スタースクリームの幽霊回が無料公開されているので初投稿です。
TFONEのノベライズ(英語)が発売されていますが、基本ノベライズは別ユニバースであると考えているので、特に考慮しません。多少の細部の違いを確認していますが、今後の展開には無関係ですのでフィーリングで読んでください。(坑道の柔らかさや採掘の仕様など)
5
エネルゴン採掘の最前線。どこまでも薄暗く、地鳴りが絶えない坑道の奥底で、労働者たちは荒々しく息を整えながら任務を果たしていた。
エリータ率いる採掘隊は、僅かにエネルゴンの含まれた金属鉱石を古い岩盤から削り割り、掘った量とは到底見合わない量────少ないという意味で────のエネルゴンを精製するのが仕事である。マトリクスの庇護を失ったアイアコンは、彼らエリータ部隊を含む数多の労働者たちがこのエネルゴン鉱石をとにかく集めることで維持されていた。
しかし、危険の伴うキツい仕事にも関わらず、彼らの表情に曇りはない。……一部を除いて。
「もうすぐセンチネルが地上探索に出るな。Dは、次こそはセンチネルがマトリクスを持ち帰ってきてくれると思うか?」
「さあな。だが、俺はセンチネルを信じてる。彼がマトリクスを発見するその日まで、俺たちがエネルゴンを掘ってアイアコンを支えなきゃな、パックス!」
Dはオライオンに対し自信たっぷりに言い放つ。その言葉にはセンチネルへの強い信頼が込められていた。だが、二人のフェイスパーツの様相は対称的であると言わざるを得ない。Dの言葉を聞くオライオンの視線は床へ落ち、肩はかすかに重く沈んでいた。オライオンは、そんな姿をDに見せないよう、貨物車の影になる位置に体勢をずらす。
「……ああ、そうだな!」
声だけ聞けば、彼もまたセンチネルに期待する一人のように感じる。鉱石の山を積んだ貨物車を押しながら、存命の唯一のプライムとされるセンチネルへの期待を零す、D-16とオライオン・パックス。貨物車を上手く挟み、Dから顔を隠すオライオンの表情は決して明るいものでは無かった。
そんな彼らの様子をスタースクリームは横目で盗み見る。センチネルを信頼し慕うDのつり上がった口角。
「……ケッ!」
(あんな裏切り者の詐欺師がそんなにいいかよ!)
スタースクリームは憤りを込めて削岩機を強く押し込んだ。セから始まる名前を聞くだけで、スタースクリームのスパークは怒りで煮えたぎった。
センチネルがプライムを裏切って、もうすぐ50サイクルが経つ。かつて親衛隊長として議会に出入りしていたスタースクリームと、プライムたちに秘書として付き従っていたセンチネルは、部署こそ違えど同僚と呼べる間柄であった。仲は冷えきっていたが。
その頃から、センチネルの事は信用できないおべっか野郎だとスタースクリームは嫌っていた。彼は親衛隊に限らず軍属のトランスフォーマーを、政治が分からないヤツらだと言ってバカにしていたからである。もちろん、彼は外面だけは良いのでその事を口に出したりはしなかったが、戦場の空気に身を置くトランスフォーマーにとって、センチネルの態度に滲み出る物を感じ取るのは造作もないことであった。
「アンタの大好きなメガトロナスを始末したのもどうせセンチネルだぞ!」
……とは言えない。流石に。
プロパガンダを信じ込むDに対し、センチネルの所業をまくし立てたくなったスタースクリームだが、大きく吸気をしてスパークを落ち着かせた。それをするのは、今ではない。この頃になると、スタースクリームはDの信者っぷりにも慣れていた。もし彼が、アイアコンに戻って身についた事は? と問われれば、食い気味に、それはアンガーマネジメントであると答えるだろう。採掘技術ではなく。
とはいえ、労働者を含む一部のトランスフォーマーは少しずつセンチネルに対し疑念を感じている。オライオンの曇り顔が良い例だ。スタースクリームは、センチネルをボコボコに殴る妄想をしながら "非" 模範的な市民について考えた。芽は確実に広まっている、と。
「ジェラシーってやつだな、S-39!」
多少なりとも苛立ちが伝わったのだろう、近くで作業をしていたジャズがスタースクリームに話しかけた。スタースクリームは黙って採掘を続けたが、ジャズは折れない。
