俺には前世の記憶ってもんがある。
地球っていう星の、日本っていう国で生まれ育った記憶だ。
言っちゃあ何だが、平凡な男だったよ。
強いて平凡でない所を挙げるなら、幼馴染のアサカがいたこと、だな。
とは言っても特別な関係だとかそういうんじゃなくて、腐れ縁ってやつだった。
まあそれ以上に挙げることもない、ただそれだけの人生だ。
いつか、こことは違う所で思いっきり冒険してみたいとは思ってたが、叶わない夢だってことは分かりきってた。
んだけどなぁ……。
気が付いたら異世界に転生していて、アサカも一緒だった。
こりゃあもう運命だと思ったね。
神様が異世界で幼馴染と一緒に冒険しろって言ってるようなもんだ。
転生したことでアサカとの関係もぐっと縮まって、いずれ二人でこの世界を楽しく冒険するんだ。
そう、思っていた。
あの日が来るまでは……。
「おーおー、いるいる」
「なんでちょっと嬉しそうなのよ……」
砦の上から敵軍を見下ろす俺に、アサカが呆れた感じで問いかけてくる。
でも、あれを見ればわかるぜ。
この世界、いや地球でも滅多にお目にかかれない数の軍隊なんだからな。
まあ、それと今から戦わなくちゃいけないってことでもあるんだが。
「クニヒコ。そう油断しないの」
アサカにそう溜息をつかれる。
がそう言うアサカも気負った様子はない。
同じ場所にいる冒険者は緊張してる奴が多いが。
まあ、魔族は人族よりステータスが高いって言われてるからな。
それがあんだけの数攻めてきたら怖気づいても仕方ない。
この砦の防衛にはBランク以上の冒険者は強制参加。
でもその中でも楽にしてるのは、俺たちみたいな自分の実力に自身があるやつか、修羅場に慣れてる奴とかだ。
「クニヒコ、アサカ」
「師匠、ちゃーっす」
「お久しぶりです」
「おう。にしてもお前、緊張感ねぇなぁ。悪くはねぇんだけどよ」
呼ばれて振り返り、軽く挨拶をする。
気配から分かっちゃいたが、そこにいたのはやっぱり俺たちの師匠、Aランク冒険者のゴトーさんだった。
ゴトーさんは俺たちがガキの頃から何かと面倒を見てくれた人だ。
Aランク最強とも言われているすごい人なんだぜ?
しかも、かの有名な亜人の王国のパスを持っている人だ。
そこの男爵になったとか何とか……。
「噂は聞いてるぜ。Sランクも間近なんだってな」
「ええ、後は年数だけなので」
「どうよ」
「いやー……ちょっと前までこんなにちっさかったくせに、あっという間に抜かされちまったなぁ」
ゴトーさんがしみじみとおっさんくさいことを言っている。
俺とアサカは世界中を旅して難しい依頼をこなしてきた。
後は活動年数さえ満たせば、Aランクのゴトーさんより名実とともに上になる。
んだが……。
「ゴトーさんだってその気になればSランクに上がれるだろ」
世界中を旅して周った俺たちだけど、俺たちは未だにゴトーさんを超える人間の冒険者を見たことが無い。
しかもそれは、魔剣の力を使わないっていう条件の下でだ。
ゴトーさんの二つ名は「雷神」
雷の魔剣を使い、それだけじゃなく雷の魔法も使う。
ゴトーさんが本気を見せてくれた時は、雷の魔剣が雷が具現化したような武器になっていた。
髪の毛も逆立って、どこぞの2みたいな感じだったな。
後はゴトーさんは「ゼウス」っていう名字も持ってる。
どうやら亜人の国で貰ったやつみたいだけど、俺の前世の神話の神の名前なんだよな……。
あの国に転生者がいるのかどうかは知らない。
でも転生者絡みの奴がいるのは確かだ。
ゴトーさんにその国のことを聞いて、その国が異常なものだという察しはついている。
