特に理由はありませんが初投稿です。
「D、S-39。二人揃ってるならちょうどよかった。」
「パックス!」
シフトが終わり、洗浄ルームを後にしようとするスタースクリームとDの前に、オライオン・パックスが駆け寄ってきた。洗浄前の油臭いオライオンと迷わず肩を組むDを見て、スタースクリームは一歩引いてしまう。「まだ洗ってねえのによくやるぜ……。」と、小声で呟きながらその光景に苦笑いを浮かべた。
「今度のアイアコン5000なんだが、よかったらS-39も一緒に行かないか? あの人混みに、まだ勝手のわからない君を一人で放り出すのは心配だからな。俺はいつもDと一緒に見に行ってるんだけど、君はDと仲がいいし、それなら3人で行きたいと思ってね。ちょうど探してたんだ。」
オライオンは屈託のない笑顔で言い、Dもその提案にノリ良く賛成した。「お前の "いい考え" にしては、なかなか冴えてんな!」 と大声で笑う。しかし、スタースクリームはその熱意に今一つ乗れない。
「アイアコン5000? 確か、プライム追悼のレースだったか。」
口の端を歪めながらそう言うスタースクリーム。気乗りしないのは無理もない。プライム全滅の日は、数多の仲間が命を散らしたクインテッサ星人との戦争、その最後の激突を象徴していた。正直今となってはプライムたちは最早どうでもいいが、同胞のスパークが散った日を、ただのエンターテインメントとして消費するセンチネルのやり方が、スタースクリームにはどうにも鼻につく。
そんなスタースクリームの曇った表情に気づいたのか、Dは食い気味に声を上げた。
「S-39お前、まさかアイアコン5000についても覚えてねえのか? あの! センチネル・プライムが主催する一大レースだぞ! ほとんどの労働が免除されるんだ、まさに祝祭!」
Dの勢いに圧倒され、スタースクリームは無意識に頷いてしまう。彼は今、"記憶喪失" という設定を忘れかけていたことに気づき、慌てて適当に話を合わせた。
「ま、まあ、開催されることは知ってらぁ。」
「少し意外だな。君はこういう催しを好んでいそうなのに。」
オライオンが、驚いたようにオプティックを丸くしている。スタースクリームは過去を少し振り返った。戦前、セイバートロン星でもレースが行われていた頃、彼は唯一の友人に誘われてレースを観に行ったことがあった。あの裏切り者の顔を思い出すのは不快だが、レース自体はそれなりに面白かった記憶がある。そう思い出しながら、Dに両肩を捕まれ揺さぶられる感覚で現実に引き戻される。
「絶対行こう! 大丈夫だ、自慢じゃないが、俺とパックスはレーサーにめちゃくちゃ詳しいんだ! お前が何も知らなくても楽しめるから!」
Dの勢いは止まらず、スタースクリームのヘッドパーツをガクンガクン揺らしていた。説得の本気度が、スタースクリームのブレインサーキットにまで響いてくるようだ。そんなDに困った様子のオライオンが、間に入ろうとする。
「俺から言い出しておいてなんだが、無理に誘うのは良くないぞ、D。S-39にもオフの日にはやりたいことがあるかもしれないし……。」
「見たことないからだ! 一度見れば絶対に良さがわかるんだって!」 それにレースの日はレースバーくらいしか開いてないぞ! という感じにDは全く諦めない。スタースクリームは揺れる視界でしばらく思案していたが、ついに根負けした。
「わかった、わかりましたよ! 行けばいいんでしょう行けば! その代わり、メシ諸々はアンタの奢りですからね!」
「約束だからな!」
勝ち誇ったように言うDに、スタースクリームは内心の苛立ちを抑えつつため息をついた。この有無を言わさない押しの強さ……こいつこういうところは本当にメガトロンに似ている、とブレインサーキットの奥でぼんやりと感じた。彼は揺れる思考の中で、しぶしぶ了承の姿勢を見せるのだった。
*
「あの青いのがクロミア。前回初出場で10位の期待の新人だ。横の赤いのがクリフジャンパーで小回りの器用さと粘り強さがピカイチ。その後ろがデッドエンドで、」
アイアコン5000当日。騒がしい観衆だらけの中、Dが頼んでもいない選手解説を横で熱心にしてくれている。スタースクリームはイヤーセンサーの右から左に説明を横流ししながら、冷えた液体エネルゴン(もちろん、露店でDに買わせた。)をズゾゾと吸った。