「まあ、オライオン・パックスとD-16の凹凸コンビは前からこのエリアじゃ有名だしな。Dの後ろをくっついて回ってるお前にとっちゃ面白くないかもしれないが……。」
「そっちじゃねえ!」
無視を決め込もうとした途端これだ。身につけたアンガーマネジメントの顛末がこうなのだから、スタースクリームが元々がどれだけ短気で神経質だったのかが想像できるというものである。
「ジェラってるのはアタリって訳かい。」
ジャズはバイザー越しにニヤリと笑みを浮かべ、軽く肩をすくめた。
「まあ、ピリピリするものじゃないさ、S-39。だって、地上探索が終わったらお楽しみのアイアコン5000が待ってる! 今は一番ウキウキする時期だ、そうだろ?」
ジャズの口調はあくまで陽気で、削岩機を軽々と振り回す姿に余裕が滲んでいる。
「全然!」
スタースクリームは毒づく。厳しい採掘ノルマの中、労働者の多くが明るく熱心に働く理由がこれだった。センチネルの地上探索の後に予定されている、アイアコン5000。
スタースクリームには、それがアイアコンという洞窟で放し飼いにされている市民たちに用意されたガス抜きだと分かっていたし、そもそも自らより遅いヤツらの競争を観ても面白くないので、べつに楽しみではなかった。レースを観るくらいなら、かつての仲間の追悼に時間を費やしたい、と彼は強く思った。何より、
アイアコン5000というワードを聞きつけたのだろう。周囲のチームメイトたちが次々に声を上げてスタースクリームを囃し立て始める。
「スカイファイアーのファンが何言ってんだ! 正直になれよ!」
嫌な名前を聞いて、スタースクリームは顔をしかめた。
「黙って土遊びしてろ、ブリキ野郎!」
さて、スタースクリームがアイアコンで地下労働に勤しむことで、本来と大きく変わったことがある。エリータ部隊の採掘進度だ。
それは単に、チームメイト追加によるマンパワーの賜物だった。本来ならば、事が起こるのは50サイクルの節目を記念するアイアコン5000、その直前の労働である。だが、本来より少しだけ採掘進度が上がった結果、その時期が少しだけ繰り上がった。
浮かれているチームメイトの一人が、不用意にも削岩機でエネルゴン結晶の鉱脈を引き当てた。
強い衝撃を─────外部からのエネルギーを得たエネルゴン結晶が臨界状態となり高温発光した。爆発の兆候である。
「退避、退避!!」
「アホがエネルゴン結晶を刺激した! 爆発するぞ、放棄して入口に戻れ!」
先程の浮かれ具合は見る影もなく、道具や余計な装備をかなぐり捨て、一目散に逃げる労働者。スタースクリームもまた、坑道の入口へ向かってジェットパックを起動した。彼は知る由もないが、奇しくもこれは本来のS-39が吹き飛んだ事例と同じ事故だった。
岩盤を退かすためのブリッジが、奥から少しずつダメになっていく。
「S-39! こっちだ!!」
「D! オライオン!」
Dとオライオンが坑道を固定し、逃げるための道を確保していた。「何やってんだ、アンタらも早く逃げろ!」「お前がまだ奥に居たからだ!」 スタースクリームがジェットパックで追いつくのを確認してから、二人は再びジェットパックを噴かせて脱出を再開した。
曲がりくねった坑道を抜ける中、スタースクリームは微弱な電磁波を感じ取った。今は見る影もないが、本来は戦闘機として空を駆けているはずの彼に備わった感覚器官は、周囲の密な把握を可能にした。機体表面で感じたピリつきが、爆発第一波の兆候であるとスタースクリームは確信した。
「チッ、おい! 衝撃波が来る!」
《エリータ隊全員は衝撃波に備えろ!》
スタースクリームの言葉に、オライオンが通信で警告する。視界に映るのは、膨張し迫りくる岩盤と、労働者たちが散らばりながら逃げる姿だ。振動が激しくなり、彼の冷静な声にも緊張が走る。
カッと坑道が一瞬照らされたと思えば、強烈な衝撃が逃げる労働者たちを襲った。
「くっ……!」
衝撃波に吹き飛ばされたスタースクリーム、D、オライオンの三人は、体勢を崩しながらも必死に壁にしがみつく。次々に降り注ぐ大小の岩が彼らの機体を叩く中、スタースクリームはジェットパックの操作を試みるが、その動きは鈍い。
(クソ、俺ならもっと速く飛べるってのに……!)
