遊戯王VRAINS―GB   作:甘枝寒月

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8話 電子の大海追い込み漁

「現れて、リンク2! 《トリックスター・ホーリーエンジェル》!」

 

 ブルーエンジェルがエースモンスターを()ぶ声が、リンクブレインズからスピーカーを越えて中央広場に伸びていった。大音量に増幅されても不快にならないのは、なんだかんだ言ってもアイドルの声だということだろう。

 

 アイドル声や熱狂、通りすがりの喧騒をBGMにしながら、遊作は右手だけでタタタタタとキーボードを打つ。空いた左手でコーヒーを持ち、右手を忙しくしながらも優雅にひとすすり。

 

 ちらり。

 

 キーボードを見ないブラインドタッチ、さらにモニターも見ないで。遠くをちらり。

 中継を見上げる群衆の、そこから口を酸っぱくした距離だけ離れた場所に立っているミルクチョコレート色の彼女を見て、全身で憂いなく興奮を表現している姿を見てから、顔を戻す。

 

「熱心だな」

 

 いつのまにか隣に草薙さん。

 視線の先を見ながら、ポテトのカゴを置いてくれる。ケチャップはかけられ、割られた割りばし。

 ココロ遣いをありがたく受け取って、片手で割りばしを操りポテトをつまむ。

 ほっくり揚げたてポテトはイモの味が濃く、そのままでもうまい。さらに2口目にケチャップの部分を食べれば、しっとりとした甘酸っぱさ。

 ひょい。ぱく。ひょい。ぱく。飲み込むより先に口に運び、ほおばる。口をいっぱいにする。

 そのあいだも、右手は脳内プログラムを出力中。

 

「そんなに急いで何組んでるんだ? 急ぎで組まなきゃならないプログラムはなかったはずだろ?」

 

 草薙さんがテーブルに手をついて覗きこんできた。

 止めはしないが、手も止めず手加減なし。キーボードを叩き続ける。構築されるプログラムはひとところに留まらず流れていく(スクロール)

 しかし草薙さんは読み取って。

 

「……ずいぶん易しいプログラムだな。だが、コメントがやたら多くないか?」

 

 草薙さんの疑問はもっともだ。

 

 プログラムに書かれる文字は2色ある。プログラムを形作る白い文字。補足のための緑文字。

 緑色のコメントは、人間のためだけの文字であり、コンピューターからは無視される。どんなに大量に書いても、プログラムにとっては関係ない。

 特に、今書いている『ただ処理のひとつひとつを直訳したコメント』は、俺や草薙さんレベルでは必要ないものだ。

 だからこそ、白と緑のシマになるほどの補足たっぷりなプログラムに、違和感があるのだろう。

 

「これは学校の課題なんだ」

 

 種明かし。

 

「なるほどな」

 

 草薙さんもニヤリと笑って納得した。

 

 

 

「《トリックスター・ホーリーエンジェル》で、ダイレクトーアターック!」

 

 大型ビジョンの向こう側で、ブルーエンジェルが一層高らかに攻撃指令を出し、エースモンスターが相手プレイヤーをムチでしばく。

 それがトドメ。【トリックスター】の特色である多段バーンにじわじわ削られたライフでは、エースの一撃は耐え切れなかった。2度、3度。しばき倒され、大きく吹っ飛ばされる。

 

「うぁああああ!」

 

 へそ天大の字で地面に転がる相手に、ノーダメージのブルーエンジェルは指をつきつけウィンク笑顔。そしてキメぜりふ。

 

「ジャスト1分。悪夢(ユメ)は見れたかしら?」

 

 

 

 うおおおおお!

 見事なカメラワークにて、キメポーズが大写し。中央広場に届けられる。

 カリスマデュエリストによる圧倒。期待通りのもの。期待に応えた証に、中央広場ではボルテージが最高潮になったとき特有の歓声爆発が弾けた。

 

「エンジェル・エンジェル・ブルーエンジェル!」

「今日もデュエル冴えてるー!」

「ワンキルしててもかわいいぞー!」

 

 いや、ワンキルは可愛くないだろう。

 

 プログラムを書きながらだが、デュエル内容は聞いていた。

 

「……《悪夢の拷問部屋》はエンタメラインを超えていないか?」

 

 【トリックスター】の多段バーン、その一撃一撃をさらに重くする追加武装。

 もともとキメぜりふに『悪夢(ユメ)』というワードを使っていたから、好意的に受け止められたようだが。8000あったライフがゴリゴリ削れていっていた。

 今まではもうすこしターンのやりとりがあったというか、後攻とはいえワンターンキルをするほどガチのデッキではなかったはずだが。

 

――プレイメイカー! 今度私とデュエルしましょう! ガチで勝ちにいくから!

