無自覚に失恋するやつ

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私のメイドが家を出ていくとか言ってる、意味が分からない

私の家はそこまで裕福じゃないけれど、一人だけメイドさんがいる。

 

彼女は私が中学生に上がった頃に家にやってきて、それからはずっと住み込みで働いてくれている。

 

なんでも、高校が実家から遠いみたいで、住み込みで働ける下宿先を探していたらしい。

 

高校生だからフルタイムで働くのは無理だけど、学校終わりで疲れているだろうによく尽くしてくれていた。

 

ところがこのメイド、へっぽこで全然役には立たなかった。

 

壺や皿を割るのは当たり前、バケツはひっくり返すし、ホラー映画を見た日は一人で寝る事さえ出来ない有様だった。

 

高校生の癖に、中学生の私に縋り付いて泣き叫ぶ彼女を見ていると、なんだかもう呆れを通り超えて母性本能さえ目覚めそうになってしまう。

 

ポンコツメイドは頭も悪い、高校の成績は低空飛行だし、私が持っている高校受験の参考書を見せても虚無の目をするばかりだった。

 

この人はこの先どうやって生きていくつもりなのだろう、と受験勉強している私の傍らでにこにこしているメイドに目を向ける、笑ってないでお前も勉強しろ。

 

メイドが持って来てくれた差し入れのホットケーキを口に入れる、うん、とても苦い。

 

ホットケーキ一つまともに作れないなんて、こいつは一人じゃ絶対生きていけないな。

 

まあ、私が大学を卒業するまでは家で雇ってもらえるだろう、それから先は……収入次第じゃ私が雇うのもやぶさかではない。

 

知らない仲でもないのだ、解雇して野垂れ死にされても目覚めが悪い、ただそれだけだ。

 

とはいえ、そんな高収入の仕事に就くにはそれなりに良い高校に入って、良い大学を出なければならないだろう。

 

だから私は勉強する……おい、ホットケーキ食ってないでお前も勉強しろ、さり気なく焦げた部分を切り離すな。

 

じゃれついて来るポンコツを手であしらいながら私はペンを走らせた。

 

 

―――

 

 

高校の前に掲示された合格発表の数字を見て、私は小さくほくそ笑んだ、合格だ。

 

横でおろおろしているポンコツメイドはまだ私の数字を見つけられていないらしい、なんでだよ、順番通りに並んでるだけだろ。

 

小さく息を吐いて、彼女の肩を叩く。振り向いた彼女に合格している旨を伝えると、うちのメイドは大喜びで手を取ってはしゃぎ出した、やめろ、奇怪の目で見られるだろうが!

 

叱りつけてもまっったく無意味で、ついには在校生が集まってきて私は胴上げされてしまった。

 

私を遠巻きに見ている受験生の中には、私のクラスメイトとなる者も混ざっているのだろう、見ないで……

 

無事に降ろされた私に、元凶のポンコツがにこにこ笑顔で近寄ってくる。

 

良かったですねお嬢様、じゃねーよ。私はメイドの手を力任せに引いて構内の合格者説明会に足を運んだ。

 

渡された保護者の名札をドヤ顔で着けているメイドが腹立たしい、お前は私のメイドだろうが。

 

親世代の中に一人だけ高校生が混じっていると、とても目立つ。

 

私はもう既に帰りたくなっていたが、ひそひそ見られているメイドは何もわかっていないのか誇らしげに胸を張っていた。

 

死んだ目で説明会を終わらせた帰り、隣を歩くアホメイドが嬉しそうにファミレスを指差した。

 

お祝いがしたいらしい……まあ、うん、そこで御馳走を作るのがお前の仕事だろうが、と言いたくなるが黙っておく、食材が犠牲になるだけだからな。

 

聞けば奢ってくれるらしい、この日のために色々節約してお金を貯めたのだとか。

 

それで行くところがファミレスかよとか思わなくもないけど……まあ、こいつにとっては立派なお祝いなのだろう。

 

少し目が赤くなってきた私は、適当に口実を見つけて席を立つ。

 

トイレの鏡を見ると頬に薄っすら光るものが浮かんでいた。

 

私はため息を吐きながらハンカチで頬をなぞる、鏡の私と目が合い、やつは信じられないほど柔らかくにへらと笑った。

 

口から諦観の笑いが漏れ出す、どうやら私は本気で喜んでいるらしい。

 

まあ、念願の高校に合格できたのだから当たり前だ、合格したんだから誰だって嬉しいに決まっている。

 

それだけだ。

 

 

――

 

 

私の服をポンコツメイドが現在進行形で汚している。希望の大学に落ちたらしい、そりゃそうだ。

 

アホの癖に勉強も碌にしてないんだから落ちるに決まっている、火を見るよりも明らかだ、逆に受かってたらびっくりだわ。

 

私にしがみ付いてわんわんと泣き叫ぶポンコツの頭を撫でて、慰めの言葉を吐いてやる、このまま泣かれ続けても面倒だからな。

 

浪人するならフルタイムでメイドをすれば良いじゃないか、お金も溜まるし、ちょっとは仕事も上手くなるだろう。

 

ここで泣いていたら邪魔になる、他人の胴上げなんて見たくもない。

 

私はすすり泣くメイドの手を引いて家まで帰った。

 

終始暗い顔で俯いていたメイドは、お風呂もトイレもお構いなしに一日中纏わりついて来た、いやなんでだよ。

 

私のベットを汚しながらすすり泣くメイドの背を撫でてやる、うるさい、さっさと寝ろ。

 

嫌な事があった時はさっさと寝て忘れるのが一番って私に教えてくれたのはお前だろうが。

 

狭くて寝れない? 知るかそんなもん。

 

 

――

 

 

メイドが家を出て行くとか言ってる。意味が分からない。

 

実家に帰ってゆっくりしたいらしい、ニート志望とは良い御身分だな。

 

社会の皆さんに申し訳ないと思わないのか、世迷言を吐いている暇があるなら勉強しろ。

 

……なんだこの下手くそな字で書かれた封筒は、読めん、書き直せ! ……いや、書き直してる暇があるなら勉強しろ。

 

……。

 

勉強なら教えてやる、実家に戻ってもどうせ遊んで碌に勉強しないだろ。

 

ははっ、ポンコツメイドは冗談も下手くそだな、何が彼氏だ、世迷言も大概にしろ。

 

……遠距離恋愛? 中学時代から付き合ってる? は、はは……なんだそれ、初耳だぞ。

 

ポンコツメイドにまさか恋人がいたなんてな、割れ鍋に綴じ蓋というわけか、はははっ……よかったな、結婚して養ってもらえよ!

 

……。

 

意味が分からん、なぜ謝る。私には関係ない話だろ。

 

黙れ……それは預かってやる、さっさと失せろ。

 

あぁ、そうそう、退職祝いは何が欲しい? 言うだけ言ってみろよ。

 

なぁ、お前が泣くなよ。




退職祝いは要らなくなったダブルベットで

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