幻影魔術で美少女になってダンジョン配信して有名美少女探索者を助けたら、バズったり迫られたりで色々な意味で引き返せなくなる話   作:北内段配

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ダンジョンにオフパコを求めるのは間違っているだろうか?

 

「いやぁっ、来ないでぇっ!」

 

 少女の悲鳴がダンジョンに響き渡る。美少女過ぎる探索者として有名なその顔は、今や恐怖に歪み切っている。負傷した脚は痛々しい程に腫れ上がっていて、逃げ出すことは愚か、もう立ち上がる事すらできない。

 

 しかし、無情にも敵は迫って来ている。人喰いオーガ。知能とスピードは高くないが、恐ろしい腕力を持つモンスター。その手に持つ巨大な棍棒で、あらゆる敵を殴り殺して来た。間も無く少女もその棍棒の餌食になってしまうであろうことは、誰の目にも明らかだった。

 

“やばいやばい!本当に死んじゃうってこれ!“

“ちょw 今日はスプラッター配信か?w”

“誰か救援いないのか!?”

“ここ結構深部だぞ?そう都合よく人なんて…“

“やだあ!死なないでミーたん!“

“盛 り 上 が っ て 参 り ま し た“

“マジでどうにかなんないのかよ!?”

“これを見に来た“

“助かれ助かれ助かれ助かれ助かれ助かれ“

“あああああああああ!ミーたああああああああん!“

 

 彼女の配信に流れるコメントも、この状況では何の助けにもならない。

 一歩ずつ着実にオーガは迫っている。迫り来る死。動かない身体。絶望の中、少女に出来ることは祈ることだけだった。

 

「死にたくない死にたくない死にたくない……誰か、誰かたすけっ……!」

 

 そんな祈りも虚しく、勢いよく振り下ろされた棍棒が眼前に迫り――。

 

「はーいっ、そっこまでにゃーーーーーっ!!!」

 

 ――唐突に消え去った。

 

「……へ?」

 

”え???今なに起きた???”

”なんか飛んで来なかったか!?”

”おいw急に棍棒消えたぞw”

”助かった…のか?”

”なんだなんだなんだなんだ???”

“盛 り 下 が っ て 参 り ま し た“

”ああああああああ!ミーたああああああああん!”

”うるせえw”

”奇跡だ!!!神の奇跡!!!”

 

 いや、違う。少女はやや遅れて理解する。超高速で飛び込んで来た()()が勢いよくぶつかった事によって、棍棒が明後日の方向にぶっ飛ばされたのだ、と。

 呆然とする少女を尻目に、その()()は場違いなハイテンションで一方的に話し始める。

 

「いやぁーーーーっ、危なかった危なかったにゃ!!! 間一髪危機一髪パツパツ太ももサイコーって感じだったにゃ? まーーーーーっ、ギリのギッリギリだったけど、最終的には間に合ったしぃ、結果オーライ好きホーダイ!ってな感じかにゃ?」

 

”なんかキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!”

”なんだなんだ???てか誰???”

”ちょwwwwwwwネコ語尾キタコレwwwwwwwwフォヌカポウwwwwwww”

”こんな深部にいる探索者って普通に限られるよな”

”なんか語彙古くね”

”インターネッツ老人会はここでつか”

”おじさん構文を感じる”

”ここは令和最新版現代ダンジョンだぞオラッ!”

”今北産業”

 

「えと、あの……」

「あっ、私が誰かって? そうだにゃそうだにゃ、こんな猫耳超絶美少女が突然現れたら、そりゃあ気になっちゃうよにゃぁっ!」

「じゃなくて、その……」

「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け! 呼ばれて飛び出て超☆登☆場! 天下無敵の猫耳ウルトラ美少女探索者! 大天使☆マジカルイリュージョン☆アオイ、降臨だにゃん!」

 

”うわぁ…”

”やべえの来ちゃったぞ、おい”

”( ゚Д゚)”

”これが『本物』なんだよね”

”あれ、おかしいな。急に鳥肌が止まらないんだが”

”空気死んでて草ぁ!”

”…顔は良い!”

”いやまあ美少女ではあるけどさ”

”新手の魔物か?”

”ああああああああああ!アオイたあああああああああああああん!”

