筆が早すぎるので初投稿です。
本作の独自設定について、あとがきに詳しく記載がありますのでよろしければご覧ください。
それでは、どうぞ。
(分かってる。あいつが俺たちの元に現れてからもう随分経つ。そんな間を、命とも言えるコグを外して過ごすには余程の理由があることは。分かっていたのに……。)
トランスフォームコグを得て、初めて分かったことがある。コグを外すという行為の重さだ。少しの間なら、機体が重いだけで済むだろう。それを、1サイクル以上? 並大抵の覚悟で実行出来ることではないのは確かだ。
Dは1人、夜空を眺めて落ち込んでいた。理由はもちろん、スタースクリームのことである。
あの時、スタースクリームを感情のままに殴ってしまいかけた時。ふと自身の右腕が視界に入った。トランスフォームコグを得て、つなぎ目の無い滑らかな装甲となった右腕。それは、スタースクリームが身の危険を顧みずに取り戻し、繋げてくれたものだ。それを見た時、Dは自分がなにかひどい思い違いをしているのではないかと疑った。そして結局、スタースクリームを殴ることが出来なかった。
冷静になろうと1人で考える時間を作り、思い出すD。過去、スタースクリームは教えてくれていた。彼の本当の名前を。それを勘違いし、親衛隊と結びつけなかったのはD自身であった。
もちろん、勘違いを否定も肯定もしなかったあの態度に、作為めいたものがあるのは事実だ。でも、とDは考える。恐らくあの時点で、親衛隊長か? と彼に問うていれば、きっと頷いただろう。スタースクリームとはそういう男だ。
それに、この3日間でスタースクリームは何度もDに歩み寄る態度を示してくれていた。今日だって、アルファトライオンを再起動させる前、何度か何かを話そうとしていた。終ぞそれは叶わなかったが、何を話そうとしていたのかは今となっては容易く想像がつく。
(つまるところ俺は、アイツに信頼されてないと勘違いして、勝手に寂しかっただけだ。)
Dは元来、カっとなりやすい性質であった。本人もそれを自覚していたし、普段は規則を遵守することでそれを抑えていた。だが、この暴力性はいつか取り返しのつかないことをしでかしそうだと、常々Dは思っていた。そして今回、取り返しがつかなくなろうとしている。
コグを得たばかりの、なってないパンチなんて簡単に避けられたろうに。Dは、避けようとする素振りさえ見せなかったスタースクリームの表情を思い出した。
聞きたいことがたくさんあった。どうして地下に潜りこんでいたのか? どうして自分たちを地上に連れ出したのか? ……自分を見る時に時折見せる、何かを思い出しているような視線は一体なんなのか?
だが、Dにはその前にすることがあった。そのためには、まずスタースクリームに会わなければならない。きっとまだ洞窟の中にいるだろうと思うと、すこしDは気乗りしなかった。皆に見られながらすることじゃないからだ。
Dは、スタースクリームが1人で自分の様子を見に来てくれることを想像した。いや、この調子ではずっと今のままだ。そう思いなおし、さて立ち上がって洞窟へ向かおう、と一瞬空を見上げた。
星空の合間に、一筋の何かが煌めく。
(流れ星……?)
それは、この地上での旅の最中で何度か見た流れ星に似ていた。
(いや、違う!)
Dはオプティックを見開いた。流れ星かと思ったそれは、空中で停止したり、鋭角を描くようにターンしたり、螺旋を描くように回転したりと信じられない機動をする飛行物体だった。
もっとよく見たい。そう思ったDは限界までレンズの倍率を拡大したが、その飛行物体はくるりと方向転換をすると荒野の方へ向かっていってしまった。名残惜しいと思って見ていたDだったが、突然ソレは地面に対し垂直に落下を始めた。いや、落下の加速度ではない。ソレは、地面に向かって加速飛行をしていた。
(ぶつかる────────)
そして、地面にいよいよ衝突する直前になって、その向きを真上に変えた。凄まじい曲芸飛行であった。あれだけの速度であの機動は、アイアコン5000に出場するどのレーサーにも出来ないだろう。
凄まじい爆音─────ソニックムーブを鳴らしてこちらへ飛んでくるソレを見て、Dは思った。
スタースクリームの名前はこいつにこそ相応しい、と。
光の尾を描きながら山の方まで戻ってきたスタースクリームは、その機体を上向きに変えて急減速する*1と、ギコガコと音を立てながらわざとらしく羽を広げ、得意げな顔で着地した。
「どうです、このスタースクリーム様の曲芸飛行は! ちょっと暗いが、滅多に見られるもんじゃないですぜ。」
「スタースクリーム……。」
「翼のないDにはできないでしょう? 懐かしいぜ、戦争が激化する前は親衛隊の中でも俺に付いてこられる機体でチームを、」
「スタースクリーム。」
今しかない、とDは思った。
「昼間は、悪かった。」
スタースクリームは驚きでオプティックを丸くした。こっちが謝るつもりでいたのに、なんとあのメガトロンが謝ったのだから!
