何かを食べたい、どうしても食べたいと思ったことはあるだろうか。
俺にはいつでも、その感情が燻っている。
ふと気が付けば、食べたい、そう思っている。
最初は血を一滴、それだけでよかった。
もう少し食べたい気がして、小指だけ。
なんだか物足りなくて、掌を。
なぜだろう、それからどうしても腹が減ってしかたがない。
飢えて、飢えて、腕を。
心臓を、肺を、腸を、肝臓を。
ああ、腹が減った。
もっと、もっと、俺に……。
「で、今日は何をするんだ?」
「そうねぇ。そろそろ戦争のための準備が始まるし、私達でできることを考えるわよ」
「不確定要素のシュンを排除する必要があるわけだろ?どうするべきか……」
「そう言うと思って、その親族を攫ってきたわ」
「放せ」
「おうおう……スーレシア、だっけ?攫ってきて大丈夫なのか?」
問題ない。
どうやらこいつは極度のブラコン&ヤンデレらしいから、上手く懐柔すれば山田を止めることができるかもしれない。
てことで姫ちゃん、俺たちを仲良くしような。
「ひっ」
「貴女、好きな人がいるわね?大丈夫、私がどうすればいいか教えてあげるわ」
「……っそれは!お前もでしょ!そこの――」
「ちょ、黙れ!ユーゴー、退出して」
「お、おう」
危ない危ない。
危うく健にとんでもない勘違いをさせるところだった。
私はユーゴーを好いてなど……。
やばいな、こいつのペースに呑まれるわけにはいかない。
何とか自意識を保たないと。
「そう!そーなのよー!あいつったら、何をしても私を桜崎一成としか見なくて!」
「兄様みたいに、妹としか意識してないのかもね」
「スーちゃんのとこも大変ね」
「兄様に近寄ってくる変な奴もいるわ」
「叶太ね……あいつには気を付けたほうがいいわ」
はっ。
いつの間にか親しげに話してしまった。
俺は本当に警戒心が足らないな。
でもまあ、仲良くなれたからいいのか?
このまま情報を搾り取ればいいし。
「で、七大罪シリーズとか七美徳シリーズって言って、それを取れたら私に知らせてくれると嬉しい」
「いいよ。兄様以外と話して初めて楽しいって思えたし」
「ちなみに私は色欲を持ってる。アリエルさんからは、私が暴食持ってなかったら暴食も持ってたかもねって言われた」
「今代の魔王か。世界最強だっけ?」
「表世界最強、ね」
特に、七大罪、七美徳は誰が持ってるのか警戒しておかないといけない。
それを持っていれば御の字、持っていなくても獲得しそうなやつは洗脳するか自陣営に引き込んでいる。
なるべくなら洗脳はしたくない。
そんなことしてもイエスマンしかいない世の中になるわけだし。
そういえば支配者スキル持ちって誰がいたっけ。
確か、結構そろってたよな。
傲慢、ユーゴー。
憤怒、ラズラズ。
暴食、アリエルさん。
色欲、俺。
嫉妬、ソフィア姉。
怠惰、マリー。
強欲、空席。
が七大罪系だな。
節制、ダスティン。
勤勉、クソ野郎。
忍耐、メラゾフィス。
謙譲、慈悲、救恤、純潔、空席。
七美徳系はそこそこ空いてる。
だからその辺で獲得しそうなやつを探しているんだが……。
あ、特にこれに関係はないけど、別種の支配者スキルはこう。
万能、マザーさん。
虚飾、サイリスさん。
龍王、レッドさん、ブルーさん、グリーンさん。
英知、俺、マリー、アリエルさん、ソフィア姉、メラゾフィス、ユーゴー。
叡智、俺。
英知は叡智に進化しない限り支配者権限は得られないし誰でも獲得しようと思ったら獲得できる。
万能はバグみたいなものだし、虚飾はいつの間にかシステムに追加されてると言っていた。
龍王も英知と似たような龍専用のスキルだ。
ていうか俺の占める範囲が結構多いな。
「じゃ、私はそろそろ兄様に会いに行く。そこそこ楽しかった、チェリシア」
「じゃあねー」
「……あ、あまり我慢しない方が身のためよ?」
「なっ、なんのことよ」
……あー。
スーレシアと話すのを終えてから、一時的に忘れていた飢えが復活してきた。
何か、食い物は無いか……?
棚からポテチを取り出して食べる。
美味い、けど腹は膨れないな。
「よ、話は終わったのか?」
「ええ。もう終わったわ」
何かの衝動が湧き上がってくる。
ユーゴーの、その四肢を、引き裂いて食べてしまいたい。
今俺はとても飢えている。
ユーゴーを見るたび、私の口から涎が滴る。
食べたい、ユーゴーの全てを、私の物にしたい。
……サキュバスの主食は、生気。
俺はそれをずっと無視してきた。
俺は、元男だから、オリジンだから、デメリットは無いから――
ああ、もう、俺は……。
私は、我慢ができない。
《要請を受諾しました。スキル構築中……スキル「飽食LV10」が「渇望」に進化しました》
《条件を満たしました。称号「渇望の支配者」を獲得しました》
《称号「渇望の支配者」の効果により、スキル「外道攻撃LV10」「魂喰」を獲得しました》
《スキル「外道攻撃LV10」は「闘神」に統合されました》
「ユー、ゴー……」
「ん?また俺の腕を――」
とても、美味しい。