姫蜘蛛ですが、なにか?   作:トンTon

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大戦模様:フェルミナ

私はフェルミナ。

ただのフェルミナです。

数年前まで家名がありましたが、今はありません。

魔族の名家として生まれ、決められたレールを進むだけの人生。

それに不満はありませんでした。

しかし、とある事件が起き、私は家を勘当されてしまいました。

何の因果か、魔族軍第十軍の副軍団長になってしまったのです。

気づかれないように、横にいる、私がそうなってしまった原因の人物に視線を向けます。

 

「何?」

「いえ、何も」

「そ」

 

……すぐに気づかれました。

隣にいる人物、名前はソフィア・ケレン。

その時のことを思い出すと、今でも腹が煮えくり返りそうになります。

しかし、今はそんなことをしている状況ではありません。

私達は敵を待ち構えているのですから。

周囲を見渡すと、私と同じ白装束を着た人物が複数潜んでいるのがわかります。

始めからそこにいると分かっていて、なおかつそれぞれの姿を知覚できるようになる腕輪を装備していないとそこにいるとは分からないでしょう。

それほどの隠密。

異様なほど練度の高いこの集団こそ、魔族軍第十軍。

私の父が率いていたころはほぼあってないような軍団でした。

ですが、それも昔のこと。

新しい軍団長が配属されてから、この軍団は生まれ変わったのです。

少数精鋭の怪物軍団に。

第十軍は他の軍団と比べて、百分の一にも満たない人数しか配属されていません。

ですが、その実力は()()()()()()一人で神話級。

恐らく他の軍団と戦っても蹂躙できるでしょう。

それほどの怪物ぞろい。

こんな怪物が、たった数年の間に鍛えられたのだから恐ろしい限りです。

……いえ、実際は時を捻じ曲げてはいるのですが。

まあかくいう私もそうやって育てられた口です。

とはいえ、その実態は中々他の軍団には知られていません。

ご主人様の意向により、裏方の仕事ばかりしてきたためです。

諜報、暗殺、などなど。

そういったことばかりしているため、第十軍は裏方の軍だと思われています。

実際はできるというだけで、正面戦闘した方が強いのですが。

さらに、()()()()を解除すれば、私達だけでも世界征服ができてしまうでしょう。

その実力があるのに見せる機会が無く、残念でなりません。

今回も、私達は裏方です。

ソフィアさんが不機嫌なのもそれが原因でしょう。

ですが、ここがこの大戦で一番重要なところでもあります。

 

無言。

しかし、私達は戦闘態勢に入りました。

陰神法により、私達はほぼ気づかれることがありません。

またそれだけでなく、魔術による隠蔽や隠密系統のスキルもあります。

まだ奇襲はしません。

このまま、合図を待ちます。

 

指に括りつけられた極細の糸が引っ張られると同時に、私はチャクラムを投げました。

真っ先に飛び出していったソフィアさんを追い抜かすようにチャクラムが敵に命中。

それから一歩遅れてソフィアさんが他の敵を切り捨てました。

さらに一歩遅れて、他のメンバーが敵に攻撃。

奇襲は成功。

そして呆然としている敵に向けて、さらに攻撃。

三撃目になるころ、やっと敵は動き出しました。

 

「抗魔術結界。武装の使用を許可する」

 

今回の最終討伐目標、ポティマス・ハァイフェナス。

こいつが率いるエルフの軍を殲滅することが、ここにおける目標です。

そしてポティマスがそう呟いた瞬間、体が少し重くなり、陰神法以外の魔術の効果が途切れました。

さらにエルフは手から銃身やエネルギーブレードを出現させ、こちらに攻撃。

しかし、私達はそれを既に知っています。

 

「リミット解除は無し。武装の使用は許可します」

 

私がそう指示をすると、全員が魔力を噴出させ抗魔術結界を抑制。

そして空間魔術を発動させ、機関銃、レーザーガン、チェーンソー、ドリルを取り出し、白装束にあるボタンを押して魔物兵装を纏いました。

この魔物兵装は、第二軍に渡したような量産機ではありません。

それぞれの体質に合うように調整された特注品です。

そして何よりも、この魔物たちは心から私達の相棒です。

洗脳やプログラム書き換えとは違います。

普段は別の場所にいるのですが、この時だけ召喚して呼び出すのです。

私の相棒はエンプレスタラテクト。

あのお方のご姉妹だそうです。

 