もちろん、Dが彼の知るメガトロンで無いことはスタースクリームも分かっていた。だが、Dとメガトロンは同位体のスパークを持っている。そして、スパークの本質は並大抵のことでは変わらない。それは、スタースクリーム自身が身をもって実感したことだ。
「アンタにしおらしく謝られるなんざ、寒気でヒューズがぶっ飛んじまいそうですぜ。」
「そうだな……。」
スタースクリームが冗談めかしくそう言うも、Dの表情は晴れない。すっかり落ち込んでしまっているのだ。
「……俺こそすみませんでした。あれは誰が見たって俺が悪い。アンタにああ思われるのも仕方の無いことです。アンタが謝る必要はこれっぽっちもない。」
デストロンの航空参謀なら、ここで歩み寄るような謝罪はしなかっただろう。だが、今後自分たちを率いるであろうリーダー、その芽吹きに対し、ハイガードの隊長は何時になく素直に言葉を紡ぐことが出来た。
「俺はアンタを見込んでんだ。この程度で尽きる愛想じゃないね。それに、アンタには俺の名前を黙ってもらっていた借りがある。そんなに気になるんでしたら、その借りをここでチャラにさせてもらいましょうかね。」
スタースクリームはDの顔を見てニヤと笑いかけるが、Dのオプティックは未だ伏せられたまま。本当に気にしてねえのになあ……。と自分のためにスパークを痛めるDを見て、スタースクリームはむず痒い気持ちになった。
二人に静寂が重くのしかかる。落ち込んでいるヤツ(しかも原因が自分に対する失言!) を励ます事なんてほとんどした事の無い彼にとって、このミッションは未知だった。加えて、相手は後のメガトロンである。かつてのスカイファイアーとのやり取りを思い出し、これで合ってんのかなぁ、とスタースクリームは距離を詰めDの真横にピッタリと腰掛けた。
「なあ、D-16さんよ。」
落ち込む相手にすべきことその2。痛みの共有である。ちなみに、その1である共感は今しがた失敗したばかりだ。
「アンタはなんで俺たち親衛隊が地上からアイアコンに帰還せず何十サイクルもいるか知ってますか?」
Dは目を伏せたまま、ボソリと呟いた。
「センチネルのヤツは地上での防衛任務だと発表していたはずだが、違うんだろ。」
スタースクリームは頷いた。
「俺たちもセンチネルに嵌められたからです。」
Dのオプティックがようやく前を向いた。スタースクリームは苦い過去を思い出し、拳を握りしめる。話し始めたら、その屈辱を昨日の事のように思い出してしまったからだ。
「地下50Fで見つけた、アルファトライオンのSOS。アレ、俺たちには送られてこなかったんです。
Dの六角形のオプティックが見開かれる。驚くのも無理はない。親衛隊はプライムの司令で動く、直属の兵力だ。それなのにSOSの通信が無いことはありえない、そう思ったのだろう。だが、実際はそうではなかった。
「後から分かったことですが、プライムたちは内通者を疑っていた。そこにセンチネルが吹き込んだんです。『親衛隊が怪しい、どこかの部隊に内通者がいるに違いない。』とね。おかしな話だ、内通者はあの自称プライム野郎だってのに。……ですが、プライムたちはセンチネルを信用した。前線でスパークを賭して共に戦う俺たちよりも、あの大ホラ吹きを。アイアコンでの功績は、決して俺たちを守ってはくれなかった。」
「そして、そのSOSは握りつぶされ、地下の焼却炉に廃棄された。」
Dの言葉にその通りだとスタースクリームは頷いた。
「まあ、俺はこんなんだし
だが、それだけでは無い。
「あの決戦、内通を恐れたプライムたちは俺たちにこの洞窟の場所を教えなかった。言葉は濁していましたが。エアラクニッドの部隊を除く俺たち親衛隊員は、クインテッサと内通の疑いありとされ、別働隊として遠く離れた地の空での撹乱を命じられた。」
「その後の撤退でアイアコンへの帰還を許されたのは、俺と部隊長だけでした。そして、帰還した俺たちを待っていたのは、内通という名目の拘束だ。」
あの時はリペアも補給も不十分で、抵抗したが無駄だったとスタースクリームは零した。
「ようやく開放されたと思えば、センチネルはプライムの名を受け継ぐ者として既にアイアコンに君臨した後でした。俺たちにゃすぐそれが嘘だと分かりましたがね。ゼータ・プライムたちは、次代のプライムにマトリクスを託すと常々言ってましたが、アンタも知っての通りマトリクスは喪われていた。」
「そもそも、プライムが全滅するような事態を、たかがおべっかが上手なだけのトランスフォーマーが生き残れるはずがないでしょうに。俺たちはこの時になってようやく、センチネルの裏切りを確信した。」
