姫蜘蛛ですが、なにか?   作:トンTon

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白7:勇者との戦い

失敗だ。

失敗も失敗。

大失敗だ。

詰めが甘かった。

その気になれば何でもできると、そう思っていたのかもしれない。

目の前に迫りくる槍を避ける。

回転しながら槍が私に迫る。

地面からも出現したものも空間起動の要領で避ける。

まさか、神である私がこんなにも苦戦するなんて。

目の前にいるのは、勇者ユリウス。

そして、眼中にも留めていなかった聖女のヤーナ。

この二人が、今私を追い詰めている。

 

確かに殺したはずだ。

この世界のシステム的に、あれはHPが0になっていないとおかしい。

死滅の邪眼を使い、目に深いダメージ、脳に若干のダメージを負い、やっと私は勇者を仕留めた。

いや、そのはずだった。

クイーンタラテクトを模した私の分体さえ倒してしまえる勇者は危険だ。

だから私が直接、勇者を抹殺。

そのつもりだったのに……。

 

「「さあ……お前の本気を、見せてみろ」」

 

私には見えた。

ユリウスとヤーナのタマシイが、赤く光ったのが。

あれはケツイ。

こいつらは、ケツイによって生きながらえているんだ。

ケツイの力は時に神を超え、致命傷を与える。

つまりどういうことかって?

私が負けそうってこと!

目は痛いし頭は痛いし、もう散々だよ。

一人ならまだ対処はできた。

それが、二人。

もう!主人公補正も大概にしてほしいよね!

糸を使ってなんとか応戦しているものの、槍で糸は破壊され、闇の魔術も槍で破壊され……。

そのチートな槍何!?

まさか緋ちゃんが言ってたグングニル系列ってやつか?

エネルギーを籠めれば籠めるほど追尾性と威力が上がり、形も禍々しくなるっていう。

いや、違うな。

追尾性能が無い変わりに、威力が馬鹿みたいに高い。

それに、結構短くて持ちやすそうだ。

多分これはパルチザン系列。

形がシンプルで、禍々しくないからね。

でも、実際はグングニル系列とパルチザン系列を混ぜて使ってるんだろうなーって。

ていうかどうして魔術使えんの君たち。

 

大鎌を召喚して戦ってはいるんだけど、槍の数がえぐくて近づけない。

腐蝕の波動を放つも、なんかタマシイが緑っぽい色になったと思ったら防がれてた。

くっ、どうして私がこんな苦労をせにゃならんのだ。

速く帰って緋ちゃんをすりすりしたい。

帰りたいっ!

そんなことを考えていたからか、若干反応が遅れてしまった。

やばっ!

思考加速によって見えるスローモーションの世界の中、槍が私の心臓近くに迫る。

私は心臓を潰された程度では死にはしない。

けど、あれは、ダメだ。

グレイズし(かすっ)た場所からエネルギーが漏れ出しているのを感じる。

傷の治りも遅い。

つまり、再生もできずエネルギーが尽きて死ぬ可能性があるわけだ。

このまま、私が死ぬ……?

 

……?

気が付けば、私の手には赤く輝くナイフが握られていた。

どことなく緋ちゃんから貰ったダガーを鋭くすればこんな形になるような……。

ダガーを佩いていた場所を見ると、そこにはダガーは無かった。

つまり、私の持っているナイフはあのダガー?

 

『*ほんもののナイフ ぶきAT99

 *ケツイ』

 

ぶきAT99!?

なんて頭のおかしい性能してるんだ……。

禍々しいオーラも感じるし……。

でも、なんというか、安心する。

そういえばこれ、緋ちゃんの体の一部だっけ。

ふぅー、とりあえず、勇気が出た。

ここからは本気でいかせてもらう。

ギュリギュリは……よし、見てないな。

見てない位置に移動してきてよかった。

まさか神でもない相手にこれを使うとは思ってなかった。

 

「暴食の邪眼、付与」

 

ナイフに暴食の邪眼の効果を付与する。

攻撃を与えたもののエネルギーを吸い取る、それが暴食の邪眼。

緋ちゃんはさらにその上位互換の「夢喰の邪眼」を使えるけど。

とにかく、このナイフは斬撃が飛ぶ。

どういうことかと言うと、遠距離攻撃ができるってこと!

 

[fight]

 

斬撃は飛び、触れたもののエネルギーを吸収してゆく。

そして勇者ユリウスに触れた時、凄まじいエネルギーが私に流れ込んだ。

ぐうっ、なんて膨大なエネルギーなんだ。

でも!このエネルギーを使えば!

緋ちゃんから貰った、最初の魔物兵装、プロトタイプを起動できる。

エネルギー消費が尋常じゃなくて普段使いはできないけど、こういう場面なら使える。

ここには何の魔物が入っているのか?

それは……。

 

『はいどうも、お母様。タニシングルです。使われますか?私達を』

『うん』

『了解です』

 

エルロータニシムシ。

その全戦力がこの魔物兵装で集められる。

腐蝕攻撃を使う私と限りなく相性がよく、腐蝕攻撃の威力が格段に上がる。

暴食の斬撃を放ち、ユリウスとヤーナを追い詰めてゆく。

なのに、まだ、まだ倒れない。

ゾクリとするほどのケツイ。

ああ、分かってるよ。

私も同じ気持ちだから。

 

私は、緋ちゃんに無理をしてほしくないんだ。

緋ちゃんには、ずっと笑っていてほしい。

あの不気味な笑顔も、私は好きだ。

 

「勇者ユリウス、聖女ヤーナ」

 

こいつらも、きっとそんな気持ちで戦っているんだろう。

愛する人に幸せになってほしい。

それは至極当然の願いだ。

でも、だからこそ。

 

「背負っているのは、私もだ」

 

負けるわけには、いかない。

 

*ケツイがみなぎった

 

 

 

 

 

「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ」

 

息が切れる。

傷口が途轍もない痛みを発している。

特に足と左腕。

下から出現する槍に対応しきれず、片足は魔術で浮かせている状態だ。

死滅の邪眼をもう一度使ったせいか、目がかなり見えにくい。

目の周囲をぬぐうと血が付いていたけど、それが返り血なのか腕の血なのか目の血なのかもう見当がつかない。

それでも、勇者は討ち取った。

痛い、痛い、痛い。

左腕の感覚も無い。

これが、ケツイ。

これが、勇者。

私は勇者を甘く見ていた。

いや、警戒に警戒を重ねていた。

そのつもりだった。

それでも、ケツイなんてのが出てくるなんて……。

いや、おかしいことではない。

こいつの人間性からしてもそれは予想できた。

私は、詰めが甘かった。

 

「うっ……ごはっ」

 

やばい。

とりあえず、帰って治癒しないと。

このままじゃ死ぬ!

 

 

 

「無様だな、白」

 

ヒェッ。

待って待って待って。

なーんかすごく嫌な予感がするんですが。

ほらほらほら魔術も使えなくなってる。

声が聞こえた瞬間空間魔術で逃げ出そうとしたのに!

 

「……何の用?ポティマス」

「なに、貴様がボロボロだったので嘲笑いにな」

 

くそっ。

ピンチだ……。

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