私にはわからない。
「先生」の名前も、声も、気配も。
先生の顔がおぼろげに思い出せるような、ただそれだけ。
だって私は白ちゃんの記憶を一部受け継いで、転生者だと思っていただけだから。
それでも、他の転生者は実際に会わない限り顔も声も気配も何も思い出せないのに対して、古文の授業と先生の顔は少しだけでも思い出せる。
それは白ちゃんが先生を大事に思っていたから。
多分、その感情を一部私は受け継いでいるんだ。
だからこそ、私は先生を助けないと。
「で、張り切って魔術を行使しようとした結果気絶したってことか」
「そゆこと」
今私はお兄ちゃんと話している。
気絶したからね!
ポティマスの魂を先生の魂から剥がす魔術を考えていたのはいいんだけど、それを自分に使った結果こんなことになってしまった。
毒がケツイの制御を振り切って増殖しだしたのは焦った。
おかげで分解するためにまた眠りについてしまったよ。
まあ、時間の歪曲はしてるからものの数分で起きるだろうけど。
とりあえず、折角この世界に来たんだから何かやりたいよね。
ということで散歩でもしよう。
RPGでは人の話を聞くと上手くいくことが多いからね。
「夕方までには帰ってこいよ」
一番近くの海岸に来た。
ここでは、なんか、犬っぽいモンスターが砂の像を作っている。
作っている、よね?眺めてるだけにも見えるけど。
「よお!ガキんちょ!お前がサンズのとこの妹だな!」
犬っぽいモンスターを眺めていると、後ろから声がかかる。
振り向くと、魚のような人がこちらに話しかけてきていた。
むむ。鍛え上げられた筋肉。
これはすごい。
後ろには恐竜のような人が。
Gが言ってたアルフィーかな?
「初めまして。私はヒイロ。よろしくね」
「ああ。私はアンダインだ。っていうか、人間か?スケルトンとは似ても似つかないが」
「あ、こ、こんにちは。私はアルフィーだよ」
「私は蜘蛛だよ。とはいっても今は神だけど」
「ふーん。よくわからんがマフェットと似たような感じか」
「神、ってことは、人間のタマシイを取り込んだの?」
「いやいや。私はそれとは別の力で神になったよ。ケツイだったはず」
「なるほど。ケツイに……ブツブツ……」
というか、この二人はここで何をしてるの?
そういえば前にパピルス兄ちゃんが魚を釣ってきたとかなんとか……。
いや、魚っぽい人なのに魚を取って、共食いにはならないのだろうか。
まあ私も似たようなことしてるけど。
チェリシアちゃんだってやってるし、何なら血縁喰ライの称号を持ってる人うちの陣営に結構いる。
そう考えれば案外普通のことなのかもね。
「ヒイロ、お前も女王様のとこでパイを食うか?材料を買ってくるよう頼まれたんだが、一人増えても問題はないだろ」
「食べる!」
「いや、えっと、サンズ達も、誘ってるから、来ると、思うけど……」
「何!?そうだったのか!だからいつもより量が多かったんだな」
そういえばお兄ちゃんが、トリエルって人が作るパイは美味しいって言ってたな。
多分その人が女王様なんだろうね。
パイの作り方を教えてくれるかもしれないし、一緒に女王様という人のところに向かうことにしよう。
「あら、いらっしゃい。あなたがヒイロね。サンズから聞いているわ」
ヤギ?
いや、悪魔みたいな感じなのか。
優しそうな人だなっていうのが伝わる。
あと背が高いね。
その分キッチンも高いし、私がちゃんとパイを作れるのか心配になってきた。
「……」
……ん?
気配を感じて後ろを振り向くと、横縞のシャツを着た私と同じくらいの身長の子供が立っていた。
この子がシノノメが言ってた人だと思う。
「……君は、誰?」
「私はヒイロだよ」
「……おかしいな、こんな人いたっけ」
「人が名乗ったら名乗り返すのが礼儀だと思わない?」
「あ、ごめん。僕はフリスク」
むむむ……。
なんか違和感があるな。
私と似たような、複数個のタマシイの存在を感じる。
――ドクン――
なにかが、私の中で共鳴している。
このフリスクと名乗った少女?から感じる、異様な気配。
私の体に宿る、もう一つのナニカ。
『ほう、気が付いたか。ごきげんよう。私は、キャラ』
唐突に、私の頭の中に語りかけてくる声。
これは……?
『そう警戒する必要はない。何故なら、私は既に「奴」の意思からは脱却している』
『どゆこと』
『私は私の意志で動いている、ということさ』
キャラと名乗った者は、私にそう答えた。
自分の意志で動くことができない、そんな状態があるの?
