お嬢様を守るために、強くならねば。
そう決意して、どれほどの時が経ったのか。
気が付けば私は、魔族軍第四軍団長になっていた。
魔王様に連れてこられた得体の知れない男だというのに。
現に、私は魔族ですらなく吸血鬼だ。
しかし、そんな私にもついてきてくれる部下がいる。
吸血鬼であることを明かし、それでもなおついてきてくれる部下が。
第四軍団、吸血鬼の軍団。
原種吸血鬼の私の系列の下、指揮官はブルジョワジーヴァンパイア、そして一般兵士はプロレタリアヴァンパイアとなっている。
魔族よりもさらに強靭な肉体を持ち、私が支配することによって、日光はどうしようもならないが吸血衝動は無効化することができる。
真祖の吸血鬼であるお嬢様から与えられた、借り物の力。
しかし、それを有効活用してこそ私の存在意義がある。
今の所、お嬢様から直接力を与えられた原種は私とワルドのみ。
私が力を与えても原種にはならないが、それでも少し強くなるだろう。
その軍勢を構え、人族へ侵攻した。
しかし、私は負けた。
転生者がいたから、日光が出ていて少し部下が弱っていたから、雷を放つ剣を持つ冒険者が神話級だったから。
言い訳はいくらでも思いつく。
しかし、それも私が本気を出せば、
元より、傷はふさがっている。
しかし、それでも敗北を選んだのは私だ。
あの転生者たちは強かった。
グングニルを出し、それでもなお私が押されるほど。
ステータスでも、スキルでも、魔術でも、私が上回っていた。
それでも、的確な連携、そして遠距離から放たれる光線と、雷属性のグングニル。
それによって私は負けた。
転生者以外の奮闘にも目を見張るものがあった。
ゴトーという冒険者だったか。
彼は、もし私に才能があったらああなっていたのかもしれないと思える冒険者だった。
恐らくあの者も、スパイダーラとゆかりのある者なのだろう。
彼もあの腕輪をつけていた。
つまりはシステムの外側の力を使うということ。
スパイダーラは基本的に微笑む者を選ばない。
そこに試練はあれど、それに受かった者ならばたとえ誰であろうと強者になれる。
ゴトーはその技術を転生者に託し、そして転生者はその技術で私と互角に戦ってみせた。
私も、時間の遅い空間で、何度も、何度も、反復をした。
しかし、それでもなお、超えられなんだ。
私は弱い。
いくら努力しても、私は凡人だ。
私は、守るべきお嬢様よりも弱い。
それが私の心を締め付ける。
白様、アリエル様、お嬢様。
チェリシア様、マリィム様。
そのような才能ある方々は、凡人の気持ちを分かっておられない。
時に戻り、またやり直す凡人の気持ちが理解できないのだ。
なぜできないのか?
それがどれだけ凡人にとって辛いことなのか……。
しかし、だからこそ、歩みを止めてはならない。
掌を見ると、水色の光が瞬いた。
『*メラゾフィス - AT35 DF35
*水色のソウルのヴァンパイア
*もはや 下級呪文ではない』
この光を見るたび、私はまだ耐えようという気になれる。
耐えて耐えて耐え、前へ前へ前へ。
凡人である私にはそれしかできない。
少し止まり、そしてまた進み、今度は戻り、また止まる。
そんなことを繰り返しながら、進み続けるのだ。
たとえそれが天才から見て泥臭いものだとしても。
☆
ふと、緋様が脳裏によぎる。
あの方は、まだ眠っているのだろうか。
大戦が始まる直前、ほんの少し白様と話したっきり起きてこないそうだ。
なぜ今この瞬間に思い出したのか、それは分からない。
確かに白様と緋様がしていた話の内容は気になるが。
ただ、少し世間話をして終えたと白様は言っていた。
何かが足りないような顔をしていた白様を見ると、どこか不安になってくる。
何かが、何かが足りない。
とても大事な何かが。
私でさえそう感じるほどだ。
それを私は少し理解できるような、そうでないような……。
それは恋ではないだろうか。
しかし、あのお二人は相思相愛。
何を悩む要素があるのだろうか……。
私のように、大きな壁があるわけでもない。
しかし、それでも、あのお二人には何かが足りないような気がする。
何だ?
ダメだ。それを放置してはいけない。
いつか、取り返しのつかないことが起きてしまう、そんな予感がする。
かなり昔、緋様が呟いていた死亡フラグではないと思うが。
流石にそんなふざけたものではないだろう。
あれは工夫すればどうにかなるものだ。
まるで喉に閊えた魚の骨のように、それが頭から離れない。
……ッ。
ああ、まさか…………。
それは…………。
白様は、緋様に愛していると言ったことはあるのだろうか?