「車」と呼ばれる乗り物が空を飛び、「ビル」と呼ばれる天まで届くような高い家があるらしい。
それはこの世界の文明ではありえないし、地球の文明力さえ超えている。
俺も行ってみたいとせがんだことはあるが、男爵のパスだと他人を連れていくことはできないんだと。
どうやら他人を連れていけるのは伯爵パス以上らしい。
そんな感じで楽しく話していたんだが、どうやらこんな場所で和気藹々と会話している俺たちが気に食わなかったのか、どこからか舌打ちが聞こえてきた。
流石にそれ以上話すといちゃもんをつけられそうだったので黙る。
「おいおい、ありゃやばくないか」
意気消沈した気持ちは、直後に呆気にとられたようなゴトーさんの発言でかき消された。
おいおいおい……。
その方向を見て、思わず声が出る。
それだけ異常事態だった。
俺たちだけじゃなく、この場にいる全ての人が驚愕している。
それを一言で表すとするならば、巨大な禍々しい槍。
漆黒の槍が魔族軍の中に突如出現していた。
「闇槍!?いや違う!暗黒槍か!?まさか、魔術なんてことは……」
暗黒槍!?大魔法じゃねーか!
いや、それにしたってあの尋常じゃねぇ圧力と、普通の暗黒槍ではありえない形状は!?
「アサカ!」
俺が叫び、行動したのと禍々しい暗黒槍が放たれたのはほぼ同時。
腰に佩いていた剣を抜き、それの特殊効果を放つ。
そして、アサカも全力で風の魔法を放った。
さらにゴトーさんが雷の力を使い、その槍に攻撃する。
そしてどこからか光の魔法が飛んできた。
ここまで行って、しかし相殺には至らなかった。
砦には少しヒビが入り、崩れそうな所もある。
「なんてこった……B、いやAクラスはあるか……?グングニル系列を使える奴がいるなんて……」
ゴトーさんの呟き。
被害は軽傷だ。
だけど、俺たちが全力を尽くしてもダメージを与えられたというのに変わりはない。
普通ここまで届かないはずの暗黒槍。
だが、あれはまるでこちらを追尾するように飛んできた。
あんなものを放てるやつが普通なはずがない。
しかもあっちは俺たちの射程外。
打って出るしかねぇ。
魔族をなぎ倒し、術者だと思われる方向に向かう。
いくら魔族のステータスが高いといえど、人族の中で一騎当千の実力を持つ俺たちに敵うやつは少ない。
だとしたら、さっきの禍々しい暗黒槍は大人数で連携して発動させたのか?
いや、それも暗黒魔法に達している者が何人もいなくちゃいけない。
だとしたら、どうなるんだ?
今は何も考えず、とにかく魔族を倒す。
遠くからおびただしい轟音が聞こえる。
どうやらゴトーさんも参戦したようだ。
なんとしてでも、あの槍が再び撃たれる前に倒す!
そう意気込んだ瞬間、膨れ上がる魔力。
やらせるかよ!
わざわざでかい目印つけてくれてありがとうな!
そこに向けて雷を放つ。
何人かには相殺されたみたいだが、間にいた魔族をほとんど消し飛ばし、術者に直撃する。
そしてあの暗黒槍も空中に消えた。
やったぜ!
と笑ったが、ちょいとそれは早かったらしい。
俺の渾身の一撃を受けて、そいつはそこに平然と立っていた。
「マジかよ」
呟いた言葉には色々な意味が含まれていた。
俺の一撃を無傷で耐えきったことに対する驚き。
あの槍がたった一人で行われていたことへの戦慄。
そして何よりも、俺はその男に見覚えがあった。
あの日、楽しく続いていくと思っていた俺たちの日常を奪った元凶。
生まれ育った部族を、たった一人で壊滅させた、その男。
「こんなところで会うなんてなぁ!メラゾフィス!」
片時も忘れたことのなかった仇が、そこにいた。