日間に居てしかも評価バーに色がついたので初投稿です。
そいつの第一印象は、「変なヤツ」だった。
「待ってくれエリータ・ワン! どうして俺が教育係なんですか!」
「お前が優秀だからだ。左胸の階級章は飾りか?」
新人が入ると聞いた瞬間、俺はリーダーであるエリータを少し離れた場所に連れていった。時期外れの新人は、曰く
普通、採掘素人は浅い層で経験を積むものだが、俺たちが担当するのは採掘の最前線。未発見の鉱脈が多い分、事故も多い危険な現場だ。そこに配属される訳ありの素人なんて、裏を疑って当然だ。
「要は体のいい厄介払いってことかよ! どうせ、アンタが上の覚えを良くするためにダークウィングあたりから引き取ったんだろう? アンタが教育したらどうだ!」
「口を慎め、D-16。お前のは知らないが、私の階級章は飾りではない。」
今の言葉は、少なからず図星のようだ。まあ、野心の強いエリータ・ワンのことだし、どうせそうだとは思っていた。階級を出してこちらを黙らせようとする姿は、監督への昇進も噂されているウーマンにしては悪手のように思えた。
お互い黙って睨み合う。すると、多少自分でも申し訳ないと思っているのか、ばつの悪い表情にフェイスパーツを歪めながらしぶしぶとエリータが話し出した。
「お前は面倒見がいい。あの不真面目なオライオン・パックスを卸せるお前なら、素人の研修はできるはずだ。」
「だからと言って、」
「それに、」
チラ、とエリータが少し離れた場所で呑気なチームメイトに歓迎されている新人を見た。
「研修に人員を割く分、今後しばらくの間ノルマを下げてもらうよう交渉済みだ。数シフト前から掘っているこの鉱脈、どうにも渋いからな。私の昇進に意識を割かせて
今度は俺が場都合の悪い思いをする番だった。とはいえ、新人本人には罪はない。かなり面倒くさいが、使えるようになるまでせいぜい扱いてやろう。そう思っていた。
「よう、S-39。俺はD-16。よろしくな。」
挨拶をした瞬間、そいつは何十面相も浮かべたかと思うと、そのまま倒れてしまった。こころなしか寂しそうに揺れる、握手して貰えなかった俺の手。パックスとジャズが横で爆笑していた。
俺はソイツをスリープ台にぶち込んで、いつも通り採掘に従事した。「お前の錆くささがまさか1キルするなんてな。」 とか抜かしてきたパックスとは、しばらく口を聞かなかった。
俺の想定に反し、S-39は非常に物覚えがよかった。初日から軽く道具の説明を聞いたかと思えば、あっさりと本作業に移っていったのだ。改善点を指摘するとその場で修正したし、長年この仕事をやってきた面子と比べるのは野暮だが、即戦力という点で非常に優秀だった。
あまりの物覚えの良さに、もしかしてなくした記憶は一部分だけなのか? とすこし考えたが、名前を呼んでも中々反応しないことが多かった。どうやら機体名すら忘れてしまっているらしく、そんなことも忘れてしまっていたのかと考えを改めた。
数度のシフトの後そこらの平より作業効率を上げたS-39は、シフト終了でちょうど採掘ノルマとなるよう手を抜き始めたが、傍から見れば真面目な上ノルマも達成していたため、あまり口うるさく言うことはしなかった。むしろ、本当にコイツは要領がいいのだと感心したのが本音だ。それに実の所、S-39は俺によく懐いてくれていたので、あまり叱りたくなかった、というのもある。
S-39がチームメイトになってしばらく経つと、アイツについてひとつの疑問を持つようになった。S-39は時々、出処不明の知識を披露するのだ。
硬い岩盤をあまりにも手早く削り割ったS-39に、「どうして手馴れた俺たちより早くできたのか。」と質問するチームメイトがいた。褒められてまんざらではないようで、面倒くさがりながらも質問に答えてくれるS-39。どうやら、鉱石の組成にコツがあったらしい。その時教えてくれた割れやすい方向の判別方法なんかは、今までの経験が言語化されたようですごく腑に落ちたのを覚えている。
それに加え、あの "ジェットパック修理" 。記憶喪失のはずのアイツが、なぜ精密機器の修理なんてできたのだろう。岩盤割りの時は、「よく分からないけど、思い出した。」 と言っていたが、修理もそれなのだろうか。
すると、記憶喪失前のアイツは地質学に工学と複数の専門分野の知識があったことになる。そんなこと、薄給の労働者には不可能に近い。一体どうやって、という疑問とともに、俺は記憶を失う前のアイツに興味を持った。
そうして、休みの日やスリープ前の時間を活用し事故前のS-39について調べはじめた。興味本位のこの行いが褒められることでは無いのは分かっていたが、もしかしたら自分を慕うかわいい後輩の記憶データを復旧させる手がかりになるかもしれない、と思ったのだ。
根気よく調べてようやく分かったのは、事故前のS-39は俺たちの担当エリアとは程遠い区画の採掘を担当する労働者だったことである。一応ダークウィングの管轄ではあったらしい。通りで今まで聞いたことない名前だと思った。
シフトの入っていない日を選び、俺は以前S-39の担当していたエリア、その宿所に向かった。幸い、そこまで探すことなく元チームメイトだという機体に話を聞くことが出来た。
が、そこで驚くべき事実が発覚する。
「S-39? いたね、そんなやつ。いつもちんたらしてたぜ。だから前の爆発事故の時も逃げ遅れて、片腕だけ残して、BOOOOM! 今頃はオールスパークにいるだろうよ。」
ありえないことに、S-39は既に死んでいるらしい! 俺の後輩は幽霊なのか? と思ったが、元チームメイトが続けた呟きで顛末を悟った。
「あっ、これ箝口令敷かれてんだった。」
元チームメイトは、誰にも言うなよと付け加えると、逃げるように小走りでスロットに向かっていった。
犠牲者の出た事故なんて、例え地区が離れていても噂に聞かないわけが無い。だが、俺はこの事故について一片たりとも知らなかった。ダークウィングのムカつくツラがブレインを過ぎる。
つまり、アイツは記憶喪失なのをいいことに、S-39という犠牲者を出した死亡事故の隠蔽に使われていたのだ。
アイツは、S-39ではない。
その事実にたどり着くと、色々な事が腑に落ちた。名前を呼んで反応が悪いのは、本当にアイツの名前じゃなかったからだ。わざわざ遠いエリアに再配属したのは、元々の顔見知りに遭遇させないため。なるほど、確かに書類上の労働者数の辻褄は合うだろうし、事実俺がこうして調べることがなければ、この隠蔽は発覚しなかったはずだ。
じゃあ、アイツは誰だ?