Dはスタースクリームにかける言葉を見つけられなかった。彼のフェイスパーツが憤怒と後悔でぐしゃぐしゃになっていたからだ。スタースクリームは、Dに対するいつもの中途半端な丁寧語すらつける余裕がないほど、その感情を荒ぶらせていた。
「軍部の英雄を内通で無理やり処分するのは、流石に民衆の反発があると考えたんだろう。ヤツはセレモニーと称して名ばかりの地上任務を衆目で命じ、俺たちはそれを受け入れるしかなかった。」
「状況証拠しか無かったし、なにより地上に残した仲間が、エアラクニッドとその部下に拘束されている映像を見せられたからだ。指揮系統を抜かれ、補給もリペアも不十分だったアイツらを内側から制圧するのは、そう難しいことじゃねえ。」
「あの時のセンチネルの言葉を俺は一生忘れない。『この茶番に付き合えば、今だけはお前ら親衛隊を見逃してやろう。私の役に立てて光栄だろ? ただし、次私と会った時がお前らの最期だ。』……一字一句間違いねえ。プライムを始末して余裕があったんだろうな、あのクズはその約束を守り、地上の仲間を解放した。────捕虜全員の翼を毟りとってから。」
「ただ、今思えばあれが一番の報復のチャンスだったのかもな。アイツらを見捨ててでもセンチネルの喉笛に食らいついてれば、少なくとも相打ちには持っていけたろうに。」
憎しみで爛々と赤く光るオプティックから、Dは目が離せなかった。この目を、彼はどこかで見たことがあった。そして、それがセンチネルへの憎しみを語る己のアイセンサーであることに思い至り、絶句した。
「後はアンタら労働者なんてのがまかり通ってるんだからお察しだ。弱った俺たちは立て直すのがやっとで、ヒットアンドアウェイで鬱憤を晴らす日々が50サイクル続いた。一発殴って世界を変えたような気になるばかりで、軍人としての誇りを捨て虫ケラのように隠れ潜んだ。」
スタースクリームは悔しさと自嘲の混ざった笑いを漏らしながら言った。
「俺たちもあのクソッタレに嵌められたんだ。そして、プライムたちも。」
────コイツは、俺だ。
Dは漠然とそう思った。妙にしっくりきた。オライオン・パックスは彼にとって親友だったが、スタースクリームについては今まで親友という言葉を形容したことがなかった。それが今、言葉を得た。スタースクリームは、まるで半身のように感じられた。スタースクリームは、有り得たD-16の可能性だった。
しばしの間。
大きくない、しかし芯の通る声でDが言った。
「俺がセンチネルを許さない理由がひとつ増えた。」
「そう言ってもらえるだけで嬉しいでさぁ。」
じゃあ俺はそろそろ休むとしますかね、と言って立ちあがるスタースクリーム。その手を、Dが咄嗟に握った。
「スタースクリームは、どうして俺たちの前に現れたんだ? 目的は果たしたと言っていたが、何のためにアイアコンの地下労働に身をやつしていたんだ?」
スタースクリームがぐっと口元を引き噤むのを見たDが慌てて言葉を重ねた。
「……すまねえ。答えらんねえなら、答えなくていい。無理に聞きたいわけじゃない。」
「いや、答えますよ。俺が地下にいたのはクーデターの下見と、」
そこで言葉を切って、スタースクリームはじっとDを見つめた。
「人探し、ってトコですかね。」
それを聞いて、Dは彼の手を離した。まだ全てを明かしてくれるわけではないらしい。だが、それでもいいとDは思った。だってこいつは、あの時名前を教えてくれた。
「きっと、お前は俺の半身だ。だから、いい。」
半身。スタースクリームはぴくりと翼を動かした。そして、自分がまだDに失望されていなかったことに対し、安堵した。
「でも、いつかきっと、全部教えろよな。」
スタースクリームは頷き、思った。そのいつかってのは、きっともうすぐのことだろうと。
言葉が途切れ、しばしの沈黙が流れた。遠くから聞こえる風の音だけが、静かな夜に響く。Dはふと、スタースクリームの横顔を見た。互いにすれ違い、衝突し、それでも隣にいる。その事実が、Dのスパークを不思議と温かくさせた。
「スリープする前に、俺もひとつ聞きたいんですが。アンタ、もうトランスフォームはもうできますよね?」
Dは笑って言った。
「それが、やり方が分からない。」
エアラクニッドについては、完全に本作独自設定です。(誤解のないように)
以下の活動報告にて、50サイクル前の描写とエアラクニッドについて詳しく述べています。乱文ですが、お時間があればどうぞ。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=319165&uid=155940