姫蜘蛛ですが、なにか?   作:トンTon

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大戦模様:勇者

決意。

僕はずっと、人生において決意し続けてきた。

そして、何かを成してきた。

けれど、それでも、どうにもならないことがある。

それは、僕が弱いから。

全ての人を救いたいとは思う。

けどそれができないことは知っている。

この手で救える人数にはあまりにも限りがありすぎる。

それでも、目に届く人は全て救いたい。

そう、思っていたんだ……。

 

「ヤー、ナ?」

 

僕は、弱い。

あまりにも弱い。

好きな女の子一人さえ、守れないほど。

 

「ユリ、ウス……。逃げ、て……」

「そんな!ヤーナ!」

「大、丈夫よ。こん、なの、かすり傷よ」

「いや、僕も戦う!君に無理をさせるわけには……」

「……ユリウスなら、そういうと思った」

 

回復魔法をヤーナにかける……けど、効果が薄い。

まだだ!まだヤーナは生きている!

師匠の言葉が思い出される。

魔法は、ただ使うのではなく使いこなし、技術とせよ。

そして魔術とせよ、と。

魔術とは魔法と同じように見えて全く違うものであり、それを使いこなしてみよ、と。

昔、亜人の方から受け取った本を思い出す。

人間の肉体について書かれた本だった。

今のヤーナは、肋骨損傷、筋肉は切り裂かれていて呼吸器にも影響が出ている。

細胞一つ一つに集中しろ!

どこの細胞がどんな構造なのか把握し、傷の治りを少しでも早くするんだ!

 

そして、もう片方の手にはクイーンタラテクトを倒すための魔法を構築する。

実は僕は、師匠が魔法使いなのもあって魔法の方が得意だ。

そして、勇者は基本的に剣を使うらしいけれど、僕の得意武器は槍。

手に光の槍を出現させる。

師匠がいつだったか、僕に槍を見せてくれた。

禍々しくもあり、神々しくもある槍の形を。

これを、グングニル系列というらしい。

ヤーナの治療が終わり、表面上は傷をふさいだ。

 

「ヤーナ、ここで――」

「私も戦うわ」

「……そうか」

 

ヤーナも僕を真似て光の槍を出し、隣に並んだ。

なら、仕方ない。

なるべくなら安静にしておいてほしかったのだけれど……。

 

 

 

僕は、無我夢中で戦った。

それはまるで、あの時の、迷宮の悪夢の時を思い出すかのように。

猛攻を加え、気が付けば僕はクイーンタラテクトの目に槍を突き刺し、殺していた。

 

「ゴホッ」

 

口の中に血の味が広がっている。

左目が見えない。

ヤーナが回復魔法をかけてくれているのに、今更気が付いた。

でも、これで……。

僕達の勝利だ。

 

 

 

その時、魔族の中から少女が歩み出てきた。

ぞっとするほど、白い少女だった。

いつしか、師匠の言っていたことが思い出される。

 

『人の身ではどうしようもない、神話すら超えた「神」が、この世界には存在するのじゃよ』

 

その瞳が、静かに開かれ――

 

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僕は、ヤーナをかばい、地に伏した。

 

 

 

いまにも、体が塵になりそうだ。

腐蝕属性のような攻撃を僕は喰らったらしい。

胸に空いた穴から死が侵食し、今にも僕は死にそうになっている。

こんな、強力な術者が、魔族軍にいたなんて……。

勝ち目が、ない……。

すまない、ヤーナ、ハイリンス、ジスカン、ホーキン……。

皆…………。

 

 

ヤーナが青い顔をして僕を見る。

僕はね、ヤーナ。

君に生きていてほしいんだ。

君に、幸せになってほしいんだ……。

 

白い少女の目が再び光り、僕も死を覚悟した時、ヤーナはまた、僕を庇って傷を負った。

どうして……。

ああ、そうか……。

 

「私達は、どちらにも幸せになってほしいと思っている。そうでしょう、ユリウス?」

「……そうだね。この体は、いまにも粉々に砕け散りそうだけれど」

「私達には、まだ、何かが燃え滾っているわ」

「僕達はまだ、死ぬ訳にはいかない」

「これはもう、私達人族だけの問題ではない」

「僕達がここでこの白い少女を食い止めなければ……」

「あなたは、全てを壊すおつもりですね?」

 

「……」

 

「人族も、魔族も、みさかいなく」

「夢も希望も、一瞬で握りつぶす」

「だが、この僕がさせはしない」

「でも、この私がさせはしません」

「「僕(私)の目的は、ただ一つ」」

「「貴方(君)を止めることです(だ)」」

「魔族の将、いや、君の正体が何であろうと……」

「私達は、必ず……」

「君を」

「貴方を」

 

「「うちたおす!」」

 

 

 

光が満ちる。

体の底から、力があふれる。

僕は、人生においてずっと決意し続けてきた。

ケツイが、みなぎった。

この少女もまた、何かケツイをしているのだろう。

赤く、赤く、とても赤い光が瞬いている。

僕も、ヤーナも、この少女も。

それぞれの考えがある。

 

僕は、弱い。

全てを救うためには、僕はあまりにも弱すぎる。

勇者として、何かを成さないといけない。

けれど、今は、今だけは……。

好きな人のために戦いたい。

 

体が再構築されてゆく。

黒い鎧が体を覆う。

ヤーナには黒い法衣が。

胸には、僕もヤーナもハートの模様がある。

そして、僕は左目が。

ヤーナは右目が、強く輝いた。

 

君、いや、お前は……。

僕らの平和を踏みにじるつもりなんだろう。

僕は、戦う。

世界の平和、僕の平和、そして……。

ヤーナの平和のために。

 

 

 

「「さあ……お前の本気を、見せてみろ」」

 

*ゆうしゃが あらわれた

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