製造元不明、不相応な知識を持つ、記憶喪失の労働者。アイツをS-39に仕立てたのはダークウィングに違いない。あのいけ好かないバイザー野郎の
いや、本当に記憶喪失かすらも怪しいのか。可愛がっていた後輩像が、突然蜃気楼のようにブレて慌てて頭を振る。いやいや、リペアポッドの使い方や、洗浄ルームの仕組みすら知らなかったんだ。さすがにあのリアクション─────詳しく思い出すと笑いが止まらないので割愛─────が演技とは思えない。記憶喪失なのは本当に違いない。
俺にとってのS-39はアイツ一人。それでいいだろ。
そう思い、俺は誰にもこの真実を話さなかった。話さなかったのに。
「シルバーボルトの下にいるやつ、スカイファイアーじゃないか?」
スカイファイアーの名を聞き、今まで見たこともない表情を浮かべたアイツを見て思い知った。俺はコイツのことを何一つとして知らないのだと。
だから、パックスに頼んで席を外してもらった。
「なあ、S-39。お前って、S-39じゃねえだろ。」
**
スタースクリームは焦っていた。アイアコンに潜入して、まだ1サイクルも経っていないのに計画が駄目になりそうだからだ。
「何のことです。まあ確かに俺の記憶はパーですが、機体名がS-39だってのはダークウィングも保証してくれてるってのに。」
「本物のS-39が死んでいることについちゃ、裏が取れてる。」
DはS-39の顛末と事故の隠蔽について丁寧に教えてくれた。本格的に駄目そうだな、とスタースクリームは思案した。憲兵に突き出されてしまえば、流石のコグ無し機体でも、ともすればセンチネルに勘づかれるかもしれないからだ。
「記憶も、本当はあるんだろ。」
何のために記憶喪失のフリをしてるのかは知らないが、とDは言った。図星だった。それが挙動に出たのだろう、目の前の彼を見てDは排気した。当てずっぽうだったらしい。スタースクリームはしまったと短慮を後悔した。
「お前にとって俺はただの上司かもしれねぇ。けど、俺はお前のこと友達だって思ってたんだ。」
堅物の俺に、チームの仲間や顔見知りはいても、友達だと言い切れるのはパックスの他じゃ数える程だ。Dは大きくない声で話した。スタースクリームはそんな告白を静かに聞いていた。
「お前が私生活でも俺の後をくっついてくるもんだから、俺はあっさりお前に絆されたよ。」
Dは "S-39" のオプティックを見て言った。
「この友情も、嘘か?」
「嘘じゃねえ。」
すぐさま、スタースクリームは本心からそう答えた。別次元のメガトロンを重ね、将来を期待していたからこそスタースクリームがDに近づいたのは事実だ。しかし、彼本人は親衛隊のリーダーであり、メガトロンの部下だったわけではない。重ねているメガトロンではなく目の前のD本人と関係が構築されているのは自明であった。スタースクリームはそのことを自覚していた。
Dがしばらく無言だったが、へにゃりとフェイスパーツを緩めた。始めてみる顔だな、と場違いながらにスタースクリームは思った。
「─────じゃあ、いい。」
よく分からなかったが、スタースクリームはとりあえず計画が首のコード1本繋がった事を察し、安堵で排気した。
「なあ、お前の名前はなんていうんだ? 俺はD-16。」
Dが笑みを浮かべて冗談げに言った。スタースクリームは少し悩んだが、「まあ、 "D" になら教えてもいいか。」 と思い至り、正直に答えることにした。
「……スタースクリーム。言っておくが、本名だぞ。」
「わかった、わかった。疑ってない。」
有名人と同じ機体名じゃ大変だったろう、とDは見当違いな気遣いを見せた。スタースクリームは、多分俺ってその有名人本人だな、と思ったが黙っていた。嘘はついていない。
「誰にも言わないでくださいよ。」
「俺とスタースクリームの友情に誓って。俺たちだけの秘密だな。」
2人は、今度は横に並んで歩きはじめた。
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今章はこれで完結です。次話からぼちぼちONE本編に入ります。