”よくわからんがとにかく逃げよう!ミーたん!”

 

「あの、アオイさん!」

「さん付けって、ちょーーっと余所余所しくないかにゃ? おなじ探索者なんだしぃ、気軽に『アオイちゃん』か呼び捨てでいいよ、ミーたん♡」

「あ、はい。じゃなくてっ、後ろっ!」

 

 アオイ、と名乗る美少女の見た目をした不審者が振り返ると、そこには憤怒に震えるオーガが拳を握り、今にもこちらを叩き潰さんと腕を振り上げていた。今やその手に棍棒はないが、そもそも少女1人潰すのに武器なんて必要ない。その怪力で腕を振り下ろせば、軽く人間の1人や2人木っ端微塵になってしまう。

 ……ただし、相手がただの少女であれば、の話だが。

 

「あー、そっかそっか忘れてたにゃ。武器だけとりあえず吹っ飛ばしたけど、そういえばお前が残ってたにゃ。まあでも、撮れ高は十分取れたし、もう用済みかにゃ? じゃ、さくっと魔法で倒しちゃうにゃ!」

 

 アオイは何気なくオーガの懐に入り込むと、力み無く拳を振るった。

 

「マジカル⭐︎イリュージョン⭐︎パーンチ!」

 

 その瞬間、オーガだったものは木っ端微塵に砕け散った。血飛沫と共に、嘘の様に呆気なく。

 

「……たお、した?」

 

“……ん?“

“んんんん???”

“え??????“

“は??????“

“は?は?はぁあああああ?????“

“え?あ?え?“

“おい、今なに起きた???”

“解読班!応答しろ解読班!”

“あれ、配信切れてた?急にオーガ消えたんだが”

“夢でも見てるのかな俺“

“ちょっと待って?????“

“パンチ一発で消し飛ばした……ってこと!?“

“そんなことある???“

“ウッソだろおい“

“てかそれ魔法か?“

 

「ん? ミーたん何ボーッとしてるにゃ? 用は済んだし、さっさと地上に帰ってオフパ……げふんげふん、お茶でもしょうにゃ!」

 

 何事もなかったかの様に振り返り、アオイは少女ににっこりと微笑みかけた。

 

 


 

 

 男であれば誰もが直面する疑問。

 現代日本で最もモテる職業は何なのか?

 

 この疑問に誰よりも真剣に、本気で向き合った人間はこの俺、アオイをおいて他にはいないだろう。ある者はアイドルやホスト言うかもしれない。またある者はスポーツ選手と言うかもしれない。はたまた医者か?それとも経営者か?

 

 否、断じて否!

 

 断言しよう。現代日本で最もモテる職業は、ダンジョン探索者である!

 極まったダンジョン探索者は一般人とは隔絶した能力を持つ。いわば超人、新人種。しかも、最前線の探索者ともなればその収入はトップアスリートを軽く上回る。有名探索者は国民的な人気を誇り、社会的な地位も高い。もちろん、子供のなりたい職業ランキングでは何年も不動のダントツ一位。結婚したい芸能人ランキングも国宝級イケメンランキングもダンジョン探索者が総嘗め。まさに、医者とスポーツ選手とアイドルを足して割らないくらいの、現代社会の頂点に君臨する職業と言えるだろう。

 

 そう、そんな誰もが憧れる完璧で究極のダンジョン探索者になりさえすれば、その先は勝ちまくりモテまくりの約束された薔薇色の未来。ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!

 

 思い返せば、俺の人生は常に灰色だった。なんかナヨっとしてるとか、頼りないとか、そういう目で見れないとか、カッコいいと思ったことがないとか、とかとかとかとか! ずっとそんなことばかり言われ続けて、人生でモテた経験なんて全くない。というか、まともに異性に相手されたことがない。だがしかし、そんな彼女いない歴=年齢の悲しいだけの人生にもこれでオサラバだ。見事探索者になって、9回裏2死3点ビハインドからの逆転満塁ホームランでサヨナラ勝ちを決めて見せる!