また止めてくれないかと期待を込めてオライオンのことをチラ見するスタースクリームだったが、頼みの綱もスタート地点のレーサーからオプティックが離せないようである。
そうして彼は昨年の今日を思い出した。多少口数の少なくなった
スタースクリームにとっても、その日ばかりは側近部隊で哨戒という名の空中散歩に出かけることが習慣となっていた。アイツらは今頃、地上で何をしているのだろうか。静かに思案するスタースクリームだったが、この時ばかりは周囲の喧騒に感謝した。横の二人に黙っていることを悟られないからだ。
その時、オライオンが思い出したかのように言った。その言葉に、スタースクリームは聴覚を疑った。
「おい見ろよD。シルバーボルトの下にいるやつ、
スタースクリームのスパークが脈打った。さっきまでは気になって仕方なかった騒がしさも些事となる。
スタースクリームは初めてレーサーたちに注目した。探せば、なるほど。大型の白い飛行タイプがレースの開始を、今か今かと待ちわびているのが見えた。
「うげ、ダークウィングだ。レースしてる時はまあまあカッコイイのに、なんで現場だとああなんだろうな。この前も、記録保管所に向かってる最中に出くわして散々な目にあったよ。」
(そうか。まあ、そりゃいるよな。アイツも……。)
スカイファイアー。スタースクリームのかつての同僚で、友人だった裏切り者。あの時レース観戦に誘ってきた彼がこっちではレーサーなのに因果めいたものを感じ、スタースクリームは考え込んだ。
(あの裏切り者と同じスパークを持つからなんだ。こっちじゃ接点ないし、ただの他人だろうが。アイツはレースに出るようなタマじゃねえし、知ったこっちゃねえ。落ち着け、俺。お前はデストロンじゃなくて親衛隊のリーダーだろう!)
「────39、S-39? どうした、もしかして体調が悪いのか。」
ハッと伏せた顔を上げる。心配そうな表情のDがスタースクリームを覗き込んでいた。横ではオライオンがオロオロしている。どうやら少し前から話しかけていたみたいだが、S-39が本来の名前でない事も相まって、スタースクリームはそれになかなか気づけなかったようだ。
「っ、ああ、いや。大丈夫だ。気付かなくて悪い。本当に、なんでもないんだ……です。」
「……まあ、無理はするなよ。」
本当に大丈夫だと納得したわけではないだろう。しかし、スタースクリームの追求されたくないような言葉を聞き、Dはそのまま引き下がるのだった。
*
レース自体は拍子抜けだった。ちなみに優勝者はシルバーボルト。多少アクセントとなる障害物やギミックはあったが、スタースクリームの感想としては「俺なら1位に800は差をつけてゴールできるな」 という驕りも凄まじいような一言であった。命の危険のない環境でいくら技術を磨こうが上限値はたかがしれている、というのが親衛隊としての意見である。
上位一桁位には多少目を見張るものがあったが、あれくらいならスカイワープなんかは笑いながら1位を取るだろう。その程度の難易度。俺なら、アイツらなら、という意見がブレインをチラつくせいで、スタースクリームは純粋にレースを楽しむことが出来なかったらしい。
それよりも、
不愉快だった。おかげで、スタースクリームは奢りの液体エネルゴンの容器を握り潰して台無しにしてしまった。
レース後のオライオンは、レーサーにサインを貰ってくるといい人混みの中に一人で飛び込んで行った。スタースクリームが意外だと思ったのは、Dがそれについて行かず、タコ部屋に帰ろうとする自分に着いてきたことである。
かつて散った仲間と、地上に残してきた仲間。ブレインを掠めるスカイファイアーのこと。憎きセンチネルのこと。様々な要因が複雑に絡み合い、スタースクリームは終始無言で帰路についていた。そして何故かDも無言だった。
さっきまでは。
少し前を歩いていたDがぴたりと立ち止まった。
「なあ、S-39。お前って、S-39じゃねえだろ。」
ああ、プライマスよ! スタースクリームは
スカイファイアー
G1ではスタースクリームの生き別れた友人として登場したものの、再会後袂を分かつこととなった。
ONEではアイアコン5000の出場者に登場するレーサー。吹き替え、字幕ではジェットファイアーの名前だが、物語のわかりやすさを優先し英語台本のスカイファイアーを採用した。また、コンセプトアートではプライムの亡骸にそれらしき機体を発見できるが、本作では無視する。