幻影魔術で美少女になってダンジョン配信して有名美少女探索者を助けたら、バズったり迫られたりで色々な意味で引き返せなくなる話 作:北内段配
アオイがミーたんを助けた。
ダンジョンを出ると、外は雲ひとつない快晴だった。
久しぶりの外の明るさに目を細めていると、改まった様子のミーたんが口を開いた。
「あの、本当にどうお礼を言ったら良いか……」
「そんにゃそんにゃ! 全っ然気にしなくていいにゃー!」
はい、社交辞令です。当っっったり前じゃん! 本音を言えば……無茶苦茶気にして欲しいいいいいいい! 恩返しして欲しいいいいいいいいい! ……と、いう気持ちも当然ある。人間だもの。だけどまあ、その本音もそれほど強いものではなかったりする。なぜって、特に何かお礼して貰うまでもなく、実は既にかなり得をしてるからである。
もうね、さっきから通知が止まらないんですわ。チャンネル登録者数が見る見る内に増えまくってるんですわ。100……200……まだ増えるだと!? ええいっ、連邦のバズ力は化け物か! ってな状態よ。細々とチャンネル登録者2桁でやってたのに、いきなりこれですよ。やばくない?
そう、俺はミーたんの絶体絶命のピンチを助けた。そしてその様子は同接数5桁のミーたんの配信を通して、ばっちりリスナーたちにも見られていた。配信自体はその後すぐに慌ただしく止めてしまったけど、どうやってか俺のチャンネルまで辿り着いたリスナーたちがどんどんチャンネル登録してくれているってわけ。どんどん増えていく登録者数を最初はウハウハで見てたけど、逆に怖くなってきて途中から画面見るのやめたもんね。これは夢の登録者4桁になる日も遠くなかったりしちゃったり!? ふへへー。
……などという気持ちはまるっと覆い隠して、俺はミーたんに微笑みかけた。
「ミーたんが無事だった。それだけでアオイには十分だにゃ!」
「……ッ!」
まあ、これも本音ではある。
改めてまじまじと見つめてみても、やっぱりミーたんは超絶美少女だ。俺が間に合わなくて、あのままオーガに殺されていたら。考えたくもない。彼女を失わなくて良かった。生きていてくれて良かった。推しが元気に生きていてくれる。これ以上のファンに対する恩返しがあるだろうか、いや無い(反語)
幸いミーたんの足の怪我はそれほど酷いものではなく、手持ちのポーションで綺麗に治った。精神的なショックもあるだろうから、念のためダンジョンの外まではこうして連れては来たけど、あとはもう大丈夫だろう。
「じゃあ、アオイはそろそろこの辺で帰るにゃ」
「……待って!」
踵を返して立ち去りかけたところで、ミーたんに鋭い声で呼び止められる。
な、なんだなんだにゃ!?
「アオイ、ひとつ聞いて良い?」
「な、なににゃ?」
「…………最後にお風呂入ったの、いつ?」
え、お風呂? 最後に入ったの?
…………いつだっけ?
いや、待ってくれ。俺は別に風呂キャンセル界隈というわけではない。猫耳ロールプレイで水嫌いだから風呂に入らないとかでもない。
ただ単純な話だ。当然のことながら、ダンジョンの中にはお風呂もシャワーもない。だから、ダンジョンに籠っている間はお風呂に入れない。それだけのシンプルな話なんだ。
まあ人によっては水魔法を使ったり高価な魔道具で何とかする人もいるにはいる。ただ、それは限られた上位の探索者の話だし、俺にはそのどちらもない。必然的に、ダンジョンの中にいる間はずっと風呂には入れないことになる。
で、俺がどのくらいの期間ダンジョンにいたかってことなんだが……あれ、いつからいたんだっけな。まあここ数日とか一週間二週間の話では全然ない。もっとずっと長い期間ダンジョンに籠っていたわけで。つまりその、その間ずっと風呂にも入っていないわけで……。
「アオイ。命の恩人にこんなこと、すごく言い辛いんだけど……」
なあ、人はいつ死ぬと思う?
