姫蜘蛛ですが、なにか?   作:トンTon

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鬼1:そして業火となる小鬼

僕は昔から、理不尽なことが嫌いだった。

 

あの村の風景は、今でも鮮明に思い起こすことができる。

そして、もう一つの故郷の風景も。

そこを妹と一緒に走り回ったんだっけ。

猿を思わせるしわくちゃな顔。

緑色の肌。

僕はゴブリンに転生したんだ。

けれど、僕はこの生活を気に入っていた。

武器を作り、みんなの役に立っていることを実感した。

村を走り回り、こんな日がずっと続けばいいと思っていた。

そして、それを眺める、僕のもう一人の父。

あの人との出会いは、ゴブリン村の戦士が捕虜として連れてきた時だった。

ゴブリン語を話す珍しい人を見つけたのだと。

ゴブリンに捕まっても、諦めずにその男は、こう言っていた。

 

「私はこんな所で死ぬ訳にはいかない!帝都に残してきた娘がいるんだ!娘の顔を一度だけでもいい、見るまで、私は死ねない!」

 

よく息が続くな、と見当違いなことを考えていたけれど、その男の言っていることは無視できなかった。

「娘に会いたい」その思いを、ずっと決意していた。

そのためにどんなことでもすると言っていた。

このゴブリン村を滅ぼしてもと。

けれど、ゴブリン村でゴブリンの優しさに触れ、その男は徐々にゴブリンに心を開いていった。

最初はみんな、ゴブリン語を話す人間だから生かしておこう程度の気持ちだったのだと思う。

けどゴブリンはみんな純粋だ。

彼には優しく接した。

そのおかげで、彼は仲間に、家族になった。

村長に愚痴を言い、子供と遊び、ゴブリンの大人達と共に狩りをした。

いつしか、その男はゴブリンたちの父のようになっていった。

僕の「武器錬成」というスキルで武器が一つ作られるごとに喜び、一人のゴブリンがホブゴブリンに進化した時はみんなでどんちゃん騒ぎをした。

ゴブリンが一人死ぬごとに大号泣し、とても感情的な人だな、と思ったほどだ。

その男の名はブイリムス。

僕にあの秘密を教えてくれた人だ。

彼は、獣人が育てているという果実を二つだけ持っていたと語る。

その果実は、自らが望んだ力を一つだけ授けてくれるという。

話が通じればという願いをした結果、「全言語理解」というスキルを入手したと言っていた。

残り一つの果実は、僕に与えてくれた。

あの果実が無ければ、僕は死んでいただろう。

そして、彼のおかげで僕達は人権を獲得した。

彼の仲間の人間の村でも僕は武器を作った。

すべては、みんなの役に立つため。

決して無理はしないように彼は言っていた。

思えば、あれが原因だったのかもしれない。

 

僕は、ただみんなの役に立ちたかっただけなのに……。

 

 

 

 

 

「逃げろ!ここは私に任せるんだ!」

 

ゴブリン如きにへりくだっている彼を許せない。

そんな理由で、彼の仲間は僕らを襲撃した。

彼は、最後まで僕らを守ってくれた。

帝都に残してきた娘とゴブリンたちが重なったのだろう。

僕がみんなの為に作った魔剣も、平和のために作ったものだ。

決して、ただ意味なく殺す為じゃない!

彼が僕の作った魔剣によって胸を貫かれた時、僕の中で何かが切れた。

僕はあの果実を食べる。

願うのは、ただ彼を殺した者への怒り。

 

《ザザザ……ザザ……違法なゲートウェイを確認》

《熟練度が一定に達しました。スキル「禁忌LV1」を獲得しました》

 

果実を食べ始めて、そんな声が聞こえたけど気にしない。

これがやばいものだということはわかっている。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル「憤怒」を獲得しました》

《熟練度が一定に達しました。スキル「禁忌LV1」が「禁忌LV3」になりました》

《条件を満たしました。称号「憤怒の支配者」を獲得しました》

《称号「憤怒の支配者」の効果により、スキル「闘神法LV10」「閻魔」を獲得しました》

 

すぐさま魔剣を作り出す。

怒りを凝縮したような雷を放つ魔剣を。

その魔剣を彼を殺した男に叩きつける。

その男の仲間が僕を捕えようとしてくるが、僕は平等に切り捨てていく。

よくも!よくも父さんを!

