まだ立ち上がれる。
まだ私は大丈夫。
再生は妨害されていて、血が止まらない。
毒も少し回ってきた。
だけど、このまま倒れることなど許されない。
ブラスターと骨を多重展開、重力を操作してそこへ誘導。
そして、この停止空間への適応を急ぐ。
「まだ立ち上がるのですか。往生際が悪いですね」
ブラスターをそれぞれランダムに四方から乱射するも、それを全て肉切り包丁で弾かれる。
骨を回して移動範囲を制限しようとすると、それごと全て破壊されるのは……。
やはり攻撃力がおかしい。
青攻撃、オレンジ攻撃を入り混ぜても、その再生能力ですぐに回復される。
それにKRを入れても気休め程度にしかならない。
なんとか距離を取らないと……。
いや、もういっそのこと距離を詰めてみるか?
私にはそれができるはずだ。
手に骨を召喚し、剣のようにする。
体は大分動くようになってきた。
なら不可能ではない!
「あら、そう来ましたか」
体はまるで水の中みたいに重い。
斬られた傷がとてつもない痛みを発している。
毒で目の前が霞む。
それでも、まだ……。
「……おっと、まさかもう順応するとは」
来た!
時間停止に順応した!
これで、体は動く。
魔術も使える。
後はこの空間を自分の空間で上書きする必要がある。
何故ならこの空間は私にデバフをかけて冥土さんにバフをかけているみたいなものだから。
っていうか、なんでまだ冥土さんはエネルギーが減った気配すらしないの?
私は無尽蔵にエネルギーを生み出せる機構を持っているけど、それと似たような感じ?
もしくはただエネルギーが多いだけ?
後者だとは思うけど、前者でもおかしくはない。
Dよりも攻撃力が強い最上位神なんだから。
「[fight]!」
「……っ!」
BLOCKED
やはり、これを使っても倒せないか。
いや、予想してはいた。
だけど防いだということは、当たればダメージを負うということ。
ならば叩き込むことを繰り返せばいい。
あの肉切り包丁を破壊すればいい。
腐蝕攻撃は死を司る攻撃。
私が生きていると思えば、それは殺せる。
だから、「ほし」だって殺せる。
ならば神だろうが何だろうが殺せるに決まってる。
「暗黒波動波・集!」
「……これは!まずい!」
そして、もう一つの私の切り札、虚空魔術。
停止空間では自分の停止回路を消去してから相手に向けるという作業が必要だったから、速射性を失っていた。
でも今は停止空間に適応した身。
ならば今まで通り、全てをマイナス方向へ加速させるこの魔術をすぐに撃てる。
冥土さんは、これを避けた。
受け止めようとした肉切り包丁には少しヒビが入っている。
何故かはわからないけど、あの光をキャラに貰った日から、虚空魔術の「消去」という権能に磨きがかかったような気がする。
今ではそれがありがたい。
所謂リセットというやつを、部分的に発動することができる。
その前に、この傷をなんとか治さないといけないけど。
「暗黒波動波・乱!暗黒波動波・集!」
「チィ、停止空間に順応したとたん龍神の奴よりも強くなりましたね……」
「三連続![fight]!」
「ああもう、鬱陶しい。…………は?」
来た!
ついに繋がった。
空間魔術でここに「門」を開いた!
これでこの空間を侵食できる。
「私」は一人じゃない。
私が一人いれば、百人はいると思わないとね!
「……全て本体、ですって?何の冗談です……?」
「ゴホッ、生憎私には魂が無いからね。意志だけなら無限に増やせるんだよ」
「そういうことではありません。これは……一体何なのですか?」
「強いて言うなら、ケツイ、かな」
「ルシフェル!参上!」
「サタナエル!参上!」
「レヴィアタン!参上!」
「ベルフェゴール!参上!」
「マモン!参上」
「ベルゼブブ!参上!」
「アスモデウス!参上!」
「ヒューミリティ!参上!」
「カインドネス!参上!」
「ペイシェンス!参上!」
「デリジェンス!参上!」
「チャリティー!参上!」
「テンペランス!参上!」
「チャスティティ!参上!」
「「「十四人合わせて!亜人王国十四の大公爵!」」」
ありえないほどの速度で空間の侵食が進んでいく。
まあ、当たり前だよね。
だって白ちゃんが言ってたどこぞの青ダヌキの持つ道具よりも早く、そして多く増殖しているんだもの。
私という存在そのものが。
鼠算よりもさらに恐ろしいでしょう?
「神が、こんなにも簡単に……」
「ゴホッゴホッゴホッ。ヒュー、ヒュー。ふふふ、すごいでしょ」
「やはり、全て駆除せねばなりません。まずは、貴女からです」
「ゴホッゴホッ、ゴホッゴホッ。あ、はは、は……」
☆
ビビビ――ガガガガ――
NO EFFECT
「……何が、起きたのです?」
「君は、想像できるかい?」
「気配が変わった……」
「皆が平和に暮らしている、そんな世界を」
「は?」
「誰も死なずにすむ世界を」
「そんなどうでもいいこ……っ!?武器が!」
「そんな、完璧な世界を作るためには……」
「きみのようなそんざいは ひつようない」
「貴方は……」
「私かい?私は、そうだな……。管理者Gとでも、読んでくれたまえ」
☆
……ん?
あれ?私は、どうしたんだっけ?
確か、冥土さんに辻斬りの標的にされて、毒も回って……。
「起きましたか」
「冥土さん!?」
「ふぅ……安心しなさい。私は今は貴女の敵ではありません」
「どういう心の変わり様?」
「貴女の体を操った管理者Gという存在と引き分けになったのです」
Gか。
そういえば、ちょっとだけ疲れてるような気がする。
気絶した後も体を動かしたら、そりゃ疲れるか。
でも傷は治ってるし、暖かい毛布に包まれてる。
「あ、それは私がやったわけではありませんよ。Gが貴女をそうしただけです」
そっかぁ……。
なんかその光景が想像できてしまった。
たしかにGなら何としてでも私を守ろうとするだろう。
思えば、最初攻撃を受けた時に何かが庇ってくれたような気もするし。
あれがGだったんだね。
「で、私はさっさと本題に進みたいのですが」
「じゃあ続けて」
「私はD様を連れ戻しに来ました。ここからD様の魔力反応が観測できたので。しかし、そこで不穏分子の貴女と戦い、今に至るわけです」
「ふぅん、それじゃあ私も起きたし、Dの所に行こうか」
「あの人にはさっさと仕事をしてもらわないと……」
どうやら冥土さんは家出娘Dを連れ戻しに来たみたい。
それなら是非とも私も強力しよう。
Dはいない方がいいからね。
「探しましたよ」
「ああ、ついにバレてしまいましたか」
「白ちゃん、会いたかったよー」
「うぇ!?どどどどうしたん話聞こうか緋ちゃん」
冥土さんに殺されかけたよぉー。
冥土さん本当に強い。私でも負けそうになるくらいには。
まあなんとか引き分けに持ち込んだけど。
Gが。
……ってことは私は負――
いや、ここは引き分けにしておこう。
「大変だったね、この数分間で」
「ああ、どこかで時が止められてると思ったら貴女でしたか」
「そんなこと言ってないで帰りますよ」
まるで嵐のように、Dは冥土さんに連れていかれた。
かなりの時間が経ったように感じるけど、時間停止してたから実際には数分しか経ってないんだね。
……たとえ冥土さんが相手でも、私は白ちゃんを守るから。
だから、もっと鍛えないとなぁ。