 

 いや、まさかな。

 

 大写しのキメポーズが古めかしいエフェクトでブツッと切られ、『カエルとハトの摘み立てニュース』に切り替わる。

 非情にもビジョン前の人だかりは解散して、「あたしにもホットなユメ見せてー!」と叫んでいたヤツも戻ってきた。

 

「ただいま、遊作!」

 

 !

 不意の私服。おしゃれで、刺激的。

 ライブ明けの上気した顔、ロック系の、袈裟に大きく切られたTシャツ。なめらかな肩の曲線、鎖骨があらわになり、鎖骨下静脈が興奮で太く色づいている。ふっくらとふくらんだムネも、枝垂(しだ)れる血管の透ける北半球を――目を、そらした。ぐっと力を入れてまばたきし、気持ちを切り替える。

 

「あ。ポテト食べてたの? えへへ、もーらい」

 

 零涙はむき出しの左手でポテトを3つ一気につまみ、いっぺんに口に放り込んだ。くちびるをもぞもぞやって口に隠し、ふくふくのほほを動かす。目を細めて堪能する。

 そのあいだも、裂けた服から覗くミルクチョコ色がたがいに触れ合いやわらかさを主張していて。

 もう、ガマンができない。

 ガタン。

 遊作はイスから立ち上がり、パーカーをくしゃりと乱雑に掴んで差し出した。

 

「零涙。冷えるだろう。1枚はおったらどうだ」

 

「え? あったかいからいいよ」

 

 やぶへびだった。アピールのためもあるのか、シャツのすそを掴んでパタパタしてしまう。

 パタパタ。

 たゆたゆ。

 ちらちら。

 シャツの上も下も危険物。

 いったん目を閉じる。呼吸に集中する。感情の水瓶にフタをする。

 

「せめて、汗は拭け」

 

 感情をすべて押し殺した、ぶっきらぼうな声が出た。

 ほ、ほ、ほ、ほ、と跳ねていた彼女は、なんとか「ん」と跳ね終わりてててとリュックに早歩き。

 ごそごそ。

 

「あっ」

 

 タオルを見つけたのかと思いきや。出てきたのは古風な封筒だった。

 電子メールにすっかり取って代わられた、和紙でできた薄青の封筒。宛名には住所も切手もなく『仁くんへ』とだけ書かれている。中身は、知らない。尋ねてみたことはあるが、日ごろのちょっとしたこと書いてるだけだよ、と返されてしまった。

『どこかの会社の植え込みに濃いピンクの花が咲いて、クマバチが蜜を吸っていた』『エアコンの効いた部屋で日向ぼっこしながらのお昼寝が気持ちいい』そんな話を楽しみにしている身としては、どうにもうらやましい。

 

「草薙さーん。これ。仁くんに」

 

「お。いつもありがとな。仁も喜んでるよ」

 

「仁くん、どう、かな?」

 

「ちょっとずつだが、よくなってるよ。家に一人の時は、すこしだけだが部屋の外にも出られるようになったみたいだ」

 

「そう? よかった」

 

 仁。草薙仁。草薙さんの弟で、……そして、俺と同じ事件の被害者のひとり。

 同じようにあの真っ白な箱に閉じ込められ、同じように電流の恐怖にココロを喰われ、そして彼は家から出られなくなった。

 もちろん、俺と彼を比較する気はない。

 GB(ゲットバッカーズ)として奪還活動をしながら事件を追う俺も、降りしきる悪意に消されてしまったココロの灯火(ともしび)をもう一度点けようともがいている彼も、あの事件で大切なものを奪い取られ泥にまみれながらも立ち上がろうとしている同朋(ともがら)だから。

