿を見て目を見開いていたけど、いったいどうしたんだろう?

「血筋かなー……」とか言ってたけど。

私は緋ちゃんにどこぞの星のピンクの悪魔みたいに口移しして栄養を摂取させている。

既に作られた毒は魔王かチェリシアちゃんが解毒して、なんとか生きている。

それを考えたら、虚弱体質なくらいなんてことないよね!

今度は私が緋ちゃんを守るんだ。

そう思っていたのに……。

 

 

 

 

 

「ガアアアアア!!!!!」

 

私達は、特異オーガというはた迷惑なやつに絡まれてしまった。

私達は魔王とはぐれ、遭難。

とんでもない量の猿が魔王に飛びかかっていったのを見るに、掃討するのは結構時間がかかると思う。

そして、私達を探すのも。

ええい!それもこれも猿のせいだ!

ま、その後はかまくらで温まってた。

これはまだいい。

でも、折角かまくらで温まってたのに、特異オーガ……人っぽい見た目してるし鬼くんでいいか、は破壊してきた。

その時攻撃が私に当たりそうになったんだけど、緋ちゃんがものすごい力で鬼くんを吹き飛ばして私は難を逃れた。

多少の衝撃波はいつの間にかつかんでいた鎌に防がれた。

けどそんなことをしたせいか、緋ちゃんは鬼くんに吹き飛ばされた。

死んではいないと思うけど、緋ちゃんはクレバスに落ちてしまった。

やばい。

私は覚悟を決めて鬼くんに目を向ける。

吸血っ子とメラ、マリィムちゃんが戦ってるんだ。

援軍が来るのを待つしかない状況だけど、みんな満身創痍。

ここにチェリシアちゃんがいればまた違ったんだろうけど、

サエルはまた無敵時間をミスって吹き飛ばされた。

なんとか鬼くんを止めようと目に力をこめる。

今にも吸血っ子が死にそうになった時、静止の邪眼が発動。

鬼くんの動きが止まる。

というか、あれ笹島くんじゃない?

あ!やばい!そんなことより吸血っ子がクレバスに落ちそうになってる!

 

「ソフィア!」

 

意識してやったことではない。

けれど、緋ちゃんを助けられなかった悔みからか、それは成功した。

指から糸が出る。

それで吸血っ子をキャッチし、引き上げる。

ひぃー、腕が痛い。

とりあえず逃げるよ!

サエルもこっちに戻ってきた。

サエルに抱えられて、私達は無事鬼くんから逃げ出すことに成功した。

でも、緋ちゃんを救出に行かないと……。

 

少し経つと、魔王がこっちに走ってきた。

魔王に緋ちゃんがクレバスに落ちたことを伝えて、助けにいってもらえるように頼む。

滅多に話さない私の早口に驚いたのか、魔王は血相を変えてクレバスの方に走っていった。

 

「白、大丈夫?」

 

吸血っ子にそう言われて、私は泣いていたことに気づく。

涙をぬぐって、私は魔王の帰りを待つ。

今の私にはそれしかできないから。

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