遊戯王VRAINS―GB   作:甘枝寒月

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2話 裏Dencity(デンシティ)の奪還屋

 

HeySay(ヘイセイ)エブリバディ! 今日もカリスマデュエリストのデュエルが始まるぞぉー!』

 

 Dencity(デンシティ)中央広場は今日も大盛況。

 リンクブレインズ各地で行われるカリスマデュエリストのデュエルを大型ビジョンに映し、MCが花を添える。

 

 もちろん個人端末でも同じ映像を見ることができるし、自身がリンクブレインズへとログインし現地観戦することもできる。

 だが、それはそれ。迫力ある大画面を大勢で見上げる観戦方法にも需要があるということだろう。

 

 にしても。

 

「今日はずいぶんと人が多いな」

 

 ビジョン前にたむろっている人だかりは普段よりふた回りほど大きく、見慣れない青いハッピを着てペンライトを光らせた者たちから異色な高揚感が立ち(のぼ)っている。

 

『パンッパパンパンパン(やっふー)タタタタタタタン(エンジェル)タタタタタタタ(やっふー)チャチャチャチャチャチャン(エンジェル)ダダダダ↑ダダダダ↑パン!パン!パン!(レディゴー!)』*1

 

 ハッピ集団が騒ぎながら手拍子や歓声をあげ、異彩を放つ。

 広場を通る日常的な人々の中にぽつんと浮かぶ非日常。海に浮かぶ小島のように、ハッピ集団は遠巻きにされていた。

 

 しかし零涙は、よりにもよってその異集団を見て目を輝かせてしまった。集団と同じ色のハイテンションに染まってしまい、うずうずそわそわ。

 

「今日はブルーエンジェルのライブだから。ここで参戦する人もいっぱいいる」

 

「ああ。島がそんなこと言っていたな」

 

 島や零涙がハマっているカリスマデュエリスト・ブルーエンジェル。【トリックスター】という厄介なデッキを使いこなす強いデュエリストであり、同時に歌って踊れるバーチャルアイドルとしての一面も持つ。

 

 カリスマデュエリストという肩書自体はリンクブレインズ、ひいてはその影響でデュエルが盛んなこの街でしか通用しないもの。相応に、ブルーエンジェルの歌や踊りも個人活動アイドルとしては充分であるーーそう遊作は評価していた。

 

「ライブはファンみんなで一体化して観るのも格別。特別感」

 

 零涙のうきうきとした高揚に冷水をかけるほどヤボではない。とはいえ、あの奇妙な掛け声をあげている集団に混ざりたがって目を輝かせているのは見過ごせない。さりげなくなだめる。

 

「ライブの前にカフェナギで食べてからいかないか?」

 

「ん」

 

 食いしん坊をあっさり釣って、ただならぬ雰囲気を纏うビジョン前から引き離した。

 

 中央広場には人が多く()()いし、ただ通り過ぎる人もいるが、ときに滞留する人もいる。そうした場所には、当然出店(キッチンカー)が商売するのが浮世(うきよ)(ことわり)

 遊作たちの行きつけキッチンカー、カフェナギもそのひとつとして大いに腕を(ふる)っていた。

 カフェナギはキッチンカーでありながら本格派、肉汁たっぷりのソーセージが特注のパンを大きくはみ出すほどのホットドックはもちろん、コーヒーもインスタントでなく豆を挽いて淹れている。こだわりの店。しかもこだわりは味に反映しつつも値段は庶民の味方という、こんな店ほしかった! をそのまま現実に持ってきたような店だ。

 

 お客は、ポテトもつけてしまう食べ盛り学生グループから、コーヒー目当ての落ち着いた老夫婦まで、多種多様。

 それを一手にさばいていく姿をすこし眺め、列が途切れる端境(はざかい)時間をみはからい店前に顔を出す。

 

草薙(くさなぎ)さん。もーかりまっかー?」

 

「おう。ウハウハやがなー」

 

 零涙が思いつきで(ほう)った棒読みカンサイベンにも即座に対応するコミュ力の持ち主。店主の草薙さんだ。

 精悍(せいかん)で引き締まったスポーツマンの体格と、飲食店員としてだけでないこざっぱりした雰囲気。それに人当たりのよいフレンドリーな気質。

 あの()()さえなければ、彼の人生は順風満帆(じゅんぷうまんぱん)だっただろうに。

 

 ……いや。だからこそ、事件の謎を解明することこそが、草薙さんや、彼の弟のためになるんだ。

 

 草薙さんはトングを置いて、パンに切れ目をいれる下準備へと手を移す。忙しなく手を動かしながらも、こちらに笑いかけてくるのも忘れない。

 

「遊作も。どうだ、しっかり勉強してきたか?」

 

「まあ、それなりに」

 

「うそ。ぐっすり寝てた」

 

「零涙」

 

「ははは。そうか、寝てたか」

 

 にんまり零涙が草薙さんに告げ口し、ふたりで笑う。

 むう……。

 

「そうだ2人とも。お客さんが来てるぞ」

 

