姫蜘蛛ですが、なにか?   作:トンTon

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桜3 十割が食欲

俺は努力をした。

健にまた会うために。

進んで地獄の特訓を受けた。

まず課題は、魔力をスキルのない状態でどう制御するか。

白が容易にできていないことからも、難易度が高いことがわかる。

だが、一度コツを見極めてしまえば簡単なものだ。

転移、それはとても高度な術。

才能がなければ、習得しても成熟させられないという。

現に、魔王でも転移ができない。

だが、俺にはその才能があったらしい。

これがあれば、健に会える!

魔力を全方位に飛ばし、レングザンド城を探す。

見つけたら内装を把握。

健のいる部屋を見つけたら、そこに転移する。

ね、簡単でしょ?

 

「ユーゴー、私よ」

「ん?おお!一成か!」

 

健と会えただけで、自然と頬が緩まる。

おっと、こんな変な顔を淑女がいつまでも晒すわけにはいかない。

表情筋を制御して、顔を無表情に保つ。

……ていうか、会いに来たのはいいけど何をしよう。

俺は特訓くらいしか娯楽知らないぞ?

や、やばい。

こんなことでは健にあきれられてしまう。

 

「何して遊ぶ?……その、私、組手くらいしか知らないけど」

「別にそれでもいいんじゃねーか?」

 

ホッ。

よかったぁ……。

とりあえず、ステータスは百分の一に設定しておこう。

最近はパペットタラテクトシスターズじゃ物足りなくなってきたし、あわよくば成長して俺に勝ってほしい。

じゃあまずは、軽くやろう。

 

 

 

そんなことを繰り返して、どのくらい経っただろう。

なんか俺ばかり成長してるような気がする。

最近魔王と組手してみたけど、なんか勝っちゃった。

まあ健も弱いわけではない。既に神話級だし。

それの十倍くらいある俺がおかしいだけだ。

ちなみに俺と健はちょくちょくこの城を抜け出してるわけだが、一度もバレてないのには理由がある。

それはごく単純。俺が洗脳してるだけ。

MPを使うだけで人を洗脳できるんだから、色欲は便利なもんだよ。

まあ俺は色欲発動してないけど。

じゃあなんでこんなことできてるのかって?

それは、色欲のプログラムを解析して魔術として再現してるからだ。

やり方はマザーって人に教わった。

どうやら緋の母親らしい。

強さは、親子そろって化け物だった。

俺っていちおう世界の中でもかなり強い方だと思うんだけどなぁ。

 

「はぁっ!くらえっ!」

「っ!はっ!」

 

っと!健の放ってきた黄金の炎を避ける。

健、最近はステータスに縛られない技を多用してきてるから、俺でも当たったらダメージを受ける。

ていうかこの炎、レッドさんがスナックを作ってた時に見たことあるんだけど……。

まあ今は関係ないか。

炎を消すために水の魔術を放つ。

そしてナイフも振るって、攻撃を塵にした。

やっぱりこれ強いな。

制御がめっちゃ難しくて、ふとした瞬間に腕が吹き飛ぶけど。

これを気軽に振り回してる緋は一体何なんだ……?

腐食攻撃を魔術で再現したみたわけだけど、一発使う度生きた気がしない。

でも止めない。

もう魔王は組手してくれないし、ゾクゾクするスリルが一つくらいあってもいいと思うんだ。

 

「ふう、今日はこのくらいにしておくわよ」

「ああ、疲れたぜ」

 

時間になったので戦うのをやめる。

そして水を健に差し出した。

あんだけ炎をまとってたら水分を消費してるだろ。

 

「おう、センキュ」

「じゃ、私もいただくわよ。いいわね?」

「おう、いいぞ。指の一本くらい」

 

健から許可を取って、小指を食べる。

んー!この味、この味なんだよなぁ。

とても苦くて、若干辛くて、でも後味は甘い。

俺たちは両方不死のスキルを再現してるから、体が爆散しようと死なない。

だから指の一本くらいは大したものではない。

大したものではないよ?

いいじゃん、俺サキュバスなんだし、ちょっと人を喰うくらいさ。

ソフィア姉は人の血を吸ってるし似たようなもの。

それにステータスも上がるし。

 

「好きだよな、俺の肉」

「サキュバスなのに珍しいでしょ?物理的に捕食してるのよ」

「捕食(意味深)とかじゃなく、普通に食ってるよなぁ」

「まだそんな年齢じゃないし」

 

そもそも俺が誰を襲うんだよ。

元男だよ?