 だが。もし。比較じゃなく単純に、俺が今こうしていられる理由があるとするならば。

 

「ゆーうさく!」

 

 後頭部にやわらかな体重。顔の横をミルクチョコ色が伸びて、胸のあたりで指が絡まる。

 ふうわりともたれ掛かってくる身体と、太く垂れ下がるふたつ結びの黒髪が囲う(コクーン)に、座っていた俺の体はすっぽり収まってしまう。

 ()()()と同じ、ちょっと高めの体温が全身を包み込む。

 

「どうした?」

 

「んー? えへへ」

 

 理由の代わりに、挟み込む力が強くなった。

 いたいけなイタズラココロだったのだろう。

 

「……」

 

 身体をあたためる子供っぽい体温を感じながらも、俺の意識は、ともすればシャンプーと零涙自身のものが混ざったにおい、あたたかさとやわらかさを伝えてくる上腕、そこから聞こえる耳元をトクトクと打つ生命の音に(いざな)われてしまう。無垢なままの零涙と違い、汚れてしまったことが大きく強調されてしまう。

 

「あ。プログラム組んでたんだ。……おー」

 

 追い打ちをかけるようにあごを俺の肩に乗せて、画面を覗きこんでくる。

 睫毛(まつげ)に縁どられた蒼色の瞳が、すぐ横に並ぶ。

 体温、重み、においが五感を揺さぶる。

 逃れるように(コクーン)から前のめりに脱出し、浅い息で言葉を紡いだ。

 

「これは学校の課題だから、零涙も書くんだぞ」

 

「んぎゅえ!?」

 

 他人事の感心をしていたのが一気に自分事になって、変な声が降ってきた。回されていた手からこわばりが伝わる。

 

「……写すか?」

 

 聞いてみた。

 零涙はその提案にココロ惹かれた顔になり。パチンと顔に手のひらを打ち付ける。ことさらキリッとした顔に。

 

「いい! いちど自分でやってみる!」

 

 グッとこぶしを握って、誘惑を力強く振り切った。……せっかくひとつひとつにコメントを書いたんだが。

 しかし、こぶしはふにゃんとゆるんで、もにょもにょと動き出す。

 

「……わかんないとこあったら、教えてくれる……?」

 

「ああ。もちろんだ」

 

 それはもちろん。決まっている。

 零涙は「やるよ!」と気合をいれると、隣に座ってリュックから電子端末を引っ張り出した。

 ソリッドビジョンのモニターにコードエディタ(プログラムを書く・動かすための機能が搭載されているソフトウェア)を広げ、ふたたびこぶしを握って気合を入れる。

 カチャ、カチャとゆっくりとしたタイピング。

 教科書や資料とコードエディタを何往復もしながら、すこしずつ、1行ずつプログラムが書かれていく。

 

 悩んで、晴れて、書き直して。

 よちよち歩きを見守りながら、コーヒーをひとくち。

 

「このあと20時から、リンクブレインズはオンラインメンテナンスに入るぞ! メンテ期間中は一部機能が制限される!」

 

「アバターの動きが重くなるかもしれないっスから、気をつけるっスよー!」

 

『カエルとハトの摘み立てニュース』が伝えてきたニュースが、ふと耳にとまった。

 メンテナンス自体は、なんら気に留めることではない。ハノイによる度重なる襲撃によってボロボロになったリンクブレインズは、凝り固まった肉体のように軋んでいて、ちょっとしたきっかけでぎっくり腰のような大惨事が起こるのは明らかだった。

 大規模障害が起こる前にメンテナンスを行う。それは不思議なことではない。

 

 ただ。

 

「オン? 珍しいな」

 

「そーなの?」

 

 眉間にムズかしい顔になっていた余韻を残しながら、零涙がこちらを向いた。

 一瞬。余韻が消えてココロが落ち着くのを待ってから。

 

「ああ。オンメンテは本番環境……実際に動いているプログラムを変に弄ってしまい、予期しないバグや不具合が起きたりしてしまう。……とにかく、リンクブレインズを動かしたままメンテナンスするのは修正の効かない、リスキーな行為なんだ」

 

「失敗できないってことなんだね……うー」

 

 零涙が両手の指をぎゅっと絡めて怖がった。

 