 

 そんな夢と希望と性欲に満ち溢れながら、俺は颯爽とダンジョンに飛び込んだ。

 初めはとにかく必死だった。右も左もわからずに、危険で一杯のダンジョンを無我夢中で駆け抜けた。時には命がけでモンスターと戦い、紙一重で数多くの修羅場を潜り抜けた。

 常人なら気が狂いかねない地獄のような探索の日々。でも、そんな日々も俺は大して苦にはならなかった。なぜなら、その先に薔薇色のモテモテ生活が待っていると確信していたからだ。ほら、どこかの偉い人も言っていたじゃないか。自分を信じて夢を追い続ければ、夢はいつか必ず叶う!ってね。……いや、これ言ってたのフェイスレスか?

 そんなわけで、『幻影魔術』とかいうよくわからない、ぶっちゃけ外れスキルじゃね?ってものしか使えなくても、それも別に気にならなかった。いやなんだよ幻影ってどう使うんだよ。ドラゴンズドグマ2でしか見たことねえぞ。敵なんか普通に殴って殺した方が遥かに速いだろ。

 

 人間は不安にかられる生き物だ。先行きがわからない時、将来が不透明な時、自分のしていることが何の意味もないのじゃないかと思った時。そういう時、人は最も弱く、脆くなる。目の前のことに打ち込めなくなり、思わず足を止めてしまう。

 その点、俺は違った。目標も、それを達成するためにやるべきことも、あまりにも明確だった。俺の目には、ずっとくっきりとモテ道が見えていた。ただただ無心で敵を屠り、ダンジョンの奥へ突き進んだ。特に役に立たない幻影を出し、殴り、倒し、さらに先へ進む。力尽きるまで進み、倒れるように眠る。そして、起きてはまた進む日々。

 

 やがて音を置き去りにするほどの速度で進めるようになった頃、異変に気付く。

 ーー出会いが、ない。

 

 いや、心のどこかで薄々気がついてはいた、だって、最近女性と会った記憶ないし。というか、そもそも結構な期間自分以外の人間を見かけていない気がする。俺が最近出会ったものと言えば、ゴブリンだなオーガだの蜘蛛だの犬だの蛇だのキメラだの鳥だの亀だの虫だのタコだのドラゴンだの、なんかそういう気色悪いクリーチャー系の奴らだけだ。いや、もうちょっと可愛めのモンスターとかいてもいいんだよ?ハーピーとかさあ。

 

 あっれぇ、おっかしいなあ。ダンジョン潜り始めの頃はこんな感じではなかったのに。浅層は数多くの探索者で賑わっていて、ちょっと進めばすぐに他の探索者パーティを見かけるくらいだった。割と女性探索者も多かったし、俺でも知っている様な有名探索者もチラホラ見かけた。自分もいつか彼女たちとお近づきになれるかも!?なーんて、遠目にドキドキ見ていたもんだ。なんせダンジョンの中だからな。敵に襲われて絶体絶命!なところを偶然救って運命の出会いを果たす。そんな妄想も、あながちあり得ないとは言い切れないところがある。

 ところが、ダンジョンの深部に潜っていくと、徐々に様子は変わっていった。深くなればなるほど、他の探索者を見かける頻度は目に見えて減っていったし、特に女性は壊滅的に見かけなくなっていった。やがては、いかにも歴戦の猛者って感じの人とかゴリラオブゴリラとかしか見なくなり、そこから更に深く進んでいった結果、遂には全然他の探索者を見かけなくなってしまった。

 

 ……まあ、うん。あれだな。冷静に考えて、ちょっと深く潜り過ぎたな。

 俺は正気を取り戻した。なんでこんな、他に誰もいないようなとこまで潜ってるんだろ、俺。これじゃ出会いなんてあるはずもない。いや、別にダンジョン内だけに出会いを求める必要もないんだけどさ。

 

 孤独は人を冷静にする。ただハイなテンションに任せて勢いで深部に突き進んでいた俺は、ここらでようやく冷静に考えを巡らせ始めた。

 俺はただ深く深くダンジョンを潜れば、それで自動的にモテるかのように思っていた。それが俺のモテ道だと信じて疑わなかった。しかし、実際そうだろうか? これからダンジョンの外に戻ったとして、果たして俺はモテモテだろうか? マブいギャル達が「キャー抱いてー!」と黄色い声を上げて殺到するとでも?

