起こるはずのない奇跡。
それを私は今目の当たりにしている。
何度も絶望のどん底に突き落とされた私に、ついに天使からのお迎えが来たのかと思ったほど。
それは、普通ならありえないことだった。
待って待って、待ち続けて、もう迎えに行くしかないと思っていたのに。
「俺のことを待っていてくれてありがとう。アリエル」
世界に魂を捧げ、転生すらしていないはずの、かつての私の家族。
クラだけじゃない。
院長が、ゴブが、ナタリーが。
孤児院のみんながいる。
「辛気臭い顔してんじゃないよ。あたし達が蘇ったってんだから、もっと喜びな」
「随分遅くなったけど、栞を返しに来たよ」
「あのアリエルが随分強くなったわねぇ」
もう私一人しか残っていなかったと思っていたけれど、やっぱり緋ちゃんは頭のおかしいことを平然とするんだから。
死者蘇生。
しかも、魂が消えてから時間が経っているにも関わらず。
「お母様が暴走しているようなので、止めるために連れてきました」
緋一率いる、思考担当分体達が勢ぞろいして私に対してお辞儀をする。
どうやら、緋ちゃんの子供といえど思考が同じってわけじゃないみたいだね。
緋ちゃんの作った、たくさんの分体。
それが全て、こちらの戦力として寝返った。
「反撃の狼煙をあげましょう、魔王様。信仰の力をお受け取りください」
私の体に力があふれる。
これは一体……。
信仰の力と緋一は言う。
亜人、恐らくその全てが私達の味方をしているということなのだろう。
「ふっ、私もそれに参加させてもらおうか。語り掛けるのは多ければ多いほどいい」
「うげっ」
「うげっとはなんだうげっとは」
折角締まりそうだったのに、変な奴が来た。
負けたんだから大人しく隠れてればよかったのに。
あとなんでか分かんないけど、真っ赤な緋ちゃんがポティマスの横にいる。
魔族領に住んでたはずのキャラって子もいるし、君たちテレポートでもしてきたの?
あ、緋一が連れてきたって言ってたね。
「まとまってきたみたいだね。皆、それじゃあこれ、出せるかい?」
皆が落ち着いてきた辺りで、クラが掌の上に何か変なものを出す。
[SAVE]
「これは、あの暴れている奴を救うために必要なものさ。支配者権限とケツイさえあれば出せるはずだよ」
「うぉっ、なんか出た」
「これで、奴の中にいる良心を呼び覚ますって訳。ま、時間がかかるだろうから足止めはこの分体っていう奴に任せよう」
なるほど。
たしかに、緋ちゃんを殺すのは本意じゃない。
これで救うことができるのはありがたいね。
「そんなもので私を止められるとでも?私はまだ本気を出しちゃいないよ!」
「いい加減にしたら、私?」
「フェル!裏切るなんて覚悟はできてるんだろうね!」
「できてるさ!ケツイしてるよ!舐めるんじゃないよマーダー」
フェルと呼ばれた緋ちゃんが、マーダーと呼ばれた緋ちゃんに襲い掛かる。
それを消し飛ばしたり、逆に反撃したり……。
あれほどまでに恐ろしかった緋ちゃんの一部が味方に回るだけで、これほどまでに心強くなるとは。
……よそ見をしている暇はないね。
私は[SAVE]を発動させる。
その瞬間、私の目の前にたくさんの人が現れた。
いや、これは、私の脳内……?
死んでいったパペットタラテクト達。
死んでいったクイーンタラテクト達。
私が殺した、人族、魔族、エルフ、魔物……。
数えきれないほどの人影が、私の目の前に出現している。
まるで、行先に迷っているかのように。
*まよえるタマシイたちが あらわれた
救うとは、全てを救わなくてはならない。
緋ちゃんは、私にそう言っているのかもしれない。
語り掛け、抱きしめ、人族や魔族、エルフには叱責し、魔物には謝罪し……。
気が付くと私は、現世に戻ってきていた。
周囲には、過去に、そしてこの大戦で死んだはずの人々が整列している。
それは、[SAVE]を使った全員の関係者。
「死」というものが、ここでは曖昧になっている……?
「そ、んな……EXPが、LOVEが」
「そんなものが無くても、人は救われる」
生き返る。
死者が、もう会えないはずの者が。
生き返る。
死んだはずのダラドが、アーグナーが、ブロウが、コゴウが。
生き返る。
もういないはずのダスドルディア国の人々が。
生き返る。
今までに死んで戦って死んで戦ってを繰り返してきた魔物たちが。
生き返る。
善人が、悪人が、等しく迷いが絶ち切れたような清々しい表情を浮かべて。
還ってゆく。
今までに集めた力が。
スキルが。
ステータスが。
称号が。
スキルポイントが。
経験値が。
暴力によって構成されたLVが、元に戻っていく。
《MAエネルギーが規定量に達しました》
そして、諦めていた最終目標が、達成された音がした。
緋ちゃんが言っていた、強くなる指標、Level Of Violence。
その必要は無かったのかもしれない。
「⬥︎□︎■︎♎︎♏︎❒︎♐︎◆︎●︎」
どこかで誰かが笑ったような気がする。
気配を感じて後ろを振り向くと、黒いナニカが佇んでいた。
そして、その横には――
「緋ちゃんに語りかけるから、みんなは下がってて」
「白ちゃん!白ちゃん白ちゃん白ちゃん!!!」
「緋ちゃん……私のターンだよ」