姫蜘蛛ですが、なにか?   作:トンTon

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M3 ※見た目に反して優しい

今日はサイリスと演劇を見に行く日。

ということで、今は着ていく服を選んでいた。

 

「どれがいいかしら?うーん……」

「どうしてそれを私に聞くの……?」

「チェリーはいつも王子様に会いに行ってるでしょ?経験者じゃない」

「それはマリィも同じよ」

「チェリーの方が服の着こなしが上手いんだから、私に教えてくれてもいいでしょ?」

「私もそんなに上手くないわよ?元男なんだから」

「あ、そういえばそうだったわね。忘れてたわ」

「えぇ……」

 

とりあえず黒を主体とした、退廃美を感じさせる服装にした。

疲れてる顔を隠すためにもメイクを……。

いや、まあ、睡眠無効だから顔色はすごくいいんだけどね。

隈とか全くないし。

……そういえばサイリスには隈があったわね。

あいつ、ちゃんと寝てるのかしら?

 

 

 

「待たせたわね」

「ああ待ったぞ」

「あら?そういう時は、今来たって言うのよ」

「お前にわざわざ気を使いたくはないな」

「相変わらず不機嫌そうな顔ね。疲れてるように見えるわよ」

「それこそお前に言われたくない!ちゃんと寝てるのか?」

「いや全く寝てない」

「!?」

 

気を使うという発想が全くないサイリス。

というか王子が演劇に行くって色々大丈夫なのかしら。

と聞くと、それは父に知らせているから大丈夫だ、そんなことも分からないのか馬鹿めと返ってきた。

一言多いのよ!

こいつは、どうしてこんなに口が悪いの?

いったい誰の影響?

やはりいつも鉄面皮だと聞く正妃に似たのかしら?

私だって、ちょっとは傷つくのよ。

……っ、いけない。

前までこいつに罵られても軽く受け流せたのに、何故私はこんなに感情的になっているの?

所詮はガキの戯言よ。

こんなことを気にしてる暇はないわ。

 

 

 

演劇は楽しかった。

ステータスなんてものがあるこの世界だからか、サーカスみたいなことを生身で平然とできる。

素早い動きと投げナイフ。

前世で見た時止める無駄無駄言う人ほどじゃなかったけど。

ちなみに、ステータスが高い私が素早いって思えるのには理由がある。

最近緋色が新しいアイテムを開発した。

ステータスを十分の一に制限するアクセサリ。

これを三個個付けたから、私は今ステータスが10程度しかない。

とはいっても抗魔術結界の応用みたいなものだから、肉体の内側はステータスの効果を受けたまま。

だからこの状態で攻撃されてもあまり痛くない。

別にスキルは無効化されてないし。

常人に合わせてくれるこのアクセサリには感謝しかないわ。

 

「演劇、か」

「どうしたの?ボケた?」

「いや、私も一度演劇をやってみたいと思っただけだ」

「ふふふっ、どうせ棒読みで見るに堪えないわよ」

「相変わらず癪に障る奴め。私は演技くらいできる」

「それは政争のことでしょ?演劇と政治の区別くらいつけなさいよ馬鹿」

「ふん、それではやってみるか」

「あらー?耳をふさいでおいたほうがいいかしら?」

 

なんかサイリスがいきなり血迷ったことを言い出した。

馬鹿なんじゃない?

素人が演技なんてできるわけないでしょ。

そういうスキルがあるならともかく。

いや、緋色なら追加しててもおかしくはないか……。

 

ナイフは、どこだ?……なんて、どうだろうか」

「……ぁ」

 

ゾクッとする笑みを浮かべて、そんなことを呟くサイリス。

怪盗千本ナイフの演劇を見たからって、わざわざ悪役みたいなこと言わなくてもいいのに。

なによ、普通に上手いじゃない。

私みたいな子供をビビらせるんじゃないわよ。

震えてくるじゃないの。

 

緋色の、あの不気味な笑顔が脳裏に浮かぶ。

今にもこちらを殺してきそうな笑みが。

 

「ん?どうした?まさか怖かったのか?ふっ、まだお子様だな」

「……うる、さい。いいじゃない、別に……」

「なっ!……別に泣かせるつもりではなかったんだが……」

「……嫌だ。殺さ、ないで」

「おいおい、本当に大丈夫か?様子がおかしいぞ?」

 

目の前にいるサイリスの顔が、緋色の笑顔に見える。

全てが私を殺そうとしているように見える。

 

――殺される

――働かないと、殺される

 

だから私は常に働いていないといけない。

休むこと、ましてや遊ぶことなど許されるはずがなかった。

あれ?なんだか思考がうまくまとまらない。

世界が揺れているような気がする。

頭は冷静に物事を考えているのに、動悸が止まらない。

寒い。とても寒い。

風邪でも引いたのかっていうくらい寒気がする。

 

「おい!顔色が……」

「働かないと、働かないといけない」

「待て。お前は何を思い詰めている?」

「近づかないで!」

「働くだけではなく、しっかり休まないといけないと教えてくれたのお前だろう……」

 

……?

私はそんなことを言ったっけ?

ああ、そういえばトランプをしている時に言ったような……。

でもそれはこいつを騙すための口実で、私は仕事でこいつと遊んでいただけ。

演劇をただ楽しむなんて、殺されても文句は言えない!

 

「ああもう、世話の焼ける奴め……」

 

そうサイリスが言ってから、何かを持ってきた。

これは、お菓子?

 

「それでも食って落ち着け。糖分は脳を働かせるのに必要だぞ」

 

なんだか味がしないような気がするけど……。

お菓子を食べ終え、少し落ち着いたので歩き出そうとすると、私は意識を失った。

 

 

 

目を覚ました時、そこはサイリスの部屋だった。

睡眠無効なのに、どうして寝てたのかしら。

 

「……知らない天井」

「私の部屋だ。それくらい分かるだろう」

「あれ?私は、なんでここにいるの?」

「お前がいきなり倒れたからここまで運んできてやった。全く、そんなになるまで働くんじゃない。ちゃんと寝ろ馬鹿め」

「いいじゃない、別に。私は怒られたくないのよ」

「そうか。というかお前、褒められたいと思ったことはないのか?」

「無いわね。あったとしても、どこかに捨ててきたわ」

「……じゃあ、私がお前を褒めてやる」

 

やはりサイリスは馬鹿ね。

私は褒められても全く嬉しくない。

殺されなければそれでいい。

だから、無駄よ。

私は顔を伏せる。

そして耳をふさいだ。

今は、何も見たくない。

何も聞きたくない。

 

「あー……服、似合ってるじゃないか

「……ふん」

 

やっぱり私はサイリスのこと嫌いだわ。

今更そんなことを言われても、何も変わらないわよ。

そもそも、こいつに見せるために着てきたんじゃないし。

 

「ロリコン」

「だから私はロリコンじゃないと言っているだろうがっ!」

 

だから、この、ちょっとだけ嬉しいと思ったのは、きっと気のせいだ。

散々寝てなかったし、疲れてたし、そういう血の迷い。

それにしても、ちょっと赤くなってるサイリスは気持ち悪かったわ。

そんなに無理してまで褒めなくていいのに。

別に、嬉しくないから。

 

「馬鹿」

「馬鹿って言う方が馬鹿だ!」

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