 

 答えは否。現実は非情である。

 有名ダンジョン探索者はモテる。えげつない程モテる。それは事実だ。でも、それはほんの一握りのトップ探索者に限った話だ。何年も実績を積み上げ、信頼を積み重ね、地道に知名度と人気を上げてきた人達だけの話だ。ちょっと最近ダンジョンに潜り始めただけの知名度ゼロのルーキーなんて、彼らの足元にも及ばない。ドヤ顔で探索者様アピールしてみたところで、「は?誰だよお前?」などと冷徹に切り捨てられるのがオチだ。ローマは一日にしてならず。何事もコツコツと地道に積み重ねていくことが大事なのだ。

 

 コツコツと……コツコツと、ね。

 と、言うわけで。ほいほいほいっ、と幻術魔術をかけまして。よし、準備完了。それじゃあ今日も()()、いっちょ始めていきますか!

 

「リスナーのみんなー! おっ待たせにゃー!」

 

 そう、数日前から始めたダンジョン配信である。今の時代、ルーキー探索者が知名度を上げたいなら、やっぱりダンジョン配信は外せない。いや、数日前まで配信するの忘れてたんだけどさ。まあほら、最初はそんな配信とかしてる余裕なかったし? とにかくね、ダンジョン潜るのに必死だったから。うん仕方ない仕方ない。過去のことは忘れよう。

 

 まあとにかくそんなこんなでダンジョン配信を始めたわけだが、始めるに当たって俺は一計を案じた。今時ダンジョン配信なんてありふれ過ぎてていて、普通に配信しただけじゃ碌にリスナーを集められないのは目に見えてるからな。でも俺には俺だけのとっておきの武器がある。そう、『幻影魔術』だ。戦闘じゃイマイチ使い道に困る微妙スキルだが、配信となれば話は別だ。幻影魔術を使えば、どんな見た目も思いのまま。自由自在に、それこそ猫耳美少女にだってなれちまうってわけ。ただえさえ美少女な探索者で、しかも猫耳。これで人気が出ないはずがない。口調も可愛く、語尾は『にゃ』をつけて……完璧だ!

 

 いやー困ったなー。これじゃすぐにバズって有名配信者の仲間入り、色んな美少女探索者とコラボ配信しちゃったりしてー、段々仲を深めていってー、そしてあわよくばオフパコまでしちゃったりなんかして……なーんつってなーーー!

 よっしゃー! そんじゃ元気出していってみよー!

 

「今日も元気にぃ、ウルトラ猫耳美少女アオイのマジカル⭐︎イリュージョン⭐︎ダンジョン配信、はっじめっるにゃー!」

 

“うっわ…“

“なんかすごいの開いちゃった“

“なにこの…なに?“

“さっむコミュ抜けるわ“

“いやーキツいっす(素)”

 

 あれ、おかしいな。みんなのコメント、なぜか霞んでよく見えないや。……泣いてない、泣いてないぞ!

 っていうかさー。リスナーちゃんたちー、ちょーっと冷た過ぎなーい? 私、美少女なんですけどー? 猫耳生えてるんですけどー? もっと優しくしてくれてもいいと思うんですけどー???

 

 いや、まだだ。何もみんながみんな冷たいわけではない。少ないながらも、もう常連の心暖かいリスナーちゃん達もいるのだ。彼らならきっと褒め讃えてくれているはず……!

 

“若干滑ったな“

“わこつー“

“この痛々しさが段々癖になるんだよね“

“あの……私は嫌いではないです……よ?“

 

 うん、そうでもなかった。中途半端な優しさが逆に辛い。先生、俺死にたいんすよ。いっそひと思いに殺してくれー!

 

 ……ふう、ふう。落ち着け落ち着け。探索者たるもの、この程度の事態で取り乱してはいけない。基本戦略は間違ってないんだ。世界がまだ猫耳美少女探索者を受け止めきれていない、ただそれだけのこと。ならば、俺が伝道師にならなければなるまい。戦い続けてみせるとも、猫耳美少女最高と世界中が叫ぶその日まで!

 

「もー、ちょっとみんなノリ悪いにゃよ? ほーら、一緒ににゃんにゃんしよう? せーのっ、にゃん⭐︎にゃん⭐︎」

 

“心が強ぇ探索者なのか!?”