「お客さん?」

 

 草薙さんにうながされ、簡易テーブルを並べているイートインのほうを向く。

 ライダースーツの女性が1人で4人掛けテーブルを占領し優雅にコーヒーをすすっていた。遊作たちが草薙さんに示されるまま投げた視線に、親指つき3本指ピースとウィンクで返答(かえ)してくる。

 

「はぁいおふたりさん。元気かしら?」

 

「エマさん!」

 

 彼女、別所エマの顔を見たとたんに、零涙はしっぽをぶんぶん振りながらぱたぱた小走りで駆け寄っていった。

 

「あーもう零涙ちゃんカーワイー。()ってっちゃおうかなー」

 

 大型犬のようにかがんでおすわりして人懐こくされ、エマは(まと)っていた大人らしい雰囲気から一転、破顔。締まりのない顔で零涙をいじくりまわす。

 

「今日は学校帰り?」「ん!」「いいわね~。私もこんな時期あったわ~」「エマさんもガッコ通ってた時期あったの?」「あら。イケナイこと言う口はこれかしらー?」「い、いひゃい」「まったく、カラダもムネもナマイキに成長しちゃって。揉むわね」「え? ん、んっ!?」「また大きくなった? ほんっとナマイキ。あー、あったかいわ~」

 

 撫でまわされてむふーとゴキゲンだった零涙が、おばさん染みた毒牙(セクハラ)にひっかかって(もだ)えている。毎度セクハラされるのに、どうして懐いているんだろうか。

 

「エマ。お前が来たということは、なにか依頼があって来たんじゃないか?」

 

 その助け船を皮切りに、ようやっとエマは遊作のことも視界に入れる。緩んだ顔を引き締め、零涙のほっぺに指を沈めると、

 

「ええ。奪還依頼よ。GETBACKERS(ゲットバッカーズ)

 

 

 

「ほら。ホットドックとコーヒーだ」

 

 草薙さんにホットドックを出してもらい、遊作と零涙のコンビはエマと向かい合う。さっきまでのじゃれ合いとは違う、プロの張り詰めた雰囲気をお互いに醸造する。

 

「エマ。依頼というのは」

 

「しっ」

 

 口火を切った遊作の言葉を、エマは口に指を当てて遮った。

 

 ……今回の依頼は、そこまで重要なものなのか? そう推測し、場所を変えることを提案するかと思案。そして、エマが1点を見つめていることに気づいて、その先にいるであろう相手に悟られないように自然に視線をたどった。

 

 零涙がホットドックを食べていた。

 

 零涙だけ特別なチーズのかかったホットドック。

 まず、はみ出ているソーセージをぱきりと折り食べ、そこからソーセージ・チーズ・ケチャップ・パンの四重奏を一気に口に含む。大きかったのかたっぷり噛んでから顔をしかめてごくんと飲みこんだ。次に、口にはいりきらず突き出たパンだけをついばむ。にこやかに頬袋に詰めて噛みしめる。ほんとうにおいしそうに。食べて食べて、最後に反対側のはみ出たソーセージで食べ納め。これまた特別な甘いカフェモカをくぴっと味わう。――それを、エマは真剣な顔で見続けていた。

 

「エマ。真面目にやってくれないか」

 

「真面目よ」

 

 口数少なく生返事。零涙から目を離さず。食い入るように見つめる。カフェモカを飲んで人心地ついた零涙が「どしたの?」と聞いてくるまで見つめ続けたエマは、しれっと、

 

「なんでもないわ。……さてGETBACKERS(ゲットバッカーズ)、今回の依頼は――」

 

 エマが1枚のカードをピッと2本指で取り出してテーブルに置く。今度こそ本題が始まったケハイ。やっとか。遊作は緩んだ気を入れ直す。

 

「《クラッキング・ドラゴン》?」

 

 零涙がカードを手に取って、その名前を読み上げる。

 《クラッキング・ドラゴン》。(レベル)8、闇属性機械族。デュエルモンスターズにはままある、ドラゴン(ドラゴン族ではない)モンスターカード。

 

 いや。

 

「今回の依頼は、このカード《クラッキング・ドラゴン》の奪還よ」

 

「このカード? でも、ここにあるよ?」

 

 ??? と(ハテナ)を飛ばしながらカードを()めつ(すが)めつ表裏している零涙から、カードをつまみとる。

 

「……このカード、の『データ』か」

 

「ご明察! さすがリンクセンスの持ち主ね」

 

「ん。データとか、ネットワークとか、の気配を感じるって、あれ?」

 

 思案顔で遊作の特殊技能・リンクセンスについて思い出しながら、とか、のたびに立てた指をぴょこぴょこさせる零涙にうなずいてこたえる。

 

「ああ。このカードからはデータが抜かれている。リンクブレインズ内でデータを奪われたんだろう」

 

「ふぇ~」

 

 どうにも気の抜けた声。零涙なりに感心しているのはわかっているのだが。

 

 エマがデュエルディスクを操作し、空中投影ディスプレイを展開する。ディスプレイに映し出されたのは、白服仮面の――ハノイの騎士。

 俺の過去を奪っておいて。あんな事件を起こして。まだ奪い足りないのか……!