 

 

 

そして裏切り者をすべて切り捨てた時、そこには僕しか残っていなかった。

ちゃんと僕の家族は逃げ出したんだろうか?

村を少し出たところで、僕は見てしまった。

ゴブリンの死骸があるのを。

また、怒りが湧いてくる。

僕は、いったい何のために戦ったんだ?

……僕は魔剣で人を殺した。

しかも、この行為には意味がなかったのか?

ああ、皆、皆死んでしまった。

僕はいったい、どうすればいいんだ?

視界に映る、進化可能の文字。

僕は、何のために生きればいいのだろう。

……彼が使っていた鑑定石を首にかける。

父さん、どうか、僕を導いてください。

 

僕は、あの果実を食べたことによって進化できるようになったバーサクゴブリンに進化した。

 

 

 

 

 

それから、なにをしていたんだっけ?

憤怒のせいで、僕の理性は既に消えている。

こんな風に考えることができているのは、転生者だからかもしれない。

襲ってきた人間の冒険者を殺して、殺して、殺して……。

そして進化する。

インサニティゴブリン。

体は紅く、黒く。

まるでオーガのようなゴブリンになったこともあったっけ。

今ではベルセルクゴブリンになった。

体はゴブリン時代より少し大きい、人間の青年ほど。

しかし、額に生えている燃える二本の角が決して弱くはないと示している。

冒険者の会話を聞いた限り、僕は特異オーガと呼ばれているようだ。

本当はゴブリンなんだけどな。

確かにオーガには進化できたけど、僕はゴブリンであることに誇りを持っている。

……もうその誇りは、ほぼないのかもしれないけれど。

 

 

 

人間の正規軍が襲ってくるという情報をつかんだ僕は、衝撃を与えると爆発する地雷剣を作るなど、準備を重ねて迎え撃った。

だが、こんなにも苦戦するとは聞いていない。

今僕は老剣士に追い詰められている。

そして老魔法使いにも。

このままでは負けてしまう。

老魔法使いの魔法で頭を撃ち抜かれ、苦し紛れに雷の魔剣を投擲。

なんとかレベルアップ回復で生還した。

まだ、父さんの形見のぬくもりを感じていたい。

だから、僕の、邪魔をするな!

 

「ガアアアアアアアアアアアア!!!」

 

今僕の全魔力、そして生命力すら懸けて、一本の魔剣を作り出す。

炎の魔剣を。

炎の魔剣からすべてを焼き尽くす業火があふれ出す。

……今日は、最悪な日だ。

血が飛び散っている。断末魔が聞こえる。

こんな日に、こんな世界は……。

 

地獄で燃えてしまえばいい。

 

「何っ!?」

「ニュドズ、下がれ!」

 

あたり一帯を炎で焼き尽くし、敵が混乱している間に僕は逃げ出した。

雷の剣は、もう放っておいていいだろう。

命のほうが大切だ。

 

 

 

気が付いたら、僕は父さんと暮らしていた村に帰ってきていた。

そこには、なぜか人がいる。

父さんを殺した者の仲間か?

なぜ、なぜここにいる!

驚愕している一番近くにいた人間を焼き尽くす。

全員、殺してやる!!!

 

 

「笹島く――話――いて――さい」

 

 

……いけない、憤怒のせいで、思考が若干飛び気味だ。

気が付いたら、誰もいなかった。

誰かが話しかけてきた気がするけれど、それもうまく思い出せない。

というか、まだ僕は進化できるのか。

てっきりベルセルクが最終進化だと思っていた。

まあ説明文からして、これが真の最終進化だろう。

これが終わったら、ゴブリンの村へ、帰ろう。

 

<スルト:進化条件:亜人LV50、憤怒を保持。

説明:世界を焼き尽くす赫怒の獣王>

 

進化が完了した後、僕はあてもなく歩き出した。

僕は、なにをしようとしていたんだっけ?

まあ、いい。

すべてを殺しつくしてやろう。

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