“何だろう。見てるだけでダメージ喰らうんだが“

“精神攻撃かなにか?“

“ニャンニャーン!ニャニャーン!“

 

 なかなか強情な奴らだな。まあいい、今日はこのくらいにしといてやろう。さっさと次の企画に行くか。

 

「よーっし、それじゃあ今日はー……適当にダンジョンをお散歩するにゃん!」

 

“ダンジョンって散歩するとこか?“

“まあ極浅い層だと出来なくはない“

“ちょっと潜ると危険過ぎて散歩どころじゃないけどな“

“散歩なら犬耳の方が良くね?“

 

「この辺は他の探索者さんがいなくて静かで良いにゃ。でも、本当はちょっと寂しいにゃ〜」

 

“おいおい俺たちがついてるじゃないか“

“まじで誰も見かけないな。どこの田舎ダンジョンだよこれ“

“おれ色んな配信見てるけどさ、ここ全然見たことない景色なのよ“

“あれ、もしかしてかなりのマイナーダンジョン?“

 

「おっ、あっちに敵さん発見だにゃー! ぶっ飛ばすにゃー!」

 

“コメント総スルーで草“

“配信初心者あるある“

“っていうか探索しながら配信って普通に過酷じゃね?“

“えっなんかやばそうな敵なんだが“

“おいおいおい死んだわあいつ“

“見たことないモンスターだな。希少種か?“

 

「マジカル⭐︎イリュージョン⭐︎パーンチ!」

 

“ただのパンチじゃねーか!“

“どこがマジカルなんですかねこれ“

“敵さん一撃で消し飛んでて草“

“強そうなの見た目だけか“

“マイナーダンジョンの敵なんてそんなもんよ“

“あっミーコがダンジョン配信始めるってよ“

 

「えっミーたんっ!? 見る見る、見るにゃー! えー、この配信は急遽、ミーたん配信同時視聴リアクション配信になりますにゃ」

 

“急遽にもほどがあるw“

“自由過ぎるだろこの新人“

“まあミーたんなら仕方ない“

“どうせ俺らも二窓するしな“

 

「うわー、楽しみだにゃー!」

 

 生配信中でもお構いなしにテンションが上がってしまう。それだけ、ミーたんは特別な存在なのだ。

 

 ミーたんことミーコは現役最高クラスのダンジョン探索者にして、超大手ダンジョン配信者である。実力も確かなものがありながら、その容姿はアイドル顔負け。美少女過ぎるダンジョン探索者としても有名で、その人気は益々とどまるところを知らない。まさに今もっとも勢いのあるダンジョン配信者と言っても過言でないだらう。そんなミーたんのダンジョン探索生配信はいつでも同接五桁後半安定。まだ同接二桁の俺からすれば、まさに雲の上の存在だ。もはや嫉妬する気すら起きない。そんなことより、ミーたんのお美しい御尊顔を一秒でも長く拝まねば!

 

 俺が興奮しながら視聴画面を開くと、ちょうどミーたんが配信を始めたところだった。

 

『みんなーおはよー。今日はここを攻略してくよー。ぶいぶい』

「ぁあああああああ! 真顔でダブルピースするミーたん今日も可愛いよぉおおおおお!」

 

“うるっっっっっさ!!!“

“鼓膜破れた。訴訟も辞さない。“

“美少女が美少女に悶える光景でしか得られない栄養素がある“

“ガチオタ助かる“

“アオイたん俺らに感性が近くて安心するナリねぇ…w“

 

 俺たちが配信を見ながらリアクションしている間にも、ミーたんはどんどんダンジョンの中を進んでいく。

 

『このダンジョンは難易度が高くて攻略があまり進んでいない。だから、今日は攻略階層更新を目指して頑張る』

「ミーたん気をつけてにゃー! ……って、あれ?」

 

 今気がついたけど……ミーたんがいるところ、なーんか見覚えある風景のような気がするな。あっ、やっぱりそうだ。今ミーたんがいるダンジョン、俺が今いるのと同じダンジョンだ。でも、ミーたんがいるのは割と浅目の階層っぽいな。多分50層辺り? 俺が今いる階層から見ると、結構地上側に戻った階層ということになる。正直、ここからだと距離的には結構遠い。遠いけど……道も大体わかるし、急げばそんなにかからず行けるか? うん、多分行ける。