女になったからって男を襲うか?って言われたらうーん?って感じだし。

じゃあ女か?って言われても結局うーん?って感じ。

こういうのって、よく精神が乖離するなんてことを聞くが、俺は逆に融合してる。

「俺」の桜崎一成と「私」のチェリシア・ヴィコウ。

これは別の存在なんかではなく同一で、俺は私だ。

脳内で俺って言いながら言葉で私ということに何の違和感も抱かない。

俺はもう男をやめたから男じゃないし、私も元男の精神を持ってるんだから女じゃない。

だったらもう俺は私であって、男でも女でもないと開き直ったほうがいい。

 

「可愛いな、やっぱり」

「……っ。そりゃ、子供の時は誰でも可愛いわよ」

 

……あー。

だから、これが、この感情が何なのか、それは俺にも私にも理解できない。

 

 

 

今日は健が忙しい日。

だから反乱軍を潰して暇つぶし。

別にこの街どころかカサナガラ大陸を焦土に変えることくらいできるけど、人員が無駄に消費されるからやらない。

エネルギーにする効率はいいけど、どうせ黒い人が止めに来る。

ま、止めても発動してるころだからあまり意味ないと思うけどな。

 

「エルフエルフエルフ~。出てこい鉄分豊富で歯ごたえのあるエルフ~。強くてエネルギー回収効率とスリルを味わえるエルフ~」

 

「や、やめっ――」

「食べないで、グハッ――」

「あ、悪魔、ガハッ――」

「くそ、武装を――」

 

食べる。食べる。食べる。

ちょっと口を開けて吸い込むだけの単純な作業だ。

それでこの辺の建物も喰ってるのは、まあ、必要経費ってことで。

それにしても、悪魔、か。

いやサキュバスだから間違ってはないんだが。

髪は桜色だし、ピンクの悪魔って呼んでもいいんだぞ?

 

「じゃあ淫乱ピンクって呼ぶわ」

「ちょ、それは止めてよソフィア姉。ぶっ飛ばすわよ」

「あんたにぶっ飛ばされたら私死ぬわよ?」

「たしかに」

 

そんな馬鹿な会話をしながら、目につくエルフを殺しつくしていく。

 

「私は、魔王に捕らわれた転生者を救うために、戦っています」

 

だが笹島に近づいたころ、そんな会話が聞こえてきた。

ん?転生者?

ソフィア姉は……まだエルフ虐殺してるわ。

仕方ないので俺だけ走ってそこに向かう。

 

「ラズラズ、何があったの?」

「ああ、チェリシアさん。ほら、先生がエルフになってるんだ」

「チェリシア……?」

「ああ。久しぶりね、先生。私……あーいや、俺は桜崎一成だ」

「桜崎くん?そんな、死んだはずじゃ……」

 

するとそこには、先生がいた。

……エルフの一員として。

というか先生は何を頓珍漢なことを言ってるんだ?

俺、別に死んでないけど。

今もこうやって元気に生きてるよ?

なんなら世界最強の一角だし。

 

「いえ、とりあえず今は逃げましょう。笹島くん、桜崎くん、私の手を取ってください」

「……あー?何を勘違いしてるのか知らないけど、私は魔王の味方よ?」

「チェリシアさん、口調……」

「……うん、ごめん。日本語は長らく話してないからちょっと忘れてた」

「っ!どうして、こんな酷いことを?どうしてこんな戦場で楽しそうに話せるのですか?」

「え?そりゃエルフって美味しいじゃないの。あ、でもエルフは共食いしなかったわね。鉄分豊富で歯ごたえがあって、そりゃもう絶品よ。ま、人型グローリアは気色悪いけど」

「チェリシアさん……まあ、いいか。先生、僕達は僕達の意思でここにいます。僕達は自分の信念に従って戦っています。僕達はこの行動を何ら恥じていません」

「そん、な。人を、食べている、のに」

「人喰いなんて対して珍しいことじゃないでしょ。そんなことより、ご馳走がお出ましよ」

 

面倒になってきたので、先生と話すのをやめて後ろを振り向く。

ちょうどご馳走も来たし。

ご馳走の近くに走り、一体目は丸ごと食べた。

二体目は腹をガブリと食べてから残りを。

三、四体目は腐蝕の波動で粉々にしてから吸収。

あ、ソフィア姉も合流した。

 

「はー、美味しかった。また起きないかしら」

「先生は逃がしてしまったけどね……」

「いいじゃない、気にすることないわ。ポティマスの魂がこびりついてたのは気持ち悪かったけど」

 

あたりを見渡して、もう生き残りはいないか確認する。

うん、いないな。

仕事も終わったし、健のとこに遊びに行くか。

健は終わってるといいなー。

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