「いったんシステムは落としてメンテナンスするのが無難なはずだ。なにか理由があるのか?」

 

 説明をして整理された思考は脇道に逸れ、膨大な推測が広がっていく。

 しかして、答えは意外なところからもたらされた。

 

「どうも、SOLのやつらはAIプログラムを探しているらしい」

 

 草薙さんが、ホットドッグ、チーズドッグと給仕しながら話してくれる。

 しかし、目の前に置かれた作り立てホットドッグのパリパリのコッペパンの皮をしんなりさせてでも、先に聞くべき言葉があった。

 

「AIを? ……それでなぜオンメンテになるんだ?」

 

「噂ではそのAIプログラムは、SOLやハノイから逃げ回っているらしい」

 

「え!?」

 

 零涙が大きな声をあげる。泡を喰った顔になって、ソリッドビジョンの空中ディスプレイを掴もうとバタバタしだす。

 

「提出しなきゃなのに、プログラムが逃げたら困っちゃう!」

 

 ぶんぶん。スカ。ソリッドビジョンだから、当然掴めない。

 長いミルクチョコ色の腕を振り回してソリッドビジョンのど真ん中に貫通させながら、零涙は豆鉄砲を喰らった顔に変わり、

 

「ほんとだ!」

 

「落ち着け。ソリッドビジョンは掴めない。実体がないだけだ。プログラムはそこにあるだろう」

 

「たしかに!」

 

 よかったぁー、とたれティアがテーブルにつっぷした。

 ……?

 ふと、零涙がリンクブレインズで見せたたれティアになっていたように見えた。気のせいか。

 見間違えるほど脱力している彼女を撫でる。「ふぇへへへ……」喉の鳴る声。

 

「草薙さん。プログラムが逃げるなんてありえない。あまり脅かさないでくれるか」

 

 つい責める口調になってしまった。

 が、意外にも草薙さんは、すまんすまんなんて謝って空気を軽くはせず。むしろ顔をよりいっそうマジメに変える。かがんで口元に手のひらを当てた内緒話の体勢になり、こっそりと囁いてきた。

 

「それが、そのAIプログラムは、意思を持っているらしい」

 

「「意思を持ったAI?」」

 

 零涙とハッピーアイスクリーム(ハモった)

 ただし、その含まれた感情の響きは大きく異なる。

 怪訝と興味の二重奏を受け、草薙さんは大きくうなずいた。

 

「ああ。しかもゴーストガールにも裏書きをもらえるほど信憑性が高い情報だ。なんでも、その意思を持ったAIこそがリンクブレインズの創造主(ファイアスターター)、はじまりのAIらしい。だが、あるときSOLの手から逃れ、ネットワーク世界を逃げ回ってるんだとよ」

 

「はじまりのAI……」

 

「そして、意思を持ったAIプログラムには意思のないプログラムでのスキャンでは太刀打ちできない。だから、システムを動かしっぱなしで人力のスキャンを行う、ってことのようだ」

 

「そうなのか。 ……!」

 

 線が、つながった。

 度重なる、そしてそれぞれが独立していたハノイの騒動。ただ末端までのコントロールができていないだけのものだと思っていた。寄せ集めゆえのものであり、目的の副産物だと。

 違った。

 ハノイが暴れたことによるリンクブレインズの脆弱化。それに対応するためのメンテナンスの際、同時にその『意思を持ったAI』を捜索するためにオンメンテを選択する。二兎を追った結果、メンテナンス中はより一層攻撃を受けやすい、ハノイにとって絶好の機会になる。攻撃の目的は、『意思を持ったAI』の横取り!

 ならば、俺たちが取るべき行動は――むしろ、『意思を持ったAI』争奪戦に参加するには、まずそいつの持ち主にならないと話にならない!