 偶然降って湧いた、生でミーたんを拝めるチャンス。出来れば話しかけたいけど、邪魔になりそうだし遠目に眺めるだけの方がいいかな? それでも十分目の保養になるし。もちろん、あわよくば話しかけたいとか仲良くなりたいとかそういう気持ちもないではないが、それ以上に一目でも生で推しを見たいと思うのは一般的なファン心理であろう。まあなんにせよ、とりあえず近くまで行ってみない手はないな。

 

「あっ、急用! ちょっーーーと急用思い出したから、今から移動しますにゃー!」

 

“いやいや急だなw“

“お手洗いか?“

“ダンジョン内でそんな急用あることある???“

“自由形過ぎるなこの野良猫“

 

 ミーたんの配信を横目で見ながら、目的地に向かってダンジョンの中を走り始める。この辺は他の探索者がいないだけあり、足場の状態はあまり良くない。だから速く走ろうと思うと、比較的ましな足場になりそうな部分をびょんびょんと跳ねていく感じになる。まあ、探索者になってからこっち身体能力はかなり上がっているからな。ちょっとやる気になればこの程度の芸当は特に問題なく出来る。

 

”なんか無茶苦茶速くね!?”

”アオイたんこんな速度だせたんかよ”

”たぶん速度特化タイプなんじゃね? ならまあこのくらいは……ね?”

”ま、まあまあスタンダード”

 

「あっ、また敵さん」

 

 進路上にでかい蛇型モンスターがいるのが目に入った。ダンジョン内を駆けていると、当然モンスターとエンカウントする機会も多い。今は急いでるし出会いたくはないんだけど、そんなこっちの事情にはお構いなしだ。とはいえ、この辺のモンスターはもう全部一撃で倒せるしな。下手に避けるより殴り飛ばしながら駆け抜けてった方が遥かに速く済む。

 

「ちょっと☆どいてにゃ☆ぱーんち!」

 

”あれ、今なんかモンスターいなかった?”

”いた気がするけど消し飛んだな”

”もはや轢き殺しとるやんw”

”一応パンチしてた気がする”

”恐ろしく速い手刀見逃さないニキおっすおっす”

 

 そんな調子で俺がダンジョンを駆けている一方、配信画面の中のミーたんは何やら戦闘を始めていた。

 

『くっ……強い……!』

 

 あれ、っていうかなんか苦戦してね?

 相手は……あー、オーガかな? そんなに強いモンスターではないけど、パワーだけはある奴だ。さっさと倒せる火力があれば、別に大した敵でもないんだけど。まあミーたんは割とテクニカルタイプだから、意外とこういうパワー馬鹿は相性が悪いのかもしれない。それか、配信上の苦戦演出かな?

 

”おい、ミーたん何かやばそうだぞ”

”うわっ相手オーガかよ。ミーたん運がないな”

”オーガとかやべえな。絶対ソロで勝てる相手じゃない”

”さっさと逃げた方が良いんじゃねーのこれ?”

 

 こっちのリスナーたちもざわつき始めている。いやいや、お前らオーガ如きで騒ぎすぎだろ。俺でも余裕で勝てる相手なんだし、大したことないって。だからミーたんも大丈夫に決まってる……大丈夫、だよな?

 一抹の不安。最悪の想像に、自然と脚は速くなる。その時、配信画面からミーたんの声が響いた。

 

『痛っ!』

 

 画面の中で、ミーたんが脚を抱えてうずくまる。避け切れなかった敵の攻撃で脚を負傷したようだ。

 

「ミーたんっ! ……まずい!!!」

 

 ミーたんのいる階層まであともう少し。クソッ、間に合うか!? いや、死ぬ気で間に合わせる!

 

”うおっ、アオイたんがさらに速くなった!?”

”あれで全力じゃなかったのかよ”

”っていうか何そんなに必死で走って……ってあれ?”

”おう、お前らも気がついたか”

”もしかして、今アオイたんのいるダンジョンって……”

 

 走る。走る。走る。

 地面を蹴り、立ちふさがる敵を跳ね飛ばし、階層を駆けあがる。間に合え、間に合えっ!