心臓を銃で撃ち抜かれた時? 違う。
不治の病に冒された時? 違う。
猛毒キノコのスープを飲んだ時? 違う。
「えっと……帰るより先に、まずお風呂入ったほうが良いと思う」
……推しに、臭いと言われた時さ。
「あ゛あ゛〜〜、天国ぅうう〜〜」
無事死亡した俺は早速天国に召された……わけではない。
ここは天国なんかではなく、近くのホテルの一室である。より正確に言うと、部屋の中のシャワールームである。
久しぶりのシャワーの感触は心地よく、身体に付いていた汚れが洗い流されていくのがよくわかる。あれはどうしてこんなに気持ちのいいことをしていなかったのだろう。こうなってみると、ダンジョンに籠るのも考えものだな。今度からはなるべく日帰りで行ける範囲にするべきか。
身体を洗いながらそんな思案にくれていると、シャワールームのすりガラスの扉の前に人影が現れた。
「アオイ、ちゃんと身体洗えてる? やっぱり手伝おうか?」
「みみまミーたん!? だっだだだ、大丈夫だにゃ!」
「そう? 困ったことがあったら何でも言ってね」
「わ、わかったにゃ!」
俺の答えに納得したのか、程なく人影は去っていった。
……はー、びっくりした。全くもって心臓に悪い。
いや、ミーたんに悪気が無いのはわかっている。というか、むしろその逆。ミーたんは紛れもない天使である。
長い間身体を洗っていなかった俺は、多分きっと酷い臭いをしていたはずだ。嗅覚ってのはすぐに馬鹿になるから自分で自分の体臭はわからない。ものだが、きっと鼻が曲がるような臭いだったに違いない。そんな臭い奴を、ミーたんは見捨てる事なくこのホテルまで連れて来てくれて、あまつさえ身体を洗う手伝いをしてくれるとまで言うのだ。これが天使と言わず何なのだろう。
いや、身体を洗ってもらうのは全力で遠慮したけどね! 色んな意味で問題しかない。俺は幻影魔術で美少女の見た目になってはいるが、現実は男である。幻影魔術は見た目を誤魔化すだけの魔法だ。直に身体を洗ったりしたら、俺が男であることは一発でバレる。男であることを隠して、騙して身体を洗わせたなんてバレたら……その先に待つのは、俺の社会的な死。それだけは絶対に避けなければならない。
それを言うなら、まずこの同じホテルの一室に一緒にいる状況が既にかなりマズイんだが。ここで男バレなんてしたら……考えただけでゾッとする。だって、仕方ないじゃないか。臭いと言われて茫然としている間に、あれよあれよとホテルまだ連れて来られて、気がついたら2人で同じ部屋に入っていたのだから。後から「せめて別の部屋に!」と言っても、「?同性だから問題ないよね?」と取り付く島もなかった。それはそう。俺が本当は男、って事実がなければの話だがなあ!
まあそんなわけで、俺は自身が男である事をミーたんに悟らせずにこの状況を何とか切り抜けなければならない。なに、そんなに難しい話ではない。身体を洗い終わったら、ボロが出る前にさっさと帰れば良いだけの話だ。あれ、でもこの部屋泊まりで取ったのかな? だとすると勿体無いけど……いや、後で謝れば良いだろう。とにかくここは、安全第一だ。
ちきしょう。推しとホテルの一室にいて、何でこんな嫌な方向のドキドキをしてるんですかね俺は!?
「うーん、やっぱ幻影あると洗い難いな」
せっかくの久々のお風呂だ。どうせなら身体の隅々まで洗いたい。でも幻影魔術使ってると見えにくいところあるなあ。……どうせ誰も見てないし、まあ良いか。ほい、幻影魔術解除、っと。
「ねあアオイ、やっぱり背中流してあげ……あ」
パオーン。
ちょうどその時、シャワールームの扉が開き、何かを言いかけていたミーたんの目が俺の股間を捉えた。
「……あ、あのですね。これは違くて、その、誤解で……」
「………つ」
つ?
「ついててお得!」
何がだよ!? いや……ナニが、ってこと!?
「ごめんアオイ。私、誤解してた。アオイも私と一緒だと思ってた」
「いやごめん違くてこれは騙してたわけじゃなくてその幻影魔術で美少女になっていたというかでもそれは配信のためであの」
「怪我をして立ち上がれない私と、アオイは同じだって。でも、違った。アオイには……こんなに立派な足が付いてたんだね」
なんか良い話風に言ってる!?
いやっ、本当に何を言ってるのミーたん!?
「背中を流してあげるつもりだったけど、気が変わった。ねえアオイ。身体中、隅々まで洗ってあげるよ」
そう言いながら、ミーたんがにじり寄ってくる。
えっ待って待て待て待ってその心の準備がっ近い近い近いミーたん近いよもう號奪戦の間合い入っちゃうからそれっ!
「たすっ、たすけっ」
「駄目っ♡」
そうして躊躇なく零距離にまで近づいてミーたんは、しかしここで一瞬だけ不安そうな顔を見せた。
「アオイは……嫌?」
「嫌じゃないです」
脊髄反射。いや、魂に刻まれた原初の本能か。思考を経ることすらなく、俺の口は問いへの答えを導き出していた。……っていうか何なのこの状況? どうしてこうなった???
「いただきます♡」
食うか食われるか。そこには上も下もなく、ただひたすらに食は性の特権であった。ダンジョンメス、ああダンジョンメス。
TSってほぼ必ず受けに回る気がする。気のせい?