スタースクリームの頭に浮かぶのは、本来の自分の機体に内蔵されているジェットエンジンの感覚だった。今の労働用のジェットパックでは、どうにも頼りない。だが、今の自分にあるのはこれだけである。
「D! 大丈夫か!」
オライオンの声が響く。何を見たのか、焦りが滲む彼の表情にスタースクリームも視線を向け、驚愕した。
「腕が……!」
Dの右腕は、衝撃で飛んできた採掘道具によって切り飛ばされていた。
「かすり傷だ、それよりS-39! ボケっとするな、そんな暇はないぞ!」
Dとオライオンは、右腕を放って逃げるつもりのようだった。正しい判断である。彼らの種族は、スペアパーツによって大抵の欠損は修理できるからだ。ここで右腕を失っても、あとから直せばいい。そう思っている二人は実に正当である。
だが。
(
スタースクリームのブレインに、右腕のカノン砲でデストロンを率いたメガトロンの姿がフラッシュバックした。
右腕だけは、ダメだ。
─────この愚か者めが。
周囲の崩壊音が激しくなる中、スタースクリームは後ろから迫る岩盤を背にしながら、意を決して
「ダメだ、S-39! 早くこっちへ!」
「な、何やってんだ!」
右腕を拾い周囲を確認したスタースクリームは、いつの間にか労働者の中で自分が最も逃げ遅れていることに気がついた。Dやオライオンとの距離も離れている。迫る岩盤に、再びピリつく気配。スタースクリームは「不味った!」 と思いながらもジェットパックを噴かし続けた。
「スタースクリーム!」
Dの叫び声と同時に、先程とは比べ物にならない爆風と轟音が坑道を吹き抜けた。
*
「S-39、おい、しっかりしろ。」
Dが呼ぶ声で、スタースクリームは目を覚ました。どうやら、彼が意識を失っていたのはほんの短い間であったらしい。爆風に晒され、呻く労働者たちが身を寄せあっている。
ふと、腕の中が空なことにスタースクリームは気がついた。
「そういやDの右腕は─────」
「死ぬところだったんだぞ!」
Dが身を乗り出して怒鳴りつけた。オライオンもまた険しい表情でスタースクリームを見つめている。Dの左手は強く握り締められていた。
「上手く爆風に乗れてなかったら、最後が直線じゃなかったら、爆発よりも先に岩盤に呑まれてたら、お前は死んでたんだ! たかが俺の腕のために!」
その腕もどっか行ってしまってるのだから、叱られ損だとスタースクリームは思った。こういう時止めてくれそうなオライオンは完全に "アッチ側" だし、不本意だが仲裁してくれそうなエリータは、少し離れた場所でエネルゴン結晶を刺激したアホを問い詰めている。
「おま、おっ、お前が!」
感情が高ぶるあまり発声モジュールへの信号がおかしくなっているDを笑う勇気は、スタースクリームにはなかった。節々が痛む機体をぶら下げ、姿勢を少しでも良くしようとする彼。だいぶ長いであろう説教を少しでも短くするためなら、多少の痛みは惜しまないつもりだったからである。
伸ばされたDの左手が、スタースクリームの左頬を殴るのかと誰もが思った、次の瞬間。
左手は何も殴ることなく、傷ついた肩に優しく置かれた。
「お前が無事でよかった……!」
震える声でそう言うDの、優しく黄色に瞬くそのオプティックから、スタースクリームは目が離せなかった。
「てめぇコグ無し共! 俺の大切な機体を傷つけたこの落し物の持ち主は誰だ!?」
怒り狂ったダークウィングがDの腕を持って怒鳴り込んでくるまでは。
メガトロンの右腕
破壊大帝の象徴である融合カノン砲が装備されている腕。