 

『「いやぁっ、来ないでぇっ!」』

 

 今、たしかに聞こえた。配信と同じミーたんの声が、現実でも! あっちだ、いま声の聞こえた方に走れば!

 

 

『「死にたくない死にたくない死にたくない……誰か、誰かたすけっ……!」』

 

 ……見えたっ、あそこだ!うずくまる少女と、その近くで棍棒を振り上げるモンスターの姿。っておい、あいつミーたん潰そうとしてんじゃねえか!

 

「ざっっっっけんにゃぁあああ!」

 

 飛び込み様、ドロップキックで棍棒を蹴り飛ばす。ミーたんに当たる直前ではあったが、ギリギリ棍棒をぶっ飛ばすことには成功した。

 ……っぶねー。まじで間一髪だった。さすがに心臓に悪すぎる。

 どうやら、脚の負傷以外はミーたんに大きな怪我は無さそうだ。良かった、間に合って。ホッとした反動で、ぺらぺらと勝手に口が動いた。

 

「いやぁーーーーっ、危なかった危なかったにゃ!!! 間一髪危機一髪パツパツ太ももサイコーって感じだったにゃ? まーーーーーっ、ギリのギッリギリだったけど、最終的には間に合ったしぃ、結果オーライ好きホーダイ!ってな感じかにゃ?」

「……えと、あの」

 

 あーーーーーーーやっっっっべそうだった俺はミーたんのこと知ってるけどそうだよミーたんからしたら俺が誰かなんか知らないしっていうかお前誰?って感じだしいきなりそんな話しかけられても何だお前っていうか何言ってんのっていうかそうだよ自己紹介!とりあえず初対面なら自己紹介だよねそうだねそうしようよっしゃ自己紹介しよう!!!!!!!!

 

「あっ、私が誰かって? そうだにゃそうだにゃ、こんな猫耳超絶美少女が突然現れたら、そりゃあ気になっちゃうよにゃぁっ!」

「じゃなくて、その……」

「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け! 呼ばれて飛び出て超☆登☆場! 天下無敵の猫耳ウルトラ美少女探索者! 大天使☆マジカルイリュージョン☆アオイ、降臨だにゃん!」

 

 ふっ、決まった。

 どうよ、この完璧な自己紹介。まさに猫耳美少女にふさわしいパーフェクトでキューティクルな……。

 

「あの、アオイさん!」

 

 うわぁぁあああああああああミーたんが俺の名前呼んでくれたぁああああああああああ!!!!生きててよかったぁぁぁぁあああああああああ!!!

 あっ、でも出来れば呼び捨てが良いです(真顔)

 

「さん付けって、ちょーーっと余所余所しくないかにゃ? おなじ探索者なんだしぃ、気軽に『アオイちゃん』か呼び捨てでいいよ、ミーたん♡」

「あ、はい。じゃなくてっ、後ろっ!」

 

 後ろ? って……あー、そういやそうか。

 

「あー、そっかそっか忘れてたにゃ。武器だけとりあえず吹っ飛ばしたけど、そういえばお前が残ってたにゃ」

 

 振り返り、無表情でオーガを見る。随分とドキドキさせてくれやがったなあ、オーガ如き雑魚モンスターがよ。さっきはギリギリだったからとりあえず棍棒だけ吹っ飛ばしただけだ。元々お前にかけてやる慈悲はない。一撃で死ね。

 

「マジカル⭐︎イリュージョン⭐︎パーンチ!」

 

 はい、おわり。

 はー、これでやっとゆっくりお話しできるってもんだ。ね、ミーたん?

 

「……たお、した?」

 

 しかし、振り返ると何やらミーたんはボーっとしていた。

 ああ、まあミーたんは今死にかけたわけだしな。とりあえずダンジョンの外に出る方が良いかもね?

 

「ん? ミーたん何ボーッとしてるにゃ? 用は済んだし、さっさと地上に帰ってオフパ……げふんげふん、お茶でもしょうにゃ!」

 

 おっと、下心が漏れかけた。せめて目一杯の笑顔で誤魔化しておこう。猫耳美少女の笑顔なら誤魔化せた……よね?

 

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