 

「草薙さん、忙しくなるぞ!」

 

「そうか? メンテ合わせでカリスマデュエリストのデュエルも早まっていたし、むしろここからは一見メインに……」

 

「じゃなくて!」

 

 もらったホットドッグはもったいなくも味わわずに口に突っ込む。紙の端を食べてしまったが、それも構わず飲みこんだ。

 零涙のように膨れ上がった口で咀嚼しながら、カフェナギのキッチンカーに乗り込んでカウンターを閉じる。閉店してしまう。

 

「お、おい!」

 

「草薙さん、バイパスだ! バイパスを造ろう!」

 

「バイパス?」

 

 急いたココロから出た足りない言葉に為すすべもない草薙さんを置いたまま、遊作は食材や調理器具はさっさと片づけてしまい、秘密のスイッチを押した。空いた平台は電子キーボードに。戸棚のガラスは大画面モニターに。おいしいホットドッグを提供するカフェナギからGETBACKERS(ゲットバッカーズ)の秘密基地へとトランスフォーム。

 

「どしたの遊作。……えと、外の机とかも片づけちゃったけど……」

 

 零涙もキッチンカーに入ってくる。

 チーズドッグやポテトを脇に置いて、キッチンカー内用の素っ気ない丸イスにぺっとりと座る。長い手足を持てあまして、魔女っ子が箒にまたがるときのように前のめりになった。

 

「草薙さん。SOLやハノイは、その『意思を持ったAI』を狙っているんだろう」

 

「そうらしいな」

 

 急いでいるときにこそ、丁寧に説明を。急いた雑な説明では、チームとしてのチカラが十全に発揮されない!

 

「そのAIを捕まえるため、SOLは人力スキャンを行おうとしている。そして、ハノイもそのタイミングを狙っていたんだ」

 

 あらかじめ造ってあったプログラムの部品(モジュール)たちを活用し、最短でバイパスを造るプログラムの流れ(フロー)を構築。いま優先すべきは時間だ。造るべきは人体のように汎用性のある精緻なものではない。一転突破の暴力的なドラッグ仕様。ただ一度、いまここでのみ輝くもの。

 

「だから、そのAIをそこから逃がしてやる。逃げ道(バイパス)を造ってやるんだ」

 

「え、で、でも、そのAIさんを逃がしちゃって、どーするの?」

 

 おずおずと、零涙が律儀に手のひらを見せながら、とてもいい質問を投げかけてくる。

 

「もちろん、ただ逃がすだけじゃない。逃げた先にあるのは、これだ」

 

 コンコン、と俺のデュエルディスクを第二関節で小突いた。

 デュエルをサポートするAIをインストールしておくために、デュエルディスクにはそれなりの容量が空いている。

 そして、俺はAIを使っていないから、その容量は手つかずのままだった。幸いだ。リンクブレインズからデュエルディスク、そしてその容量にまで一本道のバイパスを作成。『意思を持ったAI』を誘導し、入ったが最後、封じ込める。

 

「……追い込み漁?」

 

 そう。まさにその通り。

 ただし、協力関係にある追い込み漁とは違い、追い詰めるSOLやハノイにとっては逃げ場のない包囲網を敷いたつもりであるのに、勝手に穴を開けてこちらの網に向かわせてしまおうという思惑のズレはあるが。

 

「なるほどな。よし、やるか」

 

 草薙さんも今の説明や簡素ではあるが書いたフローチャート(プログラムの処理の流れを解説する図)で理解したようで、さっそくプログラムの組み立てに取り掛かってくれる。

 今回のプログラムは、いつものリンクブレインズへのアプローチとは難易度が違う。

 MODというべきか、ある程度腕が立つ者による改造はヨシとするリンクブレインズへのアプローチとは違い、今回は正真正銘のハッキング。何もかもが段違いだろう。

 その上、SOLとハノイという2種類を相手取らなくてはいけない。

 それでも。俺と草薙さんならば。

 

「遊作。草薙さん。がんば!」

 

 零涙はむんと両こぶしを握って応援。そしてチーズドッグをぱくりと食べた。

 こういう実戦のプログラムになると零涙はさすがに手が出ない。それは俺や草薙さんの持ち場だ。

 自分のやるべきことを果たすべく、ピピピピと電子キーボードを打鍵する。

『意思を持ったAI』。それがどんなものなのか、まだ俺にはわかっていない。

 喪ってしまった俺の過去。約束の、はじまりの奪還。それに、どんなふうにつながっていくのか。

 だが、それを知るために、まずはそれを手に入れる。

 

 ――運命を変える、もしくは運命に決められた出会いは、もう、すぐそこにまで来ていた。

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