魔王様に留守を任され、魔族領の治安維持を行なっていたが、どうやらそうもいかない状況になったようだ。
神言が響く。
それは今までに我々が聞いた、どこか機械的な声ではない。
怒気を露わにした、緋色様の声だった。
突如として強大な威圧感が発生するのを感じる。
黒い緋色様が、そこには立っていた。
「いかに緋色様といえど、魔族領を荒らすのは止めてほしいものですな」
治安維持にあたっていた魔族の兵士を一瞬にして消し飛ばし、我の方を向いた。
その瞳は怒りを主軸にした悪感情に塗れており、片目は溶けた肉体によって隠されていた。
「ダラド、LOVEを上げるためだから、星一つ滅ぶくらいは許してね?」
「そうもいきませぬよ」
刀を抜く。
丈夫で、堅固。
それでありながらしなやかで柔らかい。
そして魔力伝導率も高く、軽く魔力を纏わせるだけでも切れぬものがほぼ無くなるほど。
この刀は、ラズラズ殿から譲り受けたものだ。
それを構え、黒い緋色様に向き直る。
「ダラド、あなたの活躍に免じて手加減してあげよう。手心は加えないけどね、なんちゃって」
我は直観で刀を振るう。
すると、音の速さを優に超えた触手をはじき返していたのを遅れて感じた。
見えなかった。
直感に頼ってやっととは。
これを二撃目、三撃目と防げるか……?
しかし、後ろは魔族の暮らす土地。
無辜の民を見捨てるわけにはいかぬ。
雄たけびを上げ、なんとか触手をはじき返し、近づいてゆく。
あと三歩。
限りなく遠い三歩だ。
触手が我の足を掠める。
衝撃だけで骨が粉々になったかのような感覚。
しかし、あと二歩。
受け流しきれず、腕が攻撃の余波で悲鳴を上げている。
あと、一歩!
全力で魔力を込め、刀を振るう。
しかし我の渾身の一撃は、緋色様の御身を覆う液体に弾かれた。
傷一つ、つけられなんだか。
ブラスターと呼ばれるものが我の目の前に迫るのを感じた。
避けるわけにはいかぬ。
後ろには避難している民がいる。
覚悟を決め、仁王立ちをした。
が、その直後、光線が周囲から緋色様を覆った。
「とっておきの魔物兵装を出せ!ダラド様をお守りしろ!」
逃げろ、と言ったはず。
しかし、治安維持を受け持っていた第二軍の一部を主導として、我の軍や残っていた兵士の者達が攻撃している。
あぁ、やはり、我は一人で恰好をつけるなどできぬようだ。
ボロボロの肉体を奮い立たせ、鋭い眼光で黒い緋色様を睨む。
「いいね、魔物との相性を考えつつ最大限の実力を引き出してる。私の教えたことを実践してくれてるようで嬉しいよ」
怒っている気配を肌で感じるというのに、緋色様はいつもの笑みをこちらに返す。
不気味な笑みだ。
それに気圧されたのも一瞬。
我もニヤリと笑みを浮かべる。
やせ我慢のようなものだが。
「ダラド、回復魔法をかけてやった。さあ、行け」
「ワーキス……」
魔族の思いが、希望が、夢が我の背中に乗せられている。
魔王様は、魔族領を守れと仰った。
ならば、それを遂行するのが臣下の務めというもの!
*ケツイがみなぎった
体からかつてないほどの力が湧き上がるのを感じる。
その力を見事に刀に制御し、我は走り出す。
魔族を守るため、緋色様の御身であろうと切り捨てさせてもらう!
「……すごいね。やればできるじゃない」
「お褒め頂き、恐悦至極!しかし手心は加えませんぞ!」
「――それじゃ、私も誠意を込めて、本気でいくよ」
激しい光が辺りを埋め尽くす。
我の刀の一撃と、それを受け止めた緋色様の火花が散っているようだ。
全身全霊を込めて、全てを刀の一撃に集約させる。
しかし――
我は地面に倒れ伏し、無傷の緋色様がそこにいた。