 眉間にシワが寄る。歯を食いしばり、こぶしを握り、身体がこわばる。怒りで冷静でない頭は、それを認識していても頭のスミに追いやってしまう。

 

 そのとき、そっとこぶしを包み込む手のひらがあった。ミルクチョコレート色の、やわらかくあたたかい手。

 

「遊作。その怒りは、こいつにぶつける」

 

 あどけない顔に、うすく、だがしっかりと怒りをにじませた零涙がディスプレイを指す。映像では、ハノイが逃げ損じた少年を踏みつけにしてカードを奪い高笑い。彼女はその姿に義憤を感じたらしい。

 

「……だな」

 

 頭が圧搾されるほど昇った血が引く。怒りが適切なモチベーションに変化。うなずいてみせた。

 眉間のシワをほぐしてやわらかなまなざしを送ってみれば、うるんだ水色の目がまっすぐ笑みを返してくる。手のぬくもりが、氾濫する怒りを力に変えてくれる。

 

「じゃあ、依頼成立ってことでいいのね?」

 

「ああ。その依頼、GETBACKERS(ゲットバッカーズ)が確かに引き受けた!」

 

 遊作の声に合わせるように、零涙も両の握りこぶしを胸の前にかまえる。やる気充分のようだ。

 

 ……ん?

 

「お前、ブルーエンジェルのライブはいいのか?」

 

 聞いてみれば、「あ」と目を丸くして、ビジョンへと未練を送り、それでも断ち切るようにぶんぶん首を振った。

 

「いいの。だって、約束したから」

 

「約束?」と聞いた一瞬後(いっしゅんあと)に思い出した。『今日は早寝する』というやつか。「いいだろうそれは」

 

「ダメ。遊作は早く寝る」

 

 また強情な膨れ(つら)。可愛らしさを超え変顔に突き抜けた顔を「わかった」と返事してしぼませる。

 

 

「はぁ~。ほんっとお熱いこと」

 エマは蚊帳の外でひとりコーヒーをすすった。GETBACKERS(ゲットバッカーズ)のアイボーたちの絆の雰囲気は、カフェナギの鋭いコーヒーがなければ脳がふやけそうなほど甘い。この店のコーヒーのこだわりに感謝、感謝。

 

 

 ドゴォォォオオオン!

「うわああああ!」

 

 突如、広場中に轟音が鳴り響いた。

 とっさに耳を押さえても、皮膚感覚がビリビリとしびれを感じる。

 同時にスピーカーから聞こえてきた悲鳴が、内包(ないほう)されたパニックごと広場の群衆に伝播(でんぱ)。広場がどよどよと騒ぎ出す。

 

 ズドォン、とまたひとつ、ビジョンの向こう側、リンクブレインズでビルが崩れる。

 

 大型ビジョンは、先ほどまでエンタメデュエルが観客を楽しませていたのに、今は怪獣モノの登場ムービーのような見るも無残な光景を伝える中継に変わってしまった。

 

 立ち込めていた砂煙(すなけむり)が一瞬、晴れる。

 そのスキマから、白服仮面の男が黒鉄(くろがね)鋼鉄竜(こうてつりゅう)の上に立ち不敵に笑う姿が現れた。「ハノイの騎士だ!」観客のどよめきが悲鳴に変わった。

 

『ギャオオオオン!』ドゴォォオ!

 

 轟音。崩落。

 

 映像を前に散る蜘蛛(くも)の子と野次馬で二分された群衆を尻目に、エマはコーヒーをひとすすり。

 

 ハノイの騎士がイキがりながら暴れさせている鋼鉄竜こそが《クラッキング・ドラゴン》であることを確認し、呆れたように、

 

「奪った力で調子に乗って大暴れ。ありゃ三下ね」

 

「あ、あれだいじょうぶなの?」

 

「大丈夫ではないだろう。いくら仮想空間の出来事といっても、ココロにはトラウマが残る。立ち直るには時間がかかる」

 

「ん。じゃあ、これ以上被害が出る前に、止める!」

 

「そうだな」

 

 あわてながらも宣言する零涙に、遊作はうなずく代わりに力強く立ち上がった。

 

 ふたりが、デュエルディスクとデッキを取り出す。現実のカードを読み込む形式の、おそろいのデュエルディスク。それにそれぞれのデッキを装着。そして掛け声!

 

「「デッキ、セット! INTOTHEVRAINS(イントゥザブレインズ)!」」

 

 掛け声に反応し、デュエルディスクにもINTOTHEVRAINS(イントゥザブレインズ)の文字が浮かぶ。ココロに仮想空間にフルダイブするときの一種の独特な感覚が走る。

 そして、GETBACKERS(ゲットバッカーズ)が、仮想空間リンクブレインズへ突入(ログイン)した。

*1
VRAINS6話の耳コピ(下手)

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