「なっ……」

 

知っていますよ。

貴方達エルフが、機械を使うことなど。

だけど私達は、それを上回る技術力を有している。

負けようがないというのが、本音です。

ソフィアさんの剣がポティマスの腕を切り裂き、トドメを刺そうという直前、ポティマスは体が粉々になって力尽きました。

後ろにいる方の手によって。

 

「いいとこだったのに、邪魔しないでくれない?」

 

それに対する返答はなく、後ろにいる方は赤い色のハンカチで手を拭きました。

それとほぼ同時に、エルフの殲滅が完了。

生存者ゼロ、逃走者ゼロ、こちらの戦死者ゼロ。

それを魔術によって素早く確認し、私は跪きました。

 

「任務完了です。ご主人様」

 

私に倣い、他のメンバーも跪きます。

ソフィアさんは立ったままです。

ご主人様は一瞥することなく首肯だけを返しました。

この方こそが第十軍の表の支配者にして、軍団長。そして私のご主人様。

白様です。

 

 

 

私の人生がどこでおかしくなったのかと言われれば、それは明確です。

学園にソフィアさんが現れた。

そこからおかしくなっていきました。

ソフィアさんが学園に来たことにより、私の婚約者のワルド様がソフィアさんに恋をし、私を裏切ることになってしまいました。

ソフィアさんは全ての成績においてワルド様を上回り、ワルド様はそれに対抗し、いつの間にかソフィアさんに惹かれていました。

ちょろい。あまりにもちょろすぎる。

しかも、ソフィアさんは魅了を学園中に振り撒いて数々の男子を虜にしていました。

このままでは魔族の未来が危ないと思った私は、ソフィアさんを排除しようとしました。

ですが、ワルドさんとほかの貴族が結託し、私は学園を追放されてしまったのです。

学園を追放され、家を追い出され、失意の底へ沈んでいた私。

そんな私を救ってくれたのが、ご主人様です。

父は私に少しの金銭と行く当てを用意してくれていました。

その行く当てこそが、魔族軍第十軍。

そこでは子供だからと容赦はなく、とても忙しく、目の回る日々を過ごしました。

ご主人様の奥様が考案したという訓練法。

それはまさに狂気。常軌を逸しています。

とても正気ではなく、私は何度死んだのか覚えていません。

だから、悲しみに暮れている暇などなく、地獄を凌駕した空間で悟ってしまいました。

 

ああ、この訓練に比べればあの出来事なんて気にするほどのことでもないなと。

 

おかげで私は、人間を止めてしまいました。

ウィーブ=ナクア。

それが今の私の種族です。

これはどうやら一種の亜神のようです。

ご主人様と奥様の血を与えられ、何か月もあの空間で、何度も何度も悶え、苦しみ、そして死にました。

その結果、私はご主人様と奥様の血族のような存在となりました。

これを私達第十軍は「灰織の儀」と呼んでいます。

同じ訓練と儀式をした第十軍のメンバーは、全員がその力を持っています。

この世界の真実を教えられ、システムを支配しろと無茶ぶりをされ……。

そんなこんなで苦楽を共にした第十軍のメンバーは、とても結束が固い。

何せ、儀式によって血もつながっているのですから。

あまりにも強くなりすぎた結果、力をシステム内に収めるアクセサリーを開発してもらったくらいです。

ソフィアさんの妹、チェリシアさんが主に使っていたようですが、これが中々に便利なものです。

これを私達はリミットと呼んでいます。

つけている時はステータスにして10000程度の力しか出ませんが、これを解放した時、システムのくびきから解放されることによって力が爆増します。

第十軍のメンバーは、大体四十万程度でしょうか。

私は六十万程度で、ソフィアさんは百万ほどですね。

もはやそこまでいくとステータス換算する意味もないですが。

ちなみに、この第十軍において最強のチェリシアさんは一億を超えているんじゃないかという疑惑があります。

リミットを外して模擬戦をしたというのに、気づけば地面に倒れているんですよ?

誰もその姿を見ることができない。

とはいえ、私達は新しいシステム、緋色システムに属することになります。

このシステムは意志の力によって強さが大きく変動するので、あまり換算しても意味はありません。

これを、「ケツイ」の力というそうです。

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