戦況は絶望的。
ユーゴーは魂の損傷が激しく、チェリーは倒れ、敵には増援が来た。
全く、地獄だわ。
これだから働きたくないのよ。
それでも働かないとマジで殺されちゃいそうだから戦う。
周囲の魔力をケモナーで操り、動物の形をとらせる。
そして退廃をベースにした魔術をそれに付与。
これが、私の奥の手。
暗黒波動波・獣。
触れただけで消滅するような危ない魔術が、動物の素早い動きで近づいてくる。
しかも周囲の魔力を使っているから魔力消費は控えめ。
とはいえ、これがこいつに効くなんて思えないけど。
「かーわいいねーこの獣たち」
軽くナイフでいなされているのを見ると、複雑な思いがこみ上げる。
やっぱりこいつは最強で、いくら頑張っても敵わないんだ。
そうやって諦めて働き続けて、私にはもうほとんど何も残されていない。
みんながケツイとやらを振りかざして戦っている。
けど私は、それがいまいち足りないみたいね。
どうにも体にはみんなほどの力は湧かなくて、やる気なんてものは皆無。
戦う覚悟なんてものは無いし、それでも殺されそうなんだから戦うしかない。
変に力を持ってしまったから、大事に巻き込まれちゃった。
……もし、私が平凡なままだったら。
いや、緋色という存在がこの世界にいなかったら。
私は、平和に過ごせていたんだろうか。
あのエルフの森で慎ましやかに暮らしていたかもしれない。
働くのも最小限でよかったかもしれない。
……けど、それは所詮「もしかしたら」の未来。
もしそのままだったら、私はサイリスに出会ってはいない。
それは、なんだか、イヤだ。
戦う意味は多分無いけど、嫌なことから逃げるために私は戦うよ。
これが大切な人を守るってやつなのかな。
すごく性に合わないわね。
……それにしても、なんでこんなに周囲が遅く感じるのかしら。
「うん?よそ見している暇があったら攻撃を加えろ。そう教えてくれたのは貴様だろう」
「うるっさいわね。会話してる暇があるなら攻撃しなさいよ」
「そうか、だが私は……」
「あ?」
「お前を守りたいと思ってな」
それでも、限界はある。
私は「万能」じゃない。
私は平凡。
チェリーみたいな圧倒的な力がない。
アリエルさんみたいな優しさがない。
ソフィア姉みたいな執着がない。
メラゾフィスさんみたいな忍耐強さがない。
レッドさんみたいな生存力がない。
レーヌさんみたいな母性がない。
ユーゴーみたいな勇気がない。
白みたいな愛もない。
緋色のような、ケツイがない。
ない、ない、ない。
私一人じゃ、守れない。
でも、頼れる人はいない。
今は自力で全てを解決するしかない。
……サイリス。
私と同じ平凡な男。
こんな二人じゃ、守れるものも守れないわ。
ああ、やめて。
これ以上私から何かを奪わないで。
見たくない。
聞きたくない。
サイリスが私を突き飛ばす。
最後の警告、しかしそれは間に合わなかった。
「マリィ、ム……」
サイリスが冷たくなってゆくのを感じる。
それと同時に、先程まで遅く感じていた世界が元の速さを取り戻した。
チェリーから感じられる力が小さくなってゆくのを感じる。
ソフィア姉がガスターブラスターに貫かれるのが見える。
そして、アリエルさんの目の前に、大きなガスターブラスターが出現していた。
あのままじゃ、死ぬ。
私の目の前で、また誰か死ぬ。
「はははははは!あはははっあははは!」
フードをかぶったあいつの高笑いが響く。
まるで狂っているかのように。
実際狂っているけれど。
狂ってる。
そうね、狂ってるわ。
全部、全部、狂ってる。
「アリエル!!!」
ガスターブラスターが、まるで糸が切れたように地に落ちる。
フードを被ったあいつが静止する。
そして、糸が周囲に舞った。
これは、何?
アリエルさんはこれほどのことはできない。
白はアリエルさんのことをアリエルとは呼ばない。
じゃあ、誰が?
「ずっと、俺のことを待っててくれてありがとう」
「……クラ?」
こんな状況を救えるのは、真の勇者しかいない。
しかし、そこにいたのは紛い物じゃなかった。
真の勇者。
初代勇者。
Dすら認めた、初代忍耐の支配者。
クラという、伝説がそこにいた。