それは、とてもおぞましい。
それはまるで、ゲームのよう。
今はそれから脱却しているみたいだけど……。
『お前の意志に宿っている私は、単なる残滓にすぎない。恐らく、ガスターが私のケツイを抽出し、お前に入れた。その時に紛れ込んだものだろう。多少憎しみが増加する程度で済むはずだ』
それは、大丈夫なの?
確かに、白ちゃんが傷つけられた時、世界を滅ぼしてやりたいと思ったことはあるけど。
『確かにお前には私の残滓が宿ってはいるが、お前にタマシイが無いために憎しみを抱く効能はほぼ無いに等しい。私の力が習得しやすくなることはあるかもしれないが。まあ、基本メリットしかないだろう』
ふぅん。
じゃあ大丈夫そうだね。
……そんなことより、私は早くパイ食べたいんだけど。
『私はチョコレートが食べたいのだが、如何せん精神体なものでな。お前は何とかできないか?何とかできた暁には、お前になにか褒美をやろう』
えー。なんだこいつ。
人に物を頼む態度じゃないよね。
褒美って言っても、私欲しいものとくにないし。
まあ、やってやれないこともないけどさぁ。
要するに、依代を用意すればいいわけでしょ。
パペットタラテクトの体を作ったことからも分かる通り、人間の体の再現くらいなら余裕。
「……どしたの?まさか、キャラに話しかけられてた?」
「そのまさかだよ。チョコが食べたいから依代を作れって言われた」
「僕以外に話せる人を初めて見たよ」
『フリスクは私の依代だからな』
「……でも、君が僕の中からいなくなると、もう話せなくなるのか」
『寂しがり屋め。私はその程度の障害はなんてことはない。いつでもお前の安眠を妨害してやるぞ』
「……うん。そうだよね」
「私の目の前で惚気ないで?」
よし。依代ができた。
キャラの記憶から再現した肉体。
どことなく笑顔が私の笑顔に似てる気がしないでもない。
いや、Gがケツイをどーたらって言ってたし、私がキャラ似てるのか。
後は、全裸だし横縞のシャツを着せておく。
私が着てるのと似たような……うん、多分これもGのケツイがどーたらってやつでしょ。
「できたよ」
『感謝するぞ。では、乗り移るとしよう』
「……で、感触はどう?」
「ふむ、悪くないな。では褒美をやろう。手を出せ」
「はい」
「お前にこの力を授ける。セーブとロードの力だ。時折現れるようになる、明滅するこの光。それは私達だけに見える光だ」
そう言ってキャラは、金色に輝く光を私に差し出した。
まるで吸い寄せられるように思わず手を伸ばし……
*ケツイ
私は何かの力を得た。
死ににくいとか、その程度のことではなく、もっと別のナニカ。
「お前のケツイは「こちら側」か。まあ、悪くはない。判断を間違えないことだな」
「これってどうやって使うの?」
「セーブポイントに戻ることができる。まあ所謂時間逆行だ」
「ふーん」
「そして私が改良した結果、一人しか使えないなどという制限はない。あいつには何度も苦渋を飲まされたからな」
「もう救ったでしょ、キャラ」
「ああ。そうだったなフリスク。ではヒイロよ、あいつにも肉体を与えてやってくれ」
「あいつ?」
「アズリエル、という名前のモンスターだ。私の友であり、宿敵だ」
キャラの記憶から再現して、肉体を構築していく。
そして、それに合致する意志を探す。
……ああ、そうか。
タマシイが無いのか。
なら私が与えるしかない。
私の意志を増殖して埋め込んだならば、タマシイだって作れるはず。
そしてできたのは、トリエルさんに角を生やすとこんな感じになるのではないかという姿のモンスターだった。
「……ん?あれ?僕は……」
「やあアズ。久しぶりだな」
「キャラ!?というか、何故僕は花の姿じゃ……」
「それはそこの、ヒイロにでも感謝を伝えろ」
「あれ?そんなキャラクターいたっけ?」
「どうやらガスターが連れてきたらしいぞ」
「そっか。あの人はいまだに謎だからね」
うむ。死者蘇生なら私に任せときなさいといえるね。
それにしても、このケツイの力は色々なことに使えそうだね。
何なら、世界を再構築することだってできるかもしれない。
あ、でもそれをするとお兄ちゃんに迷惑がかかるね。
これは最後の手段にしておこう。
「さてヒイロよ。察しているとは思うが私とアズは既に死んでいる身でな。お前の下で私達を匿うのだ」
「いいよ、別に」
「よし。交渉成立だな。ではお前の作った世界とやらに行くとしよう。この世界に似ているというのがお前の記憶から分かったからな」
そう言って、キャラは勝手に転移して消えていった。
なんか、今日はすごく疲れたな。
というか転移とかできるんだ。
私もパイを食べ終わるころには毒が回復してると思うし、パイ食べたら帰ろう。